「待って!…行かないでください……」  
彼女に後ろから抱きつかれ、部屋から立ち去ろうとしたのを止められた。  
胸にまわされた細い腕が震えている。  
「メルル…泣くなよ…」  
服越しに彼女の涙と嗚咽を感じ、なんだか気まずくて後ろを振り返れない。  
 何か言わないと。でも何を?  
 言葉を探す俺より先に口を開いたのはメルルだった。  
「あなたが、マァムさんを愛してらっしゃるのは分かっています」  
しばらく俺の背中で泣いていたメルルが、か細い声で言いだした。  
「でも、私にも…チャンスをください!!」  
メルルはそう言うと、抱きつく力を強めてきた。  
「チャンスって…?」 勇気を出して振り向くと、突然自分の唇に柔らかい物が触れた。  
「んぶ!?」  
 目の焦点を合わせると、長い睫を濡らした黒い大きな瞳が、俺の眼前にあった。  
「メ、メヒュヒュ!?」  
 口の中に熱くて柔らかい感触が入ってきた。駄目だ!これ以上されたら自制出来ない。  
 メルルの肩を掴んで、キスを止めさせる。  
「おっおい!メルル!?」  
 彼女は俺を見上げながら、再び大きな目から涙を溢れさせた。  
「駄目ですか?やはり、私では駄目ですか…?」  
 
 

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