宴も漸く終わりを告げ、騒ぎ疲れた城内は魔法をかけられたように深い眠りに落ちている。  
現に、こうしてアバンが宛てがわれた部屋の窓際に立って涼やかな夜風に身を晒していても、静かにまどろんだ空気しか感じられなかった。  
湯を使い、澄んだ空色の髪を肩に下ろした姿は、昼間の「アバン先生」とはまた違った雰囲気をまとっている。  
僅かに酒も残っており、身体も疲れている筈なのだが、目が冴えてどうもすんなり眠れない。  
酔い覚ましに風に当たったまま本でも読みましょうかね、と思案を巡らせていると、不意に人の気配を感じて戸口を振り返った。  
唇の端に、ほんのりと笑みを刷く。  
「どうぞ。開いていますよ」  
誰何もせず招き入れたのはその気配の主を判っているからだ。扉が開くと、アバンはへらりとした笑顔を零して来客を迎えた。  
「こんな夜更けに、夜這いですかフローラ様」  
 
「……人聞きの悪いことを言わないで頂戴」  
後ろ手に扉を閉めた女王は、装飾を全て取り払ったシンプルな夜着姿でアバンを軽く睨む。  
「大丈夫ですよ。誰も聞いちゃいません」  
にこやかに受け流すアバンを見据えたまま、優美な足取りで彼の傍へ進み、目の前まで来たところで、  
「ちゃんと、言うのを忘れてたわ。……お帰りなさい」  
少し赤らめた顔を逸らすフローラをアバンはそっと抱き寄せた。  
「…………っ」  
思わずその腕にしがみついてしまうフローラの耳元で、心地よい声を響かせる。  
「ただいま戻りました、フローラ姫」  
「もう……姫ではないわ」  
「失礼しました」  
くすりと笑みを浮かべて、腕の力を抜き今一度フローラを見遣った。  
「……フローラ様、ひとつだけお聞きしてもよろしいですか?」  
「その前に、ひとつだけお願いがあるのだけれど」  
「はい、何でしょう」  
笑顔で受けるアバンに、フローラは笑顔で命令した。  
「その、フローラ様、っていうの、やめてくれる?」  
「…………」  
笑顔を張り付かせたまま、アバンははて、と首を傾げる。  
「えーと? フローラ姫でもなくフローラ様でもなければどのようにお呼びしろと?」  
「わたしが貴方をアバンと呼んでいるのだから、同じように呼べばいいわ」  
ほんの少し突き放したような言い方だが、アバンはその言葉を額面通りに解釈する。  
「しかし、貴方は王族で私はしがない一般庶民なんですから呼び捨てにするのは当然でしょうに。  
その逆説は不敬にも程があります」  
「そう言うことじゃなくて……っ!」  
思わず声を荒げる口元に、アバンはウィンクしながら人差し指を当てた。  
「じゃ、『フローラさん』でいいですか?」  
アバンらしいと言えばアバンらしいが……どうにも手のひらで躍らされているような気がして、少し悔しい。  
 
「……それで、いいわよ。それで? 聞きたいことって何?」  
抱き寄せられたままの状態が気恥ずかしくもあるけれど、それを気取られてはまたからかわれてしまう。  
それを極力表情に出さないように注意しながら、質問を拾い直した。  
「ああ、その……改めて仕切り直すとちょっと恥ずかしいですね」  
あはははは、と空笑いしてから、こほんと咳払いをひとつ。  
「フローラさん、即位してから、本当にまだ結婚していらっしゃらないのですか?」  
「――そうよ」  
ぷい、と今度こそ真横を向いてしまった。  
その動きに合わせて流れたブロンドの髪を指に遊ばせ絡ませていると、フローラの横顔が仄かに赤らんだようだった。  
「フローラさん」  
「何よ」  
返事はしてくれるが、こちらを向いてくれない。  
アバンはちょっと考える素振りを見せてから、囁いた。  
「それは、私を待っていてくださったのだと自惚れてもいいですか?」  
「え……」  
とんでもない科白に、思わずフローラは反射的に振り向いてしまった。  
見事彼女を捕えたアバンの何とも嬉しそうな顔。  
「やっと、こちらを向いてくれましたね」  
絹を束ねたような髪から指を離すと、返す手で頬に触れた。  
「カマかけたわね……」  
「そんなお上品な言い方しなくても。……いえ、本心から申し上げましたよ?」  
「何を……」  
 
言い返すつもりが、出て来たのはフリーズした間に何度も頭の中で繰り返した罵りの言葉ではなく、大粒の涙だった。  
「え? わ……」  
突然のことにアバンも慌てたが、次にはすっかり愛しい者を見る目になった。息をひとつ吐き出してから、ぎゅうっと強く抱き締める。  
「フローラさん、ここで泣くのは反則です……」  
「好きで泣いてるんじゃないわ。勝手に……」  
それでも尚強がりをやめようとしない背中を優しくさすりながら、再び髪を梳る。  
フローラは観念したようにアバンの胸に顔を押し付けるようにして、ひとしきり涙が流れるに任せた。  
その間、アバンは何も言わず黙って髪を撫でている。  
落ち着いたフローラがおずおずとばつが悪そうに顔を上げると、ついとその顎を持ち上げた。  
今度は何も抵抗せず、その温かい手の持ち主を見上げた。  
そうして、どちらからともなく唇を重ねた。  
何度も繰り返されるついばむようなキスは、やがて数年分の距離を埋めようとするような深いそれに変わっていく。  
「ふぁ……、アバン……っ」  
奪われた呼吸の合間に、思わずその名を呼んだ。  
ずっとずっと待っていた人の名前を。  
 
飽きることなく互いの唇を求め合う。  
その合間に、アバンの手が髪の流れに従って段々と下りてくる。腰のくびれに触れられた途端、フローラの身体がびくんと跳ねた。  
「うん? どうしました……?」  
僅かに唇を離し、楽しげに問うのは勿論のこと確信犯だ。  
「……何が?」  
潤んだ瞳を伏せ、表情を見せまいとして言い返す声もすっかり弱々しい。  
アバンは更に畳みかけようかとも思ったが、作戦を変更して再び唇を塞ぎ、腰に回した手を身体の前に這わせて今度は遡っていくことにした。  
やわらかい素材の夜着が温かい手の優しい摩擦を受けて素肌をくすぐるのに、フローラは声を殺した息を漏らしてびくびくと身体を震わせる。  
直に触れられるよりも含みのある感触は、より彼女の感度を上げていく。  
「やぁ……っ、んんっ」  
キスの合間の声がまだ何かを耐えているようで、それが余計に彼の中にくすぶる劣情をやんわりと煽っていることに本人が気付くこともなく。  
無駄な肉のない腹を辿り、胸の膨らみを包み込むと抑えきれずに声が上がった。  
「ひゃんっ」  
悪戯な腕にすがりつき、なされるがままに身を捩る。  
張りのある乳房を焦らすように揉みしだきながらアバンはフローラを覗き込んだ。  
「そろそろ……立っているのも辛いでしょう?」  
気を遣うように優しく尋ねると返事を待たずに膝裏に手を入れ、すくい上げるように抱き上げた。  
「きゃあっ」  
咄嗟に腕をアバンの首に回す。慣れていない所為もあり、地面に足をつかない不安定さが怖くてアバンの首と肩の間に頭を押し付けしがみついてしまう。  
「大丈夫ですよ、そんな優男でもないつもりですから」  
そう言うと、首を捻って白い額に安心させるようなキスを落とした。  
くすくすと喉の奥で笑いながら呟く。  
女王様をお姫様抱っこですね。  
 
「もうっ、からかわないで……!」  
「いや失礼しました。あまりにもフローラさんが可愛いものですから、ついいじめたくなってしまうのですよ」  
「……いい年の女捕まえて、可愛いも何もないわ」  
ふいと横を向いたフローラをベッドにゆっくりと下ろし、アバンは落ちてきた空色の髪を耳の後ろに流す。  
「我々からすれば女性はいくつになっても可愛いもんですよ」  
フローラの上に覆い被さると、肘をついたあたりがぎし、と鳴いた。  
顔の周りに広がった長い髪を整えた指先がそのまま滑らかな額から耳の傍を通り、頬か首筋へ落ちて鎖骨を撫ぜた。  
「こんな可愛い顔で可愛い声出されたら、もっと……」  
一旦そこで言葉を切り、首筋に顔を埋めた。  
耳の後ろから唇を這わせるのに従ってフローラが僅かに喘ぐ。  
「あっ、アバン、くすぐった……」  
「いじわるしたくなるんですよ、厄介なことに。  
仕舞いには誘われてるのかなぁ、なんて都合のいい勘違いなんかしちゃったりして」  
「ば、ばかっ」  
鎖骨のくぼみを舌でなぞられ、脇の下から抱き寄せられる。もう片方の手が仰向けになっても形の崩れない見事な胸を先程よりも強く揉む。  
次第に硬くなっていく先端の実を確かめるようにぐるりと指先で辿った。  
「ああんっ」  
みっともないくらいに反応する身体をどうすることも出来なくて、フローラは余計に羞恥を募らせる。  
上目遣いに様子を伺うアバンの顔はすごく楽しそうで――すごく、いじわるだ。  
ぞくぞくする。何か言われる度に、何処かに触れられる度に背中を電流が駆け抜けるように甘い痺れが襲ってくる。  
フローラはこくんと息を呑み込んだ。  
「ほら……やっぱり、感じてるんでしょう?」  
聞き慣れた声が、それだけでわたしを絡め取ってしまう――。  
 
夜着の肩紐を落とし、胸元を晒されるとフローラは思わず目を瞑った。  
大きな手の中でされるがままに形を変える白い膨らみを堪能しながらアバンがその果実を口に含むと、  
途端にフローラが殊更大きく身悶えした。  
「やぁっ! いや……」  
「嫌ですか?」  
と尋ねながらも、アバンは乳首に軽く歯を立てたり乳房の下から舐め上げたりと一向に動きを止める気配はなかった。  
「あっ、くふ……ん、っ、や……っ」  
格段に高い声を上げて、フローラは肯定とも否定ともつかない返事をする。  
すっかりと色づき敏感になってしまったそこを弄いながら、アバンは上半身を起こす。  
「フローラさんって、意外にえっちですねぇ……。胸だけでそんなに乱れるなんて」  
「な、何言って……」  
少し我に返ったフローラは上気した顔で反論しようとするが、突然脚を撫で上げられて中断してしまった。  
「ふぁ……」  
「……フローラさん」  
促すような彼の視線を辿って行くと、すっかり太腿の上まで捲くれ上がった夜着の裾と  
そこから覗く自分の脚に行き着いた。  
「こんなお見事な脚線美見せ付けられて、触らない方が失礼でしょう?」  
こんなことをしゃあしゃあと言って退けるのだからたまらない。  
「ちょっ、やだっ」  
慌てて起き上がって裾を直そうと伸ばしかけた手は素早く捕まえられ、  
再び押し倒されて頭の上に縫い止められた。  
「きゃ……」  
ふるん、と揺れる胸から腋に舌を這わされフローラは固く身を縮ませる。  
決して乱暴に扱われている訳ではないが、両手を押さえつけられただけでひときわぞくぞくした。  
ささやかな被虐心が、またフローラを責め苛む。  
「邪魔しちゃ、ダメですよ」  
諭すように告げるが、その手はやわやわと焦らしながら傷ひとつなく美しい脚を這い、  
やがてちいさな布地に行き着いた。  
それと素肌の合間に指を滑り込ませる。  
「あ……」  
 
反射的に脚を閉じようとするのを遮られ、その拍子にくいと中指を沈められてしまった。  
「やぁんっ」  
くぐもった水音が静かな夜に響く。  
「フローラ、さん……判りますか……?」  
低く耳元で囁きながらアバンの指はゆっくりと動き続ける。充分に潤っていることを確認して、  
指を増やされ、最初よりも少し動きが早くなってきた。  
両手の戒めを解かれると、フローラは自然とアバンの首に腕を回した。  
「あっ、あああっ、……やだ、何……っ?」  
そこここに口付けを落とし、片手は生き物のように弾む胸の感触を愉しむ。  
中を刺激すると更に濡れてくるのがはっきりと判る。  
「フローラさん、かわいい……」  
忘れかけていた頃に呟かれて、先程の恥ずかしさを思い出す。  
いや、今はもっと恥ずかしいことをされているのだかれど。  
指を差し入れされる動きに呼吸が同調する。何度も意識を手放しそうになるのを必死に耐える。  
「いやぁ……ん、んっ、んふ、アバン……」  
「はい、何です?」  
こういうときに限ってちゃんと返事をするのがまたいじわるだ、と思う。  
口を噤んだフローラに微笑みかけて、アバンは不意に指を抜いた。  
「あ……っ?」  
「あ、抜かれると困りますか?」  
にこやかに問われるが、当然フローラは返事をしない。  
「返事がないと、ちゃんと気持ちよくしてあげないですよー」  
と、からかうような口調で言い、アバンは片方ずつ脚を抱えて下着を脱がせた。  
「何するの……」  
「脱がせたんです」  
「…………」  
むくれていると、アバンは苦笑交じりに続けた。  
「フローラさんが予想以上にかわいいので、私も我慢出来なくなっちゃいました」  
何が?  
 
「だって、フローラさんてばこんなに濡らしちゃってるし」  
先程まで自分の身体の中に入っていた指を突き出され、フローラは真っ赤になって絶句した。  
うふふふふ、とアバンはフローラをじっと見詰めながら引っ込めた指先をれろりと舐った。  
「フローラさんの味……なんて言うのもベタですかね」  
「知らないわよっ」  
「怒らなくてもいいじゃないですか」  
アバンがぱぱっと身につけている物を脱いでいる間、フローラは胸元に手を遣って半ば呆然と彼を見上げていた。  
「アバン……?」  
何です、と優しく応え、アバンは逆手でフローラの脚を開いて割り入った。  
既に屹立している彼自身をちらりと見て、顔を見た。  
「…………」  
無言で無理、と訴えているような気もするが。  
アバンはくすりと笑って、ぽってりと充血したそこに自分自身を押し付けた。  
充分に濡れている所為でぬるぬるとした感触が直に伝わる。  
「や……」  
「……ダメですか?」  
意地悪く聞きながら、まだ挿入はせずに入り口を往復する。  
「あ、……あぁっ、アバン、もう……お願い……っ」  
「あらあら、おねだりされちゃいましたねぇ」  
言いながらず、と腰を進めた。  
「んあっ、あああっ」  
一際高い啼き声が上がった。  
「フローラさん……っ」  
深々と入ってから暫くじっとしていたアバンが、ゆっくりと動き始める。  
「あっ、あっ、や、ああん……っ」  
律動に合わせて声が上がる。アバンはその身体を包み込みキスの雨を降らせていく。  
「フローラさんの中……、とてもあたたかいですよ……」  
「んぁ……アバン、熱……い」  
「――溶けちゃいましょうか、一緒に」  
 
火照った身体を寄せ合いまどろみながら、アバンはまた金色の絹糸を指に遊ばせている。  
その腕の中でフローラは蕩けた瞳で彼を見上げていた。  
「もう、何処にも行かないわよね……?」  
「ええ、すっかり平和になりましたしね。私はもう引退した身ですから。  
貴方と一緒に平和ボケするのもいいかなぁと思いますよ」  
飄々と告げる口調に、フローラはくすくすと笑った。  
鍛え上げられた胸板にそろりと手を這わせ、  
「是非そうして頂戴。これは命令よ」  
「畏まりました、女王様」  
アバンは素直な返事を寄越すと、細腰を引き寄せて甘い口付けを落とした。  
 

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