ー俺は女を「抱く」術を知らない。
ミストバーンに性欲処理の道具として魔族の雌を始めて宛われたのは15の時だった。
それは人間の女に酷似していた。青い肌の色、とがった耳、悪魔の羽根と尻尾、
そして魂も凍るほど冷たい身体、と言うことをを除けば。
人間の男である以上、一定の年齢に達すれば性欲が沸き上がってくるのは当然の現象だった。
どんなに気持ちを剣に集中させようと、身体は自然の成長に従い余計な邪念を脳に送り込んでくる。
俺にとって性欲など、己の修行にとって邪魔なだけの存在でしかなかった。
そしてその邪念を排除するため、俺はミスとバーンの用意した「道具」を使った。
「道具」達は皆、甘い淫靡な匂いを放ち俺を快楽の世界へ誘おうとする。
−反吐が出る
淫楽に身を委ねようとするその下等な「道具」達を、俺は乱暴に犯した。
性欲など!雌など!交尾など!何の意味もない!!くだらない!!
若かった俺は己の内と外に起きる葛藤に激しい嫌悪を抱き、それを雌どもにぶつけた。
そして月日は経ち…俺は暗い地底魔城から…暗い心の闇から…脱することが出来た。
闇の中にいた俺の手を光有る場所へ引き上げてくれたのは
−マァム−慈愛の天使。
汚れ無き魂で俺を救ってくれた彼女は、まさに慈愛に満ちた天使だった。
一緒に旅をし、戦いの日々を共に過ごす中で、俺はいつしか彼女に心惹かれていた。
愛くるしい笑顔を見るたびに、彼女の優しさに包まれるたびに…生まれて初めて抱く気持ちが胸にこみ上げてきた。
一生十字架を背負って生きていかねばならない俺が、人並みに幸せな恋愛をしようなど愚願だというのは分かっている。
だが、もし許されるなら…一度で良い。マァムを、俺の天使を、この手で抱いてみたい。
けれど
−俺は女を「抱く」術を知らない。
魔物と淫行を繰り返したこの身体はきっと、愛する女性を優しく抱くことなど、許してはくれないだろう。
「道具」達にしてきた乱暴な交尾と同じ事をしてしまいそうで
汚れ無き天使の心も体も、ズタズタに犯してしまいそうで
…そんな過ちが、恐ろしい。
だから、俺は彼女を遠ざける。手に入れてはいけない、大切な存在だから。
「俺ではお前を幸せに出来ない。」
月明かりに照らされたパプニカ城の一角の部屋の窓辺に、銀髪の男は腰掛け手に持った地図を眺ていた。
トントン。ドアをノックする音に彼は顔を上げ「空いている。」とぶっきらぼうに答えた。
「ヒュンケル…」
ドアを開けそっと顔を覗かせたのはマァムだった。手に何か包みを持っている。
「これ…レオナから。数日分の食料やゴールド。明日発つみんなに用意してくれたの。」
そう言って部屋に入り進み、窓辺にいるヒュンケルに包みを手渡す。
「すまない、姫にも礼を伝えて置いてくれ。」ヒュンケルが包みを受け取り微笑むと、
マァムも笑顔を返し、彼の隣の窓辺へ腰掛けた。
「いよいよ明日は出発ね。」「あぁ」
ーダイが生きているー
その希望をダイの剣の宝玉が皆に教えてくれた日から三日が経っていた。
あれから、仲間たちはそれぞれ自分たちのすべきことを考え、それぞれのこれからを決断していった。
「ダイを探す旅をしたい」
それが、ポップ、マァム、ヒュンケル、ラーハルトの選んだ道だった。そして
「そんなポップさんのお役に立ちたい」と言うメルルも、また共に旅立つメンバーに加わった。
「にぎやかな旅になりそうね。羨ましいわぁ、あーあ私も一緒に行きたい。」
旅立ちを報告に来たメンバーの顔を眺めて、レオナが溜息をつく。
「何言ってんだよ、姫さんの役目はダイをここで待って迎えてやることだろ。姫さんにしか出来ない大役だぜ。」
溜息をついたレオナの気持ちを察したポップが、明るくハッパを掛けると
レオナはいつもの強気な顔に戻って
「あったりまえでしょ。ダイくんに『おかえり』を言うのはあたしの役目なんだから。他の誰にも譲れないわ。
だから、あんたたち。絶対!!なんとして!!もダイくんをここへ連れ帰ってきなさいよ!これはパプニカ女王直々の命令よ!」
と、腰に手を当て、わざと偉そうに胸を反らせ、ウインクをしながら皆に言った。
5人は顔に笑みをこぼれさせると
「承知しました!姫!」
と敬礼の姿勢をとって、 おどけてみせた。
「で、まずは何処へ向かうの?」
レオナが玉座に座り直して5人に問いかける。
「えーっと、詳しくは決めてないんだけどまだ捜索に行ってない町や村からあたってみようと思ってる。」
ポップがそう言ってマァムと目を合わせると、マァムもウンウンと頷いた。
と、ラーハルトが立ち上がって口を開いた。
「俺とヒュンケルは北へ向かおうと思っている。」
「えっ?」
驚きの声を上げたのはマァムだった。マァムはてっきり5人で一緒に旅をする物だと思いこんでいたから。
そんなマァムの驚きをよそに今度はヒュンケルが言葉を続ける。
「北には、まだ人々が足を踏み入れたことがない洞窟がいくつも眠っている。そこにダイが居る可能性も考えられる。」
「じゃあ、私達もそこへ…」
マァムの言葉をヒュンケルが遮る。
「いや、そこへは俺達2人だけの方がいい。二手に分かれた方が効率も良いだろう。
お前達は、町や村を回って人々から情報を聞き出してくれ。お前達なら適役だろう。
大魔王を倒した勇者の仲間として、行く先々で歓迎されるはずだ。」
そう言ってポップとマァムに微笑みかけるヒュンケルの顔は弟弟子を誇らしげに思う兄弟子の顔だった。
しかし、納得のいかない顔をしてるのはマァムだ。
「ヒュンケルだって、勇者の仲間じゃない。」
「…俺は歓迎される人間ではない。十字架を背負い生き続ける限り、俺は人々に歓迎される訳にはいかないからな。」
ヒュンケルの言葉を聞き、自分の言葉が無神経だったことに気付いたマァムがハッと口元を押さえる。
「…ごめんなさい。」
うつむいて謝るマァムに、ヒュンケルは再び微笑み掛ける。
「いや、自ら背負うと決めた十字架だ。気にしないでくれ。
それより、メルルさん。北にある洞窟のおおよその場所を占ってくれないか。なにせ地図にも無いような場所だ。」
「わかりました。」
ヒュンケルに頼まれたメルルが椅子から立ち上がり、水晶の用意をし始めた。
旅立ちの準備が始まってしまった空気の中、もはや二手に分かれて旅をすることは決定状態となり
釈然としないながらも、マァムはこれ以上口を挟めなかった。
ーそして、気が付けば旅立ちはもう明日に迫っていた。
相変わらず、マァムの胸には釈然としない気持ちが渦巻いている。しかし、
その原因が何であるか、彼女はこの数日間の内に考え自分なりに答えを見つけた。
そして、旅立つ前にそのモヤモヤとした気持ちの原因であるヒュンケルに
その答えをぶつけておこうと、彼女は考え、彼が一人になるのを見計らい部屋のドアをノックした。
吹き込む夜風が窓辺に腰掛けたマァムの髪と薄手の夜着を揺らす。
マァムとヒュンケルはしばし黙って外から聞こえる風と虫の声に耳を傾けていた。
月明かりに照らされたマァムの顔は夜の青と混ざった白に彩られ幻想的な美しさを醸し出していた。
時々、大きな風が吹くと桃色の髪がなびいて甘い香りと共にヒュンケルの鼻先をくすぐった。
けれど、ヒュンケルは顔色一つ変えず、じっと外を眺めている。
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはマァムだった。
「ーヒュンケル。私ね、旅立つ前に貴方に言いたいことがあるの。」
ヒュンケルを真っ直ぐに見つめるマァムの瞳を見つめ返し、ヒュンケルが問う。
「…なんだ?」
「この間は無神経なこと言っちゃってごめんなさい。」
マァムは俯きながら言った。
「なんだ、そんなことか。…もう気にするな。」
ヒュンケルが視線を外に戻しながら言うと、マァムはさらに話を続けた。
「…でもね、私…悲しかったわ。」
ヒュンケルがもう一度視線をマァムに向け直す。
「ヒュンケル、貴方が重い十字架を背負って生きていく身だということは知ってるわ。でも
私やポップと生きる道を分けられたみたいで…なんだか悲しかった。」
思いも寄らなかったマァムの言葉に、わずかにヒュンケルの顔に驚きの表情が浮かぶ。
「正義の使徒と言われていたって、慈愛の戦士と呼ばれていたって、私だって人間だわ。
時には迷ったり人を傷つけてしまうことだってある。
でも、それでも自分を信じ強くいられたのは仲間がいたからよ。みんなが支えてくれたから。
ヒュンケル、もちろん貴方も私を支えてくれていた一人よ。
貴方は以前、私に救われたと言ってたけれど、私だって貴方に救われているわ。
人間ですもの、支え合わなくてはきっと生きていけない。
…だから、自分一人で十字架を背負い込んで私達を遠ざけないで。
人が生きる道を明と暗だけに分けないで。」
マァムは、一秒たりともヒュンケルの瞳を捉えたまま離さずに言葉を紡いだ。
その顔は強さと弱さを同居させた、今までに見せたことのない表情だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
しばしの沈黙が流れた後、ヒュンケルは自分を見つめ続けるマァムから視線を逸らし呟いた。
「・・・・・・そんなつもりではなかった。すまない。」
やっと口を開いたヒュンケルに、マァムは安堵の表情を浮かべる。が、
「だが…もう俺に深入りしないでくれ。」
ヒュンケルが続けて吐き出した言葉にマァムの表情が凍り付いた。
「…お前は知らないんだ。俺がどれほどの罪を背負っているか。汚れているか。」
「・・・・・・・ヒュンケル・・・・・」
マァムが悲しみに満ちた声色で彼の名を呼ぶ。
「出ていってくれ。明日は早い。」
ヒュンケルはマァムに顔を見せないまま立ち上がり、窓辺のカーテンを引いた。
その背中に、マァムが言葉を投げかける。
「…私では、貴方の側にいることも、貴方の苦しみを分かち合うことも、出来ないのね…。」
震える声から、悲しそうに笑うマァムの表情が背中を向けたヒュンケルにも手に取るように分かった。
(ーーどうしてだ。ーーー)
ヒュンケルは唇を強く噛みしめた。
(傷つけたくない…悲しませたくないのに…どうして俺は彼女を泣かせることしかできない…?
遠ざけるしか、ないじゃないか…っ!他にどうすればいい!?くそっ…!!)
「ーーー分かってくれ。」
絞り出すように苦しげな声で、ヒュンケルが言った。
「俺がお前を遠ざけるしかないと言うことを…。お前が……お前のことが………大…切……だからなんだ……。」
消え入りそうな声で紡がれたその言葉に、マァムが顔を上げる。
「…俺は、お前が思っている以上に汚れた人間だ。
そんな俺がお前の側にいたら、その優しさに甘えたりしたら……きっと、俺はお前をーーーーーーー」
その先の言葉を言おうとした瞬間、彼の時が止まった。
背中に、柔らかなぬくもりが触れたのを感じたから。
「…私、そんなに臆病な人間じゃないわ。
遠ざけられて守られるより、傷ついてでも近くにいる事を選ぶ…そんな性格だって知っているでしょう?」
ヒュンケルの大きな背中にしがみつくようにして彼女はそう言った。
「マァム…」
「馬鹿だわ。貴方、馬鹿よ。沢山、甘えて、傷つけて、汚してみればいいじゃない、私を。
何もしないうちから遠ざけて、逃げて、そんなの貴方らしくない。
闘志の戦士でしょう?そんな弱気な貴方、私の知ってるヒュンケルじゃない。」
普段ならポップに投げつけるような手厳しい言葉を、ヒュンケルに放ったのは初めてだった。
放ったマァム自身もドキドキしている。ヒュンケルが怒るのではないかと、言い過ぎたのではないかと。
けれど、言わずにはいられなかった。
互いを思いやり過ぎてすれ違う気持ちに、もう耐えられなかった。
自分を思い苦悩するヒュンケルと、その姿を見て悲しむ自分の、不毛なループに終止符を打ちたかった。
…今までは、ヒュンケルが自分のことで苦悩していると言うことに確信が持てなかった。
彼が自分をどう思っているのか、自分のことで思い悩んでいるなんて自惚れじゃないのかと、不安だった。
しかし、彼は今確かに彼女に告げた。消え入りそうな声ではあったけど、確かに「大切」だと。
邪魔だから、嫌いだから遠ざけていたのではない、と言うことを確信できた。
安堵とー驚き。ヒュンケルがこんなにも自分を大切に思っていてくれていたのかという驚きだった。
そしてそれは、胸を震わせるほどの喜びでもあった。
「…私は、どんなに貴方が罪を背負おうと汚れていようと、きっと受け入れられる。
………貴方のことが…大切……ううん、好き…だから………。」
「・・・・・・・!!」
ヒュンケルはゆっくりと振り向き、自分にしがみついていたマァムの手をそっと握った。
マァムはカーテンの隙間から零れる月明かりを宿した瞳でヒュンケルを見上げる。
「…貴方になら、汚されても傷つけられても構わないと思えるの。…『本当の愛』って…こういう事なのかしら…?」
はにかんだ表情でマァムが笑う。
しかしヒュンケルは真剣な眼差しのまま、マァムに問うた。
「…俺を…こんな俺を、受け入れてくれるのか…?」
マァムは黙って頷く。
「…マァム…!!」
ヒュンケルはこぼれそうになる涙を堪えギュッと目を閉じ、マァムを抱き寄せた。
初めて男性に正面から抱きしめられる感触に、マァムの心臓は大きく高鳴り、頬を紅く染めた。
おずおずと手を伸ばし、ヒュンケルの背中に腕を絡ませ自分もヒュンケルを抱き寄せる。
ヒュンケルの胸も高鳴り、2人の早撃ちした鼓動が重なりあう。
ヒュンケルは瞳を開き、抱き寄せた腕をほどいてそっとマァムの頬に手をあてた。それが何を意味するのか、彼女にも分かった。
マァムは目を閉じ、ヒュンケルに身を任せた。
「−−−−−−−−−−−」
重ねた唇を離すと、ヒュンケルはマァムの耳元で一呼吸置いてから囁いた。
「−−−お前を…抱きたい。」
「…えっ…」
マァムは驚きの様子を隠せなかった。
『受け入れる』という言葉の意味には、そう言う意味も含んでいることを想像していなかった訳ではない。
けれど、マァムが『受け入れる』のは、心、彼の魂を指して言ったのであって
まさか、急に『身体ごと』受け入れる事になるとは、想像の管轄外であった。
ましてや、性に対して鈍感な彼女のことである。抱かれる、と言うことがどんなことか知識として漠然としか分かっていない。
(…でも、受け入れるって言ったんだから…断ったりしたら彼を傷つけるわよね…で、でも……)
顔を紅潮させたまま俯いて黙っている彼女の心情を察して、ヒュンケルが口を開く。
「…マァム。俺は明日やはりラーハルトと2人で発とうと思う。」
「!」
マァムが顔を上げた。
「だが、誤解しないでくれ。お前を遠ざけるためではない。この旅で俺は平和になった世界で自分がどうすべきか考えたいと思う。
この平和になった世界で、自分がどう罪を償って生きていけばいいか。
そして、お前も自分の歩む道を見つけて欲しい。
今までのように、ただがむしゃらに旅を続けるという訳にはいかないだろう。己自身を見つめ直し
勇者が残したこの世界に自分をどう役立てるべきか…。それが地上に残された俺達の役目でもあるはずだ。」
マァムは黙って頷いた。
「…そして俺は…俺の歩むべき道を見つけたとき、必ずお前の元に帰ると約束する。…必ずだ。」
「ヒュンケル…!」
マァムの瞳から大粒の涙がこぼれた。
その涙を指で優しく拭いながら、ヒュンケルはもう一度囁く。
「お前の元に帰ってくるという証を、今宵…この身に契らせてくれないか…?
離れていても、お前を側に感じることが出来るように…。」
穏やかに微笑むヒュンケルの顔は初めて見る優しい大人の男の顔だった。
マァムに戸惑いは、もう無い。
ヒュンケルの胸に顔を寄せ、こくりと頷いた。
夜風にはためくカーテンから差し込む月明かりに照らされたベッド。
そこに仰向けに寝かされたマァムは、黙って目を閉じた。
ヒュンケルがその唇に口付ける。1回、2回、3回…触れては離す短いキスを繰り返す。
そして4度目に、深い、長い、キス。
お互いの唇の形を確かめるかのように、ゆっくりと舐り合う。
名残惜しそうに唇が離れると、ヒュンケルは今度はマァムの夜着の胸元に手を寄せた。
しゅる…と胸元の紐を解く。そしてそっと両手でその胸元を開いた。
マァムが羞恥で顔を横に背ける。
仄かな月明かりに照らされた、感動的なほど白く美しい胸。
豊かな胸はその曲線を完璧なほど美しく描き出し、すべらかな肌は彼女の心をそこに映し出すかのように白く瑞々しかった。
そしてその中心は薄桃色に彩られ、羞恥と緊張でわずかに震えている。
「…綺麗だ…マァム…」
普段、武道着の下で元気に跳ね回る胸が、魔甲拳の固いプロテクターの下に守られている胸が、こんなにも美しく儚げだったとは。
感嘆の溜息さえ漏らしながら、ヒュンケルは指先をそっと這わせる。
ビクッと少女の身体が反応した。
そして、今度は手のひらで彼女の胸全体を優しく包み込む。
ーーー温かいーーー
ヒュンケルは思った。
泣きたくなるほど、柔らかくて、温かい。
(これが…ぬくもりというものか…)
ヒュンケルは愛する女を抱くという喜びを、触れ合う喜びを、心から感じた。
そぉっと、桃色の先端に口づける。
慈しむように、愛でるように。
「ぁっ…」
マァムの口から切なげな声があがった。
桃色の果実を傷つけないよう、優しく優しく、口の中で弄ぶと
「…っ…んっ…ぅんんっ…」
押し殺したような声が固く結んだマァムの口元からこぼれた。
続けると、肌が徐々に汗ばみ、桃色の先端が段々硬くなってくるのが分かった。
ヒュンケルがもう片方の果実を今度は指先で軽くつまみ上げると
「ひぁっ…!」
固く結んでいたマァムの口から、遂に喘ぐ声が上がった。
自分の口が、手が、少女に初めての刺激を与えているのだと思うと、ヒュンケルはたまらなく心地よい支配感を感じた。
唇で包みあげ、舌先で舐る。指で転がし、時折そっと歯をたてると、マァムの身体がビクンッと反応した。
それを繰り返す内に、マァムの息はどんどん乱れ、こわばっていた表情はいつの間にか消え
顔は上気して真っ赤になっていた。
そして、ヒュンケル自身もどんどん興奮をかき立てられていくのが自分で自覚できた。
(ーもっと、もっとお前を知りたいーーー)
ヒュンケルの手はマァムの夜着を完全に剥ぎ取り、腹部のくびれたラインをなぞりながら下腹部へ到達した。
密着していた身体を一旦離し、ヒュンケルは体を起こすと彼女の太股に手を添えた。
「…マァム…」
問いかけるように、請うように、彼女の名を呟く。
それはあたかも、最後の聖域へ踏み居る許可を女神に祈るように。
マァムがずっと閉じていた目をそっと開くと、暗闇の中に自分と同じように顔を上気させ
息を乱れさせるヒュンケルの姿が映った。
少し、怖いと、彼女は思った。
「男」とは、こういうものなのか、と思った。しかしその「怖さ」が胸を高鳴らせる。
彼の力強い腕が、自分を求めている真っ直ぐな眼差しが、怖くて心地良い。
マァムは自分の身体がその怖さに支配されることを望んでいることに気が付いた。
「ヒュンケル…」
それだけ呟くと、マァムは黙って再び目を閉じた。
ヒュンケルはそこに彼女の無言の答えを見いだし、彼女の下着に手を掛けた。
片手で彼女の腰を持ち上げ、もう片方の手で下着を脱がせる。
ー一糸まとわぬ生まれたままの姿になったマァムの身体を眺め、ヒュンケルは再び感嘆の溜息をついた。
丸みを帯びていながらも無駄のないスラッとしたライン。
女であることを強調するかのような、豊満な胸と官能的な腰つき。華奢なウエストと少年のように真っ直ぐに伸びた無駄な肉のない脚。
対照的なラインなのに、一つの身体でこんなにも美しいフォルムを描いてることが、何だか不思議だ。
そしてヒュンケルは、彼女の白い太股を両手で左右に押さえ、遂にその秘所を目の前に開かせる。
「・・・っ!!」
マァムの目が更にギュッと固く閉じられる。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
まだ誰にも見せたことがない、彼女自身ですらまだ未知の領域である、乙女の聖域。
真っ白い太股の奥にあるそれは、濃い桃色に染まっていてあたかも開きかけた花のようだった。
汗か露か、花弁は乙女自身の液体でしっとりと湿っている。
ヒュンケルは己の興奮が高まっていくのを感じた。理性が薄れてしまいそうな感覚を振り払うように瞬きを繰り返す。
太股を押さえていた手をゆっくりと中心へ寄せ、今度は両方の指で花弁を大きく開かせる。
「…やっ…」
恥ずかしさのあまり、マァムが抗う声を上げる。
しかし、そんな事はおかまいなしにヒュンケルは花弁の中心をあらわにさせる。
露に濡れ妖しく光るそこは、男の手によって夜の空気に晒され震えるようにヒクヒクと蠢いている。
花の先端にある小さなつぼみもまた、彼の手に触れられるのを待っているかのように彼女の呼吸に合わせてわずかに蠢く。
密を滴らせる洞窟も、本来汚水を排出すべき小さな穴も、固く閉じられた後部の蕾も、
恥ずかしい部分が皆、ヒュンケルの目の前に晒されていた。
ヒュンケルはそれらを一つ一つ確かめるかの如く、目で愛撫するかの如く、眺めた。
顔を近づかせるヒュンケルの熱い吐息が、その一体にかかると、それだけで、マァムの蜜壺は更に潤うのであった。
「…恥ずかしい…あまり見ないで、ヒュンケル…」
耐え難い恥ずかしさに、マァムが許しを請う。
しかし、それに反発するかのようにヒュンケルは彼女の花弁に口を寄せた。
「ひぁっ…!」
マァムの太股がビクンッと震える。
ヒュンケルは溢れんばかりの蜜を舐め取るように舌を動かし、その蜜の滴る入り口に舌先をぬるりと滑り込ませた。
「…ぅあ…あっ」
マァムの身体から汗が噴き出し、手はシーツを強く握りしめた。
ヒュンケルは舌を巧みに動かしながら、今度は先端の蕾を指先で軽くはじく。
「ひっ!!」
マァムは身体に電撃を受けたようなショックを覚えた。ヒュンケルが触れた部分から痺れるような感覚が全身を包んだ。
(な、なに…?なんで指で触れられただけで、こんな…すごい感覚が身体を襲うの?)
恥ずかしさと初めて味わう快感の波に翻弄され、すっかり混乱寸前の頭でマァムは自分の身体に問うた。
しかし返ってきたのは、さらなる快感の波。
ヒュンケルは今度は蕾を唇でクニュクニュと弄び、蜜壺からさらに蜜を引き出すかのように中指を浅い部分でピストンさせた。
今までと違って、連続で襲ってくる快感の波に、抗う術もなくマァムはただ泣き声のようなうわずった切ない声を上げた。
「あ…あっ…ひぁぁ…ん、うぁっ、ああぁんっっ、ぁはぁぁっ…!!」
マァムの足先に、腓返りになりそうなほど力が入る。
「やぁぁっ!もう、やめてぇ…!!私の体、おかしくなりそうなのっ…あぁぁっ!」
マァムの懇願で、彼女の絶頂が近いことが分かったヒュンケルは、ピストンさせていた指を2本に増やし速度を上げた。
「!!…ッ!?なんでっ…!!や、やぁぁぁ!!!ダッ…メ…ッ…………ひぁ……」
ビクンビクンっとマァムの足が大きく震え、呼吸すらも一瞬止まった。
そして次の瞬間、大きな吐息とともに彼女の体の力が一気に抜けた。
ヒュンケルは半ば強引に押さえていた彼女の体を、そこでようやく解放させた。
「はぁっ…はぁっ…」
マァムはうつろな瞳で宙を眺めながら横たわったまま胸で呼吸をしている。
マァムのそんな姿を見てヒュンケルは少々やりすぎたかと反省した。
彼女の反応があまりにも可愛すぎて、愛おしくて、初めての夜だというのについやりすぎてしまった。
謝罪の意味を込めヒュンケルは彼女の額に口づける。
「疲れたか?」
ヒュンケルが聞くとマァムは吐息の様にか細い声で答えた。
「平…気…。…でも……」
「でも?」
「…私、あんなにみっともない声を出しちゃって……凄く恥ずかしい。」
マァムは両手で口元を覆い、上目遣いにヒュンケルを見る。
「お願い、聞かなかったことにして。…ね?」
顔を赤らめお願いするマァムに、ヒュンケルは言いようのない愛おしさを感じた。
こんなにも誰かを『可愛い』と思ったことはあっただろうか。
全身の力を込めて抱きしめたくなる衝動を抑えて、そっと彼女の頭を撫で微笑む。
「フッ…恥じる事はないだろう。自然な反応だ。」
「そう…なの?」
ヒュンケルは微笑んだまま黙って頷いた。
マァムは少し安心した顔をしたが、やはり恥ずかしい気持ちは拭えない。シーツをたぐり寄せて身体を隠そうとした。
しかし、その手をヒュンケルの大きな手が掴み制す。
「…えっ…」
「まだ、だ。」
ヒュンケルはマァムの手首を掴んだまま身体を組み敷き、何回目かのキスをした。
キスした唇をそのまま、首筋から胸へと這わせる。
愛撫しながら、ヒュンケルの鼓動は高鳴った。
ーしかしそれは、期待や緊張によるものだけではなかった。
(いいのか…?俺のこの呪われた身体を、汚れのないマァムの中に埋(うず)めたりして…本当にいいのだろうか…)
ヒュンケルのそれは、もうすっかり熱を帯び、今にも爆発せんと熱い血潮が充血している。
けれど、それが彼の忌まわしい記憶を思い起こさせるのであった。
淫魔の肉体に、欲望のままにそれを突き刺し乱暴に犯した記憶が。
雌どもを蔑んだ目で見ながらも、嫌悪を抱きながらも、その中にぶちまけた欲望の白濁液。
思い出したくない記憶が次々に甦る。
(……くそっ…!!)
頭を振って忌まわしい記憶を消そうとするが無駄な抵抗であった。
『……フフフ…馬鹿な男……』
『…今更愛する女を抱こうだなんて…愚かな男』
『…抱けるはずがない、この呪われし男に』
「!!!」
ヒュンケルの頭の中に闇からの声が響いた。
ー幻聴かそれとも呪いかー
『愛しく抱こうとなどせずに、犯せば良い。その女も』
『蔑み、いたぶり、犯せば良い。私達にしたように』
(黙れッ!!黙れ!黙れ!黙れぇッッッ!!!)
ヒュンケルは目を固く瞑り、必死で頭を振る。
「…ヒュンケル…?」
様子のおかしいヒュンケルに、心配したマァムが声を掛ける。
「どうしたの?どこか苦しいの?」
眉をひそめ心配そうに、ヒュンケルの顔をのぞき込む。
「ーー!!!」
マァムの表情が凍り付いた。
そこに居たのは優しい大人の男ではない。
ー黒い前髪から紅い目を覗かせ不適に笑う闇の男ー
(まさか…まさか暗黒闘気!?)
反射的に後ずさろうとするマァムの前髪を掴みヒュンケルは彼女の顔に自分のそそり立つものを押しあてた。
「ヒュ…ヒュンケル…」
「くわえろ。」
無理矢理マァムの口を開かせ、ヒュンケルは男根をねじ込んだ。
「うっ…ぐぅっ!!」
先程まで愛の接吻を交わしていた麗しい唇を、男は強引に犯した。
少女の頭を掴み無理矢理スライドさせる。
マァムは恐怖と悲しみに打ちひしがれながら必死で考えを巡らせた。
(どうして…何故こんな事に…!?
……まさか…ヒュンケルが私を遠ざけようとしていた理由は…コレなの?)
次の瞬間、なんの前触れも無しに彼女の口の中に溢れるほどのドロリとした液体が勢い良くそそぎ込まれた。
「…ッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!」
喉元で発射されたため気管に入ってしまった苦しさと、初めて味わう独特の味が口に広がった不快感でマァムは激しく咳き込んだ。
「クックック…。どうだ?好きな男の精液の味は?」
マァムは咳き込みながらヒュンケルを見上げる。
「どうして…これが貴方の言っていた私を遠ざける理由…なの?」
黒髪をしたヒュンケルがニヤリと笑う。
「そうだ。俺の身体は汚れている。…淫魔との数え切れないほどの性行によってな!」
「!!!」
マァムの顔に驚きと失望の色が浮かぶ。
「俺は魔王軍にいた頃、魔族の雌どもをなぶり犯した。お前が今くわえたものは淫魔の呪われた媚薬と体液にまみれた呪われし欲望の証。
この身体は愛を抱くことなど出来ない。汚れ呪われし体は雌を犯す事しか出来ないのさ!!」
ヒュンケルはマァムの体を力づくで押さえ込み、無理矢理脚をこじ開けた。
「…ヒュンケルッ…!」
恐怖ですっかり潤いを無くしたマァムの秘所に、大きくそそり立ったヒュンケルの呪われたそれが押しあてられる。
「喜ぶがいい。俺に犯されたかったんだろう?望みを叶えてやるさ。」
−−ズッッ−−
窮屈に壁を擦らせながら、ヒュンケルの男根が侵入してくる。
「…ッぐっ…あぅっ……!!」
躊躇無く一気に奥まで突き進められた衝撃にマァムが苦痛の声を上げる。
目尻に浮かんだ涙が幾筋も頬を滑る。
ヒュンケルが一気に腰を引くと、犯されたマァムの聖域から真っ赤な鮮血がシーツに数滴零れた。
「…はっはっはっ!!どうだ!?処女を散らされた気分は?」
「・・・・・・・・・・。」
マァムは黙って唇を噛みしめ、痺れるほどの痛みに耐えている。
止めどなく溢れる涙が、頬を伝って枕に染み込む。
「失望したか?こんな俺に。俺はお前が思うような男ではない。
お前の知らないところで乱れた行為を繰り返し魔族といえど女を残酷に犯してきた。
失望しろ!蔑め!俺を恨み憎むがいい!!」
ヒュンケルは容赦なく腰を大きくピストンさせた。
傷口を裂けられるような痛みと腹の奥を突かれるような痛みに意識を失いそうになりながら
フラフラとマァムはヒュンケルに向かって腕を伸ばした。
そして、そのままヒュンケルの頭を抱きかかえた。
「…!?何をするっ!?」
汗と涙でグチャグチャな顔を、苦痛に耐え穏やかに微笑ませながらマァムは囁いた。
「愛してるわ…ヒュンケル…。」
その瞬間、マァムの胸元に揺れていたアバンの印が赤い光を発し出した。
赤い光に呼応するように、次いでヒュンケルのアバンの印も紫に輝き出す。
「なっ!?」
ヒュンケルはマァムから無理矢理体を引き剥がした。
『何故!?犯され傷つけられて、なぜ愛など説ける!?』
『愛など幻!この呪われし体にそんなものは通用しないはず!』
ヒュンケルの頭の中を、呪いし者達の言葉が駆けめぐる。
(黙れッ…!!俺は…マァムを愛している…!)
頭を抱え悶え苦しむヒュンケルの髪が、漆黒の色から月明かりの銀色へ戻っていく。
「ヒュンケル…!」
『ひゃはは!お前は愛している女を犯したじゃないか!無理だ!!お前に愛など抱くことは出来ない!!』
(…ぐぁあぁあっっ!!!!)
『ひゃはは…は………?』
ヒュンケルのアバンの印の光が消え失せそうになった、その刹那。
マァムがヒュンケルの唇を優しく奪った。
「言ったでしょ。どんな貴方も受け入れるって。」
「・・・・・・・・・マァム・・ッ・・!!!」
ヒュンケルのアバンの印が再び光り、彼の目から闇の眼光が消えた。
窓辺のカーテンが一瞬大きくはためき、ヒュンケルの体がガクッと力無く崩れた。
「ーあれは暗黒闘気なんかじゃなかったのね。」
「淫魔達の呪い…。ーお前に後ろめたい気持ちと忌まわしい過去に囚われた俺の心の弱さに
淫魔達の怨念が付け入ったんだろう。」
ベッドに腰掛けた自分の肩に寄り添うマァムをヒュンケルは強く抱き寄せた。
「……すまない……お前を…酷い目に遭わせてしまった…。俺がふがいないばかりに…!!」
唇を噛みしめ、ヒュンケルはマァムを抱く腕に力を込めた。
マァムはしばらく無言でいたが、ヒュンケルの顔を両手で包みニッコリ微笑んだ。
「もう、何回言わせるのよ。私はどんな貴方でも受け入れるって言ったでしょう。傷つけられても汚されても構わないって。
呪いに操られていたとしても、私の…・・・…を奪ったのは、間違いなくヒュンケルよ。
私は愛すべき人に初体験を捧げられた幸せ者よ。ね?」
小首を傾げるマァムを見て、ヒュンケルの胸は痛いほど切なく疼いた。
彼は言葉で答える代わりに、優しく唇を重ねる。…口を開いたら涙が溢れてしまいそうだから。
「…んんっ……」
ヒュンケルはマァムの全身をくまなく愛撫する。ひたすらに優しく。
それはまるで動物が傷を癒すために体を舐めるかのように。傷つけたマァムの心を少しでも癒せるように。
一番傷めつけた部分に口付けると鉄の味がした。まだ、血が滲んでいる。
それを見てヒュンケルの胸は張り裂けそうになる。
丹念に、優しく、何回も、傷つき汚された聖域を舌でなぞる。
「…ふぁっ…あぁ…んっ……はぁっ…」
次第にマァムが身をよじり出す。体も再び熱を帯びてきた。
しかしヒュンケルはただ丹念に愛撫を繰り返す。
「…ヒュ、ヒュンケル…」
マァムが涙目で彼の名を呼ぶ。手はシーツを握りしめ脚には力がこもる。
ヒュンケルの体にも汗が滲み熱を帯びだした。
血の滲んでいた部分はやがてしっとりと蜜があふれ出し、蕾は触れられるのを待ち望んでるかのように硬く震えだす。
ヒュンケルの愛撫とマァムの呼吸に合わせてヒクヒクと蠢く蜜壺は、まるでおねだりをしているように見えた。
「…やだ…」
マァムがうわずった声でヒュンケルに請う。
「私ばっかり…そ…そこばっかり気持ちよくなっても…あぁっ……なんだか、淋しいの…っ」
顔を上げたヒュンケルに潤んだ眼差しのマァムが手を伸ばす。
「…来て……。」
ヒュンケルは上体を彼女の体に重ね合わせ、キスをした。
息が出来ないほどの激しいキス。
重なり合った体は自然に、少女の秘所と男の熱いものを触れさせ合う。
唾液を連れながら唇を離し、ヒュンケルが問う。
「…いいか…?」
「…うん…」
くちゅっ、くちゅっ、といやらしい音をさせながら、ヒュンケルは自分の先っぽだけを少しずつ出し入れする。
「…う…あぁ…ぅ…」
入り口が緩んできたことを確認すると、今度は少しずつ中程まで埋めていった。
マァムの顔が苦しそうにゆがむ。
ヒュンケルは唇にキスをし、右手で硬くなった蕾をソフトに刺激した。
抗うようにきつかった道が段々柔らかくなっていくと、ヒュンケルは最後まで腰を押し進めた。
「ふ…あぁぁあ…っっ」
白い喉を仰け反らせて、マァムが苦痛とも快感ともつかない声を出す。
「マァム…マァム……!」
ヒュンケルが切なげな声で彼女の名を呼ぶ。
2人は、今確かに愛する人と繋がりあった喜びを感じていた。
暖かく柔らかく、ヒュンケルを捉えて離さないかのようにキュッと締め付けてくるマァムの胎内。
大きくて熱くて自分の中をいっぱいに満たしてくれるヒュンケルの身体。
2人の結合部分は溶け合うほどに熱く、胎内で混ざり合った互いの蜜を滴らせていた。
ヒュンケルがゆっくり腰を引くと、ヌチャッと淫靡な音がしてマァムに新しい快感を与えた。
入れられ満たされる快感と引き抜かれ焦らされる快感。
二つの波が交互に、最初はゆっくり次第に早く、彼女を快楽の渦へと呑み込んでいく。
「あっ、はぁっ、あぁあっ…」
ヒュンケルの動きに合わせるようにマァムの声があがる。白い胸がプルプルと揺れる。
限界が近いことを感じたヒュンケルが呻くように言う。
「…っ、マァム…!受け止めてくれ…俺の全てをっ…!!」
その瞬間、ヒュンケルはマァムの片足を高く持ち上げ、さらに深く彼女の胎内に押し入った。
「あぁぁあっっ!!!」
奥の奥で発射された熱い体液に、マァムの身体がビクンッと弾ける。
ドクドクと流れ込んでくる液体の感覚に、鳥肌が立つ。
2人はほぼ同時に果て、脱力した身体をベッドに預けたまま手を握り合い口付けをした。
「…愛してる…」
何度と無くその言葉を繰り返し合い、気が付けば寄り添うように眠りへと落ちていった。
ーまだ、昨夜そそぎ込まれたヒュンケルの情熱が胎内に残っている気がして、なんだかモゾモゾとする。
いつもはミニスカートから下着が見えても気にしないマァムが、今日はやけにスカートの裾を押さえて歩いている。
「なんだよ、変な歩き方して。先いっちまうぞ。」
道の先を歩くポップが振り返ってマァムに声を掛ける。
「ちょっと、待ってよぉ!!」
まだ、かすかに疼くマァムの身体に刻まれた、約束の証。
(ーあの人が…私の元へ帰ってくる証ー)
マァムは下腹部をそっと撫で幸せそうな笑顔を零れさせると
不自然な小股走りでポップとメルルの元に駆けていった。
その様子を離れた高台の丘から見ていたヒュンケルは、快晴の青空を仰ぐと
隣のラーハルトの肩を叩き「行くか。」と北へ向かって歩き出した。
パプニカの空がそれぞれの新しい旅立ちを祝うように爽やかな海風を降り注いでいた。