マァムよりも先に部屋に戻っていたポップは、浴衣に着替えて2人分布団の上で転がりながらマァムを待っていた。
当然このまま寝るつもりはあろう筈もないので、掛け布団は押入れの中に入ったままである。
「ポップ……」
程なく、襖が開かれてマァムが部屋に入って来たが、その姿は明らかに先ほどのキスの火照りをそのまま残していた。
浴衣が彼女の肢体をいやらしい程に強調し、顔は完全に高潮し、瞳はこれ以上ないくらいに潤んでいる。
苦笑しながら、マァムを手で合図しながら部屋の中央の布団まで招き寄せる。マァムはそれに応じる形で、たどたどしい足取りでポップの元へとたどり着く。
普段、慈愛の使途を演じている時は絶対に目にすることの無い、媚びさえ含んでいるような甘えた表情でポップにしなだれかかった。
今の彼女は、想い人を前にした1人の少女。ポップも一人の男としてそれを受け入れる。
身を寄せてくるマァムを優しく抱き寄せ、再び唇を奪う。今度は彼女も驚く事無く、そのキスを歓喜の微笑と共に返した。
「んむっ……ちゅくっ、ちゅっ……」
先程と同じ、いや、先程より更に熱い舌。そして口内。互いの身体が既に興奮の頂を極めている証拠だった。
舌は身体の中でも有数の性感帯だと言われるが、今の2人にとっては何よりも勝る快感だったのかもしれない。
ただ無心でキスを交わし、舌を絡ませあう2人はそれだけで絶頂に達しそうなほどに高まっていた。
──すぐにでも繋がりたい。この人の身体に身を任せたい。
2人は同時にそう感じた。互いに我慢の限界であることを自覚していた。
「マァム……」
「あ、ポップ……んっ……」
ポップは背後からそっとマァムの身体を抱くと、浴衣の襟元から手を差し入れて、自己主張するくらいに豊満な胸を揉みしだく。彼が最も好む責め方だった。
マァムもそれを十分承知しているので、いつものようにただ快感を享受する。
「あっ、ふ…ん……ぁぁ……」
興奮しているせいか、いつもより少しきつめに胸を愛撫され、マァムの身体が微かに震える。
これが普段であれば痛みで眉をひそめたかもしれない刺激も、今の彼女には快感にしかなり得なかった。
「ほら、もう反応してるぜ。浴衣の上からでも乳首が起っているのが判るもんな」
「やっ、口に出して言わないで……」
思わず抗議の声を上げるマァムだが、そんな羞恥混じりの声では逆にポップの興奮を煽るだけだった。
右手は襟元から忍び込み、左手は浴衣の上から、2つの突起を擦るように刺激する。
まるでおもちゃを買ってもらった子供のような嬉々とした動きだった。彼の表情からも明らかに楽しんでいるのが判る。
「ポ、ポップッ! ちょっ、ちょっとっ……っくうぅっ!」
あまりにもいいようにされて、若干怒気を孕んだ声が口から飛び出すが、ポップの愛撫の前に、即座に快感を押し殺す悩ましい声へと変化させられる。
既に身体は燃え上がっており、そんな状態で性感帯の1つを強く刺激されては流石のマァムもどうしようもない。
快感が生み出す声の大きさに反比例して、身体からは徐々に力が抜けていく。
「くぅぅんっ、ん、ああぁっ、摘ままないでぇっ、恥ずかしい、からっ……」
「思う存分乱れていいのによ」
「そんな……私だけなんて……ずるい…」
「男はそういうのが好きなんだよ」
「…………本当に?」
じとーっと疑いの目でポップを見つめるマァム。口に出さずとも、「『アンタが』好きなんでしょ?」と、顔に書いてある。
その目線の意図はポップにも読み取れたが、図星だったのでその問いかけを誤魔化すように無視して愛撫を続行する。
浴衣の胸元をそっと開くと、豊潤な乳房がぷるんとこぼれ出た。頂点にある桜色の果実に、貪るようにしゃぶりつく。
舌を這わせ、転がし、吸い上げる。その間も両の手を休めるようなことはしない。
右手は舌の動きに合わせてリズミカルに乳房を揉み、雪のように白い膨らみの形を変えていく。
左手は、浴衣の上から身体のラインをなぞるように指を滑らせながら下へ下へと移動し、やがて一点にたどり着く。先ほどまでの荒々しい愛撫とはうってかわった繊細な指の動きで、少女の最も敏感な部分を浴衣の上刺激する。
「ああぁっ、ず、ずるいよぉ…ポップ…」
そう言いつつ、いつも丸め込まれてしまうのがマァムのマァムたる所以だろうか。いつも最後は必ず彼女が折れてポップが主導権を握る事になる。少なくとも夜の営みの最中は。
昼間は逆に、全てマァムの手の平の上、とも言うべき状態で、ポップ自身もそこに幸福を感じながら受け入れているので、やはり相性の良い2人であることは間違い無い。互いに甘え甘えられ、転がし転がされる最良の関係というべきか。
「戦いにずるいもクソも無えよ」
「こういう戦いの時だけ張り切らないでよっ!」
「お互い様だろ。ほら、もうびしょびしょに濡れてるじゃねェか」
「あっ、あ……これ、は……」
浴衣の上から這わせていた左手が、いつの間にかマァムの浴衣の裾をまくっていた。
完全なる不意打ちだが、その戦果は充分だったようで、ポップの言葉通り、その秘所は愛液で濡れそぼっていた。行為に及ぶ為か、下着は纏っていない。
一見、和の雰囲気とは不釣合いな桃色の髪の少女が、下着も着けずに浴衣を肌蹴た姿で横たわり、
愛液を滴らせ、肉体は官能に染まりきったその光景は、淫らであって尚美しく、とても幻想的で、かつ扇情的だった。
「素直になれないなら勝手に襲うぞ?」
「え……」
無論、目の前の女性からおねだりの言葉を引き出す為の方便である。
ポップとしては、口に出した通りでも構わないとは思ったが、身体と共に心も繋がりたい、というのが本音だった。
「あ、あのっ……して、。ポップ……」
「んー、もう一声♪」
「えぇっ? んん……もう……。私、もう我慢出来ないのっ。ポップが欲しくてもうそれしか考えられない……。だから、貴方のペニスで私を全部満たしてっ!!」
心の中のものを全部吐き出したマァムの催促の言葉。
「一声どころじゃなかったな。オレも、もう我慢出来なくなっちまった」
いかにもマァムの言葉でリミッターが外れたような事を言うポップだが、彼のリミッターなどマァムと同じく、疾うに振り切れている。
正に我慢が出来ないといった様子で、やや粗雑げにマァムの身体に手を伸ばす。
後ろから軽く羽交い絞めのような体勢を取り、彼女の両膝の下に腕を差し込んで持ち上げた。そのままマァムの両足を左右に大きく広げ、背面座位の格好を取らせる。
マァムはなすがままにされながら、普段、痩せっぽちで頼りなげに見えるポップが、こういった時ばかりは何よりも力強く、荒々しく、抗えないのは何故だろうかと常々思う。
いつもは彼を尻に敷いている側のマァムがそのような屈辱的な、且つ羞恥心を煽る格好を晒しているのは、当の彼女だけでなく、ポップにも優越的な快感を与えるのだった。
「ああっ、こんな格好っ……。本当、こういう時は本当に獣みたい…っん……」
「『アバンの使途』のまんまじゃ女は犯せないからな」
「ひどいわね……ん、あ……来て、思いっきり…犯して……」
勇気の使途が野獣と化して、衣を剥がれた慈愛の天使を犯す。ポップの言葉にマァムは身体中を震わせた。それは歓喜と期待の震えに違いなかった。
ずぶぶぶぶぶぶっ!!
「ひあぁああぁあああんんっっ!」
大量の愛液で潤う膣の中に、ポップのモノが『犯す』という表現そのままに突き込まれる。マァムは背を仰け反らせ、己の背後にいる少年に思わず身体を預けた。ポップの肩に頭を乗せ、上を向いたまま荒い息を吐いている。
耳元で吐き出される艶めいた吐息。すぐ傍から香ってくる髪の匂い。胸に寄りかかってくる柔らかでしなやかな身体。それら全てがポップを更に興奮させる因となる。
「いくぜ……」
「え、ちょっ、まっ……はぁぁんっ!」
マァムの制止の声も気に留めず、猛り狂った欲望のままに腰を動かし始めるポップ。両足をがっしりと抱え上げられ、挿入の勢いで身体の力が抜けてしまっているマァムが、それに抵抗出来る筈も無い。
まるで揺り籠、というには遥かに激しい動きで2人の身体が上下に揺れ、互いの首からぶら下がっている輝聖石が妖美に煌く。
ぢゅっ、ぐちゅっ、じゅぶぶっ──!
「くっ……あああっ……下からぁっ、突き上げられてるっ……」
戸惑いの声はすぐさま快感の色を伴ったものに変貌する。ポップのペニスを受け入れた膣内がぎゅっと締まり、マァムの身体は湧き上がる快楽に身震いした。
いつもと違う体位に刺激を受けているというのもあるのだろう。
「うっ、はあぁっ……ああ……はぁぁぁ……」
ぐぐっ、じゅくぢゅくっっ──!
「ひああっ!」
ポップは、マァムが1度大きく息を吐いたのを確認して、再び強く腰を動かし始めた。彼女も快感に身体を痺れさせながら、自ら腰を動かしてポップの動きに応えていく。
自由に身体を動かしにくい状態で、体裁も気にせず必死に快感を貪ろうとする様は、淫らで美しく、愛しささえ感じさせた。
「んっ、くぅっ、んあああぁぁっ!」
動きの激しさに比例して、マァムの嬌声もまた淫靡さを増していく。ポップもそれに乗じて責め方を変えた。
単調に動かしていた腰の動きを緩やかに、しかし、的確にマァムの急所を責める動きに変え、無防備になっていた首筋や耳に舌を這わせていく。
「ひあっ、くっ……んんんんっ!」
いきなり感じる部分だけを責められて、マァムが身悶えた。くすぐったさに耐えるように身を縮こまらせるが、それを許すようなポップではない。
彼女の両膝を更に大きく開いて羞恥心を煽る。彼女はそれに気付いて足に力を入れて抵抗するものの、すぐさま別の箇所を刺激され、無駄に終わる。
常にどこかから刺激が送り込まれて、頭はパニック寸前だった。
「ああぁっ……すごいっ、頭が…身体も……痺れっぱなしでっ、くはあぁぁっ!」
「凄いな……どこもびしょびしょだ」
その言葉どおり、今の彼女は秘所が愛液で溢れているのは言うまでも無く、身体中汗に塗れている。
その為生地が肌に貼り付いている為に浴衣を着ていてもうっすらと肌が透けて見え、彼女の均整の取れた肢体を更に艶やかに魅せていた。
「ああぅっ…あぁっ! はあああぁっ!」
既にマァムは快感が脳まで支配しているようで、ポップの言葉も聞こえていないようだった。
こうなると言葉で苛めても無駄なので、刺激を身体の方へと集中するべく責め方を切り替えた。
「手加減無しだ……いくぜ……」
今までどのあたりに『手加減』があったのかは甚だ疑問だが、マァムは既にそれどころではなくなっている。
単に、ポップの傍若無人な獣っぷりが更に助長されただけと言った方が正確だろう。
じゅぶぶぶっ! じゅぷっ! ちゅくっ! ぐちゅちゅっ──!
「ああああぁっ! またっ、つよくっ……」
「いつでもイっていいぜっ!」
「そんなっ、私1人でなんてっ、ああああぅっ!」
「イキそうなんだろ? 心配すんな……オレもそう保たねェ……っっ!」
「ひぃああぁっ、あ、ああ……うんっ……」
あとは言葉にならない嬌声だけをあげて、腰を打ち付け合う。
肉のぶつかり合う音と、その潤滑を担う粘着質の水音が、2人の絶頂への道筋をはっきりと示していた。
それに沿って2人は迷う事無く頂へと登りつめていく。
ぬちゅっ! ぐちゅっ! ぶじゅっ、じゅぷっっ!
「あっ! はあっ、はあぁっ! イイッ! 貴方のっ……また膨らんでッッ……イキそうっ? イキそうなのっっ!?」
絶頂寸前の痺れた頭でポップに問い掛けるマァム。
彼女自身、すぐにでもイってしまいそうなのだが、それでも、愛する人と同時に達する事を望み、絶頂に至るのを歯を食いしばって耐えていた。
その様を見た少年の脳裏に「1人でイかせてやろうか」と、意地の悪い考えが浮かんだが、自分自身が既に堪え切れそうもなかったので、直に打ち消した。
「ああっ……もうすぐ出るっ! 一緒にっ……」
「うんっ…今日は……大丈夫っ…だから…一緒にっ、一緒にイってッ!」
あまりの快楽に意識が飛びそうになって、必死に意識を留めようと手でその拠り所を探すマァム。
抱き締め合って交わる時は、いつもポップの──服の上からでは決してわからないであろうしなやかで強靭な肉体が受け止めてくれていた。
しかし、後ろから抱え上げられている今のこの状況では、前に伸ばした腕は空しく宙を掻き抱くだけだった。
仕方なく自分の足を抱え上げている彼の手に、自分の手を重ねて我慢する。
重ねた手のぬくもりで安心感が増し、気を抜いたのか、一瞬にして快楽の激流が全てを飲み込んでいった。
「んっ、んっく、あ、ああっ……あああああああああああああぁぁっ!!」
びゅっ、びゅるるっ、びゅくぅぅっっ──!!
膣の外まで響きそうな音を立てて、ポップのペニスから白濁液が噴出した。
信じられない量の精液が、絶頂に痙攣するマァムの膣内を侵食し、子宮内を蹂躙する。
「あああっ、ポップッ……あなたのって、本当にっっ、んくぅぅっっ!」
膣内を子種で狙撃される度に、彼の逸物の凄さを思い知らされてしまう。
筋骨隆々には程遠い、人一倍痩せて見える体躯であり、─表情にはあどけなさすら残した少年が持つにはあまりにも不釣合いな、一瞬で理性を刈り取る凶器と言えた。
その威力は、いつも自らの身体で証明させられている。
「あふっ、ぁぁぁ……わ、たし……」
今日もまたこの凶器に翻弄された事を恥じるマァム。
が、その羞恥心も津波のように押し寄せる絶頂の連続で、あっという間にどこかへと押し流されてしまった。
結局、その情交は、最終的に理性どころか、彼女が意識を刈り取られるまで続いたのだった……。
2人は1つの布団の上で、行為の後の脱力感を隠す事無く、だらしなく横たわっていた。
だが、2人の表情には微笑が浮かんでいた。満足さと安心感を孕んだ、見ている方が温かくなるような表情。
「今日も……凄かったな……」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
「ははっ。でも、やっぱり落ち着くよな、ここは」
先程まであれほど燃え上がっていたのが嘘のように、2人は穏やかな様子で笑い合っている。それがこの温泉宿の魔法。
現在、ポップは各地の復興作業の為に忙殺される毎日を送っている。
その忙しい中から可能な限り時間を割いて、彼女と過ごす時間を捻出していた。
その度に、来て良かった…と心の底から思う。
「オレも自分の仕事場に温泉引こうかね」
ふと、ポップは思いついたことを口に出した。
復興作業の、充実感のある疲労とはまた違う、人という生き物の集合体の中で強いられる疲労。
平和が訪れてから初めて降りかかる困難もある。かつて師であるマトリフに降りかかった出来事に、彼は正に今直面していた。
そのような世界で生きていく為に、自分の世界を構築出来る場所を1つでも多く持っておきたいのかもしれない
だが、マァムがそれを止める。
「やめてよ。何の為にここに来てるのか判らなくなるじゃない」
「あ……」
この温泉宿は、2人で同じ時間を過ごす為の数少ない場所だった筈だ。たとえ1人自室で温泉に入ったとしても、これほどの安らぎは得られない。
マァムの言うとおりだった。
「そうか…そうだったな」
「うん。会いに来てくれるって、言ったでしょ?」
「言ったさ。忘れちゃいねえよ」
「本当に?」
マァムが探るような瞳でポップを見つめる。それに対し、少年はどこかバツの悪そうな表情で苦笑した。
「本当は、ちょっと忘れていたかもな。最近、2人で会う事が多くなったし。それが当たり前のように感じていたから、さ」
「まぁ、いいのかもね。それでも」
忘れていたのが、ではなく、当たり前のように感じていた、という事が。2人の関係がより自然になっているという事だから。
「ポップ……。帰る前に、もう1度温泉に浸かって帰りましょう」
「ああ、そうだな」
少年の答えが、まどろみ始めたマァムの意識に沁みていく。
ポップもそれに誘われたのか、自覚していなかった眠気が一気に襲い掛かってくるのを感じた。それに逆らう事はせず、ゆっくりと瞳を閉じる。
布団も掛けずに、1つの布団で寄り添い合って眠る2人。
その距離と、眠りながらも重ねられた手が、どのような困難を前にしても繋がり合う2人の在り方を示していた。