「どーしたの?レディの寝室に何か御用?」  
 レオナは読んでいたアバンの書を閉じ、ドアの前に立つダイに声を掛けた。  
 「……眠れません」  
 「なんで?」  
 「……ポップがマァムの所へいきました」  
 「だから?」  
 「……マァムがポップ連れてどっか出て行きました」  
 「散歩くらいいいじゃない。まだそんなに遅くないんだし」  
 「……分かってゆってるだろ、レオナ」  
 「何をよ」  
 「お姫様。……顔、笑いすぎですよ」  
 ダイはジト目ではぁと溜息をついた。  
 「やだぁ笑ってなんかないわよぉ〜ふーんへーそー。あの二人がねぇ…ふううーん。マァムはああゆう母性本能をくすぐる手合いが好みなのかしら〜。あたしには理解できないわ〜」  
 にやにや底意地の悪そうな顔つきでくっくっくっくと忍び笑いを繰り返しているレオナはベッドから起き上がり、ナイトテーブルにアバンの書を置いて束ねてあった髪を解いた。  
 「それで、どーしてあたしの部屋に来たの?まさかそんなこと報告するためにわざわざ近衛兵を遠ざけたんじゃないわよねぇ」  
 さらさらと流れる長い髪の毛がぼんやり光るランプの光に透かされて輝いている。  
 「……相変わらず意地が悪いなぁ」  
 ダイがいじけた様な表情で後ろ手に鍵を掛けて、ベッドに近づく。  
 「ふふふ、だってダイ君から誘ってくれるなんてはじめてだもん」  
 両手を差し出してレオナがダイを抱きしめる。その表情は嬉しそうでいて安楽そのものだった。  
 「そうだっけ?」  
 「そうそう、いっつもあたしから」  
 「……そりゃごめん。」  
 
 フカフカのベッド、真っ白の天蓋から垂れるベッドカーテンがかすかに揺れる。  
 「二人ともあたし達の方が先輩だなんてきっと思いもつかないわよ」  
 くすぐる様な彼のキスを首筋に受けながらレオナが熱っぽい甘えた声でそう言うので、彼は唇から舌を出してゆっくり舐め上げた。  
 「あん……だって、ダイ君がこんなこと知ってるなんて…絶対思わないもの」  
 「……こんな、ってどんな?」  
 「あたしが首筋弱いってこととか」  
 「そうかなーポップは案外鋭いよ?」  
 「あははは、ダメダメ。ああゆう軽薄で純真そーなボクは恋愛の機微に関しててんで鈍感って相場が決まってるの。しかもその自覚すらない一番救えないタイプね」  
 「………………まぁ、反論はしないけどさ」  
 ふにゅふにゅする柔らかい女の子の身体。力を込めるたびに強い反発が返って来てとても面白い、とダイは思っている。どうして女の子ってぬくくて気持ちいいんだろう。  
 目を閉じて自分の胸にうずもれる彼を見ていると、レオナはなんだか誇らしい気持ちにすらなった。どんなに強いモンスターだってやっつけちゃう最強のあたしの勇者様。でもあたしきっとこの男の子の誰も知らない全部を知ってるわ。  
 「ね、服、脱がさないの?」  
 言いながらもダイの頭に腕を回し、子供を抱くような母親みたいに彼にキスをした。  
 「ん……もうちょっとこのまま」  
 「んふふふふ、勇者様は甘えんぼうさんね」  
 「ちっちが…………や、そうかもしんない。こうやって女の人に抱かれたことないから」  
 嬉しいんだ、と彼が言って黙ってしまったので、ふっと笑ってレオナはゆっくり身体を抱きしめる。  
 「いいの、たくさん甘えてちょうだい。あたし甘えられたら嬉しいの。ダイ君が甘えてくれたら嬉しいのよ」  
 ダイ君は太陽の匂いがするね。髪に顔をうずめてレオナがそう囁いた。今日のごはんはおいしかった?お風呂には誰と一緒に入ったの?このネグリジェは気に入ってもらえた?  
 その声に気持ち良さそうにダイが短く返事をする。  
 
 「あたしのこと好き?」  
 「うん、たぶん、女の子で一番、すき」  
 「…たぶん?」  
 「よくわかんないけど、こんなおれを知ってるのはレオナだけだから」  
 「……ん。じゃあ、許す。でも、もう一度ちゃんと言って」  
 「おれレオナがすきだよ」  
 ふるふると微かに彼女が震え出したので、ダイは思わず顔を上げた。眉間にしわを寄せて歯を食いしばるレオナが無言で震えている。  
 「ど、どうしたの!?」  
 声を掛けると、ゆっくりと唇が開いて声を絞り出すように彼女が言った。  
 「う、う、う、嬉しくて、泣きそう……」  
 涙出ちゃいそうで動けないのよ。その言葉を聞いてダイがぷっと笑って彼女を抱きしめる。  
 「泣かなくていいじゃん。ヘンなの。ばかだな、このくらいで」  
 「ばかとは何よ、失礼しちゃうわ」  
 「ごめん、でも、ばかだ。レオナが好きって言って泣かれたら、おれ、どう言えばいいんだよ。  
 泣かないで、お願いだから。いっぱい、これからも笑ってるレオナに言わせてよ、すきって」  
 少年の胸の中で少女が声を殺して泣いた。  
 長い長い時間、あふれ出る涙が止まらなかった。  
 嬉しさと、彼女には理解できないもっと他の何かに突き動かされて彼女は泣く。  
 「あ、あたし、あたし、ダイ君のこと、すき、すき、だいすき、だれより、なにより、あんたが一番好き、ダイ君のためだったら、あたしなんでもする、なんでもなる、なってみせる」  
 ひっくひっくとしゃくりあげる様に声が細切れになっていて、ダイばそれを少し困ったように聞いていた。まいったなぁ、なんて思いながら。  
 「うん、うん。わかってるよ。……わかってる。大丈夫」  
 彼は自分が幼い時に祖父にそうしてもらったように、彼女の背中をポン・ポン・ポンと軽く穏やかにさするように叩いた。眠る前、祖父が心臓の鼓動を鎮めるように、ポン・ポン・ポン。  
 「お姫様も甘えん坊だなぁ」  
 
 向かい合わせになって、お互い相手の胸に手を置いた。力強く脈打つ振動が心地いい。  
 「優しくしてね、最近胸がおっきくなって触られると痛いの」  
 手に感じる温かい体温の向こう側に、触れられない心を感じる。レオナの、自分を求めている心がまるで手に取れるかのようだ、とダイは思った。  
 指に少し力を込めてゆっくりと力を抜き、また力を込めた。  
 「……ん……もっと強くしていいよ」  
 頬を朱に染めて恥ずかしそうにそう言う彼女の唇をそっと奪う。目を閉じて、身体を押し倒す。  
 「ほんと、最初はへったくそだったのに、キス、上手になったね。胸も、ちゃんと、痛くないよ」  
 囁き声にあえて返事をせずに肩に掛かっているネグリジェのストラップを解いて、眠るときには下着を着けないレオナの白い肌をアラワにする。  
 「……きれい……」  
 ぽつりとつぶやいてそこに指を這わせる。ピンク色の先端に。  
 「やっ…ばかぁ……!」  
 あ、あ、あっ……やぁ、んっ……いや、痛い……のに、きもちいいよぉ……  
 ひくひく動いている跳ね回る腰が、レオナの感度を物語っているみたいで、ダイは更に指に力を入れたり抜いたりしてくりくりいぢってみた。  
 「やぁっあっあっあぅうぅん…もぉ、やだぁ……ちゃんとしてよぉ」  
 恥ずかしい、こんなのどこで覚えたの?えっちなんだから。ちょっと眉をしかめながらレオナがダイの指から逃げる。  
 「どこで……うーん、難しい質問だなぁ……強いてゆえば、滝?」  
 「はぁ?なにそれ」  
 「……いや、忘れて。なんでもない」  
 ぱたぱた手を振るダイにむっとしてレオナが口を尖らせた。  
 「白状なさぁい!言いかけて止めるなんて卑怯よ」  
 両手でむにーとダイのほっぺたを摘んで引っ張る。  
 「いたたたた。やめ、やめてよ、言う、言うからさー」  
 ひりひり痛む頬を両手でさすりながらダイが溜息を一つついて観念したように喋りだした。  
 
 
 「……ゲ、青姦……」  
 「なにそれ?」  
 「いーのよ、ダイ君は知らなくてッ  
 ……しかし意外だわ、あのおカタそうなマァムが……むぅ、意外に策士ねあの魔法使いクンは」  
 どーやって落としたのかしら、もんのすごい気になるわ。今度聞いてみよーかしら。ぶつぶつレオナが自分の世界に入ってしまったので、ダイが困ったように溜息をついた。  
 「とまぁ、そういうわけ。くれぐれも浮気とかじゃないのでその辺、よろしく」  
 にやりと笑ってダイがそんな事を言うので、レオナが両腕を広げてヘッドロックをかます!  
 「あたしがそーゆー醜い嫉妬をすると思ってんの!?ええっそんな浅ましい女だと思ってたの!?こらあダイ!」  
 「わあ、ぎぶ、ぎぶ!思ってない!思ってないよ!全然思ってません!」  
 その割りに久々に会った時マァムのことを勘繰ったねぇ、なんてことは一切言わなかった。案外レオナは武道家に向いてるのかもしれない、と思ったから。  
 「ほんとぉ?全然思ってない?」  
 「思ってない!じいちゃんに誓って!」  
 なら、いいけど。レオナはようやく腕を解いてげほげほ言うダイの背中をさすった。  
 「……んもう…なんでおれの周りの女の子ってみんな暴力的なんだろ……ハドラーより怖いな」  
 「当たり前よ、女の子はそこに居るだけで偉いんだから。男の子なんか太刀打ちできるわけないじゃない」  
 ふん、と胸を張って威張るレオナにダイは不思議そうに尋ねた。  
 「なんで?」  
 「家を作れるからよ。あんた達男の子の帰ってくる場所になれるから。  
 無茶して、泥と傷だらけになったボロボロの人間を待って迎えることが出来るから。傷が癒えたら泣きながら諦めながら送り出すことが出来るから。だから、偉いの」  
 ぽん、と彼の胸のに頭を預けて小さな声で彼女が言った。  
 「ダイ君…これからもっと戦いだって酷くなる。こんな事もうしてられない。そんできっとあなたあたしの知らない所に行っちゃうんだわ…」  
 
 窓のカーテンが風を受けてゆらゆら揺れる。少し冷たい風が部屋に入ってくる。  
 行かないよ、そんなとこ。笑いながら彼がそう頭を撫でてくれたが、彼女はぐりぐり胸に顔を擦りつけるように頭を左右に振った。  
 「行くわよ、絶対、あたしの手の届かないようなとこに」  
 「――――――なんで…そんな風に思うの?」  
 「別に。単なる女のカン。  
 ……そんな所へ行ったっていいの。どこへいったっていい。でも……絶対あたしのとこに、帰って来て。約束してちょうだい、絶対に、帰って来るって」  
 声が震えていた。肩が震えていた。  
 強気な彼女の弱気なセリフ。それを彼は失笑で吹き飛ばす。  
 「ばぁか。どっこも行かないよ。おれは甘えん坊のお姫様の世話があるんだよ、おれにしか出来ない、ね」  
 レオナらしくないなぁ、いつもなら死んだってそんな事いわないって言うくせに。おれが居なくなったら寂しい?って聞いたって平気よって……おれ、あの時すんごい凹んだんだから。ダイがさすりながらぼそぼそと言葉を背中にぶつける。  
 愛しいのに、憎い様に。  
 労わるのに、殴る様に。  
 「……だって!……悔しいじゃない、負けたくないのよ」  
 「何に?」  
 「わかんないけど負けたくないの。あたしを負かそうとする、神様とかそんなものに」  
 そこまで言ってまだ流れ出そうになる言葉をぐっと堪え、彼女が身を縮めた。彼はそれに不思議なくらいに庇護欲を感じた。  
 「………………レオナ…いま、してもいい?なんかすんごい、グッと来ちゃったんだけど」  
 「…勇者様のすけべ…」  
 「ふん、すけべな勇者で悪かったね」  
 ダイは自分のパジャマを器用に脱ぎ捨てて、素肌のレオナに再び覆いかぶさった。その温かさと心地よい重さにレオナがはにかむ。  
 「……いいよ、えっちなダイ君。あなたがだいすき。居なくなったら、あたし大泣きよ」  
 にっこり笑うレオナに、ダイは頬を染めて嬉しい、と一言だけ返した。  
 
 レオナはマァムより小さいって拗ねるけど、おれはこっちの方がいいなぁ。だって触ってると面白いんだもん。レオナはここが感じるんだよね。  
 彼がそんなことを言いながら彼女の成長を予感させる胸をゆっくり揉みしだいている。彼女はといえば全くの無言で、蠢く指と手のひらに身を任せて身じろぎしない。  
 「レオナは気持ちいいと喋らないんだねぇ……でもそんな平気な顔したってダメだよ。顔真っ赤だし、身体ひくひくしてるもの」  
 くすくす笑うみたいに少年が指を躍らせるたびに彼女の首筋が、眉が、唇が、艶かしく動く。  
 指が、人差し指が胸からずずーっと線を引っ張るように滑っている。焦らすように、確かめるように、ずずずずずーっ。  
 「あん!も、やだぁ!」  
 「やめないよ」  
 くぅ、と鼻を鳴らしてシーツをくねらす腕で掴むように抱きしめるレオナの恥丘にダイの指が到達する。  
 「いいね、おれより濃くて……興奮するよ」  
 「……バカぁ!」  
 「あ、そんなこと言うんだ?勇者様にそんな暴言吐いちゃうんだ?……こりゃお仕置きだねぇ」  
 くくくくく、押し殺した低い笑い声がして、指が入り口を旋回するみたいに這い回って、突き立てられる!  
 「きゃひぃ!」  
 「柔らかぁい……ぬるぬるだからすぐ入ったよ……感じちゃったんだ?」  
 「そっ……そんなこと……言わないで」  
 キリリ、歯軋りする小さな音が彼の背中をゾクゾクさせる何かを一層強くさせた。  
 「おれをこんなにしちゃったのはレオナだろ?何にも知らなかったおれにこんなこといっぱい教えたくせに」  
 だから責任とってね。差し込んだ指を少しだけ折り曲げて揺さぶる手を少し強くする。  
 「やぁん、あっあっあっ……あぅうん……だってぇ……飲み込み早いんだもん……」  
 面白いからついつい教えるのに熱がこもっちゃって。少女らしからぬはしたないセリフを口の端から垂れ流しながら、その細く美しい肢体をくねらせた。  
 
 ずずずずず……埋まってゆく身体。一つになる精神。  
 「ぜんぶ、入ったよ」  
 「ん、わかる。あたしのなか、ダイ君でいっぱいだぁ」  
 抱きしめあいながら確かめるように二人はキスをした。とろけるような、慣れた、キス。  
 舌が蠢く。唾液が送り込まれる。敏感な唇に何度も歯が当たる。くちゅくちゅ鳴る音が耳をくすぐってて恥ずかしくって心地いい。  
 「ふふふ…ポップがね、マァムにこんなことしてたんだけど……それがもうなんか見てるこっちがハラハラするくらいへたっぴでさぁ、何度出てって教えてやろーかと思ったよ」  
 キスだってなってないし。あれじゃ息出来ないよねぇ。楽しそうにダイがそう言うのでレオナがぷうっと膨れ面をする。  
 「もう!あたしとしてるときにあたし以外の人のこと考えないで。  
 ったく、ほんとダイ君はポップ君の信者ね。なにかにつけてポップポップって。そんなに好きならポップ君とえっちすれば?」  
 そんなレオナの言葉にきょとんとしたダイは、ぶっと噴き出してけらけら笑った。  
 「あはははは!ごめん、ごめ……ぷぁははははは!ひひひひひ!  
 嬉しい!レオナが嫉妬してる!ポップに嫉妬してるよ!うふふふははははあははは!」  
 だめ、ごめん、おなか痛いよ、ごめん、止まらない。ダイがゲラゲラ派手に笑うのでレオナは顔を真っ赤にして怒鳴りつける。  
 「な、何がそんなにおかしいのよっ!あたしだって女の子なのよ!嫉妬くらいするわよ!悪い!?あたし別に聖人じゃないもの!」  
 違う、嬉しいんだよ、だっておればっかりがキミのこと好きなような気がしてたから。だから嬉しくって笑っちゃうんだ。  
 ようやく笑い声を止めてダイがレオナの唇を奪う。  
 「ごめんね、安心しちゃった。おればっかり汚いみたいな感じがしてて。会えないとき、いっつもキミがおれのこと忘れて楽しくしてるんじゃないかって思ったらなんか、ここんとこが痛くて嫌な気持ちになったよ」  
 指でレオナの胸の先端を突き、また指を離す。  
 「レオナもおれも生きてるんだね。みんな、生きてるんだね」  
 
 そうよ、生きてるから、ダメな時もあるわ。だから頑張るの。みんな、ダメな心に負けたくないから頑張るんだよ。  
 目を閉じた彼女の顔をじっと見、彼がそうだね、そうだ、その通りだ、と答えて腰を引いた。  
 「ひぃ…んっ」  
 最初は揺するように。次に叩くように。彼女が一番好きな手順。  
 唇をかみ締めるみたいに真一文字に結んでいるのに、不思議に聞こえる喘ぎ声が曇っていない。  
 両手を彼女の肩の上に付くことは身長差からできないから、両手の指を絡ませて握り締めて身体を固定するのが彼らのやり方だった。  
 最初はこんなところにおれが入るなんてって思ったけど……経験ってコワいなぁ。ダイが上の空でそんなことを思っていると、頭の上の方から声が降って来た。  
 こら、今違うこと考えてるでしょ。顔に出てるわよ。もう何年も連れ添った夫婦のような事を彼女がにやりと笑いながら言う。  
 「レオナのこと考えてるよ。ずっと。ずっとね。」  
 「うそ。わかるんだから、ダイ君のことなんて、あたしみーんなわかっちゃうんだから」  
 「嘘じゃない。ほんと」  
 「…………じゃ、そういう事にしておいてあげるわ」  
 ため息に似た吐息を漏らして、少しづつ強くなっているダイの腰の動きにあわせるようにレオナが身体を揺らす。  
 「ね……もう、あたし、いきそう……やぁ…ン……ごめん、久しぶりだから感じちゃって……もう、ダメかも…ッ…」  
 はぁはぁ途切れる声の合間を縫ってレオナが切ないギブアップをダイに伝える。  
 「いいよ、いって。  
 いっぱいいって。そんで、エロぉいレオナの顔、見せて」  
 やだ、へんたい、ばか。  
 へんたいだよ、おれ、へんたいさんだもん。  
 あっあっあっあっ……あたしへんたいさんだいすきぃ!  
 ふふふ、おれも、エロいきみがだいすきだ。  
 「あああぁぁあぁーっ!!」  
 
 
 みんな黙って食事を取っている。  
 変な沈黙。  
 誰も目を合わせない。  
 黙々と食べているだけ。  
 小さくなっているのはダイとレオナ。  
 レオナはいつもの普段着だが、ダイはいつもの装備ではない。  
 「……あー、ときにダイ。…………装備はどうした?」  
 ポップがわざとらしく空々しくそんなことを言ったが、ぐっという押し殺した悲鳴が聞こえてポップはそれ以上なにも言わなかった。  
 きっと隣のマァムに足でも踏まれたのだろう。  
 全員がそれを表情一つ変えずに無視している。……大人だ。  
 みんな知っているからだ。朝、ダイがレオナの部屋から一緒に出てきたことを。  
 「…………えーと、あのね?  
 アバンの書をね?ダイ君が読めないってゆーから聞かせてたらそのまま寝ちゃってね?」  
 レオナがついに沈黙に耐えられなかったのかそんなことを言い出したが、ダイが俯いただけで誰も何も言わなかった。  
 「だから……別にそんなに気を使わなくていいのよ?」  
 固い声を絞り出してレオナがそう言い終わった後、なん呼吸かおいてヒュンケルが口を開いた。  
 「ええ存じております姫。  
 ですが――――――兵の士気にも関わりますので窓は閉めておかれたほうがよろしいかと」  
 
 
 ダイとレオナのはなし「モダン・ラヴァーズ」  おわり  
 

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