夜、俺が家でゆっくりしていると、突然ドアホーンが鳴った。ドアを開けると、そ
こには螢が寂しそうな眼で立っていた。
「……高杉君…ごめんなさい…こんな夜に……」
そう言うと、螢は俯きながら口を噤んだ。一体、何があったのかわからないが、こ
のまま外で野ざらしにする訳にもいかない。兆度、父さんも母さんも仕事で、明日か
明後日まで家には帰らないから、螢を家に入れた。
「入れよ」
「…はい……」
申し訳なさそうに言いながら、螢は家に入った。
「それにしれもどうしたんだよ?急に家に来るなんて…」
すると螢は、後ろから俺にそっと抱き付いてきた。涙声で呟く。
「お願い、何も聞かないで……我侭かもしれないけど…」
何か聞いちゃいけないような事を聞いたみたいで、気まずい気分になった。
「そうだ、まだ風呂入ってないだろ?俺、風呂温めておくよ」
「…でも……」
「よかったら飯も作ってやるよ。俺、結構料理得意なんだ」
この気まずい雰囲気を切りかえるべく、俺はそそくさと風呂の準備にしに風呂場
へ行った。
今、螢は風呂場でシャワーを浴びている。何度も何度も覗こうとしたが、その都度、
良心が阻む。夜、家で女の子と2人っきりでいるのが、こんなにドキドキするものだっ
たとは……こんな気持ちは初めてだ。
螢が風呂から上がった。どうやら着替えを持ってきてなかったので、俺のパジャマを
着せてあげた。ちょっとだぶっこいけど、まんざら悪く無さそうだ。俺と螢は2階の部
屋で暫く黙り込んだ。螢の体から綺麗な石鹸の香りがしてくる。普段あんまり笑わない
けど、近くで見ると結構可愛い。
ふと時計を見ると、もう10時をとっくに過ぎていた。
「螢、今日はここで寝ろよ」
「え、高杉君は…?」
「俺、1階のリビングで寝るわ」
さすがに女の子と一緒に寝るのに照れを感じてか、俺は部屋を出ようとしたが……
「嫌っ!!」
何と、螢が後ろから俺に抱き付いてきた。
「お願い…一人に…私を一人にしないで……」
涙声で訴える螢。パジャマ越しに、螢の胸の感触が俺の背中に伝わる。思いがけない
状況に、俺の心臓はドクンドクンと鳴った。
「螢、お前家出して来たのか?」
今、俺は螢と一緒にベッドで寝ている。何かを訴えるような眼で、俺を見つめる螢
に、俺は話を切り出した。俺の問いに、螢は黙ったまま何も答えなかった。
「婆やさんとけんかでもしたのか?」
すると螢は、首を横に振った。じゃあ一体、どうして家を飛び出したんだ?しかも、
よりによって俺のところに……?間も無く、螢の口が開いた。
「愛が……あなたの愛が…欲しかったから…」
言い終えると、螢は顔を真っ赤にして俯いた。
「地球の意志が貴方を選んでから…私はずっと…貴方の力になろうと思って……」
「はは…気持ちは嬉しいけどよぉ……俺の愛が欲しいだなんて…照れるぜ……」
思わず俺は苦笑いした。すると、螢はすっと起き上がり、震える手でパジャマのボ
タンを一つ一つ外していった。
「私には、心から愛せる人はもう貴方しかいないの。私はずっと貴方を見ていた。貴方
ならきっと愛せる。…でも……」
「螢……」
「私は明るく元気じゃないし、こんなはしたない真似でしか気持ちを伝えられない……
ごめんなさい……」
震える体を抱き締めながら、涙声で俯く螢。
「何言ってるんだよ!そこまでして俺に気持ちを伝えようとするなんて…ちょっと照れる
けど嬉しいぜ」
そう言うと、すかさず螢にキスをした。螢の唇の感触は小振りながら、柔らかくて暖かい。
螢はこの不意打ちに一瞬驚いたものの、拒絶する素振りを見せなかった。
「大丈夫、俺に任せてくれ」
俺の言葉を受けると、螢は笑顔を浮かべながらベッドに横たわった。