Lively Motion-side L-
幼い頃は母が世界の全てだった。
ただ一人オレの存在を認め愛してくれたヒト。
母が居なくなってオレの世界は真っ暗になった。
バラン様と出逢ってからはバラン様が全てとなった。
あの方もオレを『もう一人の息子』として愛してくれたしオレも本当の父以上に
-とは言っても父は物心つく前に亡くなったのであまり記憶にないのだが-
父としても主としても慕っていた。
バラン様が亡くなってからもディーノ様・・ダイ様が全てになると、そう思っていた。
けれど、また失ってしまった。
生きてまた逢えると信じてはいるけれど喪失感は消えない。
いや、例えバラン様やダイ様が戻ってきたとしてもやはりこの喪失感だけは消えないのだろうと思う。
母を喪ったあの日から世界は真っ暗なままなのだから
オレはあの日からずっと闇の中で動けずにいた。 -
Lively Motion-side p-
- マァムの言葉におれは自分の耳が可笑しくなったんじゃないかと思った。
うん。きっと聞き間違いだ。そうに違いない。
「そーか、そーか。ヒュンケルとくっつくことになったかー。ははは、お幸せになー」
「ちょっとポップ、ちゃんと聞きなさいよ!ヒュンケルじゃなくてラーハル・・」
訂正するマァムの言葉に意識が遠のきそうになる。
例えおれが選ばれずともマァムがヒュンケルを選んだのならば仕方がないと思っていたし、その時には精一杯祝福してやろうとも思っていた。
ああ、思っていたさ。
けれども納得がいかない。
いってたまるか。
「・・なぁ、一体あいつの何がいいんだよ。無愛想だし性格だって悪いぞ。・・・・・・多分」
マァムに詰め寄る自分がまるでガキのようだと、思う。
そうは思うけども止まらない。
ねえ、本当に何がいいの?
「・・最初はね、私もよく分からなかった。
何処か寂しげにも見えるあの人の視線の先が気になるだけだった。
けどね、なんだか気づいたら好きになっちゃってたの。
視線の先に誰を見ているのか分かったときにもっと好きになった。
側に居たいって思ったの。
・・・ごめんなさい。上手くは言えないけれどもとにかく私は、あの人が好き・・」
言って笑うマァムの笑顔は悔しいけれど輝いていた。
認めめたくはない。
まだその思いの方が強いけれどそれでもマァムが幸せならば
「・・そっか。
幸せになれよ。」
絶対にな。
Lively Motion-side H-
- マァムの言葉にオレは耳を疑った。
自分が選ばれないだろうという事は分かってはいたし自分では彼女を幸せにすることなど
出来はしないと思っていた。
だからせめて彼女と(彼女が選ぶだろうと思っていた)ポップを祝福してやろうと思ってい
たのだが・・。
「そ、そうか・・しかしラーハルトか・・オレの聴き間違えでは無いんだよな?」
聞き返すオレにマァムは苦笑する。
「ポップにも驚かれたけどそんなに以外かしら?」
「あ、ああ・・そうだな。
オレはてっきりポップを選ぶ物だと思っていたからな」
そこまで言ってオレは一息つく。
混乱する気持ちを少し落ち着かせようと瞳を閉じた。
瞼の裏に焼きついたマァムは眩しい笑顔を浮かべていた。
これからも、彼女には笑っていて欲しい。その気持ちだけは確かだ。
ゆっくり瞳を開け今の正直な気持ちを紡いだ。
「だが、お前が自分で考え選んだのならばそれでいいと思う。
マァムが幸せになれるのならばそれでいい。」
誰よりも幸せになってくれ。 -
Lively Motion-side M-
- 「ラーハルト、入るわよ?」
軽く扉をノックし1分ほど返事を待つ。
けれども返事は返って来ない。
一瞬いないのかしら、と思ったけれど確かに部屋の中には気配がある。
一応一声かけて私は扉を開けた。
確かに彼は部屋にいた。
窓際に佇むその姿は一見外を眺めているようにも見える。
今夜は特に月が綺麗に出ていることもあり、私も何も知らなければきっとそう思っただろう。
けれど彼が見ているのは月などではないことを知っている。
「・・・・」
私はそっと彼に近づいてゆく。
何時気づくかしら?
「っ・・・何か用か?」
私が窓枠に座って暫くしてからようやく彼は私に気づいた。
本当に今まで気が付いていなかったようで驚きに息を呑むのがわかった。
そんな彼に思わず笑いがこみ上げた。
「ふふ・・本当に気づかなかったのね。別に用は無いのだど何となく、ね。」
私の言葉にラーハルトは「そうか」とだけ言って軽く私の頭を撫でてくれる。
子ども扱いされてる、そんな風に思わなくも無いけれど不思議と悪い気はしない。
むしろ心地よささえ感じる。
「・・・お前は、オレの何処がいいんだ?」
ぽつりとラーハルトの唇から言葉が零れる。
その言葉に私は一瞬目を丸くする。
「・・同じことをポップにも聞かれたわ。
以前に伝えたことでは納得できない?」
問いかけに問いかけで返したことに彼は少しむっとした表情をするもそれも一瞬だけのこと。
直ぐに何時もの表情に戻る。
「・・出来ないわけではないが良くわからない。何故オレを愛せるんだ?
オレは、自分が本当に生きているのか、それすらわからないのに。」
「・・・え・・」
ラーハルトの言葉に思考が停止しかける。
彼の顔を見やるも自嘲めいた表情が張り付いてるだけ。
「オレは一度死んでいる。
今、こうしているのはただ自分に都合の良い夢を見ているだけかもしれない。
オレの世界は、あの日から変わらずに暗闇のままだ。
本当に、オレは生きているのか・・・?」
言ったラーハルトの顔は無表情にも泣きそうにも見えた。
そっとラーハルトの手を取り左胸に押し当てる。
「心臓、動いてるでしょう。肌も暖かい。」
押し当てた手を今度は彼の胸に私の手と一緒に押し当てる。
「ほら、貴方の心臓も脈打ってる。鼓動を刻んでいる。肌も暖かい。
貴方は生きている。私も、皆生きている。」
笑って彼をそっと抱きしめる。
硬い胸に耳を押し当てればトクン、トクン、鼓動が聞こえる。
「これから嬉しいことも楽しいこともたくさん一緒しましょう。
貴方が生きていることを感じられるように」
ふっと笑うと彼も私を抱き返してくれた。
「ああ、本当に暖かいな・・・・
ようやくオレが生きていることを感じられた気がする・・・」
彼の顔に浮かんでいるのはあの時に一度だけ見た優しい笑み。
彼の指が頬をなで、唇をなぞる。
自然と私は瞳を閉じた。
暫く置いて唇に柔らかな感触を感じた。
あの時のように深いキスでは無かったけれど本当に幸せなキスだと、思う。
貴方の瞳に私が映されるた。
こんなに世界が広がるなんて。
私、幸せよ。 -
Lively Motion-side L-2 -
- 母を喪ったあの日からオレの世界は暗闇のままだった。
きっと、この終わりは終ることはないのだと、オレはもう死んでしまっているのだとそう思っていた。
けれど、まだ微かにではあるがようやく光を見つけることができたんだ。
闇の先に光があるのかはわからない。
けれどその先に光があることを信じて
オレは歩き出す。 -
END