ダガーン、あの戦いから5年の月日がたったよ。  
セイバーズ、ランダーズ、俺はあの戦いを絶対忘れない。  
みんなで守った地球の未来は俺たちが必ず守り続ける。  
あの時とは違うたあいのない日常が続いているけど、俺はそれがどんなに大切か知ってる。  
でも、あの戦いの時とは違う感情がいつしか俺の中に雪のように降り積もってきた。  
あいつと一緒ならなんでも出来ると思える信頼からはじまったこの感情にはどんな名前がつくのだろう・・・。  
 
今朝、学校へ行く途中、星史は蛍と出会う。  
普通の挨拶をかわした途端、二人の足元に大きな黒い穴が出来た。  
落ちていく中でとっさに手を握り締める二人。  
そして気づいたら見知らぬ森の中に手を握ったまま二人で倒れていた。  
同時に目覚める二人はお互いの無事を確認した後、周りを見回す。  
「蛍、ここはどこかわかるか?」  
「いいえ・・・。でも、こっちの方に人の気配がするわ・・・。」  
「じゃあ、とりあえずこっちの方へいってみるか。」  
「でも、何か不吉なことがおこりそうな予感もするの・・・。」  
「他に人のいる場所はありそうか?」  
「それはわからない・・・」  
悩んでしまう二人。星史は蛍の手をとって蛍の言った方向へ歩き出す。  
「とにかく、こっちの方へ歩いてみよう。何かあったら戻ればいいだろ?」  
星史は二カッと蛍に笑いかけた。その顔をみてクスリと微笑み返した蛍。  
手をつないだままどれ位歩いたのだろう。  
だんだん森の空気が変化しているのに気づいた蛍は足を止める。  
「どうしたんだ、蛍」  
「高杉くん、この森・・・」  
言葉を続けようとした蛍の声を遮って別の声が二人の頭上から響いた。  
「お前たち何者だ!」  
声のする方を見てみると、高い木の上にだれかがいた。  
「俺たち道に迷ったんだ。ここはどこなんだ?」  
「質問があるならこの木にのぼってこい。」  
「お前が降りてくればいいだろ。」  
星史の言葉にそれきりだまってしまう木の上の人物。  
「しょうがないな。俺この木に登ってくる。蛍はここで待っててくれ。」  
うなづく蛍。  
星史が登っている木は、周りの木々に比べ特に高い。  
あと少しで先ほどの人物のところという枝に足を置いた星史はふと木の下にいる蛍を見る。  
木の下に小さく見える蛍は心配そうな表情をしている。  
そんな蛍を見ていた者がいた。  
その男は蛍の背後から近づき気絶させて連れ去ってしまう。  
「蛍!」  
急いで木をおりはじめる星史。  
蛍を連れて行った男を追うものの、見知らぬ森なので迷ってしまう。  
困ったと思いながらとにかく歩いていると村が見えてきた。  
 
その村を見回して蛍を探す星史の目に先ほどの男が白装束を着た老女に蛍を引き渡している姿が映った。  
「蛍!蛍をかえしてもらう。」  
白装束の老女の前に駆けてきた星史。老女はゆっくりと星史の方に振り向いた。  
「この娘はそなたのなんじゃ。」  
「えっ・・・大切な・・・友達だ。」  
「そうか。ならその友達を我らにゆずってくれんかのう。」  
「そんなこと出来るわけないだろう。」  
「我らにはこの娘が必要なのじゃ。」  
星史と白装束の老女の周りにいつのまにか沢山の村人が集まってきた。  
老女は星史に長い話を語りだす。  
この村は八岐邑といい、近くには八岐湖といわれる湖がある。  
八岐湖は何十年も前に空から黄色い粉が降ってから変わった。湖の中の魚が次々死んだり、変化するようになった。  
変化したものの中に水蛇がいる。水蛇は徐々に巨大化し黄色い粉の影響が身体に苦痛を感じさせるらしく春頃に村を襲った。  
その時に何人もの村人が亡くなった。  
それで7年前春頃に一人の乙女が生贄になった所、その年は水蛇が暴れなかった。  
それから毎年一人の乙女が生贄になっている。今年の生贄は6歳の少女が選ばれていた。  
が、この生贄を選ぶなかでひとつの例外があった。それは村人以外の娘が春頃に村に現れたら、その娘を生贄にするというものだった。  
「この娘には悪いと思うが、この村の為生贄になってもらう。」  
「ふざけるな!蛍はかえしてもらう。」  
星史は蛍の所に駆け寄ろうとするが、周りにいた村人たちが星史を地面に押さえつける。  
「ちっくしょう、離せ!蛍。蛍!」  
星史の声に目覚める蛍は、星史の姿を見て何となく状況を察した。  
「高杉くん・・・。高杉くんを放して・・・」  
蛍が白装束の老女に話しかける。  
「それはそなた次第じゃ。そなたこの村にいてくれるか?」  
「蛍、そいつらはお前を・・・」  
さるぐつわをされてしまう星史。  
「わかりました・・・。だから高杉くんを助けて・・・」  
「取引成立じゃ。娘をこの家に閉じ込めておけ。」  
蛍を数人の女性が連れて行く。老女が星史を見て  
「この者は明日、村の外へにがしてやれ。」  
この間、星史はさるぐつわをされているのに何やら声をだそうとしている。老女はそれを見て、  
「最後にひと言話してみよ。」  
さるぐつわを取り外された星史。  
「その水蛇を俺が何とかする。だから蛍を還せ。」  
この台詞に村人たちがざわめいた。  
「そなたが水蛇を倒せるというのか?」  
「そうだ。」  
「水蛇には村人がたばになっても敵わなかった。お主ごときが、どうやって倒すというのだ。」  
「どんなやつにも弱点があるはずだ。絶対何とかしてみせる!」  
星史はダガーン達と戦った経験からそう思った。そんな星史の目の中に輝く光を見た老女。  
「面白い。もしなんとか出来るなら娘を返してやろう。しかし、出来ないなら、明日予定通り生贄にする。」  
 
「その水蛇ってのはどんな奴なんだ。」  
「詳しくはこのカイに教えてもらうといい。」  
そういって白装束の老女はその場から去っていった。カイといわれたのは星史と同じ年齢位の男の子だ。  
「水蛇は巨大で表面がうろこに覆われてる。このうろこがつるつるすべって剣も矢もはじいてしまう。口が大きくて人間を丸呑みにしてしまうんだ。」  
「他に特徴は?」  
「酒が大好きなことかな。」  
「酒か。そういえば、ここに油はあるのか?」  
「油はある。何か策でもあるのか?」  
「ああ。すごく強い酒と油と松明の火と長剣を用意してほしい。」  
「わかった。明日までには用意させる。」  
「もっと早く用意出来ないのか?」  
「すぐは無理だ。どんなに急いでも明日になる。」  
「まさか、蛍を生贄にさせるから用意を遅らせるつもりじゃないだろうな?」  
「そんなことはしないさ。なんせ、本来は僕の妹が生贄になる予定だったからな。」  
「え?」  
「水蛇を倒す戦いには僕も矢をもって参加する。生贄なんてないほうがいいからな。」  
「それはありがたい。その声、木の上にいたのはお前だろ?」  
「そうだ。」  
星史とカイは水蛇を倒すために議論をつづけた。  
 
次の日、星史は朝早く目が覚めた。外はまだ暗い。  
でも頭の中が不思議とすっきりしていた。これはオーボスとの最後の戦いのときに味わった感覚に似ていた。  
カイは星史に用意したものをみせる。  
星史が剣を背中に背負い、酒樽をもち、カイが矢を肩にかけて油と松明をもって八岐湖に向かった。  
暗い森の中を歩いていく星史とカイ。  
「八岐湖ってまだなのか?」  
「もうすぐだ。なぁ、ひとつ聞いていいか?」  
「なんだ?」  
「何故、あの娘のために闘うんだ?好きなのか?」  
「うーん。蛍のことか。あいつは不思議なやつだ。でも蛍と一緒ならどんなことも出来るような気がするんだよな。なんでだろう?」  
星史にとって蛍はいつも多くを語らずに導いてくれる存在だ。  
蛍のために何かすることが出来ると思えるこの感情が何に由来するものか星史にはわからない。  
ただひとついえるのはめったに人には見せない蛍の笑顔を俺はとなりでみていたいと思うことだろうか?  
そんな思案している星史をみて、カイが言った。  
「お前らって友達以上恋人未満の関係なんだな。」  
 
いつしか日の出になったらしく、だんだんと明るくなってきた。  
八岐湖についた星史とカイ。松明や酒、油の用意を整え剣を持って立つ星史。  
「さあ水蛇、いつでも来い!」  
星史がもっている竹刀よりずっと重い剣を振り回して構えた星史は言った。しかし八岐湖はしーんとしている。  
「おいカイ、水蛇はいつでてくるんだ。」  
「知るか!来るまで待つしかないだろう。」  
「そんな・・・」  
絶句する星史は少し気が抜ける。それでも水蛇はなかなか現れなかった。  
 
 
水蛇を待つ星史とカイの前に村人たちが蛍を連れてきた。  
「蛍!」  
「高杉くん・・・」  
蛍は華やかな白い着物を着て、髪も髪飾りで結っている。  
蛍のところに駆け寄る星史。  
「その服は?」  
「生贄の者は花嫁衣裳をきるんだって・・・」  
「な・・・。水蛇にやるくらいなら俺がもらってやるよ。」  
思わず出た言葉に星史自身驚いた。  
つい見つめ合ってしまう星史と蛍。  
ゴゴゴ・・・。  
八岐湖からすごい水音が響いた。  
驚いた星史と蛍や村人たちは一斉に湖上を見る。  
八岐湖に全長30メートルはあると思われる巨大な蛇がいた。  
目は黄色く輝き、赤い舌がチロチロと動いている。  
「こっ、これが水蛇か!」  
「でっ出た〜!」  
驚いている星史の脇を蛍を連れてきた村人たちが逃げていく。  
水蛇はゆっくりと八岐湖の岸辺に向かってくる。  
そして岸にあがり蛍の方へ少しずつ近づいてきた。星史は横にいる蛍に叫ぶ。  
「離れてろ、蛍。」  
蛍は水蛇が自分の方に来ようとしてるのがわかった。後ろを向いたらすぐに襲ってくることも。  
「カイ!」  
水蛇に向かって矢を放つカイ。  
それをうけて水蛇の意識がカイに向いたのを見て星史が剣を振り下ろす。  
それを何回もやってみるがうろこがぬめって剣が通らない。  
そんな星史の方に振り向いた水蛇。  
星史は水蛇の口目掛けて小さい酒袋を投げつける。酒袋は薄いので水蛇は袋の中に酒があることがすぐわかった。  
「酒が欲しいなら、こっちに来るんだな。」  
星史は水蛇に叫ぶなり、森の中に逃げ出した。星史を追ってくる水蛇。  
森の中を走り続ける星史。水蛇は胴体を完全に湖から出していた。  
水蛇は星史をはじめ、ゆっくり追っていたが、間合いが近づいたと思った瞬間、ものすごいスピードで星史を丸呑みしようと大きな口をあけながら襲い掛かってきた。  
すぐさま横に逃れる星史。しかし、水蛇の大きな顔は星史のすぐそばだ。  
「酒樽はあそこだ!」  
星史は酒樽を指さすが、水蛇は星史をじっと睨んでいる。  
「ちょっと・・・あっちだっていってるだろう!」  
星史は冷たい汗が流れるのを感じた。  
 
星史がピンチに陥っているとき、カイがかねてからの予定通り、松明の火を水蛇の尾になげつけた。  
すぐさま油を火のところにビシャッとかける。  
火はまたたくまに広がった。そこに矢を射てみる。ぬめりが消えて矢が刺さった。  
「星史のいうとおりだ。」  
尾の熱さに水蛇は星史から自らの尾の方へ視線を移す。  
カイの方へ火のついた尾を振って攻撃する水蛇。木になげとばされるカイ。  
しかし他の木々に火が移っていくのを見て水蛇は水岸にもどろうとする。  
「そうはさせるか!」  
星史は持っていた油をぶち投げ手近な松明を水蛇に投げる。  
そして火のついたところに剣を振り下ろした星史。  
うろこに覆われた皮がばっさりとさけ、返り血が星史につく。  
「あつっ・・・。」  
その返り血が焼けるように熱いので、一瞬顔をしかめる星史。  
その隙を水蛇は狙っていたかのように星史を丸呑みしようともう一度襲ってきた。  
やばいと思った星史。  
ごろごろところがってきた酒樽がそんな星史を横に転ばせて救う。  
その酒樽を星史のかわりに一飲みにする水蛇。  
酒樽のころがってきた方向には蛍がいた。  
強い酒を飲んで少し目が据わってきた水蛇。酒樽をころがせた蛍の方へ行こうとする。  
星史は返り血を浴びた腕の熱さを忘れて水蛇に油をかけ、最後の松明をなげつける。  
しかし、水蛇は火のついたまま今度はよそみをしないでまっすぐ蛍のところへ向かう。  
そして口を大きく開けた。  
星史は出来る限り高く飛んで水蛇の首をゴトンっと落とす。  
星史が蛍の傍に来て声をかける。  
「大丈夫か蛍?」  
「高杉くん、前!」  
首だけになった水蛇が星史と蛍のところへ飛ぶように向かってきた。  
星史は剣を水蛇に向かって構える。  
蛍は星史の傍にそっと寄り添う。  
その二人を丸呑みにする水蛇。  
それはカイの目の前の出来事だった。言葉を失うカイ。  
 
首だけの水蛇の頭の上に星史の剣のきっさきが見えている。  
そのきっさきがゆっくりとしかし確実に動いている。  
そして星史と蛍を飲み込んだ水蛇の頭がパカッと二つの割れる。その中には二人が立っていた。  
星史と蛍はお互いの顔を見た。  
二人とも水蛇の血にまみれている。そしてその血はやけるのような痛みを星史と蛍に与えた。  
顔をしかめている二人に駆け寄ってくるカイ。  
「すごいぞ星史。水蛇をやっつけたんだ。もう村から生贄をださなくてすむんだ!」  
カイの喜びの声に二人は痛みに答えられない。  
「水を・・・真水で身体を洗わないと・・・」  
「あの湖ではだめなのか?」  
「だめ・・・あの湖は穢れているから・・・」  
「わかった。すぐ村にいって水を持ってくる。待っててくれ。」  
カイは駆け出して村に向かった。  
 
カイが駆け出していくのを見送ってから、寄り添いながらゆっくりと村へ歩いている星史と蛍。  
無言のままお互い水蛇の返り血による痛みに耐えている。  
蛍は心の中で一心に祈る。  
『どうか・・・雨よ・・・降って・・・お願い・・・』  
雨が降ることを祈っている蛍。  
『お願い・・・』  
ガラガラガラ・・・  
急に雷が鳴り出した。そして二人の目の前にある木に雷が落ちる。  
バキッ・・・。  
雷のおちた木はその衝撃で二つに割れる。  
その雷の衝撃に星史と蛍は目を見開いた。割れた木をしばらく見つめていた二人にポツポツと雨が降り出した。  
蛍の祈りが届いたのだろうか。その雨は次第にどしゃぶりの雨に変わっていく。  
その雨を一身に受ける星史と蛍。雨がやけるような熱さを冷やしていく。  
返り血の痕がわからなくなるくらいの雨だ。  
「蛍が雨を降らせたのか?」  
「風が雨を連れてきてくれたの・・・」  
蛍が星史の質問にそう答えた。そして蛍は星史の方を向いて  
「高杉くんが生きててよかった・・・。」  
「俺も蛍が無事でよかったと思ってる。」  
二人は改めてお互いの無事を確認した。その安心した気持ちが笑い声を呼んだ。  
「クスクスクス・・・」  
「ハハハハハハ・・・」  
笑い声がいつのまにか止んでいた。二人はお互いの姿を見つめる。  
星史の目に蛍は雨にうたれびしょ濡れで、身体のラインがはっきりして見える。  
蛍の目には星史がまっすぐに射るような目で自分をみているように映った。  
磁石に引き寄せられるようにどちらともなくお互いを抱きしめていた星史と蛍。  
星史は蛍の額に静かにキスをする。  
それを受けた蛍は瞳を閉じ、二人は初めて口付けを交わす。  
蛍の髪に右手をまわしていた星史は髪飾りをそっとはずす。  
結い上げられていた蛍の髪は重力に従っておりていく。  
星史は蛍の長い髪を手に絡ませる。髪飾りが地面に転がった。  
そして・・・  
 
ジリリリリリリ・・・。  
目覚まし時計が鳴っている。目が覚めた星史は時計を止める。  
今までのことは全部夢だったのか?あんなにあざやかに覚えているのに・・・。  
とにかく、学校に行く仕度を整える星史。  
家を出て学校に行く途中に公園がある。その公園のブランコに蛍がいた。  
「蛍、お早う。」  
「高杉くん、お早う・・・」  
ここは小学生の時、恐竜の言葉を蛍が星史に伝えた場所だ。その思い出と共に今朝みた夢を思い出す星史。  
夢の中の蛍の姿を思い出し、なんとなく蛍の顔をまともにみれない。  
「蛍・・・どうしてここに?」  
「私・・・高杉くんの夢をみたの・・・」  
「えっ、俺も蛍の夢をみたよ。」  
驚いた星史は蛍の顔をみる。  
「同じ夢だったらどうする?」  
蛍は星史が今までみたことのない、いたずらな娘の表情で笑っている。  
春風が蛍の髪をやさしくなびかせていた。  
 
そんな2人を微笑んで見ている存在がいる。地球に選ばれた少年と地球と心を通わす少女。  
お互い大事に思ってるのに、いつまでも自分の気持ちに気づかないニブイ2人にある夢を見せるお節介をした存在。それは地球。  
自らを助けてくれた2人を見守りながら、地球は今日も太陽の周りをまわっている。  
                             終  
 
 

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