二人を見た時、『何』が変わったかすぐに分かった。
きっと俺しか気付いてない微妙な変化・・・。
マァムがあいつを見る時『優しさ』の他に『愛しさが』含まれるようになった。
あいつがマァムに話す声に深く落ち着いた色が混ざるようになった。
どんな言葉で言われるよりも二人を包む空気が饒舌に語っていた。
―――――――そう、自分は選ばれなかったのだ。
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(どうしよう・・・・)
パプニカにある広い書庫の一室で、マァムは本を広げながら考えていた。
相変わらずこういう事が苦手な自分に呆れて軽くため息をつく。
生まれて初めて人を欲しいと思った、だから彼に抱かれようと部屋に行った。
そう、自分は決めたのだ、彼と共に生きる事を。
(ちゃんと言うべきよね・・・ポップに)
伝えなければいけない事は、理解している。ただいつ彼に話して良いのかが分からない。
(・・・何も言われてないのに私から言うのは変・・よね。)
軽く頭を抑えながら、上手く答えを見つける事が出来ない自分に苛立った。
(今度・・・今度ポップが何か言ったら、その時はちゃんと言おう)
『それは卑怯な考えだ―――――』と自分の中の何かが告げている。
その考えを無理やり押さえ込んで、彼女は再び手元にある資料に目を通し始めた・・・。
「・・・マァム??」
夕暮れに染まったパプニカの書庫で静かに寝息を立てる彼女を見つけた。
机に散乱している本を手にとって、なるほど・・・と口の中で呟く。
散乱してるのはあらゆる薬草の本。
『あいつ』の体が元に戻る方法を彼女は必死に探していたのだ。
胸にジワリと広がる嫌な感情を押さえ込んで、寝顔を眺める。
戦いが終わって筋肉が落ちたのか・・少しだけふっくらとした気がする。
「戦いが終わったから・・・か・・・。」
自嘲気味に笑いながら呟く、本当はそれだけじゃない事を自分は知っている。
体つきが以前にも増して柔らかそうになったのも、ふっとした時に見せる表情に
艶っぽさが含まれるようになったのも、『誰が』変えたのか気付いている。
「知りたくねぇなぁ・・・・」
起こさないようにゆっくりと髪を撫で、ふわふわとした感触を楽しむ。
夕暮れに染まった部屋はまるで別世界のようで、不思議な感じがした。
どこかで覚悟はしていたと思う、きっとマァムは俺ではなくあいつを選ぶだろうと。
『その日』が来たら、潔く彼女の事は諦めて応援してやろう・・と。
でも、こんな風に無防備に眠る顔を見ると胸が粟立つ。
気持ちが暴れだして、無理やりにでも彼女を手に入れたくなってしまうのだ。
「このまま、時間止まんねぇかなぁ・・・・・。」
その呟きは祈りに近かった、この時間が永遠に続けばいいのにと心からそう思った。
(・・・・んっ・・・)
頬や髪を撫でる温かい手の感触を感じた、誰かが自分を撫でている・・・。
愛しそうに触れる指の感触に、ぼんやりとあの夜の事を思い出す。
こんな風に自分を愛しそうに撫でてくれる人など一人しかいない
きっと今自分は夢の中で彼の事を思い出しているのだ。
心地良い肌の感触をもっと味わいたくて、無意識に頬をすり寄せ甘える。
戸惑いがちに頬や髪を触れていた手が、唇に移動して撫でてくる。
その手が微かに震えてるような気がして、少しの違和感を覚えた。
(あれ・・・?私、どこで寝てたっけ・・・)
硬い机の感触が彼の部屋にあるベットでは無い事を教えている。
―――――マァム―――――
愛しそうに自分を呼ぶ声と暖かな唇の感触がした。
こんな風にしてくれる人なんて一人しかいないはずなのに何かが変だ。
「・・・んっ」
まだ眠りから覚めていない意識を必死に戻し目を開ける。
「んっ・・・ヒュンケル・・・?」
震える手を包み込むように握り締め、そこにいるはずの人の名を呼んだ――――。
唇を重ねた後、マァムが呼んだのは俺では無くあいつの名前だった。
「ポップ・・・・?」
目を覚ました後、驚いたように俺を見るその顔や声に、さっきの艶っぽさは無い。
「――――――おはよう。そんな所で寝てると風邪引くぞ。」
つないでいた手をスルリと解き、気付かれないように気持ちを元に戻す。
何事も無かったように、いつもの顔をしてあいつの額をパチリと叩いた。
そんな俺にホッとしたような表情を見せて、マァムもいつもの顔に戻る。
「ん・・・最近ずっとココに通い詰めて本読んでたから疲れたみたい・・
片付けてくれてたんだ・・・ごめん、ありがと。」
そう口早に言って、手元にある本を片付け始めた。
ごまかすようなその態度を見て何故か苛立ちを覚える。
あんな声で名前を呼ぶ相手がいるのなら、はっきりと言ってくれたら良いのに。
こんな風に胸のざわつきを必死に抑えながら、こいつに接するのがとても辛い。
あの甘えるような顔を見た時、泣き出しそうになった。
唇の柔らかい感触を味わう自分がとても惨めだった。
こんなに近い所にいるのに、決して届かない事を思い知らされて死にたくなる。
恥かしいくらい女々しい気持ちを終わりにしたくて、あいつに答えを求めた。
「なぁ・・・お前、好きな奴って見つかった?」
突然のポップの問いかけにドキリとした。きっと今が『言う時』なんだろう。
あれだけ考えていた事なのに実際こういう状況になるととても怖い。
自分が何かを『選ぶ』と言う行為が、とても悲しくて嫌だった。
「だって、調べもんばっかりしてんのってヒュンケルの為だろ?
もし俺がそうなったらお前同じ事してくれんのかな〜ってさ。」
少し拗ねたような軽い口調を聞いてホッと胸を撫で下ろした。
彼は『仲間』として自分に質問をして来たのだ、弟が拗ねるような
仕草が彼らしくて思わず笑みが零れる。
「バカねぇ、私ポップがそうなっても絶対同じ事するわよ?
だってみんな一緒に戦ってきた大切な『仲間』なんだもの。
ヒュンケルが特別って訳じゃ――――――。」
全てを言い終わる前にポップが私の目の前に立って、そっと手を握ってきた。
怒ったような、でも泣きそうなその顔を見て何だか胸がざわつく。
「ポップ・・・・?」
その声に応えるようにゆっくりと微笑む。彼はこんな顔で笑っただろうか・・・?
「お前さ・・・本当に夢だけだと思ってた?」
その言葉を聞いた途端、部屋の空気が変わったのが分かった。
眠っている間に感じた温もりも、愛しそうに自分を呼ぶ声も全部夢だと思ってた。
あんな風に自分に触れる人なんて一人しかいないと思ってた。
その考えを見透かすように、ポップが見た事の無い残酷な顔で笑う。
「結構長い間触ってたんだけどなぁ、お前全然起きねぇんだもん・・。」
本能的に掴まれた手を振り解き、逃げようと体を動かす。
まるでそうなる事を知っていたように、その瞬間ポップが『何か』を口にした。
「――――――え??」
ガクリと膝が落ちて彼に倒れ掛かる。自分の体なのに上手く動かない事が怖かった。
「・・・っと。危ねぇなぁ、急に動くと怪我すんぞ・・・。」
支える手を振り払おうとするが、力も入らず、声さえ上手く出なくなっていく・・。
彼が『何か』を唱えてこうなった事は分かるが、『何故』こんな事をするのか分からない。
「ポップ・・・??」
祈るように彼の名前を呼ぶ、いつものように冗談だと笑い飛ばして欲しい。
「何で素直に言わねぇんだよ・・・ヒュンケルを選んだって・・」
泣き出しそうな顔でそう言いながら、震える手でゆっくりと頬を撫でる。
それは夢の中で感じていたぬくもりと同じものだった・・・。
「お前・・・さ、自分で思ってるよりずぅっと酷い女だよ―――。」
まるで苦しいものでも吐き出すように呟き、強引に唇を重ねてきた。
「や・・っ・・・!!ぅん・・・・!!!!」
強引に口をこじ開け、舌を絡め取られる。その動きに優しさも何も無い。
『仲間』として答えれば彼はいつもと同じ風に笑ってくれると思ってた。
本当はあの時に逃げずに、きちんと『答え』を言うべきだった。
―――――そう、自分は完全に間違えたのだ―――――
(みんな一緒に戦ってきた大切な『仲間』なんだもの・・・)
余りにも無邪気な顔でそう笑いながら答えるあいつを見て
自分の中で何かのスイッチが切り替わるのが分かった。
もっと落ち込んだり、激しく怒れたら良かったのかもしれない・・・。
人間怒りを通り越すと、とても静かになるものだと初めて知った。
『答え』を求めている事をあいつは気付いてたはずなのに、俺の口調を聞いて
安心したように、『仲間』としての答えを俺に出して当然のように逃げた。
そう・・マァムはただ自分の為に俺に『答え』を言うのを止めたのだ、
苦しい気持ちを汲み取ってくれると思ってたのに、結局こうやって裏切られた。
ざわつく気持ちを必死に抑えて、仲間として側にいた事も
苦しい感情を隠しながら、二人の事を眺めていた事も
全部が無意味な事のように思えた・・・そう考えると何だか全てがバカらしい。
それは、八つ当たりだと、彼女は裏切っていないと少しだけ残った理性が言っている。
でも理性なんてもうどうでも良い、ふっ切れてしまえばこの状況はとても嬉しいものだった。
日が落ちた書庫なんて誰も来やしない、こいつが書庫に居るなんて誰も思わないだろう。
こいつが愛しいと思っている王子様も先日どこかに旅立ってしまった・・・・。
何かを感じ取ってか、不安そうに俺の名前を呼ぶマァムに微笑む。
冷静に頭の中でコイツを追い詰める計算をするのはとても楽しい。
どうせ離れてしまうのなら、壊してしまえば良かったんだ・・・と今更気付く。
それはとても簡単で気持ちが良い―――――そう本能のままに動けば良いんだ。
「ぁ・・・んっ、ふっ・・んんっ〜!!!!」
チュ、チュと舌先に絡みついた唾液を丹念に吸い取られる。
乱暴に舌をこじ開けられた後、突然行為は優しいものに変わった・・。
口内にある全てを確かめるように、ポップの舌先が愛しげに歯列をなぞる。
その優しい動きは自然とあの夜と重なって、余計に悲しくなった。
さっきから大声で叫ぼうとしても上手く声が出ない、口を塞がれているからじゃない。
声が出ないのも力が上手く出ないのも『何か』されたのだ、この魔法使いに。
「や・・めって・・!!お願い・・離しって・・!!!」
擦れる声と入らない力で必死に抵抗すると、あっさりと組み敷かれていた体が離れた。
「―――――――――― 何で?」
口の周りについた唾液を愛しそうに指で拭い、その指を舐め取りながらポップが
不思議そうな顔で私に尋ねる、その言葉を聞いて頭が真っ白になった・・・。
怒りで体か震えていた、悪ふざけにしては余りにも性質が悪すぎる――――。
「ふ・・ざけ・・ないで、よ!何で急に・・こんな事・・それに・・
わたし、のからだに―――何したのよ・・・!!」
その言葉を聞いて、ああ、その事か・・と今更気付いたような態度を取る。
「だって・・・お前が本気で抵抗したら俺、死んじまうもん。
大声出されて邪魔されたくないし・・・大丈夫、後でちゃんと元に戻すから。」
いつものように茶化した声で、サラリと言う彼がとても怖かった。
話すことに飽きたように、再び唇を重ね口内を荒らし始める・・・・。
恐怖の為に体が麻痺してしまったのか、唾液の甘い味にゾクリと鳥肌が立つ。
「ふっ・・・んっ、やっだ・・・・んぁ・・・やめ・・て!!」
その変化を知っているように、ポップが楽しそうに囁きかける。
「だから・・・何で?さっきからお前、すっげぇ気持ちよさそうなのに・・。」
体が羞恥で赤く染まる。まるで自分が誰にでも反応してしまういやらしい人間のようだ。
その姿を満足げに見つめ、舌を絡めながら彼が更に追い詰める。
「なぁ・・・・?俺と『あいつ』どっちが感じる・・・??」
その言葉を口にした途端、ガリッと何かを噛む音と血の味が口内で広がった。
「―――――っ!!」
突然の痛みに思わず口を離すと、涙を浮かべたあいつが俺を睨み付けている・・・。
「・・・へぇ・・・・。」
相変わらずの気の強さに感心する、唇についた赤い血を見ると何だか楽しくなった。
「い・・い、かげんに・・してよ・・!!」
強い意思を感じる視線とは裏腹に、今組み敷いているこの体は弱々しく震えている。
怒りの為か、恐怖の為かは分からない・・・いや、そんなことはどっちでも良かった。
こいつの全てを自分が『支配』している、その事実だけで気持ちが高ぶり嬉しくなる。
マァムの唇についた血をペロリと舐めながら、髪を優しく梳いた。
「俺・・・お前の事、ずっと好きだったんだぁ・・・。それ、知ってるよな?」
睨みつけていた目に少しだけ迷いの色が入る・・・その目を見つめながら言葉を続ける。
「好きなものを手に入れたい・・・それって人として当然の本能だと思わねえ?
だから・・・お前も抱かれたんだろ?――――――ヒュンケルに。」
強い目にどんどん絶望の色が広がる、きっと今頃『何を』されるか分かったんだろう。
「『愛しい』はあいつに取られたから・・・『憎しみ』でいいや・・俺にちょうだい?」
そう言いながらふっくらとした太腿を軽く撫で、ずっと夢に見ていた柔らかさを楽しむ。
今まであったドロドロとしたものを口に出して伝えるのは、とても気持ちが良かった。
もう、『マァムの幸せを祈る』とか、『遠くから見ているだけで良い』なんて思わない。
絶望とか傷とか、そんな黒いものでも何でも良い・・・あいつの中に俺を残したい。
「あな・・・た・・・誰??」
まるで信じられないものを見るような目で、あいつが俺を見つめる。
俺がそんな事をするはず無いと信じていたのだろう・・その信頼を壊すように微笑む。
「・・・俺は、俺。お前が気付いてなかっただけで、俺はずっとお前としたいって思ってたよ。」
ずっと・・・ずっと当たり前のように側にいてくれた大切な人だった。
『仲間』として見るなら彼は私の一番近い所にいて、誰よりも心を許せた。
「・・・・マァム・・・・」
愛しそうに私を呼ぶ声がする、その声は良く知っているのにまるで別人のようだった。
もどかしそうに服の上から体を弄る手も、耳元で聞える荒い吐息も、熱っぽい表情も
額にある見慣れたバンダナも、姿だけ同じできっと別人なのだと思おうとしたのに・・・。
気付きたくない事に気付いてしまった事を酷く後悔した。
もどかしそうに触る手が微かに震えているのも、私を見る目に微かな『怯え』があるのも
私が一番良く知っている、彼の臆病で弱い所だった・・・・。
ニセモノでも何も無い・・・ここにいる彼は本当に『あの』ポップなのだ――――。
「ぅ・・・んっ、あっ・・」
ちゅくちゅくと聞えるように水音を立てて舌を吸われると、零れた唾液が冷たく頬を伝う。
それを丁寧に舐め取った後、首筋に軽く歯を立てられ思わず体が跳ねた。
「へへ・・首・・・弱いのな、お前・・・」
玩具を見つけた子供のように、嬉しそうな顔をして、私の反応に応えようと顔を埋める。
首筋を確認するように、舐めた後耳たぶを甘噛みされて必死に抑えていた声が漏れた。
「あっん・・やっ、もう・・んぁ・・ゆるして・・」
懇願する私に反応するように彼は、更に優しく激しく耳の柔らかい部分を舐めた。
「・・・・何で?気持ち良いならもっと声出して―――――??」
無邪気な子供のように、甘い声でそう囁かれると自然と体が反応する。
どんな屈辱を受けるよりも、自分の体が変わってしまう事が一番悔しかった。
こんな風に反応してしまう体が、ヒュンケルに対する一番の裏切りだった―――――。
「もう・・・いやっぁ・・こんなっの・・やだぁ・・あっ・・・!!!」
押し止めていた感情が堰を切ったように涙となって流れ出す。
まるで子供のように泣く私を、あやすように背中を撫でながらポップが呟いた。
「ごめん・・な、ごめん。もうちょっとだから、あと少しお前が『変わった』ら
元に戻してやるから・・・な?」
そう口付けながら囁く声を、動けない体でぼんやりと聞いていた。
それは単純に『行為』の終わりを指しているものだと思っていた
それなら彼が望んだとおり『憎しみ』を与えて終わる事が出来る。
出口が見えてどこか安心したように目をつぶる・・・そう、もうすぐこの夢は終わるのだ。
現実から目を背けるように、目を瞑ったマァム抱きしめ優しく髪を撫でた。
(――――もうちょっと・・・な。)
多分こいつは意味を勘違いしてるんだろう、そう考えながら自分を口をペロリと舐める。
ただ単純に『欲望』を吐き出す為ならとっくの昔に済ましている・・・。
目の前にあるたっぷりとした胸も、柔らかい足の先にあるまだ見た事の無い『女』の部分も
ずっと触れたいと思いながらずっと我慢していた。
それも、もう我慢する必要が無くなった・・・待ちわびていた上着をゆっくりと剥ぎ取る。
一瞬体が動いたが、諦めた為か強い抵抗は無い、その姿にうっすらと笑みが零れた。
日が落ちた書庫の中・・・散らばる本と冷たい床の上に、白い肌がゆったりと浮かんでいた。
「――――っ」
恥ずかしげに体を隠そうとする手を掴み、目から零れる涙を舐め取りながらその姿を眺める。
身につけている下着は白い飾り気が無いもので、それがマァムらしくて似合っていると思った。
想像していた体はしなやかで引き締まったイメージだったのに、実際に目の前にある体は
白く柔らかそうで、触ってしまうと壊れそうなくらい儚いものだった。
汗で鎖骨に張り付いた桃色の髪や、戦いで残った小さな傷跡が、余計に肌の白さを引き立てる。
古書の匂いと汗の匂い、黒い床でもがく白い体・・あまりの卑猥さにゴクリと喉をならす。
「お前って・・・すっげぇ綺麗な体してんのな」
そう言ってゆっくりと胸に手を当てると、短い吐息と紅く染まった肌が応えてくれた。
柔らかな胸の感触を楽しみながら、ふくよかな谷間に埋もれていたブラのホックを外す・・・・。
支えを失った豊かな膨らみは、プルンっとはじけて零れ落ちそうに横に流れていく
想像していたよりずっと大きくて柔らかな胸のいやらしい動きに、背中がゾクゾクする。
寄せるように乳房を揉みながら、ふわふわとした胸の谷間に顔を埋めて汗ばんだ肌を舐めた。
「っやぁ・・だっ・・ん、ぁ・・」
胸にある突起を口に含み舌先で転がすと、あいつの体が跳ね上がり逃げようともがく。
「ふぅ、ぁ・・んっんんっ・・やめって・・プ・・・ポップ」
硬く震える突起を嬲りながら、切なげに俺の名を呼ぶ声をうっとりと聞いていた。
こいつは気付いていないだろう。俺を否定していた声は、誘うような甘い色に変わり
抵抗の為に掴んでいた手は、快楽を押さえる為のものに変わっている事に・・・。
(もっと・・・もっと、堕ちれば良いのに・・・。)
柔らかい体を味わいながら、頭の隅では冷静にこいつを追い詰める計算をしている・・・。
自分の黒いものを表に出そうと決めた時、こいつの全部を壊してやろうと思った。
清らかに俺の事を信じてる目も、あいつを見る愛しそうな目も、この愛らしい反応も
あいつがどこかに行っている内に、全部塗り替えてやろうと思った。
片手では収まらない柔らかな乳房を触りながら、恋人のように深く口付ける
「ふ・・・ぅん、ぅ・・」
ぼんやりとした意識の中抵抗する力を失ったのか、それともあいつを思い出しているのか
俺の舌を緩やかに受け入れる。それどころか舌先で催促すると、応えるように絡み付いてきた。
(――――っ!!)
初めて自分に応えてくれた艶かしい舌の動きにゾクリと鳥肌が立つ。
(もうちょっと・・・で、変わる・・・かな・・)
快楽に流されたい気持ちを抑え、絡められた舌先を離す。
硬く閉じられた目を見つめながら、震える太腿ににそっと手を延ばした。
「・・・ぅ・・・んっ・・やぁっっだ・・・!!」
止まっていた抵抗が激しくなり、マァムが動けない体で必死にもがいていた。
落ち着かすように足を撫でながら、下着の中にある湿った茂みに手を延ばす。
「・・・ぅ・・や、っ・・」
少しだけ零れ落ちている蜜を指ですくい、茂みに隠れた蕾にこすり付ける
「んん・・っ!!!ぁ・・っ・・っ・・・・ポップ・・・や・・」
閉じていた瞳が不安そうに開らかれ、悲しそうに俺の名を呼ぶ。
「も・・う、止めて・・?こんなの、いや・・、いやなの・・。
私、あなたの・・特別になれ、ない・・から、好きな・・・んっ」
マァムの口から『あいつ』の名前を聞きたくなくて、反射的に口を塞いだ。
「んっ・・だから・・もう、離し・・て。今なら、まだ戻れ・・る。」
透明な涙が頬を伝う、擦れる声で哀願するその姿はとても綺麗だった。
喘ぎ声と混ざったその声はとても魅力的でいやらしく感じた。
罪悪感や後悔は芽生えず、ただこいつの泣き顔に見とれていた。
下着から手を抜き、その泣き顔を包み込むように抱きしめる。
「・・・戻れる・・・?元の仲間としての・・俺に??」
マァムが俺を見つめてゆっくりと頷く。
「だって・・・ポップの事も、大切な人・・だから。あなたの気持ちに
気付く事が出来なくて、ごめんなさい・・・。」
こんな状況なのに、嘘でもごまかしでもなくこいつは俺の為に泣いていた。
(ああ・・・そう言えばこいつって『慈愛』の使途だっけ・・・)
それは余りに高潔で清らかな涙だった、迷いもなく他人の為に泣ける女――――。
今ならヒュンケルがこいつを遠ざけようとした理由が何となく分かる。
まっすぐ俺を見つめる目をみながら、汗と涙で濡れた髪を剥がしてやる。
「こんな事した・・・俺も大切・・・??」
そう言うと少し落ち着いた顔であいつが微笑みながら応えた。
「・・・大切・・・。だって、あなたは一番大切な『仲間』なんだもの―――。」
そう言うとポップが泣き顔で微笑んだから、気持ちが伝わったのだと思った。
私は彼を憎む事なんて出来ない・・・、憎むには余りにも長い時間一緒に居すぎた。
こんな風に悲しそうな顔をして私を抱く彼が哀れで仕方が無かった。
いつものように、笑っていて欲しい―――誰かと幸せになって欲しいと心から願う。
今日の事は悪い夢で、自分の愚鈍さが招いたおろかな結果だと。
・・そう考えてると抱きしめられていた腕が解かれて、体が少し離れる。
行為の終了を感じてホッとしていると、ポップが突然上着を脱ぎ始めた
「・・・ポッ・・・プ?」
不思議そうに呟くと、上着を脱ぎながら彼が暗い目をして私を見つめてくる。
その瞳を私は知っている、出会った頃のヒュンケルも同じ目をしていた・・・。
「お前・・・・さ、本当に酷い女だよなぁ・・・。」
上着の脱ぎ捨てながらポップが呟く、その声は明らかに怒りの色をしていた。
感情の読み取れない目でゆっくりと私を見て、再び体を重ねてくる。
男の人が持つ硬い肌の感触に体が跳ねた、何かを確認するように顔を撫でられる。
「・・・・何・・で??」
戸惑いがちに見る私を、彼が優しく微笑み返す・・・、その笑顔がとても怖い。
「何で・・・?・・・意味が・・分かんない??」
まるで私がそう尋ねる事を知っていたように楽しげにクスクス笑う。
「結局・・・さ、こんな風にしても俺はお前の中では『大切な仲間』な訳だ。
いつまでも惚れた女に『男』として見られない屈辱・・・お前に分かんないだろう?」
そう言いながら、下着に手を入れられ乱暴に指を押し入れてきた―――――
「いっ・・・・!!ぃ・・たっ・・・!!!」
突然の刺激に痛がる私を彼が楽しそうに見つめ、どこか投げやりに呟く。
「もう、仲間とか恋人とか気持ちとか・・・どうでもいいや。
受け入れて?ただ俺の事、受け入れてくれるだけでいい・・・・。」
「まだ、朝まで時間あるし・・・・ゆっくりと俺のこと受け入れてくれたら良いよ・・・」
初めて見る暗い顔で笑いながら、彼はゆっくりと指を動かし始めた・・・。
くちゅくちゅと中から湧き出る水音に合わせて切なげな声が漏れる。
あれからずいぶんと長い時間が過ぎた気がする・・・・。
窓から見える夜は更に深いものになり、細い月が薄っすらと部屋を照らしていた。
「・・・っ・・ぅん、あっ・・はっ・・・」
暗い床の上をもどかしげに白い腕が動き、爪を立てながら必死に何かに耐えていた。
締め付けてくる膣の感触を指で感じながら、マァムの限界が近い事を知る・・・・・。
次第に熱くとろけてくる膣を掻き乱し、耳元で熱っぽく囁く。
「すっげぇ熱くなってる・・。もしかしてまた、イキそう??」
フルフルと首を横に揺らし、弱々しく否定する姿を見て性質の悪い笑みが零れる。
「――――――うそつき。」
そう言いながら空いた指でぬるりとした肉芽を擦り、更に追い詰めた・・・。
「あっっ!!・・・や・・っだ、こんな・・の、もう・・・ふぁっ!!!!」
悲鳴のような喘ぎ声を上げて、体が大きく仰け反り足が細かく震え出した。
「ぁ・・・ぁぁっ・・・んん・・・!!!」
2度・3度と床の上で跳ねる体をうっとり眺めて、蜜で濡れたそこから指を引き抜く・・・。
指から零れて床を濡らす蜜の量が、過ぎた時間の長さとあいつの体が変わった事を教えてくれる。
震える体を抱きしめ、大きく乱れた呼吸を整えてやる。
涙を浮かべながら、ぼんやりと見つめる目に応えるように口付けた。
「う、ぅん・・・ポップ・・んっ・・・。」
抵抗する事無く受け入れる温かい唇に、切なげに俺を呼ぶ甘い声・・・・。
それが無意識に出されているものでも嬉しかった。
心も体も俺以外のものを考えている余裕も、力も残っていない。
――――動けない体と擦れる声で出来る事なんて、俺を受け入れる以外何も残っていない。
(そろそろ・・・かな・・・)
舌先を軽く吸った後、ズボンを脱いで押し殺していた自身を晒した。
ずっと我慢していたせいか、自分でも驚くほど大きく勃起した肉棒を不安げな目が見つめる。
動けない体でゆっくり逃げようとする体を抱きしめて優しく押さえ込む。
もう、動ける力も抵抗する心も残っていない・・・・こいつの目には俺しか移っていない。
嬉しそうに微笑む俺を、不安げな瞳が見つめている。その瞳に応えるように髪を優しく撫でた。
「ごめんな・・・こんな風にしかお前抱け無くて。今『自由』にしてやるから全部で俺を受け入れて?」
微笑みながらそう言う俺は、きっと酷い顔をしていただろう――――――。
それを聞いたマァムの目に絶望の色が広がり、か弱い声でイヤ・・と短く叫ぶ。
蜜が滴る秘所に自身を押し当てながら、少し強めに体を抑えた。
「この部屋響くから、声・・・しっかり抑えてろよ・・・っ。」
そう短く囁き、ゆっくりと暖かい中に体を押し進めながら『その言葉』を唱えた――――。
その瞬間自由になった体は彼にしがみ付いて、下腹部にやって来る痛みと
口から零れそうになる声を抑える事しか出来なかった・・・。
「ぁっ、は・・・んっぁ!!」
抑え切れなかった声が静かな部屋に響く、その大きさに驚き強く唇を噛みしめ耐える
それでも漏れる声を吸い取るように、彼が舌を絡めて声を塞いでくる。
「ふぅ・・・んっんんっ・・・」
何かを塗り替えるように時間をかけて、熱いものが入り自分の中を埋めていく・・。
ゆっくりと中に入ってくる痛みが、甘い痺れに変わっていくのが苦しかった
自由になった体は、抵抗する事無く彼の腕にしがみ付き
声を抑える為に彼の唇に舌を這わす姿は、自分から求めているようだった。
(・・・なんで、こんな・・・・)
『いけない事』だと分かっているのに、さっきから体が言う事を聞かない。
もっと乱暴に、暴力的に犯してくれたほうがずっと良かった。
(いや・・・だ・・こんな、の)
『彼』に抱かれるくらいなら、他の誰かにこんな事をされた方がずっと良かった。
恋人や仲間と分けずに見るなら、きっとヒュンケルより大切な存在だったから
だから『女』としてられるのでは無く一人の『人間』として見て欲しかった
自分にとって『仲間』と言う言葉は『恋人』よりも深いものなのに―――――。
「あっ・・・んっ・・・んっ、あっ」
彼がゆっくりと動く度に、クチクチと濡れるような音が下腹部から漏れ聞こえる
いくら知識が乏しい自分でも、この音が何をするのかは分かっていた
逃げる事も出来る体も、助けを呼べるようになった声も、その役割を果たさず
彼との行為を喜ぶように受け入れる・・・自分はただの女として感じているのだ。
(もう・・・、いや・・・だ)
甘えるように声を出して、彼にしがみついている自分も
恋人のように私を優しく包み込む彼も、全部が受け入れたくない事実だった。
「―――――っ、ごめん・・やっぱり・・・まだ痛い・・・??」
彼が不安そうに自分を見つめて、自然に零れた涙を愛しげに舐め取っていく。
優しければ優しい程この行為は辛く、深いものになる事を彼は知っているのだろうか??
上手く言葉に出来ずに首を横に振る私を、嬉しげに見つめて何かを呟いた。
彼の声が小さいのか、自分がぼんやりとしているのか・・その声を上手く聞き取る事が出来ない。
「・んっ・・・な・・っに・・・?」
流されそうになる意識を抑えながら、彼の言葉に耳を傾ける。
「・・・・いいよ・・・。」
ゆっくりと動きながら彼が笑う。
私が必死に隠そうとする気持ちを掻き出すように甘く囁く――――――
「ここから・・・俺から逃げれるなら、逃げてもいいよ・・・・??」
その言葉を口にした瞬間、マァムの目から大粒の涙が零れ落ちた。
涙と共にこいつが今まで大切に守って来ていたものが流れて行くのが分かる。
初めて知る女の温もりより、愛しい女を抱ける喜びより、こいつを汚した事が嬉しい。
こんなに壊れた感情を自分が持ってるなんて知らなかった。
今まで汚れた事が無いものを汚していく事がこんなに楽しいとは知らなかった。
「・・・い・・・・」
透明な瞳からどんどんと大粒の涙が零れ落ちていく
「ポ・・・ップ、なんか・・・大嫌い・・・・」
悔しそうに俺を見る目にはずっと欲しかったものが含まれていた
やっと『仲間』としてではなく、『一人の人間』として見てくれたのだ・・・。
仲間としてでは無く傷でも何でも良い、こいつの中に残れる事が嬉しかった。
「・・・うん。でも俺はお前が好きだよ・・・・。」
そう言いながら愛しいものを抱きしめて、行為を再開する。
嬲るように腰を動かすとあいつの体が反応して素直に応えてくれた。
「い・・・やぁ・・・んっ・・いや、だ・・ぁっ・こんな・・の」
体はこんなに感じてるのにまだ何かを守るように、弱々しく呟きながら抵抗する。
もっと単純に流されてしまえば楽しいのに・・・・全部忘れて溺れて欲しかった。
何かを壊すように激しく腰を動かしぐちゃぐちゃにかき乱す。
「っん!!・・・ぁん・・・・ふっ、んん!!」
肉がぶつかる音にあわせて、甘い吐息が口から漏れ零れていく。
体を紅く染めて悔しそうに耐える姿はとても綺麗で可愛いと思った。
このまま中で出したい感情と、もっと楽しみたい感情が気持ちよく混ざり合う。
くちゅくちゅと言う音と共に、膣から暖かいものが流れ落ちて締め付けてくる。
普段のこいつからは想像できないくらい淫らなものを感じてゾクリとなる・・・。
「――――っ、もっと良くなって?・・お前の中すっげぇ気持ちいい・・。」
締め付けてくる膣の温もりからあいつの限界が近い事が分かる
そう言いながら唇を重ねて、奥にあるザラリとした部分に自身をこすり付け促した。
長い、長い・・・・夜が続く・・・・
まるで終わる事の無いような時間の中、溺れないようにそこにある体に抱きついた。
抵抗する事を忘れた体と頭は、ただ言われるまま彼の行為を受け入れるものから
求めるものに変化する。自分がどんどん流れていくのが分かる―――――
「っ・・・大丈夫・・っもっと、良くなって・・いいよ・・」
嬉しそうに抱きしめられて、中に入ったものが水音を立てて激しく動き出す。
溺れないようにしがみ付いたはずの腕は、『また』ねだるものに変わっていた
「あっ、んっ・・・んっっ・・・はっ、ぁっん・・・」
まるで自分が出しているとは思えないようなその声をぼんやりと聞いていた
その声がすごく悲しくてフタをするように彼の唇を求める。
酷く息苦しくて空気を求めているハズなのに、その甘い味が心地良かった
「っ・・・ん・・マァ・・・ム」
愛しそうに自分を呼ぶ声がして、それ応えるように舌を絡めて唾液を送る
受け取れなかった唾液が喉を伝い体を汚していく・・・体を伝う冷たさに鳥肌が立った。
「あ・・っやっ・・だぁ・・・・!んぁ・・っん、ん・・・」
そう思った途端自分の体に何かが走り、甘く溶けるように体が痺れていく
この痺れが自分を襲うたび、どんどん大切な何かが流れていくような気がしていた
何かを思い出そうとした時、彼のものが大きく膨らみ自分の中を圧迫する・・・。
今日何度目かの『その瞬間』を受け入れられるように自然と体が反応していた
最初はあんなに怖かったものが、今では彼の為に体を大きく開いて受け入れようと整える。
「――――ぁっ、きっ・・つっ・・・・、ごめっ・・んっ!!」
堰が切れたように、腰を激しく打つ音とぐちゃぐちゃとかき回す音が早くなる
その動が早ければ早いほど、自分の体も甘く甘く溶けていく
「ふぁ・・・・あっあぁぁぁ!!!!」
二人の体が同時に震え、ドロリとしたものが飛び散り胸を伝う・・・。
流れ落ちるその白いものを指で拭き、ぼんやりと撫でていると
彼が困った顔をして抱きしめてきた。
「・・・それ、ダメ・・・目に毒。」
そう言いながら軽く笑う顔は自分が良く知っているいつもの彼だった
やっといつもの彼に会えた気がして、安心して涙が零れる。
不安そうな顔で彼が私の名前を呼んで、確かめるように撫でて小さく呟く
その好きだと言う声は、壊れそうなくらい儚くて胸が締め付けられた。
流されている訳でもなく、強要されている訳でもなく彼を包み込んだ。
泣きそうな子供をなだめるように優しく背中を撫でてやる、そうして
自分の意思で彼を抱きしめて、自分の意思で唇を重ねたのだ・・・・。
零れる涙を隠すように私を抱きしめて、もう一度 好きだ と言う声を聞きながら
胸にある感情を受け入れて、自分がもう戻れない事を知る。
彼には絶対に聞えないように、気付かれないように うん と呟きその想いに応えた・・・。
「よ・・・・っと」
ドサリという重い音と共に白い体がベットに沈む。
それは寝てると言うようよりも気を失っていると言った方が正しいかもしれない。
(まぁ・・・あんだけ無茶苦茶にすれば無理ない、か・・・)
汗と涙で頬に張り付いていた髪を梳きながら、規則正しく呼吸を打つ寝顔を眺めてた。
「・・・情けねぇ、今頃ビビってやんの・・・。」
髪を梳く手が震えているのに気付き、余りの身勝手さに苦笑する。
行為を重ねるにつれ彼女は完全に流され、甘く俺を受け入れてくれていた。
傷を残すように重ねる行為が、甘いものに変わっていくのがとても嬉しかった。
まるで自分を選んでくれたような錯覚さえ覚える幸せな時間・・・・。
(いつもあんな・・・顔して抱かれてるのな・・・・)
眠りに付く少し前、きっと彼女は『俺』では無く『あの男』と間違えていたのだろう。
自分を抱きしめてくれる腕と、口付ける唇の優しさに涙が零れた。
自分には絶対見せない愛しそうに応える顔、あれが自分に向けられたものなら
どれだけ嬉しくて幸せだっただろう―――――――。
「・・・いいなぁ・・・。」
胸にチリチリとした感情を抱えて、さっきまで腕の中にあった柔らかい体をなぞる
あれだけ求めたのに、まだ足りないと感じる自分の欲深さに驚いた。
「俺の事・・・・好きになって欲しいなぁ・・・・。」
きっとまた自分は、昨日のように彼女を追い詰めながら求めるのだろう。
それは傷を残すより憎しみを求めるよりもっと深いものだった・・・。
意識を閉じてしまったように眠る彼女にそっと唇に舌を這わす。
本当はこのままずっと一緒にいたいが、もうすぐ夜が明けてしまう。
夢のような時間が終わってしまう。
ゆっくりと這わしていた舌を名残惜しげに離して、頬を撫でて呟いた。
「一緒に・・・・このまま・・・一緒に堕ちよう??」
「・・・・・んっ・・・・」
目が覚めた場所は自分のベットだった・・・重い体を持ち上げて頭を軽く抑える。
窓から見える空はずいぶん明るくて、その日差しの強さに軽い目眩を覚えた
夢の中で誰かが苦しそうに自分の名前を呼んでいた。
その声がヒュンケルでは無い事を自分は知っている
(全部、ゆ・・・・め・・・だったら良いのに・・・。)
そう思えたらどれだけ楽になれただろう。
体に残る痛みも、彼の匂いも全部が『現実』として自分にこびり付いている。
行為が終わった後の独特のだるさに耐え切れず、再び体をベットに沈めた。
目が覚めたとき、もっと激しい感情を持てたら良かったのかもしれない
怒りだったり、嘆きだったり、悲しみだったり、憎しみだったり・・・・。
明るい天井を見ながら、ぼんやりと自分が変わってしまった事を知る。
(・・・・結局、嫌いになれなかったな・・・・)
追い詰めるように自分を求める姿も、泣きそうな顔で笑う壊れた顔も
こんな風になった事が悲しいだけで、嫌いになんかなれなかった。
ぼんやりと体に残る痛みを抱えながらため息を付く。
抱かれた事より、最後の最後で彼に応えた自分が恨めしかった。
それが一番の裏切りだとちゃんと分かっていて自分はあの人を裏切った
頬を伝う涙は生まれて初めて自分の為に流した涙だった。
自分の中にこんなにドロドロと汚れた感情があるのが苦しくて仕方が無い
「ごめ・・・んね・・・」
誰に言ったのか分からない言葉が毛布の中に吸い取られる。
心が壊れる程弱くもなく、彼を憎む程強い強くもない
そしてこの行為を割り切る程、大人にもなっていない・・・。
恋に対してあまりに純粋で幼い少女は、自分の中に初めて芽生えた
割り切れない感情を、ゆっくりと受け入れる事しか出来なかった。
――終――