はるの小川は さらさら流る   岸のすみれや れんげの花に  
   においめでたく 色うつくしく  咲けよ咲けよと ささやくごとく  
 
 
 木々は赤や黄色の花の色。こずえを揺らす風がふわふわと綿毛のように鼻先を撫でる。閉じた目にうららかな午後の太陽の光があたたかい。  
 そして獣王の巨躯は、うとうとと夢見心地で、冷たい小川の水面を漂っている。  
 
 穏やかな日差しの午後であった。  
 パプニカの城の近隣の森の中、かつて百獣魔団長の肩書きを背負った無双のリザードマン、「獣王」クロコダインは、口元からよだれをたらした実にだらしない表情で小川の水の上にぽかんと浮かんでいる。  
 ここは良い森だ。クロコダインは目をしょぼしょぼさせながら、そう思った。  
 城の方角から人間たちの賑々しい声が、かすかに耳に届いてくる。こんなところまで。それもまた心地よい。  
 城は今、あのバルジ島での勝利を祝う宴の準備の真っ最中だった。今夜の宴は、レオナ姫を助け出したその日の夜に神殿跡で催したささやかな宴とは違い、パプニカの再興を近隣に知らしめるという目的もある大々的なもので、夜には花火なんかも上がるそうだ。  
 
 だが、俺はここでこうしているのが良い。  
 ダイたちにはまだ言っていないが、明日の早暁、クロコダインはヒュンケルとともにこの地を発ち、魔王軍の根城・鬼岩城の偵察に赴くつもりでいた。それまではゆるりと穏やかに過ごしたい。  
 戦争の合間にぽっかりあいたこんな空白の時間を、とりとめもなく無為に過ごす。それが、獣王と呼ばれたクロコダインの、密かな楽しみだった。  
 ふあ〜あ。  
 天空まで呑み込んでしまいそうなあくびを一つ。  
 耳までさけた獣王の鰐の大口が開く様はどことなく、ばね仕掛けのおもちゃの跳ね橋に似ている。  
 
 と、口を閉じかけて、獣王は歯の上に何かが触れるのを感じた。小さな、とても小さな足。ちちち。  
 鳥だ。二羽の小鳥が大きく開いたクロコダインの口の中に舞い降りてきて、歯の間の食べかすをついばんでいる。  
 しのび笑いが漏れた。  
 ひそかに水を蹴ると、音もなく静かに加速する。小鳥は気がつかない。クロコダインの巨躯は、まるで舟のように流れ、食事中の鳥たちをゆっくりと、下流の春楡の森に運んでゆく。  
 
 これは先生のものだった。  
 先生は力なき正義は無力だ、そう言われた。  
 先生はわたしの正義に力をくれた。  
 その力は今まで、わたしの大切な人たちと、わたしを守ってきてくれた。いつしかわたしは、先生のくれた力を自分の力だと思っていた。そう思っていた。  
 それは壊れてしまった。  
 いくら見かけだけ元通りに直してみても、もうそこに力はない。  
 ひしゃげた魔弾銃の銃身を、やわらかな胸と胸の間に挟み、その太い銃口を濡れた唇の先でなぞると、潮の味がする。きっと、自分の流した汗やガンベルトの革の味が染み付いているんだろうな。知らなかった。  
 そんなことを思いながら、舌を銃口の中に滑り込ませた。魔弾銃の中は、とてもひんやりとしている。舌を通じて冷気がこっちに伝わってきて、敏感なところから順番に全身が凍ってしまいそうだ。  
 夢中で舌を這わせ、その度に唇の皮の薄い部分がぴりぴりと痺れてくる。甘い吐息がお腹の奥から漏れてくる。乱れた服の上に唾液がしたたって、べたべただ。やだ、これって染みになるかな。帰ったらみんなに変に思われちゃうかな。それでもやめられない。  
 はずみで股間にやっていた右手の親指と人差し指が、花びらをつねってしまった。  
「ぃっっ!」身体の中で光が弾けて、悲鳴が声にならない。  
 軽い痙攣が全身を襲った。じゅん、股から熱い汁が溢れ出す。  
 
 わたし、何をしているんだろう……  
 
自問自答してみるけど、よくわからない。  
 あのバルジ島での戦いで、自分はポップやヒュンケルに助けられてばかりだった。仲間の足を引っ張っただけだった。  
 それに回復呪文の使い手としては、レオナ姫がマァムの数段上なのだ。  
 だから魔弾銃が壊れた今、本当はこう自分に問いかけるはずだった。「マァム、あんたにダイたちの仲間でいる資格があるの?」  
 それなのに、こんな、いやらしい。不潔なこと、してるなんて……  
 マァムは、僧侶の身でありながらこんな恥ずかしい行為に逃げている自分の弱さに歯噛みをして、そしてまた胸の谷間から突き出た銃身をくわえ込む。春楡の木の根に、とろとろ汁がもれ出る腰をこすりつけながら。ショーツはすでにぐしょぐしょに濡れている。  
……もしかしたらわたし、どうしようもなく淫乱なのかもしれない。  
 「先生、わたし、どうすればいいでしょう」  
 身体をよじるたびに、木の皮で乳首がこすれて、それだけでイってしまいそうになる。後ろめたさからか、日に照らされた明るい小川から目をそむけ、木にしがみつくようにしてマァムは自分を慰め続ける。  
 
 その小川の上を一艘の舟が、音もなく通り過ぎていく。  
 
 水に流されてゆくクロコダインの視界を、様々な風景がゆったりと現れては去っていく。  
 垂れ下がるやまぶどうの蔦。喧嘩をしている狐と山犬。  
 草を食む野うさぎ。睦みあう蝶の群れ。  
 その次に見たのが、自慰の真っ最中の人間の娘だ。  
 
 吃驚した。大変おどろいた。いくら獣王といえども、森の真ん中でオナニーする人間の女の子に出会えば、さすがに驚かざるをえない。それが顔見知りともなれば尚更だ。  
「ひぃ、ひぃんっ……」  
 泣き声のようにも聞こえるあえぎ声を上げて、太い楡の木にしがみついた半脱ぎの背中が悶えているのを視界に捉えたクロコダインの胸中は、息が詰まるほど気まずいものだった。    
 まあ、彼女も若い。健全で良い事ではないか。とにかく、向こうが気がつかないうちにさっさと通り過ぎることだ。  
 出来るだけそちらに目を向けないように、焦点を上空の一点に集中させて、クロコダインはそこから流れてゆく。  
と。  
 
 ちちち。口の中、鳥が、鳴いた。  
 
 その上、羽音を立てて飛び去った。  
 
 ――――彼女は気がつかない。  
 
 ようやくマァムの姿が木立の向こうに消えてゆく。ふぅと密かに息をついて胸をなでおろす。柄にもなく、顔がケツの青い青二才のように上気していた。武人としては文字どおり「一騎当千」のクロコダインだったが、こと色事に関しては、案外シャイなのだ………………  
だからこそクロコダインほどの男が今まで気がつかなかった。  
マァムを狙う殺気に。  
 
「は……はぁ……ふぅ……駄目、こんなの、」  
指が勝手に動いて、お尻の穴をまさぐっている。わたし、いつまでこんな、  
 
 けたたましい吼え声が響き渡り、突如、頭上の梢が揺れた。  
 
 木々の間を素早く渡って、音もなく河原に着地した猿の化物・キラーエイプは、油断していたマァムを屠るには充分すぎる脅威だった。  
 はっと正気にかえって構えたが、キラーエイプはトリッキーに木から木へ飛び移り、虚を疲れて後手に回ったマァムには、ただ黒い影が飛び回るばかりとしか認識できない。  
 奇襲の利が敵にある分、長引けば不利だ。ここはでたらめでもいいから攻撃を……!  
 どぅ、途端、マァムは転倒した。張り出した木の根が足先に引っ掛かったのだ。キラーエイプはこの隙を逃すような間抜けではない。  
 野生の牙がマァムの喉笛へと、一直線の軌道を描く。死……  
「おい、若いの」  
キラーエイプの肩が突然、グン、と凄まじい力で後ろに引かれた。振り返る暇もなく、「いつまで調子に乗っとるかぁぁぁぁアア!!」  
怒号とともに、体がゴム毬のように投げ飛ばされた。  
どぉぉぉ……強烈に木の幹に叩き付けられた。  
全身の骨格が悲鳴を上げている。ふらついて身を起こし、キラーエイプは怒りの絶叫を上げた。人の獲物を横取りしようってのか? ぶち殺してやる。  
いきり立つキラーエイプとマァムを結ぶ直線上に、巨獣が立ち塞がっている。  
巨獣は、生え揃った無数の牙をゾロリと剥き出しにして、笑った。  
 
おおおおおーーーんっっ。咆哮。  
 
ぞわり。あ、あれは……獣王。獣王、クロコダイン。全身の細胞がふつふつと泡立って、急速に冷えて行く。  
獣王、獣王が。  
「戦う意志がないなら、去れ」  
その一言は、あらゆる獣にとって、言葉ではなかった。物理的な暴力に等しい。悲鳴を上げる余裕すらなく、キラーエイプはその場から退散した。  
キラーエイプが完全に逃げ去ったのを確認し、クロコダインは安堵の息をついた。  
「……大丈夫か、マァム」  
振り向いたクロコダインの目に映ったのは、半裸の娘。豊満な胸を両腕で隠して、顔を真っ赤にして、石のように硬直して、  
うっ、  
甲高い悲鳴とともに、平手打ちではなくグーが、勇猛なリザードマンのこめかみに打ち込まれた。  
 
「ごめんなさい! ほんっとーにごめんなざいっっ!」  
マァムはぺこぺこと謝る。  
クロコダインは、呆れるを通り越して感心しながら、こめかみをさすった。  
「しかし、俺に膝をつかせるとは……」  
このパンチを毎度くらってなお、果敢に尻を撫でにゆくのだから、ポップというのは、案外、鉄のごとく頑丈な魔法使いなのかもしれない。  
「驚いたな」  
「だって思わないわよ、クロコダインがいるなんてっ。どうしてこんなところに、あ、まさか本当に覗き……」  
「ちょ、ちょっと待て。何をバカなことをっ。だいたい俺がマァムの……」  
 言いかけて、途中でやめた。  
「……しかし足首を捻るとは、災難だったな」  
 
クロコダインの背に負われたマァムの足首はひどく腫れ、青く変色していた。先刻の戦闘で負傷したのだ。  
といっても、捻ったのは木の根に転倒した時ではなく、クロコダインにジャンピング・パンチを食らわせて着地した時なのだが。  
一人で歩けないほど酷く捻ったらしいので、クロコダインは彼女を城へと送って行くことにしたのだ。  
 
「まだ痛むか?」  
「ええ……いえ、もう大丈夫。下ろしてちょうだい」  
気丈に背から降りようとするのをクロコダインは、無茶は寄せと止めた。  
「だってわたし、重いんじゃない?」  
 見くびっているんじゃないかと、豪快に笑って見せたが、マァムの表情は暗い。  
「ごめんなさい……こんな怪我くらい、もしベホマが使えれば、自分で治療できるのに」  
 確かに、それはそうだった。術者の魔法力にもよるが、例えばレオナ姫のベホマ。賢者の家系に生まれたあの姫の魔法力なら、失明すら回復させるほどの治癒効果をもっている。マァムの使うベホイミでは、そういう芸当は無理だ。  
 それは確かにそうだ。だが。  
地面に落ちる影法師が妙に長い。空を見上げると、燃える様な朱だ。いつの間にか日が西に傾いている。  
「どうも、らしくないな。何があったか知らんが、そう気を落とすな。お前は強い。身体も心もな」  
「やめて、クロコダイン」  
「自信を持て。お前のことは皆、心強い仲間だと思っている」  
「お願い、やめて」  
「だから、マァムはマァムの出来ることを……」  
「やめてっっ!」  
金きり声に耳朶を打たれ、クロコダインは立ち止まってマァムを振り返った。  
 
 「違う、違う、違うっ!!  
わたしは強くない。だって、クロコダインだって見たのでしょう!? わたし、あんなことをしていて、それで、敵に気がつかないなんて。  
わたしに出来ること? ちょっとくらい魔法が使えたって、今のわたしはただの足手まといなのよっ。  
なのに……あの時、わたしが何を考えていたか知っている?『レオナがこの世にいなければ魔弾銃も壊れなかったのに』よ!?本当はただ自分に力がないだけなのに、そんなことを考えて、バカみたいに、アバン先生のくれたものであんな……!」  
 
 マァムの態度の急変に、クロコダインは言葉を失った。  
「降ろして。わたし、嫌な人間なのっ」背中の上で、むずがる子供のように暴れだす。今にも泣き出しそうな声だ。  
「見ろ、あそこに生えている木は」と、潅木を指差して「あれは葉が湿布に使える」  
 「な。………………少し、休むか」  
 
   * * * *  
 
 しかし、マァムにああいう一面があるとは。クロコダインは今まで彼女のことを、大人顔負けのしっかりした女性だと思っていた。しかし今のあれは、十六歳のただの娘だ。  
 あれだけ取り乱したマァムだったが、以外にも今は幹にもたれかかって、大人しくしている。  
「ごめんなさい、クロコダイン」その声はひどく気落ちしている。  
「ん? うん、まぁな」  
大きな身体を驚いたハリネズミのように丸く縮めて、潅木の葉を摘むクロコダインは、背中ごしに答えにくそうに答えた。  
「わかったでしょ。わたしはみんなが期待しているような人間じゃないの」  
「気にしすぎだと思うがな」  
「こんな心の狭いわたしを、先生はなんていうでしょうね。ぁっ。」  
「『悩んで答えが出ないその時は、ぐっすり眠って明日にしなさい』……そんなところじゃないか? 少なくとも、見捨てたりはせんだろう。アバン殿はお前を信じている」  
「そんなこと、ぁんっ、わたしに、そんな価値ない……ハぁっ!」  
「そういう物言いはよせ。貧乏神を呼び寄せているよ〜なものだ」  
「でも見て。ん……わたしはこんなに……んっ……ダメな人間なっ、ァ、のっっ。ねえ見てっ」  
 さっきから一体なん……  
 振り向いた目に映ったのは、真っ白い脚をみだらにひろげ、火照った割れ目にあさく突っ込んだ魔弾銃の銃身で、花びらを掻き回すマァムの姿だった。  
 
 豊満だが青い肉体が、丈の短いスカートを淫らにはだけて、自らの器を弄んでいた。  
 その手つきは、清楚で愛らしい顔つきからは想像もつかないほど、大胆でいやらしい。  
「わ、わたし……はぁはぁ……せ、先生から頂いたものをこんな風に使って、ふぁんっ、いたの。先生、きっと軽蔑している……んっ……わ」  
 無心に乳を吸う仔犬のように、銃身を浅くくわえ込んで放さない股をわざと誇示して前に突き出し、ひくひくと痙攣させる。  
「わたし、はんッ、こんなにして、最低なのよ、ァハっ。クロコダイン、こ、これでも……」  
クロコダインの反応は、意外に冷静なものだった。  
「………………あのなぁ、マァム。ヤケクソになってそんなことをしても、あとでもっと惨めな気分になるだけだぞ。悪いことは言わんから、早く止めろ」  
「あの時、わたしがなにをしていたか、知ってるんでしょ? だったら、もっと、わたしの汚い所、いやらしい本当のわたしをぜんぶ見て、お願い。軽蔑して」  
うっすらと湯気の上がるあつい割れ目を、五指で掻き乱すように開いて、わたしを軽蔑して、嫌いになって、と目の端に涙を光らせて懇願するのだ。  
 
 ふいにクロコダインの頭に、かつてヒュンケルの言った言葉が浮かんだ。  
 以前、ヒュンケルが言っていた。マァムは聖母のような女性だと。だが、聖母として生まれてくるのも楽ではない。  
 いつも自分より周りを大切にしようとするから、悩みがあってもなかなか人に甘えられない。他人の欠点には寛容なくせに、自分のこととなると多少のことにも我慢が出来ず、どうしても自分を責めてしまう。  
 "心優しく、律儀で真面目"――――損な性分である。  
 頭を掻いて苦笑した。何を言っても無駄か。ならば俺の出来ることは……  
 
なおも痛々しい自慰を継続しようとするマァムのふっくらとした掌を、丸太のような腕が掴んだ。  
「――――よかろう。俺の前で『本当のわたし』とやらを全部さらけ出してみろ」  
マァムの体がびくっと震えた。何か言おうとした娘の丸い肩に手を置き、力を込める。  
「その代わり、泣くんじゃないぞ」  
 
「ぃっ……あ、あの、クロコダイン……はうっ、ああっ」  
「どうしたマァム、お前は淫猥で愚かなアバズレなのだろう。なら、大人しく悶えていろ」  
 「で、でも……あんっ! ダメッ!」  
 獣王の膝の上で、マァムの白い肢体が戸惑いと快感に挟まれて、もだえている。  
 クロコダインは恥じらって閉めようとする足を強引に開かせ、指先につまんだ魔弾銃でマァムの秘所を舐めるように掻き回した。  
すでに濃厚な蜜で濡れそぼっている桃色の小陰唇の表面を先端でなぞる。敏感な部分を突つくと、その度に分厚い胸板の上で小さな肩が大きく跳ねた。  
「ふぁっ! はんっ、そこダメっっ!」  
 くん、と色素の薄い赤毛が踊って、ふんわりと鼻に良い匂いが香ってくる。柑橘系の香料を使っているのだろう、甘酸っぱい。  
 実はその度に心中、青二才同然に焦ってしまうクロコダインなのだが、そんな内面の動揺はおくびにも出さず、ことさら慣れた風を装ってマァムの首筋に舌を這わせ出した。  
 リザードマンの舌は、長く、太く、高温で、まるでいきり立った性器そっくりだ。唾液でヌルヌルにぬめるそれを、襟首から背中に差し込んだ。  
「ひっ、熱っ」  
 それはマァムに、素肌へと熱く猛った肉棒を押し付けられたのと同じ感覚を与えることになった。  
 なだらかな背すじ。厚めの肩甲骨。塩からい汗が舐め取られ、かわりに大量の唾液でぬめってゆく。脇の下をくすぐり、肋骨をこつこつと舌先でノックする。  
「ふあんっ、あん、な、なにこれ!? きゃんっっ」  
 はじめて味わう異様な感覚に、マァムの体が一際大きく跳ねた。乳房が服の上からでもはっきりわかるほど、激しく上下に震えている。  
 ずるずると舌が絡み付いてこすれる度、皮下の神経に直接触れられているような、鋭い感覚が襲ってくる。しかもその間も蜜壷は、休むことなく太い銃身で弄ばれているのだ。  
 ひくひくと痙攣する入り口が執拗に擦られ、かと思うと尿道を突つかれる。襞の内側まで丹念にいじくり回して恥垢をほじって、じりじりとマァムの女性を真綿で首を絞めるように攻め立てた。  
 体がおかしくなりそうだ。  
「くぅうん、くぅうん、んっ、んっ……」  
 唇をかんで必死で口をつぐむのに、乳をねだる獣の子のような甘い声が漏れ出て止まらない。  
 
 性器と背中を同時にクロコダインに攻められて、しかもいやらしく感じている。マァムの頬は恥かしさで信じられないほど赤面していた。それでも口からは淫猥な湿った声が漏れてしまう。  
 舌が耳の裏を舐めた。  
「ひっ、そ、そこは……」  
 マァムは制止の声を上げたが、舌はそれを無視する。大きな鰐の口の先端にくわえこみ、弾力のある耳たぶをこね回して甘噛みした。  
 これまでになく熱く長い、声にならない吐息が漏れた。子宮そのものが喘いでいるような息だった。  
「だめぇ、は、く、クロコ、はぁ、はぁ、はぅっ! そ、そこ、は、はわぁ、はわぁ〜〜」  
 上ずって変に間延びした、ユーモラスとも言える声で必死に制止するが、クロコダインは無言で耳をしゃぶり続ける。鼻息が熱い。  
 内側の軟骨の襞をこね回して濡らすつばの音が、じゅぶじゅぶといやらしい。身体の内側から攻められているような気分になる。  
 もっとも敏感な性感帯を攻められて、マァムは全身がとろけそうだった。体が自分のものではないかのようだ。熱く反応して悶えている。  
 意思のコントロール下から完全に遊離した肉体に、激しく戸惑いながら、マァムは必死で叫んだ。  
「だめぇっっ!」  
 舌の動きはますます激しく絡みつくし、性器に伸ばされた手は休むことを知らない。奥からぼたぼたと、自慰とは比べ物にならないほど大量の汁が漏れ出ていた。  
 クロコダインの巨躯は獲物を捕らえた獣のように、マァムの熟れかけた若い肢体をくわえ込んで離さない。  
 
 実の所――――  
 クロコダインは冷酷に徹してマァムの制止を無視しているわけではなかった。  
 情けないことにこの時、大して女性経験があるわけでもないクロコダインは大変に焦っていて、マァムの声が全然耳に入っていなかったのだ。うーむ、うーむ、この後、どうすればいいんだろうか。額に脂汗までかいて悩んでいる。  
 そんなこととは露知らず、マァムは困惑と大波のような快感の狭間に挟まれて、ただただ口をつぐむのに必死だった。それでも喉の奥からは動物的な濡れた嬌声が漏れてくる。  
 これでは、自ら行為をねだっているようなものだ。  
 
 恥ずかしさで火照った体は至るところ、リザードマンの粘着質な唾でべとべとに濡れている。布が肌に張り付き、身体のラインが服の上からでもはっきりとわかる。  
 大きく柔らかな胸。肉のつまった尻。きゅっと締まった腰。マァムの体つきは、男なら思わず誰でも振り返ってしまうほど、若々しくかつ豊満で可愛らしい。  
 その豊かな胸元に舌がすべり込んできた。  
「えっ!?」  
 マァムは慌てた。柔らかく膨らんだ自分の胸のことを、マァム自身はなんとなく、恥ずかしく思っていたからだ。  
 いや、「なんとなく」、などというレベルではない。街を歩いていて、すれ違いざまに男の人の視線がちらりとふくらみに向けられたのを感じるだけで、顔から火が出るほど恥ずかしい。  
 その恥ずかしい大きな胸の深い谷間にずるずると入ってきて、激しくくねるのだ。目下で二つのふくらみが一個の生き物のように揺れて、服の皺がめちゃくちゃに波打っている。  
 かぁっ、と顔の温度が急上昇してゆくのがわかる。  
「ちょ、ちょっと待って! そこは恥……」  
 泣きそうになっていた。  
 ざらざらの舌が器用にブラを剥ぎ取って、剥き出しになった乳房に絡みついた。潤ったきめ細かなマァムの素肌は汗ばんでいる上、舌をこすりつけられてビシャビシャに濡れている。  
 数種の分泌物がないまぜになった、異様な臭いがむわりと漂って来る。そのきつい臭いにむせ返りそうになりながら、クロコダインは服の下をまさぐって、胸を犯し続けた。舌のざらついた部分で乳頭を激しくこする。  
「ふゅぇっ、恥ずかし、いじらないで、そんなと、きゅっ!」  
 すでに固く張っていた乳首が、愛撫に鋭敏に反応して、更に固く尖ってゆく。痛いくらいに勃起した乳首を、舌先で掴んで大きく上下に振ると、つられて乳房が根元からゆさゆさと震えた。  
「やだっ。やめて、おもちゃじゃないんだから」  
「大きな、」舌で胸を弄びながら、器用につぶやく。独り言である。「なんと大きな」  
「そ……そんなこと、ないっ、ふあぁっ」  
「そういえば人間の女の胸は揉まれるほど育つと聞いたが……」これも独り言である。  
「ばか……ばかっ」  
「うむ……どうも、よほど一人遊びをしていたらしいな、マァムは」  
「そんなにしてないわよっ」  
 
 マァムはあまりの恥ずかしさに卒倒してしまいそうだった。だが、クロコダインの言葉はあくまで独り言であり、やはりマァムの声は聞こえていない。  
 繰り返すが、本人はいま必死で、自分の持てる貧弱な経験と聞きかじりの知識とイマジネーションを総動員して、淫技と格闘しているのである。悪気はない。  
 腰を掴んでいた両手を、ゆっくりと、恥じらいと官能にくねる腹を撫でながら這い上がらせ、胸の上に添えた。  
 ふくらみを鷲づかみにした。  
「……ぁっっ!」マァムが短く、高く、鳴いた。  
 上等のパイ生地のようにやわらかな乳房が絞り上げられ、指と指の間から余った肉がはみ出す。  
 それはクロコダインの剛力からすれば、少しつまんだ程度だった。が、今手の中にあるのは、鍛え上げられているとはいえ、まぎれもない少女の身体である。クロコダインの大きな手の「つまみ上げる」は、少女の乳房にとって鷲づかみに等しい。  
 胸を絞られる鈍痛とも快味ともつかないつよい感覚が貫き、身体が反り返る。  
 クロコダインは手の中に含んだ乳房を押し潰して、服の上から掻き回しはじめた。  
 掌で上から押しつぶし、円を描いてこね回す。服の上からでも勃起しているとわかる乳首をつまんで、指の腹でころころと転がす。  
 かと思うと、服が破けそうになるくらい、もみくちゃに揉みしだいたりする。もちろん舌はふくよかな谷間で荒れ狂ったままだ。  
 布一枚を挟んで内と外の両方から、自分の恥かしいと思っているふくらみを攻め立てられ、頬どころか首筋まで真っ赤になっている。  
 すらりとしたうなじを桜色に染めて、自分の血管の音が聞こえてくるほど身を強ばらせて恥じ入っている。  
そうだというのに、口から漏れるのは、  
「んっ、ばか、ばっはぁ、ばかぁつ、恥……んくぁっ」  
 これじゃ悦んでいるみたいじゃない。目をぎゅっと瞑って、口をどんなに必死でつぐんでも、喉の奥から甘ったるい声が沸いてきて止められない。  
 こんなに恥かしいのに。わたし、どうしてこんな……  
 もしかしたら、きつく攻められるのが好きなのかもしれない。だから気持ちい  
 慌てて打ち消した。まさかそんな。  
 
 とはいえ……  
 不思議なことに、半分無理やり犯されているというのに、感じて然るべき嫌悪感や屈辱がマァムには皆無なのである。  
 
 なぜだろう。  
 翻ってみるとこうなってしまったのは、自分が自棄になってしまったからだ。だからクロコダインを恨むのは筋違い――――自業自得だからか? だから彼への嫌悪を湧かせることが出来ないのだろうか。  
 ――――どうもそれとは、違うようだった。なぜならマァムには、「過ちを犯してしまった」という後悔の念も、それほど湧かないのだ。なぜだろう。  
(もしかしたら、わたしはほんとに淫乱なのかもしれない。わたしくらいの歳でオナニーしてるのも、やっぱり、早すぎるような気もするし)  
 奇しくもそれは、あの森で自分を慰めていた時に頭をよぎったのと同じ考え。しかし、決定的に違うのは、彼女はこのことを今は、  
(なんだか可笑しい)  
 そんな風に、思えてしまっている。  
 ただ、一つ。どれだけ堪えてももれ出てしまう喘ぎ声だけが、圧倒的に恥ずかしい。それに胸を攻められるのもだ。男の人はじろじろ見るけど、これって結構コンプレックスなのよ?  
 なのにクロコダインは、舐めるわ、しぼるわ、つぶすわ、好き放題にやってくれる。  
 それに、こんなにべとべとにして。  
 戻ったら、皆になんて説明するつもりなのよ。  
 もう。  
 なんだかだんだん腹が立ってきた。  
 喘ぎ声を上げながらマァムはクロコダインの腕の中でふいに、くるりと体の前後を入れ替えた。  
 傷めた足に激痛が走る。が、これはこれでいい気付けだ。マァムはクロコダインと向き合う格好になるとひとつ、深呼吸。丸太のような腕と胸板の狭間から、よっこらしょと自分の腕を引き抜き、  
 
 
     ばちぃぃぃぃーーーんっ  
 
 
「胸は『恥かしい』って言ってるでしょ!」  
 威勢のいい声が森中にこだました。  
 ぽかん、とした顔でクロコダインは張り飛ばされた鼻先を抑え、しばらく呆然としていた。  
 が、やがて、  
「いやぁぁぁ、すまん、すまん!! 聞こえなかった!!!」  
 呵呵大笑した。  
 耳元での馬鹿でかい笑い声に、思わず耳で栓をするマァム。  
「本当だぞ? 本当に気がつかなかった!! うはははは……」  
 
幸い、西日はまだ明るかった。  
 膝の上からマァムを降ろしてクロコダインは、捻った足の処置を手早く済ませ、「体を洗うといい」と手ぬぐいを渡してマァムを小川に連れて行き、自分も体にへばりついた体液を拭い始めたが、その間も休むことなくずっとげらげら笑っている。  
「もう、何がそんなにおかしいのよ!」  
「わは、わはははは、いやなに、マァムは、わはは、そうか、胸は嫌か。立派なのにな」  
「だから、胸のことは言わないでよ! ほんっと、クロコダインはオトナだと思ってたのに、結局ポップと同じレベルなんだから!」  
つんけんして言い放つ。  
「いや、すまんすまん。まぁ、元気になってよかったよ」  
「……え?」  
マァムはクロコダインの方を振り返った。クロコダインは、枝をいくつかへし折って作った、即席の衝立ての向こうで体を洗っている。そっと覗いてみた。  
こうしてみるクロコダインの背中は、とても大きく、広い。  
「お前たちアバンの使徒はみんな若いくせに、しっかりしようとし過ぎてどうも無理をするからな。しかし、時には素直に弱音を吐いた方がいい。誰もそのことを迷惑だなんて思うような奴はいないし、もし俺でよければ、いつでも付き合うぞ」  
 あ……  
わかった。どうして嫌悪感が沸かなかったのか。  
甘えさせてくれていたのだ、わたしを。だから……  
 
「まぁ、なんだその……出来れば今日のような、こっ恥ずかしいやり方でない方が、俺もやり易いが」  
「ノリノリだったくせに」  
「あの、な。これでも魔王軍の中では品行方正で知られていたんだぞ。自慢じゃないが、本当はあんなことは大嫌いなんだ」  
 言い訳するように、困った手つきで額を掻いている。なんだかかわいい。  
「痛つっ……」  
ふいにクロコダインが小さくうめいた。うっかりマァムに殴られたところを触ってしまったのだ。  
「どうしたの?」  
「いやなに、何でもない。少しな」  
「今行くから!」  
「なに? ちょ、ちょっと待て!」  
 なんだか嫌な予感がする。クロコダインは咄嗟にその場から逃げようとした。が、遅かった。  
 枝の衝立てが騒々しく喚いたと同時に、背中にふんわりと寄りかかってくる、妙にあたたかな物体。  
「ごめんね、まだ足が上手く動かないから……」  
 そう言いながらクロコダインの胴伝いに、その良い匂いのする物体は背中から前へとやって来る。  
「頭? そこってわたしがやっちゃった所よねぇ。痛む? 見せて」  
丸みを帯びた白い影が、沈みゆく暗い太陽光の中で、何か精霊のようにぼんやりと輝いてこちらを見上げている。  
 困った。  
「あのなぁ、マァム。お前、子供じゃあるまいし、よく考えてから行動を」  
悪戯っぽく笑って、「あら、わたしまだ子供よ、お父さん?」……この娘、確信犯だ。  
 
「やだ、痣(あざ)になってる……わたしって、そんなに筋肉ムキムキかしら?」  
 いやだわ、と形の良い太めの眉を曲げる。  
「筋力、というよりも瞬発力、つまりバネがあるんだろう。そういえば、マァムの父上のロカ殿は、戦士だったな。瞬発力は天性のもので、筋肉と違って努力でどうこうなるものではないんだぞ。うらやましい授かりものだ。転職でもするか? 戦士に」  
「戦士って、体から洗っていない胴着の臭いがする職業でしょ? 趣味じゃないわ」  
ひどい偏見である。  
「でもそうね、転職か……」  
 何か感じるところでもあったのか、シカの類を思わせる大きな目をパチクリと瞬かせた。そして、川原の岩の上に仰向けになったクロコダインの腹に跨ると、巨大な逸物を手に握った。  
マァムは屹立した逸物に向き合うように跨ったので、クロコダインからは大きな尻がよく見える。  
……どうしてこんなことになっているのだ?  
「だって、わたしの魔法じゃ怪我の治療は出来ないんだもの。仕方ないじゃない? 知ってるわ、こうするんでしょ?」  
握った手を動かし始めた。ごしごしとしごかれると、腰にむず痒いような感覚が走って、思わずうめき声が漏れて肛門が締まる。  
「何が仕方ないという、何が。それにこの程度の怪我ならホイミでもだな」  
「いいから、ね」  
「よくはない。お前な、もっと自分を大切にし……」  
「お願い、今はそう言わないで」  
 燐、とした潤んだ声。  
逆光を浴びて影になった小さな肩の向こう、懇願するような目に、クロコダインは言葉を呑み込んだ。  
「わたしとてもうれしかったのよ、今日のこと。だから……ごめんなさい、お礼をしたくても、こんなやり方しか思い付かなくて。やっぱり、迷惑?」  
「そういうわけではないが……」  
「よかった」  
初めて男根に触れるマァムの手つきはとてもぎこちないもので、経験が少ないとは言え、一応はその道のプロとの交尾の味も知っているクロコダインには、すべてがもどかしい。  
「男の人のってこんなに……ねえ、気持ちいいの? そうなんでしょ、ふふふ」余裕ぶった攻めの口調とはうらはらに、己の幼さを自ら露呈しているような、完全な生娘の手つきである。  
俺はさっきだって、どんなに滅茶苦茶になっても、逸物にだけは毛ほども肌に触れさせなかったと言うのに。  
 
絡み付いたマァムの指がへたくそに棹を刺激する度、どんどん罪悪感が積もって行く。  
だがそんなクロコダインの意に反し、生娘の手を汚している背徳感がつもるのに比例して、赤黒い逸物の方は脈打ち、固く反り返っていく。先端はカウパー氏腺液でぬるぬるだ。  
 それでもかまわずこするので、マァムの手は、見る間に男から絞り出された透明な分泌物で覆われていった。  
手を休めて顔の前で開くと、指と指の間に透明の糸がねっとりと光っている。  
「やだ、べとべと。ね、これって感じてるってこと?」  
マァムらしからぬ、とろんととろけた挑戦的な視線が、揺れる髪の向こうから見下ろしている。ピンク色の舌をちろりと出して、手についた汁をちろちろと舐めた。  
お前はどこの化け猫なのだ。  
「感じているだ? どうということはないな。十年早い」  
 と、それまで泥棒猫の光を放っていた瞳がいきなり、不安げに暗くなった。  
「お、おいマァム?」  
「嘘。だってこんなにビクビクしてるのに……ごめんなさい、慣れなくて」  
 クロコダインの虚勢を真に受けてものすごく落ち込んでいる。いやいや、一六歳で慣れていた方がアレだろう。アレだ、アレ……なんと言ったかな。そう、「親不孝」。  
そんなことを考えている間にも、マァムの表情はくるくると目まぐるしく変わる。  
「じゃあ、もっと頑張るから」  
自分の頬を叩くと一転、ものすごいやる気の顔になって、残っていたもう片方の手も添え、両手でさらに激しく動かした。  
「うおっ!?」  
「気持ちいい? よかった。もっと頑張るからね」  
 頬に可愛らしいえくぼを作って最高の笑顔を浮かべ、人間の成人男性より二周りは大きな肉棒を擦り続ける。心優しく律義で真面目、とにかくなにごとにも一生懸命だ。  
「あの、な、なんだ。うぬっ……あまり飛ばし過ぎるな。ぐぁっ」  
「だめ。わたしを不安にさせたお仕置き」  
そのくせ調子に乗ると、こんな、人の不幸にじゃれつく悪魔のような表情も見せる。年頃の娘だった。  
戦闘時に杖を持つのと同じ指でかり首を握り締め、傷ついた仲間に薬草を塗るのと同じ爪で玉袋を甘く引っかく。  
 クロコダインの男性性はつたない小娘の手に攻められる度に、信じられないほど反応した。骨盤の奥の方に熱く、もやもやしたものがどんどん溜まっていく。実に不本意である。  
 
痣のできた額が痛んだ。そういえば、これがマァムの口実だった。  
「だいたいだなぁ、こんなもの、わざわざ治療などしなくても、舐めておけば勝手に治るんだがなぁ」  
「もう、まだそんなこと言っている……いいわ、じゃ、舐めてあげる」  
クロコダインはほっとした。当然、痣のことだと思ったからだ。まだこちらの方がマシだ。  
 ちゅむ。  
マァムの柔らかな唇の感触を受けたのは、ペニスの先端である。  
呆れた。  
抗議する気力も失せる。  
「もういい」  
むすっと投げやりに言い放って、横を向いてしまった。  
ふふふ、と子供の癇癪を笑う母親のと同じ笑い声が耳をくすぐる。やれやれ、お子様扱いだ。  
「そうそう、大人しく観念しなさい。すぅー(と深呼吸をして)……はむっ」  
そして、いきなり口の中に全部ほおばってしまった。  
熱い、というよりも、マァムの口の中はぬめぬめしていて温かい。熱した泥濘の中にすっぽりと身を埋めたような気分だ。  
人間のものより太く固く長大なペニスを、顎が痛くなるまで開いた口一杯に頬張ったマァムの、息苦しい吐息が途切れ途切れに聞こえてくる。温かい。  
が、その後、そのまま静止して動かない。  
「ふむ、ふみゃあ、ふにゃ」  
おそらく口でしごこうにも、リザードマンのペニスのあまりの大きさのために、くわえ込むだけで精一杯なのだろう。性器の下敷きにされた舌が、どうしていいのかわからない、というようにおろおろしている。ついに吐き出した。  
「ぷはっ。けほっ、けほっ、やだ、思ったよりずっと大きっ」  
「ふふん、おいおいどうした。威勢がよかったわりにその程度か?」  
「む、まだまだ。見てなさいよ、すぐにひぃひぃ言わせてやるんだから」  
そういうと腹の上から降りた。どうするつもりなのか、と上半身を起こすと、マァムはクロコダインの股間に顔をうずめるようにぺたんと四つんばいになっている。  
すっ、と股間に埋まっていた顔がこっちを見上げた。  
上からだと彼女の深い胸とその谷間がよく見える。  
彼女の乳房は大きいながらも、垂れることなく綺麗に張った椀型で、ピンク色の乳輪の大きさは控えめだが、つんと尖った乳首は心持ち高く、太めで、いやらしい形をしている。おそらくこんな状況でなくても誘っているように見えることだろう。  
「あの……あんまりじっと見ないでね」  
 
 胸を凝視するクロコダインの視線に全身を桃色に火照らせながら、マァムは脇に手をやって、そっと両方の乳房を下から持ち上げた。胸の脂肪分がぷるんとゼリーのように敏感に形を変える。  
そして持ち上げた自分の胸を、目の前の屹立する陽根に押し付けた。  
自分のモノが、その深い谷間にうずもれてゆく。なんという感覚だろう、質量のある絹衣に包まれたかのような、吸い付くような肌触り。  
「だから、じっと見ないでって!」  
あれだけ指摘されるのを嫌がっていた胸を使って、男の反応に応えようとしている。  
「だって、ちゃんと気持ちよくなって欲しいんだもの……イきそうだったら、いつでも、あの、出していいから」  
 目を伏せて一瞬、泣きそうな表情を見せた。胸を両手できゅっときつく締めて、自ら動かし始めた。最高級の絹の肌触りをした二つの球体は、柔らかに形を変えてぴったりとペニスに吸い付き、全体を余すところなく刺激する。  
 乳房の圧力で刺激を加え続けながら、先ほどと同じように、谷間からにゅるっと飛び出した先端を口に含んだ。  
「ふむっ……じゅぷっ、じゅぷっ……くぅ」  
「……ったく、どこでこんなことを覚えて来たんだか」  
 心地よい。  
 なんという温かさだ。動かされる口の中は海洋生物の巣のように生々しい。ざらざらした舌が這い回って、かりと裏スジが交差する亀頭の付け根を執拗に刺激する。マァムの湿った鼻息がモノの付け根に吹き付けて熱い。  
なによりも胸の感覚に身を震わされた。  
ここにはマァムの生命を直接押し付けられたような、熱がある。動かされる度にペニスの芯をオレンジ色の快感が走った。膣内のようにきつく締め上げ、うねるくせに、与えられる感覚はみょうに素朴で品がいい。  
そのくせ肌は桃色に上気していて、とてつもなくエロティックだ。唾液と汗とカウパーの混合液でベトベトにてかっている。  
あまりの熱に牙をむき出しにして食いしばって耐えるが、とても余裕な風など装えない。鼻息は荒くなり、口の端から唾が垂れる。  
「ぐぅっ、ふっ」  
「じゅむ……ふぅんっ、じゅ、じゅ……じゅる、ぷはぁ。はぁっ、ふむっ。ぴちゃぴちゃぴちゃ……ん、んんぅぅ」  
 
もはや言葉を交わす余裕はなく、その場を支配しているのは、響き渡る呼吸だけだった。  
クロコダインが吐く荒い息と、マァムの甘い吐息が、春のふんわりとした透明な空気を淫靡な色に染め上げる。  
マァムが動くたび、もはや何と何が混ざり合ったのかしれない分泌液が、ぴったりと密着したペニスと乳房の隙間でじゅぶじゅぶと泡立つ。  
マァムはその泡をもっともっと泡立てようとしているように、さらに激しく胸を捏ね上げる。そしてその動作の都度に、クロコダインの硬質な表皮と勃起した乳首がこすれ、仔犬の鳴き声のような嬌声が上がった。  
「じゅ、じゅ……ん、んぅ、ふむっ、ぺちゃぺちゃ……ふあんっ!」  
偶然? 違う。己の男が手が付けられないくらい熱く沸騰しているのと同じように、この娘の肉体もまた、昂ぶっているのだ。ざらついた表皮が「たまたま」当たるのにかこつけて、自分から乳首をこすっている。  
自分ではバレないように密かにしているつもりなのだろうが、こちらからすれば丸分かりだ。ちろちろと乳首が肌に当たる感覚。それだけで、もっと、もっとと快味を求める衝動に翻弄されているマァムが鋭敏に伝わってくる。  
そう急くな。今お前もよくしてやる。  
 
「ぐっ、ふぅ……少し、立つ」  
 そういうと、咥えさせたままマァムの身体に覆いかぶさるように中腰になった。手を伸ばし、いきなりすぼんだお尻の穴に小指をずぶりと刺し込んだ。  
「ふぁっ!」  
 甲高い悲鳴が上がった。かまわずもう片方の手を前に伸ばし、ぼたぼたに濡れた燃えるような花びらをまさぐった。  
「きゃああぁっ。だ、だめそこは……」  
ごそごそと探りまわる。あった。小さいくせに、生の小豆のように固く勃起したクリトリス。  
探し当てたそれを剥き、親指の腹で擦りあげる。  
「ひゃあっ、はっ、ばかっ、ああっ!!」  
「どうかしたのか? 手が休んでいるようだが?」  
「だってそこは……」  
「ほぉ。じゃあ、やめていいんだな?」  
クロコダインの巨躯の天蓋の下で、マァムの唇が当然よといいかけた。が、その言葉は直前で呑み込まれ、代わりに出たのは  
「……して」  
切なげな、小さな懇願。  
 喉の奥からかすれた喘ぎ声を発しながら、尿道にキスをして、  
「お願い、わたしの……あそこと、お。お尻……乱暴に掻き回して」  
 棹に唇の緊張が伝わってくる。  
「イかせて……下さい………………これでいい?」  
 クロコダインは返答の代わりに、長い鼻先を頭のてっぺんにこすりつけてやった。彼女もまた頭をすり寄せた。すりすり、と膝の上の子どものように。  
少し癖があるが、しなやかで柔らかい髪。  
「それにしても……」  
「なぁに?」  
「もしかしてマァム、本当に淫乱なんじゃないのか?」  
「ばか」  
 そしてアナルを本格的に攻め始めた。  
「ふはっ、んあんっ、ヤ、ィヤッ」  
 大きな尻の奥に隠されたマァムのアナルは、指の動きに反応して敏感に収縮するので、なかなか弄りがいがある。軽く指を曲げただけでも、いちいち律儀にぴくぴくと痙攣するのが結構楽しい。これと連動して、クリトリスを同時に責めると、なおのこと反応は激しかった。  
腰全体がおかしくなりそうな刺激からのがれようと後ろに逃げてゆく。だが、逃がさない。さらに激しく、時折に緩やかに、緩急おりまぜながら徐々に速度を上げてゆく。じゅぶじゅぶと穴を掻き乱すいやらしい音は途切れることがない。  
 
 膣は、入り口をなぞる程度にしておいた。なぜなら、うっかり処女膜をやぶっては可哀そうだ。  
「はふっ、ふあ、ん、ん、じゅるじゅる……ちゅうちゅうちゅう……ふはぁっ、イイっ」  
 指の動きに呼応して、ペニスへの刺激も高まって行った。初めはぎこちなかった手つきも、少しづつ慣れてきたらしく、胸と口をリズミカルに連動させて激しくしごく。  
 これが、下半身がおかしくなりそうなほど気持ちいい。快感がうねりになって襲ってくる。いつしか自ら腰を動かして求めていた。腰の動きが止まらない。  
 もっと速く、速く、速く。その要求に応えて、肉棒への刺激のリズムは加速度的に激しく、豊かなものに成長してゆく。もはや淫猥な天使による天上の音楽と呼んでも差支えがない。  
ペニスが胸の中で弾けそうに狂っていた。  
「はっ、はっ、はっ、」  
「はっ、ふぁっ、ちゅう、ち、あっ、あんっ、ああ!!」  
 熱が高まる。  
 肉と肉、彼と我の境目がどんどん希薄になり、消えうせて、ただ雄と雌の快感の炎だけが顕わに、確かになってゆく。もう日は沈んで暗闇が周囲を覆っていたが、汗と体液にまみれた体の中でとろけて行く塊がはっきりと見える。  
 悶えて泣くマァムの涙が熱い。口の端から精子が垂れる。これまでにもう何度か、こらえきれずに口の中で少しだけ出していた。マァムも何度も軽くイっている。  
 このあたりでもう限界だった。  
 だらしなく拡張されたアナルにもう一本指を突っ込み、前の方も、剥き出しになった陰核とともに尿道も刺激し出す。獣のような嬌声を上げて、胸の下の柔らかな体がびんびんと跳ね、ペニスへの攻撃がおかしいくらいに強烈になってゆく。  
 
 亀頭を吸い上げ、裏スジを糸切り歯でつつき、喉まで使ってほとんどえづきながら扱きたてる。乳房を揉みしだいて乳首を自分の指先で捻って潰し、貪欲にたかぶりを貪りながら、ほとんど求道者のように悦楽の境地へと駆け昇ってゆく。  
「ね、ねえっ、ちゃんと気持ひいい? わ、はんっ、わらしだけじゃ、んああっ、なくて、ひゃ、ひゃんとイきそうっ? ふぁんっあんっはんっ!」  
 激しくしゃぶりながら覚束ない口調でそんなことを問うた。  
 こんな状態になってまだ人のことを考えている。  
 もう言葉も出せないクロコダインは、再び鼻先を頭に押し付けてそうだと答えた。  
「い、いっひょにいきましょ、ね、おねが、あんはっ、お願いっ、んっんんんっっ」  
 言い終わらぬ内に、マァムはもう自ら腰を激しく振り出していた。  
口内のペニスもまた意志するまでもなく勝手に動き、生き急ぐように射精の開放を求めている。  
速い、速い、熱い、濡れた、薄暗い、欲情の火に焼かれ、身を焦がし、  
口腔は熱く、乳房は柔らかく、互いに、体の、魂の一番敏感なところをまさぐられ、  
融けている。性器と性器で結合したわけでもないのに。  
体が、肉が、  
「ふあっ、ふあああっ、ちょ、も、もうらめ、らめっ、らめっ!! イ、イっちゃ、ちゃうぅぅ!!」  
「ちっ、くっ、うおおお!!」  
もはや快感ではなく、純粋な炎と呼ぶべきものが身を走る。瞬間、肉体と肉体の狭間で真っ白い火花が散った。  
びゅるっ!! びゅるっ!! びゅるっ!!  
すさまじい量の白濁がマァムの喉に叩きつけられた。その勢いのショックで腰がびくびくと痙攣し、股間から勢いよく黄金水が噴きだした。  
漏れる小水を止めることも出来ず、口の中で跳ね上がるペニスが吐き出す数億の精子を飲むことも吐くことも出来ず、マァムはただただ体を駆け抜ける快楽に放心して、すべてを受け止めていた。  
「はぁ……はぁ……はぁ……うぷっ」  
睾丸が痛くなるまですべて搾り取られ、ペニスはようやく口から引き抜かれた。これほど発射したというのに、手でしごくとまだ精子が出てくる。  
残った最後の精液が額にかけられ、放心したマァムの鼻筋にそってどろりと垂れてゆく。  
 
 ……やってしまった。  
 ことがすべて終わった後、クロコダインの胸中はろくでもないことをしたという後悔でいっぱいだった。  
いや、事後の後悔は承知ではじめたことだ。それは言うまい。酒でも呑んで、忘れてしまえ。  
マァムには「今日のことは秘密にしてね」と口止めされているが、そんなことは言われるまでもない。さっさと酒だ酒だ酒だ。今夜は大いに呑もう。  
 まだまだ遠い城の方からは、がやがやと騒々しいざわめきが聞こえてくる。もう宴は始まっているらしい。  
マァムは今は背に負われてすぅすぅと寝息を立てている。  
「わたし、決めたわ。転職する。何になるかはまだ決めていないけど……」  
目を閉じる寸前にそんなことを言っていた。なにか、吹っ切れたような目をしていた。  
俺の力添えで、マァムが再び己の道を見出せたのなら、まぁ良しとするか。  
それにしても、とクロコダインは思うのだ。  
この娘、大丈夫なのだろうか。  
アバンの使徒だけあって、同じ年頃の娘とは比較にならないほど、気力もある。度胸もある。しかし、優しすぎるのがどうにも気にかかる。  
なにも、「優しすぎて戦いには向かない」などと言うつもりはない。マァムならば優しさが強さの妨げになるようなことはないだろう。問題は……むしろ、戦争以外のことだ。  
気が強く見えても、結局この娘は「まもってあげたい」願望の塊だから、だれかれかまわず親切を大盤振る舞いした挙句、最後にはどうしようもないダメ男とくっつくんじゃないか、とか、  
今の真面目さの反動で近いうちに物凄くグレてしまうんじゃないか、とか、そういうことなのだ。心配なのは。  
ドォォォン……宴の花火が上がった。  
その音にはっと我に帰るクロコダイン。  
いつのまにか親父のようなことを考えている自分に気がつき、苦笑した。  
 (娘……か)  
 ふと立ち止まって、空を見上げた。  
 見計らったようなタイミングで、また花火が上がった。夜空いっぱいに色とりどりの光が散って、城へと続く森の道をあかるく照らす。  
 気の早いことかもしれないが、この戦いが終わったら、家族を作るのもいいかもしれん。  
 そんなことをぼんやりと考えながら、クロコダインは帰路を急ぐ。  
 
 
                               (お終い)  
 

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