マァムは震えていた。
フロアの中央に吊された豪華なシャンデリアと煌びやかな装飾品。それにも関わらず薄暗い店内が、その空間の特殊性を物語っている。
肌に貼りつくバニースーツの純白がマァムの自虐を煽り、腰に深く切れ込む裾を引っ張り降ろす彼女の表情は固かった。
(あぁ、私、本当にこんな仕事を…? いくらネイルの村が財政難だからって…。
でも、私にできることなんてたかが知れてるし、ここまで来たらもう後戻りはできない…!!)
「今日は初日だから、指名をしないお客さんに就いて貰うよ。3番テーブル、あの角のボックス席に行ってきて。笑顔を忘れずに、ね」
支配人の男に背中を押され、マァムは妙に重く感じる頭上のうさみみバンドと
履き慣れないハイヒールをなんとか引きずって、未知の世界へ飛び込んだ。
その瞳が輝いて見えたのは、光を反射させる為に様々な角度に彫り込まれた調度品のせいか。
それとも、うっすらと涙が滲んでいた為か…。
「し、失礼します」
内心は挫けそうでも精一杯明るい笑顔を作り、マァムはボックス席の中へ入る。
他の席から見えないように背の高いソファーで仕切られた一角に、身を縮めて居心地悪そうに佇む男の眼鏡が控えめな照明にさえ反射して、光った。
澄んだ空のような色のカールが囲む、聡明そうな上品な顔立ち。
「アバン先生…!」
「マ、マァム!? 一体どうしたんです…!?」
「先生こそ、どうしてこんな所に…」
二人は一瞬、お互いバツが悪そうに言葉を失ったが、やがてアバンがいつもの優しい声で
「…お掛けなさい」
と、逆にマァムをエスコートしてソファーに座らせた。
「先生、どうしてこんな所に…?」
師の顔を見ることができずに、マァムが俯いたまま呟く。
「いえ、マトリフが私に伝言を寄越しましてね。「秘密の場所を特別に教えてやる」と…。
てっきり、魔法に関するレアアイテムや情報を置いている店かと思ったのですが、どうやらそうではないようですねえ」
アバンはカンラカンラと高らかに笑ったが、すぐに笑顔はマァムを心配する顔つきに変化した。
「…マァム、あなたは何故こんな所に?」
「そ、それは…」
こんな場所で師に遭遇し、マァムは自分の行いを心から恥じた。身を切られるような苦渋の選択とはいえ、考えが浅かったのではないか、と。
でも。
他にどうしろっていうの…!?
「マァム…」
アバンはそっと、細かく震える愛弟子の肩に手を置いた。
「一緒に帰りましょう。店主には私がうまく言っておきますから」
マァムが見上げた先には、どの記憶とも同様の優しさに満ちたアバンの笑顔があった。
「先生…」
マァムの心は荒く波立った。このまま、何事もなかったかのように帰ってしまいたい。
でも…でも、そうする訳にはいかないわ。いつまでも先生や誰かに甘えてばかりいる訳にはいかない…!!
「先生…私は自分でこの道を選んだんです。私のことを心配してくれているのはわかります。でも、それなら私の好きなようにさせてください…」
「マァム…私には、あなたがそれを望んでいるようには見えませんが…」
「そんなことありません!!」
マァムは自分を偽る勢いをつける為に、さっとアバンの下半身に手をあてた。
「私…私は仕事をしに来ているんです。私のことを思ってくださるなら、先生もお客さんでいてください」
性急な、お世辞にも官能的とは言えない手つきでアバンをさすりながら、マァムは矢継ぎ早にまくし立てる。
「…マァム……」
アバンはそれ以上何も言わず、静かに目を閉じた。
師が自分に身体を預けてくれたことに気付くと、マァムはソファーを離れアバンの向かいに立ち膝になり、
中央にあるファスナーを降ろして、まだ可愛らしい姿のそれを取り出した。
(先生…お願いします、感じてください…!)
そう祈りながら手のひらで扱き始めると、それはみるみるうちに質量を増していく。
直に唇をつけると、予想していなかった熱さがマァムを驚かせた。
(こんなに熱を持ってるものなの…)
とにかく自分の務めを果たそうと、マァムは必死に口と舌を動かした。
舌先で細かく舐め、舌全体を大きく這わせ、首の辺りに唇を引っ掛けるように刺激する。
アバンの生身は筋を浮かせ膨らんでいる。
マァムが動く度に、細長いうさぎの耳がアバンの腹部をくすぐり、それが余計に猛らせてもいるようだった。
「あぁマァム…グッドですよ…」
溜め息混じりに言われたその言葉を、マァムは何の疑いもなく賛辞として捉えた。
それは男性に奉仕する悦びに目覚めつつあるのを示唆していたが、マァムはまだ自分では気付いてはいない。
ただ、夢中でアバンにしゃぶりついているだけだった。
「ん…ふぅ…せんせ…気持ちいいですか…?」
自分の身体も芯から熱くなってきているのを感じながら、唇をつけたまま上目遣いに見上げる。
「えぇ、とても…」
言葉少なに応えるアバンは、マァムの感触に陶酔しきっているようだ。
「んっ…もっと気持ちよくなってください…」
そう言ったのを最後に、マァムはアバンのを口いっぱいに頬張り、首を上下に揺らし始めた。
心持ち口をすぼめて締め付けるようにし、たっぷり唾液を絡めて扱き上げると、
じゅぽっ、ちゅぷっと淫らな音がマァムの動きに合わせて響き、否が応にも身体を高揚させる。
「う…くっ…」
アバンから微かな呻きが漏れた。
動きに合わせて揺れる可愛らしいうさみみもうさぎのしっぽも、彼の視界に入ることはない。
アバンはしっかりと目を閉じ、マァムによってもたらされる甘美な刺激だけを感じるよう努めていた。
「ん、んんぅ、ふぅ」
師に奉仕しながらマァム自身も喘ぎを漏らす。
バニースーツに染み透った熱い粘液は、冷える間もなく次から次から溢れ出てくる。
「あ、マァム、もう…出ます、出ますよ…!」
その言葉をきっかけに、マァムは更に動きを速める。
そして、アバンの身体がビクッと震えるのと同時に、マァムの口内に粘度の高い液体が流れ込んだ。
「…ふぅ。マァム、ベリーベリーグッドでしたよ…」
そう言ってアバンは傍にあったおしぼりに、マァムの口内に放ったものを出させた。
「こんなものは別に飲み込む必要はありません」
「先生…」
秘めるべき行為を終えた後も、師はやはり「優しいアバン先生」なのであった。
「あなたが決めたことですから、私は応援しますよ。頑張りなさいね、マァム」
そう言ってアバンが去った後のテーブルには、チップにしては多い額のゴールドが入った小袋が残されていた。
「先生……。私、頑張ります…」
最初の客がアバンであってよかった、とマァムは小袋を抱き締めて師に感謝した。
「マァムちゃん、空いたなら次、7番テーブルお願い!」
「はい!!」
異質な空間に怯えるマァムの姿は、もうそこにはなかった。
「ごめん、お客さん二人なんだけど女の子出払っちゃってて、空いたらすぐまわすからそれまでなんとか繋いどいて」
7番テーブルに向かう途中でマァムは、従業員の男にそう耳打ちされた。
(繋ぐって…いきなりそんなこと言われても、どうすればいいの!?)
この展開に、やる気を新たにしたばかりのマァムの気持ちはあっという間に萎縮した。
アバンを見送った後の笑顔はどこへやら、不安を隠しきれない面持ちで7番テーブルのあるボックス席へ入っていく。
「失礼します…」
「ん? おまえは…」
「マ、マァム…! 何故こんな所に…!!」
聞き覚えのある声と懐かしいその姿に、マァムの心は一気に晴れ渡った。
「ヒュンケル! ラーハルトも! 久し振りね。エイミさんは一緒じゃないの?」
たじろぐ二人をものともせず、マァムは再会の喜びに後押しされて明るく言った。
「…こんな所に連れて来る訳にはいかないだろう」
あまりの衝撃に口がきけないヒュンケルを見兼ねて、ラーハルトが口を開いた。
「そっか、そうよね…。私ったら何考えてるのかしら」
そう言ってマァムは、ソファーには座らずに二人の前に膝をついた。
「でも、久し振りに会えて嬉しいわ。二人共元気そうで…どこを旅してるかわからないから連絡取りようがないんだもの」
なんてことはない世間話をしているようだが、マァムの手はしっかりヒュンケルの脚の間をまさぐっている。
「マ、マァム…! 何を…!!」
「何をって、この為にこんな所に来たんでしょう…? 二人同時になんて経験ないけど、私、頑張るから気持ちよくなって」
「うっ…し、しかし…」
「よかったじゃないか、ヒュンケル。オレは遠慮しておくから存分に楽しめ」
顔を真っ赤にして弱く抗うヒュンケルの背中をラーハルトが押す。
「ごめんなさい、ラーハルト。今、空いてる女の子がいないんですって。だから三人でお願い」
マァムは左手でヒュンケルを弄びながら、右手をラーハルトに伸ばす。
「…顔に似合わず大胆な女だ。オレはそれでも構わんが」
「じゃあ決まりね。いいでしょ、ヒュンケル?」
「うっ…い、いや、しかし…」
聖母と崇める女性の淫らな誘いに、ヒュンケルが断れる筈はなかった。身体はすっかり反応しているのだ。
「私、最初は恐かったけど、今は男の人のこういうところが可愛いと思うわ…」
服が持ち上がっている部分を円を描くように撫で回しながら、マァムがそう呟く。
(おぉ…女神よ…!!)
渋っていたヒュンケルは、遂に諦めに身を委ねた。圧倒的な強さを誇った元戦士も、やはり男の性には抗えない。
硬くなったものを無言の了承と捉えたマァムは、ヒュンケル、ラーハルトそれぞれのものを衣服から丁寧に取り出し、
交互に口と手を入れ替えて二人同時に慰め始めた。
ずいぶん積極的になったとはいえマァムはまだ行為自体に慣れている訳ではなく、片方を口でしている間もう片方を擦る手は度々動きを止めた。思い出したように動かしてはまた止まる。