「見えてるわよ」  
 素っ気無く言い放つ少女が振り向きもせずに彼に釘を刺した。  
 「派手に焦がしたわね」  
 砕け散るしぶきがキラキラと光るお団子に結わえた後れ毛の向こう側に見える。眩しいような、暗いような。  
 じゃぶじゃぶと滝つぼの水を踏みしめ、彼女が彼の目の前に立つ。彼は黙って一直線に伸びる健康で頑丈な足を見ていた。  
 「どこじろじろ見てるのよ!エッチ」  
 唇の端をちょっとだけ持ち上げるような……いわゆる魔性の笑顔というやつをやってみせて、彼の頬に太ももをぺたりと摺り寄せる様にくっつけた。  
 「……冷たいくて気持ちいいでしょ?」  
 ああ。彼が気まずそうに小さく言葉を返したので、彼女は珍しくいい気分になった。  
 彼と来たら小心者の癖に強引でその上強情なのでちっとも彼女の自由にならないのだ。彼女はそれを面白くないとは思っていたが、ついぞそのことについて彼に意見はしなかった。  
 「ずいぶん熱いのね……風邪でもひいた?」  
 ばっばか、そんな熱くねえよ、お前が水の中に居たから体温低いだけだ。早口でそんなことを言いながら水から腕を引き抜く。腕を焦がしてこの水辺にやってくるのはこれで二度目。何かの呪文を習得せんと猛特訓中らしい。  
 緑色の法衣がさっと岩場のほうに飛び退いて距離をとった。  
 「……どこいくの。べホイミ、して欲しいんでしょ?」  
 いらっしゃい弱虫クン、痛いの痛いの飛んでいけってしてあげるわよ。彼のプライドをつついてやる。こういうことを彼女に言われるのを彼が一番嫌いなのを彼女は良く知っているのだ。  
 正直で単純なもので、彼の顔色がさっと変わる。ムッとして口をつぐみ、視線がきつくなった。  
 ナメんな、おめぇのべホイミなんか効かねえよ、おれだってずっとずっとレベルアップしたんだ。姫さんのベホマだって全快するのに1分近く掛かるんだぜ。彼が得意げにひけらかす。  
 「あら、じゃあベホマ掛けてもらわなきゃ危ない大怪我した事あるわけだ」  
 喧嘩売ってんのかてめー。彼が思わず身体を構えた時、彼女は既に水辺から飛び上がっていた。目にも留まらぬスピードというのはこういうことを言うのだろう。  
 身体から滴っていた雫が地に降る前に彼女の身体は彼を射程距離内に捉えていたのだから。  
 
 「ほら、どんくさいわよ大魔道士様」  
 目と鼻の先にキラキラ光る髪の毛を振り乱しもせず、微笑むマァムが拳を突き出している。  
 「もう一歩踏み込んでたらアウトね」  
 「……そうだな、アウトだったよ」  
 ポップが輝き燃える左手の魔法力を解除したのを、彼女が呆れ顔で一瞥した。  
 「――――――なんだ、元気じゃない」  
 目が虚ろだったからまたいつものへたれ人格が出たのかと思った。彼女がぴっと鋭い音をさせて拳を収め、背を向けて歩き出す。  
 「…………ん、まあ、ちょっと出たかな。  
 なんつーか、上手くいくのかなあって……背負うものがどんどん膨れて手に負えなくなっていく感じがしてさ」  
 彼がてくてく彼女の後を追う。彼女は黙って元の位置に戻る。背後で水に入る音がした。  
 「やるしかないでしょ、なにがあっても」  
 「いやあまあ、そうなんだけど」  
 「だったらくだらない事うだうだ考えてないで特訓でもしたらどう?時間ないのよ。身体動かしたら不安感じてる暇も無いわ」  
 「……や、不安つーんじゃなくて……」  
 だったら何?振り向き様にマァムがそう言いかけた時、背中に彼の額がぼすっと降ってきた。  
 「心が静まらないんだよ。ずっと鈍く興奮してるみたいで集中できねんだ。イライラしてるんじゃなくてピリピリしてるんじゃなくて」  
 腕がつかまれる。いつもの、強引で強情な、あの手で。  
 「……や、やめて。こ、こんなとこで、なんて、冗談でしょ?」  
 「――――――だめ?」  
 耳元に吐息。あの、甘ったるくて熱っぽい湿気を含んだ呼吸が鼓膜に纏わり付く。  
 「ダメに決まってるじゃないの!お昼よ!?外よ!?周りに人居るのよ!?」  
 「いいじゃん、たまには、そゆうのも」  
 耳の後ろに舌が這う。柔らかく敏感な肉がずるずると唾液を介して熱を伝える。  
 「あっ…や、やめなさいよっポップ……それ以上やったら――――――」  
 「どうなんの?」  
 
 しゅるっ……頭上でリボンの解ける音。さらさら流れる髪が彼の顔を隠す。舌は……止まない。  
 「あっ…あっ……」  
 短くて低い嬌声が鼻の奥で爆発する。彼の指は胴着の隙間から潜入して、太ももと豊かな胸を弄っていた。  
 「やぁっ……もう、ほんとに、怒るんだから」  
 「あのなあ、男の前でぱんつまる出しして何言ってんのお前」  
 「ばかっこれ下着じゃないッ……あっやっちょっと!もう、指…ゆび止めてよぉ」  
 「あ、ほんとだ。下にもう一枚履いてるのな」  
 「あっやっあっああっあっやっ……いやっ」  
 「ぬちょぬちょじゃねえか。マァムはエロエロー。ちょっと触っただけなのにもう濡れてんの」  
 「やっ……ばかぁ!もう、ホントに怒った……いい加減にしないとこのまま投げ飛ばすわよッ」  
 「してみればー。因みに今おれが持ってるのは君の服です。  
 濡れたら乾かすの手間だぜー。髪もびしゃびしゃになるぞー。おれとお揃いでぬれぬれのままみんなんとこ帰るのか?何かあったのが一目瞭然だな」  
 きっと勘のいい姫さんなら素晴らしく下世話な発想で愉快なウワサを振りまいてくれる。ポップは彼らしくもなく品の無い引きつり笑いをしてみせた。  
 「……あんたね、一人で落ち込むのは勝手だけどあたしまで巻き込まないでくれない?  
 あんたを慰める役目請け負ったつもりはないわ。自力で立ち上がれないなら自滅でも何でもすればいいのよ」  
 こいつはダメだ、一度甘い顔を見せたら際限なく依存してくる。マァムは彼の悪癖に批判的ではあったが否定する気は無かった。彼が憎い訳ではなかったし。……だがここまで悪化してしまっては話は別だ。  
 「――――――相変わらずキツいねお前は」  
 「ぶっ飛ばされなかっただけでも有難いとおもいなさいよ」  
 「へいへい」  
 衣服から両手を抜き、彼が彼女の首筋から舌を離す。透明な唾液の糸が長く垂れて途切れた。  
 「ふとももぺたってやるから誘ってんのかと思った」  
 軽やかな指が彼女のふくよかな胸に深く埋まって半回転し、急激に遠ざかる。  
 「ひゃ!?」  
 
 「……やっぱエッチしたいんだろ?」  
 顔真っ赤だぞ。一度合ってしまった視線を逸らせない彼女がはっとした顔で胸を庇う。脈打つ心臓の鼓動が一層強くなったような気がした。  
 ああダメだ。自分と来たらこの腑抜けに依存されたりするのがどうも快感らしい。知恵と勇気で臆病を吹き飛ばす彼よりも、こうして自分のところに逃げ帰ってくるダメ男が好きらしい。  
 彼女がこうやって甘やかすものだからポップは距離を測りながらもどんどん彼女にのめりこんでいくのだが、もちろん彼女はそんなことを気づくどころか思いもしていない。毅然とし、誰にでも同じ態度のつもりなのだ。  
 「珍しくおめえから誘ったのに無下にしちゃ男が廃るな」  
 何か考えるそぶりを見せて彼がマァムの腰を抱き寄せる。曳き付けられた顔が引きつる前にポップはマァムの唇を奪う。無粋な言葉を封じるように。  
 からからの口の中に彼の舌が這う。生温くて別の生き物のように蠢く舌がつれて来る唾液が喉とくちびるを灼いた。  
 「ん、んん!」  
 正気の沙汰ではないと思った。この場所に自分が居る事を知っている人は大勢いて、もうじき昼食に呼びに来るころだ。これを見られたらどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。  
 「……こら、や…めなってば、も、もうすぐお昼だから誰か呼びに来ちゃう!」  
 「あ、声変わった。じゃあ隠れてしたらいいじゃん。」  
 ここで止めたらマァムの方が困るんじゃないか、というような彼女を困らせるような自尊心満載のセリフを彼は吐かない。あくまでも自分が無理を言っているというポーズを崩さない方が彼女が乱れやすいことを覚えたらしい。  
 「そ、そういう状況じゃないでしょーが!もう、何であんたって緊張感が持続しないの!?」  
 「だってキミがボクを誘ったりするんだもん。ふとももぺたーってするんだもん」  
 くりくりした目で彼女の顔を覗き込む。ぼんやりそれを見上げて、ああ彼はいつの間にか自分より背が高くなっていたのだなと現実から目を逸らした。  
 「慰めてなんかやらないんだから」  
 最後にひと睨みした彼女に向って、彼は上等じゃん、と破顔した。  
 
 ポップがもう一度彼女に身体を求める事について回答を求めたが、彼女は黙して答えなかった。その沈黙を許可と取った彼がインナー越しに胸に触れても、頬を赤らめるだけで声を上げない。  
 「あんたとするときはどうも水が関係するわ」  
 「おれが水のステータスでも持ってるのかね?水辺に居るとなんかうまいこと行くような気がするんだよ、マァムとだけは」  
 本当は水に大していい思い出がないのだが、そこはそれ、少年も睦言の交わし方を心得始めたという事だろう。  
 「じゃあこれから枕元にコップを置くのはやめとく」  
 蠱惑的な声は彼女の意図したように呆れたニュアンスにはならずに、彼の背中で這い回る劣情を更に強くしただけだった。冷静を装うのにちっとも冷淡でないところが可愛くて魅力的だと彼は思う。  
 ざらざらする薬指が太ももとビキニラインの境界線をゆるゆると辿っている。人差し指と中指が下着の上をなぞりながらかすかに円を描いた。びくっと律儀に肩を振るわせたマァムの首筋を押さえるようにもう片手が彼女のあごを固定する。  
 彼女の目に見えるのは滝の裏側。呪文によって削り取られた岩板にポップが背を預け、抱えられるようにしてマァムの愛撫を続けている。  
 『ここなら多少声出しても聞こえないだろ?』  
 思えばあの時に走って逃げてりゃ良かったのかも、と襟元を滑る舌の軌跡を繋ぎながら思ったが、機嫌よく振り返って微笑むポップの顔にやられちゃったのだから仕方が無い。  
 ったく…他に人が居ない時はカワイー顔するんだから。安心して弱音を吐く。無邪気に虚勢を張る。子供っぽいくせにどこか懐かしくて切ない何かを思い出させるのだ。それがマァムにとって抗えないものだった。  
 視線をもう一度滝の向こうにやる。透明なカーテンの向こう側の景色が歪んでて、時折キラキラした日の光が刺したりなんかしてとてもきれい。こんなにも美しい世界を、魔王は世界を独り占めしたいという。気持は解らなくもないけれど。  
 「ねえポップ、バーンってのはどうして世界を独り占めしたいのかしら?」  
 「……ハァ?なんだよ急に」  
 「一緒に居られないのかしら、仲良く、みんなで」  
 無茶言うなよ、と彼が呆れながら下着の中に親指以外の指を全部滑り込ませ、ぬるつくそこを撫で上げた。  
 
 「あっ!ひっ……あ…んっ!んふぅ……」  
 「共産主義者かおめーは。そんな理想論で世界が救えるならおれもお前もこんなとこにいねーよ、現実を見ろ現実を。」  
 だって、だって、わかんないんだもの。爪が鈍くて甘い痛みを残しながら柔らかな肉をえぐっている。ときどき埋まる指の繊細さが彼の性格を現しているようで思わず悲鳴を上げそうになった。  
 「泣きそうな声出してんなよ、ゾクゾク来るだろ」  
 お尻を突き上げている突起を隠すように彼がそっと腰を引いた。それを見逃さぬようにマァムの腰が追いかけて擦り付ける。  
 「あ…ぅ、やめ、やめれ…!」  
 「どうして。気持ちいいんでしょ?」  
 「くそっこのエロ女め」  
 にひひひ。にやーっと笑いながら徐々に強さと激しさを増して腰を揺さぶっていると、差し込まれていた指が眠りから覚めたように動き出した。  
 「やあっ!きゅ、急に、二本……無理、やだぁ!」  
 「エロい娘にはお仕置きだべさー」  
 サボっていた片手も起きだして乳房をつかみ、尖っていた突起を探り当てて少し強くつまみあげた。マァムがたまらずにつま先で立ち上がる。  
 「ひやぁあーっ」  
 「どーもおめーは男を甘く見ている節がある。いかんよ、そうゆうのは」  
 男女平等ですよ、民主的にいきましょう。実力主義の世界ですから負けたら従わないとね。ポップが短く丁寧な言葉を呟きながら彼女の身体に舌を這わす。時々ずるずる上下に動いて、ズボンを脱ぐ事も忘れない。  
 息が続かない。冷たい水の奥に隠れているはずなのに、彼と彼女の吐息が滝の影に充満して二人の体温をじりじりと上げている。  
 「指でいきたいか?」  
 一番敏感な肉芽をなぞりいじりながらそんな事を尋ねる彼の顔が真っ赤で、彼女は声を上げて笑いそうになった。でも多分それは彼も同じだったろう。  
 

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