ここはマァムの意識の中。
「……今度は…おまえの身体を貰い受ける」
「よくもポップを……老師をっ!
殺しておいてよくもっ!私を使って何がしたいというの!」
「思い上がるな! 貴様は繋ぎでしかない…ヒュンケルを我が物にするためのな」
「ヒュンケルをっ…彼は強い人だわ!あなたなんかには負けない」
「フハハッ…負けない…か。簡単な事なのだ…魂を砕くというのは…ほらこの様に…」
光の玉のように見えるもの、即ちマァムの魂を握り、軽く力を込めた。心をズタズタにされた様な感覚が走り…マァムの顔が苦悶に歪む。
「ぐっ、あぁ…」
「…簡単なことなのだよ。お喋りが過ぎたな…一思いに魂を打ち砕いてくれよう」
ミストは徐々に、しかし確実に力を加えていく。
「わ…わたしが消えたとしても…ヒュンケルは…先生は負けないっ!
ヒュ…ヒュンケルは光にあっても闇にあっても…己の鍛錬を忘れずひたむきに努力している素晴らしい人だわ…
なにが…あってもあなたのような…なんのっ…努力もしない寄生虫なんかには負けないっ…」
「侮辱は許さんぞ…わたしはその手の侮辱が 一番嫌いだ!」
「…く…あああっ!本当のことじゃない…自身を鍛えれないから他人に依存する。ミスト…あなたは可哀想な人よ」
「クウゥ…こんな小娘に同情されるとはな…」
「フム、気が変わった。お前の魂…今しばらく生かしてやる」
「!?」
「魂を残してやるといったのだ。体は動かんが意識はあるだろうな」
「そしておまえの身体を使いアバンを殺してやろう。
フハハッ…師を超えられるのだ弟子冥利に尽きるというものだろう」
「ぐっ…ミスト…あなたって人はっ!」
「アバンを殺した後、私はヒュンケルの体へと移る。
パーティは全滅だ。だがマァム、貴様を殺すのは最期にしておいてやろう。
おまえが信頼するヒュンケルの体から…師を殺めたショックで打ちひしがれるおまえを眺める…
この体を馬鹿にしたお前に対する制裁としては最高だろう?
その時おまえがどのような顔をするか…楽しみだ」
「では…おまえの魂を掌握するとしよう。だが…簡単にというのも私の気が治まらん……
快楽に溺れ、しばし魂を見失ってもらうというのも面白い。」
「それほどまでにおまえは私を怒らせたのだからなっ!」
ここは大魔宮(バーンパレス)内部、白い宮庭(ホワイトガーデン)
マァムの体はミストに捕らえられてた。
「マァムさんっ!」チウが叫ぶ。
その時、マァムの意識が感覚が突如として戻った。
「ん、ううぅん……!!!」
(あれ…どうして…!そうだ先生っ)
先ほどのミストの言葉を思い出し、慌てて仲間達の様子を確認する。
アバン、クロコダイン、チウ、ヒム、ラーハルト、そしてヒュンケル…
「ふぅ」
全員の無事を確認でき、マァムはひとまず安堵のため息を漏らす。
マァムはそこである妙な事に気付いた。捕獲されて意識が飛んでから殆ど時間が立っていなかったのだ
(どうして…)
(『どうして時間が経っていないの?』かな?…フフフ)
自分の思考に重なるようにして、ミストの声が脳裏に響いた。
「フフ、不思議か…覚醒する瞬間脳裏に焼きつく幻『夢』…それと同じ事よ…
我らは一つとなり同じ夢を見ていたと考えてもらって結構…
おまえには永久の時に感じるとも…だが実際は刹那の時間なのだっ」
マァムにとってミストの話などどうでも良かった。
今、彼女にとって重要な事は、味方に被害がでていない事を確認できたこと。
マァムは次のアクションをおこした。マァムは腕に力を入れ渾身の力を持ってしてミストの呪縛を振り解こうとした。
だがそれを上回る力で締め付け返され、マァムの顔は思わず苦痛に歪んでしまう。今の状態では自力の脱出は不可能であるようだ。
だがそれも予測の範囲内、マァムの本当の意図は「自分の体がどのていど動くのか」だった。
締め付け返されたたということはマァムが加えた力に対してミストが抗ったということ。
体に自由が戻っている確証を得たマァムの策―喋る―単純だがこの状況では効果的だろう。
マァムはミストの企みを知っている。それを仲間に知らせる事ができれば…
マァムの心の色は愛、慈愛の使徒。
彼女は自らの危機より、仲間の危機を知らせる事を優先し叫んだ!
「先生っ!…ヒュンケルを…彼を安全なところへっ!!!」
叫んだ!…叫んだはずだった。しかし彼女の口から出た言葉は
「…くっ…あああっ」
細く苦しげな嗚咽だけ、言葉にすら成ってはいなかった。
見ると、ミストの体から延びた触手がマァムの喉元にスルスルと吸い込まれていた。
マァムは五感の掌握に夢中になる余り、ミストの動向を見逃していたのだった。
「声帯を支配した 全く…余計な事をしてもらっては困るな…興がそげる」
「おまえの意識の中で片をつけるつもりだったが…ささいな事で計算が狂った。まったく…呆れたものだよ。…性の経験値…ゼロ…とは…フフフ…」
かああっ。マァムは図星をさされて顔を赤らめた
「私も相手が解らぬもの幻を見せてやる事は出来ん…だから…まずは精神ではなくおまえの肉体に植え付けてやろうというのだ…魔界の快楽というものを…なっ!」
ミストの体から複数の触手が放たれた、その中の一本がマァムの下半身へと伸びる。
「いやっ…何してんのよ」
それは下着などまるで無いかのようにすり抜け、マァムの秘所へと一気に挿入された。
「入ってっ…こないでっ…んっ…あぁぁぁぁぁっ……ん…えっ?」
生娘が前戯も無く突っ込まれたのだ、想像を絶する痛みであろう…が
マァム本人の予想にも反して、痛みは僅かなものだった。
「なんで?…こんなものなの…」
「疑問に思っているようだな。私は暗黒闘気の集合体。ミスト…霧…霧に触れたところで感触などあるわけあるまい…だが…」
ミストはマァムの膣内にどんどんと霧状の黒い触手を送り込む。
やがて黒い霧がマァムの膣内に行き渡った時霧の供給が止んだ。
「これが魔界の快楽?たいしたことないじゃないっ…これなら耐えてみせる!」
破瓜の痛みが思ったほどでなかったからだろう、恐怖を打ち払うかのようにマァムは強気に挑発した。
「フム…頃合か…生意気な口を聞いた罰だ。今度こそ破瓜の痛み…ぞんぶんに味わうがいい」
ミストの一言をキッカケにマァムの中の「霧」が一斉に硬質化した
「ひいぃ…ひっぎゃあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!」
マァムは凄まじい悲鳴を上げた。何しろ勢いよく貫かれるなどの非では無い。
全くの同時に巨大な異物がマァムの膣内に出現したのだ。
「痛いいっ…ひだいのぉぉぉぉ…痛あぁ…抜けえぇ!抜っけえぇ!…」
「生意気な口を聞くからこうなるのだ…もう少し可愛げのある態度を取らないと
…やりすぎて殺してしまうかもしれんぞフハハっ…」
マァムは血の気が引いた、それほどまでにこの痛みは衝撃的だった
「ご…ごめんなさいっ…イタ…痛いの…っんです。お願いっ…抜いて…くださいっ」
屈辱だった。しかし膣が破裂してしまいそうなほどの激痛。なりふり構っていられなかった
「フフ…大人しくしていろ…さすればその痛みを無くし、史上の快楽を与えてやろう
私の目的はおまえに性の悦びを教え、よがり狂う様を見ることなのだからな
もっとも…今のおまえの叫び声…なかなかに楽しませてくるっ…フフフ…フハハっ」
ミストが触手を再び霧へと戻した時、白い宮殿は鮮血で朱く染まった
次の段階へと歩を進めた。ミストは自らを無数の触手とした、先端がマァムの至る所へとに吸い込まれてゆく
「さて…これでお前と私の触覚は繋がった…つまり痛覚…痛みを共有する事となった」
―ミストは痛覚が存在しない―
この形態を取らないと性行為を行ってもミスト自身、性感を得られないのだ。
そして、この形態にはもう一つの意味がある。
「マァムよ…お前のその痛み…私が代わってやろう…」
―相手の痛覚を引き受ける―
マァムの痛みをミストが受けることによって、マァムには得られる快感のみを与える事ができるというわけだ。
たとえ相手が生娘であっても幼子であっても変わりない快楽を与える事が可能なのである。
「次は…触手だな…おまえを一人前の女にしてくれるものだ…」
ミストはマァムの挿入用の触手の性質を作り変えていた。
霧が硬質化するところまでは一緒だが、触手表面が粘液上のものへと変化
無論、暗黒闘気で構成されており、正義の使徒が相手ならば媚薬の役目も果たす
先ほどまでの触手が張子であったとするならば、こちらはまさに波打つ男性器であろう。
その艶めかしい触感にマァムは驚きの声をあげた
「私がもたらす…魔界の快楽には…前戯など不用…」
蛇のようにくねりながら触手はマァムの秘所へと入り込む
「なっ…さっきと同じじゃっ…ちょっ…っ…駄目えっ…あぅ…んふぅ…」
ミストの言うとおり痛みは無い、それどころか知れぬ異物感に思わず声が漏れてしまう
「グウウゥ――!」
叫び声をあげたのはミストのほうであった。
「ミ…ミストっ?」
マァムの痛みはミストの方へと流れていたのだ。
「フフ…痛いものだな…強姦される生娘が経験する痛みというものは…」
そう呟くと、マァムに突き刺さした触手を躍動させ始める
「んん…あなた…いま…なんてっ…」
「グッ…言葉の通りだ…おまえの痛みは私のものなのだ…」
「そんなっ…なんでっ…んあっ」
「グウゥ――ッ…どうでもいいではないか…つらいことは全部私がかわってやろうというのだ」
「おうっ…そんなことっ…頼んで…頼んでっ…無…ぃ…」
「――グッ…あのような痛い思いはしたくあるまい…それとも…もう一度味わうか?…フッ」
「んふっ…あれはいや…いやぁ…」
「フフッ…―クッ…そうだ…マァム…おまえは何も考えず…身を委ねているがいい」
「なあっ…そんあ…ことできない…んっ」
「フ―ゥ…お前は初めて感じる感覚に…戸惑いが隠せぬはずだがな」
「んんっ…そんな…こと…ないったら…な…ぃっ」
「クウッ…無理をするな…与えられる刺激に素直になれ…素直になってよいのだ…フフフっ」
「ん…ああぁん」
責め手のはずのミストが痛みに苦悶の声をあげ。
受け手であるところのマァムは熱に浮かされたような戸惑いの吐息をもらす。
なんとも奇妙な痴態が繰り広げられていた。
マァムの体は触手の動きによってもたらされる快楽を確実に受け止めていた。
マァムの心は触手の動きによってもたらされた快楽を必死に拒んでいた。
二つは混ざり合いぶつかり合う。その摩擦に耐え切れなくなると、心はがらがらと崩れていく。
ゆらゆらとパズルを揺らしているかのよう、ピースははらりはらりと落ちては無くなっていく。
そして今マァムの理性をかろうじて繋ぎとめている一片の欠片
――愛
それはかつてヒュンケルの凍て付いた心を癒し、弱弱しいポップの心を支えた。
無償の愛をあたえ、心を救う…その純粋な心ゆえの反動。
相手によってあたえられるモノに慣れておらず。またそれに応える事を極端に恐れる。
純粋すぎるゆえ、歪んでしまった愛。それがマァムの「慈愛」だった。
彼女の心にはもはやそれしか残っていなかった。
熱にうかされながらも、うわごとのようにマァムはつぶやく。
「ミストはわたしのかわりに苦しんでる…わたしが苦しめてる……」
「だからわたしは……感じちゃいけないの…溺れちゃいけないの…」
自分の為に苦しんでいるものを前に、自分だけが快楽の海に浸りきることができずにいた。
なんたる皮肉。マァムの最期の心の支えはミストへの罪悪感であった。
「ハハッ……このようになってまで相手の心配か……おめでたい奴よ…
だが…悪くは無い……そのような女はおまえが始めてだよ…マァム」
「安心しろ……苦痛は私にとって喜びなのだっ…」
「私は暗黒闘気の集合体……触覚をもたない…
人も魔族も…痛みに耐え忍び生きぬき……痛みから解放され死にゆく……
感覚を持たない私にはできぬ事…痛みで命を感じる事
それが出来る皆に憧れた……うらやましかった………」
「フハハッ…そう哀れんだ目でみてくれるな、マァムよ…
こうやっておまえと交わっている間だけ、私は痛みを感じられる」
「今この時こそ…私は生きている事を感じられる」
「おまえは快楽と引き換えに苦痛を私に与え、私は苦痛と引き換えにおまえに快楽を与える」
「だから気にやむ事など無いのだ…私は今…幸せなのだ」
押しよせる快楽の波に溺れまいとする心。
ミストへのおもいやりの心。
苦痛にたいする罪悪感。自分にたいする嫌悪感。
それがマァムの心の最期の支えだった
(気持いい…ミストも気持いいんだ…)
無理に否定されたのならばあらがいようもあっただろう。
本心からのミストの告白。
マァムの慈悲はそもそも必要とされていないものだった。
(だったら…たえる必要なんてない…)
行き場を失った慈愛はベクトルを変え自分への欲望となり――
(わたしも――気持ちよくなって…いいんだっ)
――マァムの心は快楽にあらがう事をやめた
もうココがどこかもわからない。
「ふぅん…きもちいいのぉ…」
与えられる快楽にひたすら身を委ねていた。
「いいよぉ…ミストも…いたいの…感じてるのぉ…」
いまは、それでもいいと思った
「ふぁ…いいよ……いたくしていいよ」
だって必要とされてるから
「くうぅん…だから…きもちよくしてぇっ」
だから見返りを求めてもいい
「ふぁ…しゅごい…いっぱい…入ってきたぁ」
無数の触手が私を貫く。限界が近い
「わたしを…感じてぇ…わたしも…かんじるからぁ」
なんだろう。なんだろう
「ふぁ…なにか…きちゃふっ」
真っ白に…何も考えられない
「ふあぁぁん」
マァムが絶頂を迎えた瞬間。
―その時を待っていた、ではその身体を頂こうか―
その声と共にミストの黒い触手、否。
ミスト自身がマァムの体内へと吸い込まれていった。
それと同時にオルガスムスに達し、真っ白になったマァムのあたまに何かが流れ込んできた。
暗黒闘気の集合体。闘いの思念の集合体。そうして私は生まれた。
其故。私は誰よりも争いを好む。私は誰よりも強く在りたい。もっともっともっと。
私に好敵手はいない。私に敵はしない。何故。私が敗れれば敵は私なのだ。
フハハハハハハッ。敵を求める。強さを求める。誰よりも誰よりも誰よりも。
だが私には敵はいない。自らを鍛える事もできない。その必要も無い。
「私はその手の侮辱がいちばん嫌いだ」
分かっている。解っている。わかっている。言われずとも。云われずとも。
忌まわしい体故魔界で敵はいなかった。他者が鍛えあげた仮初の身体で勝利してきた。
死する恐怖も苦痛も敗北も勝利も無い。闘う為に生まれてきた私がだ。矛盾矛盾矛盾。
本能を誤魔化すように闘った。充たされぬとわかっていようとも私にはそれしか無い。
魔界の神を名乗るバーン様にたどりつき、挑み。絶大な魔力の前に敗北した。
死を覚悟した。ソレも良いと思えた。ようやく終わる。
「おまえは余に仕える為に生まれてきたのだ」
初めてだ。肯定された。認められた。
この時を持って永劫の君主としよう。
私は私の為に生きるに非ず。私はバーン様の為に在り。
故 に こ の よ う な 所 で 朽 ち る わ け に は い か ん
私には解った。
これはミストの心だ。
私のあたまがからっぽだったから踏み込んできてしまった心だ。
私は混濁した意識を整理しながら想った。
―――可哀想だ、と。
私の身体を奪っても、ヒュンケルの身体を奪ってもきっと満たされない。
だって、ミストは凍れる時の秘法が切れたバーンにとって、
自らの分身であるキングからそれ以外のチェスの駒に格下げされた。
失えば惜しい駒だけど替わりはある。いつ切られるかも分からない。
そうすればバーンに見捨てられまいと強者の身体を乗り換え続けるだけじゃない。
また元通りじゃない。報われない、報われないよ
だけど、このひとに私が出来る事は何も無い。
「正義なき力も無力なら、力なき正義もまた無力」
先生からいつか言われた言葉。今になって実感する。
だから身体を貸してあげる。気休めでもそれで少しでも救われるなら。
負けた私にはそれしかできないから。苦しみを終わらせてあげることはもう出来ないから。
だからあとはみんなににまかせる。
先生やヒュンケルなら私に出来なかった事をやってくれると信じてるから。
ヒュンケルの光がきっとあなたをてらすわ…そんなきがす、る
それを最期にマァムの意識は闇と消えた。
ミストへの救いを仲間達に託しながら…