幼稚園の頃からずっとそばにいて、あなただけを見ていたのに一体いつになったら私の気持ちに気づくのかしら?本当にニブイ奴。  
昔はね、早く気づいて欲しいと思っていたの。  
でも今は星史くんが私の気持ちに気づいて幼馴染の関係すら失ったらと思うと怖くなった。  
今の関係すら保てないなら気づいて欲しくないとも思う。  
私はいつからこんなに臆病になっちゃたのかな・・・。  
 
高2の秋、ひかるは昼休みに部活の先輩から屋上に呼び出されていた。その先輩はひかるに好意を持っている。そしてひかるも、うすうすその気持ちに気づいていた。  
「ごめんなさい!」  
先輩の告白にひかるは断った。  
「誰か好きな人がいるの?」  
「はい。」  
「そっか。その人の名前聞いていいかな。」  
「それは・・・」  
「諦めさせてほしいんだ。」  
「高杉星史くん。幼馴染なんです。」  
「幼馴染って、もしかしてずっと好きだったとか?」  
「はい。幼稚園の頃から片思いしてるんです。」  
「そっか。なら絶対ソイツを振り向かせるんだぞ、香坂さん。でないと、俺が身を引く意味ないからな」  
思わず笑ってしまうひかる。  
「そうですね。がんばります。」  
ひかるの言葉に先輩も微笑んだ。  
 
 
その会話を聞いてしまった者がいた。星史である。  
実は星史は屋上で昼寝をしていたのである。秋風が心地よい眠りを誘ったのだ。  
何かの話し声に目覚めるとドアの反対側に人が話しているようだった。  
向こうからこちらは見えないが声は聞こえた。  
 
ひかるが俺のことを好きだって?  
小学生迄はいつも傍にいたけど、成長するにしたがって星史は男友達とひかるは女友達の輪に入っていった。  
クラスも別々になり以前よりは話す機会が減っていた。  
朝はあいかわらず起こしてもらったりするが、ひかるが自分を思っていたことに全然気づかなかった。  
 これからどんな風にひかると接しればいいんだろう・・・。考えてしまう星史。  
 ふと、蛍の顔がうかんだ。困ったときの蛍頼み。蛍にそれとなく相談してみよう。  
星史の高校とそんなに遠くないが、蛍は学校が違う。今度の土曜日蛍の家にいってみるか。  
 
土曜日、蛍は庭で鳥たちと一緒にいた。  
「蛍、久しぶり。」  
「高杉くん、お久しぶりね・・・」  
「今日は蛍に聞きたいことがあってきたんだ。」  
「なあに・・・」  
星史は言葉につまった。いきなり本題に入ることがためらわれたのだ。  
「あ、えーと、後で話すよ。鳥たちは蛍になんていってるんだ?」  
「色々よ・・・。この鳥は最近ヒナが生まれたって・・・」  
蛍は一羽の鳥を手に乗せて話した。  
「そっか。おめでとう鳥。」  
星史は鳥に触れようとしたが、鳥はその手をすり抜けて蛍の肩にとまった。  
「警戒されてんのか俺?」  
「人見知りしてるだけよ・・・」  
蛍が微笑みながら肩の鳥を見た。  
風が強く吹いて蛍の長い髪が星史の近くまでなびいている。  
蛍が星史をじっと見つめながら、  
「高杉くんの求める答えは高杉くんの中にあるの・・・」  
「え?」  
「高杉くんは今、岐路にたってるの・・・」  
「岐路?」  
「ええ・・・。そして私も・・・」  
「え?蛍も」  
蛍はそれ以上言わない。星史は蛍を見ながら  
「わかった。色々考えてみるよ。」  
「ええ・・・」  
蛍は寂しそうな表情を見せていた。  
 
 
答えは俺のなかにあるか。俺、ひかるのことどう思っているんだろう?  
何気なくレストランつくしを見た星史。ひかるの姿を探すが、その時ある人物の姿が目に映った。  
ヤンチャーがいたのだ。店の客に水を持っていったり、ひかると何か楽しそうに笑っていた。  
ひかるが星史の視線に気づいて星史の方を見る。目があった二人だが星史はフッと思いっきり目をそらしてしまう。  
「ヤンチャー君、その姿さまになっているわねぇー。」  
「本当だよ。接客もなかなかだしね」  
「まっ、これくらい当然だぜ」  
「感謝してよね。うちでアルバイトさせてあげるんだから」  
「はいはい。あっ、いらっしゃいませ」  
「でもアルバイト料で一体何がほしいんだろう」  
「ゲームじゃないかしらねぇー。」  
「好きな子へのプレゼントだったりして」  
口々に勝手なことをいうひかると両親だった。  
星史はレストランつくしに何か食べに行こうとするが、ヤンチャーとひかるが何となく楽しそうに話しているように見えて足が進まなかった。  
そんな日が何日続いたのだろう。  
 ある時、ひかるが夕食のおすそ分けということで、星史の家に来た。  
「はいこれ、夕食に食べてね。」  
「ありがとう。助かるよ。」  
「どういたしまして。」  
「あ、あのさ、ひかる最近ヤンチャーが店に来てるだろ。」  
「そうよ、アルバイトしてもらってるの。」  
「なんで急にヤンチャーにアルバイトさせてんだ?そんなに忙しいのか?そうは見えないけど。」  
「失礼ね。アルバイト探していたから、うちでやとっただけよ。」  
「なんでヤンチャーがアルバイト探してたんだ?」  
「知らないわ。たぶん、私の予想だと好きな子にプレゼントするためじゃないかなって思ってるけどね」  
「好きな子って?」  
「さあ。気になるなら本人に聞きなさいよ。」  
ひかるがそういって帰っていった。  
 
ヤンチャーの好きな人ってひかるなんだろうか?  
何となくいやだと思う星史。  
日曜日、街中を歩いていると女の子のアクセサリー売り場で考え込んでいるヤンチャーの姿があった。  
「ヨッ、ヤンチャー、今日はアルバイトをサボってんのか?」  
「せっ星史?なんでここに?」  
「それはこっちのせりふだろ?お前こんな所で何やってんだ?」  
「ちょっと見ていただけだ。」  
「どーみても真剣な顔で見ていたぞ。で、誰にプレゼントする気だったんだよ。」  
ちゃかしている星史。  
ヤンチャーは目の前にあったペンダントを一つとりカウンターに持っていく。  
「蛍にだ。」  
「えっ蛍に?なんで?学校にもっと可愛い子いないのか?」  
「俺が蛍にプレゼントするのが嫌なのか?」  
「別にそういうわけじゃないさ。」  
「星史にはプレゼントしたいと思う女の子はいないのか?」  
「俺のプレゼントを待ってる女の子は沢山いるからなぁ。」  
「お前のことはどーでもいいけど、その中に蛍をいれているなら、俺はお前から蛍を奪うからな。じゃーな。」  
ヤンチャーは星史の前を通り過ぎながら言った。  
「どういう意味だ。」  
振り向いてヤンチャーを見たら姿が消えていた。  
「なんなんだよ・・・。」  
歩きながらヤンチャーが蛍にプレゼントを渡してる姿を思い浮かべると、なんだか星史はムカムカしてきた。  
何で俺がムカつかなきゃならないんだ。蛍が誰に何を貰っても別にいいじゃないか。  
・・・いやよくない。  
誰にでも見せるわけでない蛍の笑顔を一人締めしたいと思ってた。  
 ってことはもしかして俺、蛍に惚れてたんだろうか?じゃあ、ひかるは・・・?  
 
 
その頃、ひかるはレストランつくしの買い出しにいっていた。  
その途中、この間、告白を断った部活の先輩と会ってしまう。  
「あれ、香坂さん。」  
「先輩。」  
「直接話すのってあの時以来だね。」  
「はい・・・」  
「幼馴染とはどう?」  
「かわらず・・・ですね。」  
ぎこちなく会話する二人。  
そんな二人の姿を偶然見た星史は二人のいる方向とは反対側に駆け出してしまう。  
見たくないものを見せられた気がした。  
何で見たくないのか?  
・・・それってひかるのことが好きだからじゃないのか?  
苦い思いがわきあがってくる。  
星史はやっと自分の気持ちに気づいた。  
俺は蛍もひかるも好きだったんだ・・・。  
二人を好きなことに気づいた時は、どちらかを選ばなければならないときだと思っていた。  
それが嫌だった。気づかないで二人と一緒にいたかったんだ。  
 ひかるの友達は部活の先輩に思われていると知ったとき、ひかるにこう話した。  
「高杉君より先輩の方が格好いいじゃない。先輩にしたら?」  
「確かに先輩は格好いいと思う。私にとっても理想のタイプよ。でも、星史くんが好きなの。」  
ひかるは自分の気持ちを変えることが出来ないといったことがあった。  
そんな事を考えていたひかるは星史の様子が変なことにも気づいていた。  
何かボーとしてるのが何日も続いていた。  
星史はまだ答えが出なくてそうなっているのだが、心配したひかるはクッキーを焼いて星史の家に来ることにした。  
「こんにちは、星史くん。クッキー焼いてきたんだ。一緒に食べない?」  
「ありがとう。あがれよ。」  
「おじゃましまーす」  
クッキーをつまみながら他愛のない世間話をする二人。  
いつしか話題はヤンチャーのプレゼントの話になった。  
「ヤンチャーは蛍にあげるっていってたぜ。」  
「やっぱり桜小路さんだったんだ。」  
「どうしてそう思ったんだ?」  
「なんとなく。でも桜小路さんってもてそうだよね。好きな人ならともかく断るとき如何するんだろう。」  
「お前と同じように断るんじゃないのか?って・・あっ」  
慌てて口をふさぐ星史。ひかるは星史を凝視する。  
「私みたくって、まさか・・・星史くん何か知ってるの?」  
「いや、何も知らない!ハハハッ・・・。」  
ごまかそうとする星史。  
「もしかして屋上の話、聞いてたの?」  
顔が少しずつ赤くなってくるひかる。思わず視線をそらしてしまう星史。  
星史くんの様子が変な理由はこれだったんだ・・・。  
そう思ったひかるはたまらずに部屋から出て行く。  
「ひかる!」  
慌ててひかるの後を追う星史。  
リビングから玄関に出ようとかけて行くひかるの右手を星史の左手がつかまえる。  
「ひかる、まてよ。俺、あの時屋上で昼寝していてわざと聞いた訳じゃないんだ。」  
そのとき、ひかるが星史の方に振りかえる。  
真っ赤になって瞳が少し潤んでいた。  
 その表情にハッとする星史。可愛いと思ったのだ。  
「離して・・・」  
ひかるは、星史の左手を振り切って家を後にした。  
ひかるは自分の部屋で泣いていた。  
今後どうやって星史と話せばいいのかわからなかった。  
それどころか星史が自分の事なんとも思ってないとか言われたら・・・。  
結果が怖い。どうしよう・・・。  
 
 
次の日の朝、家を出た星史はひかるを見つけると  
「おはよう。ひかる」  
と挨拶をしたが、ひかるは星史をみるなりにげていく。目が点になる星史。  
それからのひかるは星史をみると逃げたりしてさけていた。  
それが何度も続いたのである。  
ひかるはいつまで俺をさけるつもりだろう・・・。  
そんな事を考えながら歩いていると、晴れ着を着た蛍を見つけた。  
「蛍?」  
「あら、高杉くん。」  
にっこり笑う蛍。  
「蛍がそんな格好してるってことは、今日は性格が明るくなる日なのか。」  
「ええ、そうなの。ねえ似合う?」  
「ああ。」  
「ふふ。ありがとう。こんなにおしゃれしてるんですもの。散歩したくなったの。」  
「おひいさまー。」  
遠くの方からばあやの声が聞こえる。  
「蛍、こっちへ。」  
蛍の手をとって駆け出す星史。  
ばあやの姿が見えなくなった頃、草むらから星史と蛍は一緒に顔を出す。  
二人はお互いの顔を見合わせて笑い出した。  
「クスクス・・・。私、ばあやからこんなに逃げたのってはじめてよ。」  
「ハハハ・・・。おれもあのばあちゃんからこんな風に逃げたのはじめてだよ。」  
どちらともなく歩き出す二人。目の前に池が見えてくる。  
「蛍、ボートにのらないか?」  
「ええ。」  
にっこり笑う蛍。  
この池は星史が小学生の時、山本ピンクとデートしたところでもある。  
その池で今は蛍と二人でボートにのっている。  
二人の間に静かな時が流れた。  
景色を見ていた蛍が星史の方を向いて静かに見つめる。  
「なに?」  
「高杉くんは答えがでたみたいね。」  
「え・・・。」  
「高杉くん、香坂さんのことばかり考えてる。一緒にいられなくて寂しいって思ってる。もう答えは出てるでしょう?」  
「蛍・・・、俺は。」  
「その先はいわない方がいいわ。」  
人差し指を口元において笑う蛍。  
「蛍。」  
「戻りましょう。そして高杉くんは香坂さんの所にいかなきゃならないわ。」  
「わかった。」  
ボートを岸に戻すようこぎ始める星史。視界の片隅に岸からこちらを見ている人物がいた。  
星史と蛍がボートから降りると、ヤンチャーが蛍を迎えに来ていた。  
「蛍、ばあやが探していたぞ。一緒に帰ろう。」  
蛍に手を差し出すヤンチャー。  
その手をとる蛍。  
手を繋いだ二人をみつめる星史。  
「じゃあね。高杉くん。」  
「ああ。またな。」  
「じゃあな。」  
ヤンチャーは反対側の手にこの間買ったプレゼントを持っていた。  
 
 
星史は家に帰るとひかるに電話した。  
「ひかる、話があるんだ。明日の朝、学校の屋上で待ってる。」  
「私、行かないから。」  
「それでもいい。ずっとまってる。」  
「星史くん・・・。」  
星史は自分の気持ちと向き合うことを決めた。  
とうとうこの日が来てしまったとひかるは思う。星史はひかるに対する結論が出たのだ。  
そしてそれを明日伝えるつもりなのだろう。YESなのかNOなのか・・・。もしNOなら・・・。  
 翌日、学校の屋上でひかるを待つ星史。すでに30分待っていたが、星史はひかるが来ることを信じていた。  
重い足取りで階段を上るひかる。星史の気持ちを知るのは怖い。  
でも、どのような答えを星史がだそうとそれを受け止める覚悟をした。  
屋上のドアを開けるひかる。手すりに手をかけていた星史がゆっくり振り向いた。  
「おはよう。ひかる。」  
「おはよう。星史くん。」  
「今日は、いい天気だよな。」  
「そうね、雲一つないわ。」  
会話が途切れる二人。星史は頭をかきながら  
「ひかる。おれひかるの気持ちを知ってからずっと考えていたんだ。おれはひかるのことをどう思っているのかって。」  
「どう・・・思っていたの?」  
のどが渇いてくるひかる。  
「好きだって気づいた。」  
「えっ・・・」  
「ひかるの気持ちにずっと気づかなくてごめん。おれは・・・」  
ひかるは星史に抱きつく。それを受け止める星史。抱きしめたひかるからは微かに香水の香りがする。  
しばらくしてひかるは星史から体を離して、星史の顔を見つめる。  
その目にはうっすらと涙がある。  
少し顔を赤くしたその表情は、まるで自分の事をとても好きだと伝えているようで、長年ひかるの表情を見てきた星史にとって一番好きな顔になっていた。  
思わず星史はクスッと笑ってしまう。  
「何?」  
「別に、可愛いなと思って。」  
「本当にそう思ってるの?」  
「ああ・・・。」  
星史の服をぎゅっとにぎるひかるは、そっと目を閉じた。  
ひかるの唇にそっと唇を重ねる星史。二人はゆっくりキスをする。  
真っ青な空の下、二人はお互いの気持ちを確かめる。唇をそっと離したひかるが言う。  
「長い間、待ったんだから、もう放さないからね・・・。」  
「ああ、待たせてごめん。」  
「ずっと・・・一緒にいてね。」  
「え?ずっとは・・・約束できないかも・・・」  
「え?だって星史くん、今私のこと好きっていったじゃない!」  
「そりゃ今はそーだけど、ずっとはわからないだろ?」  
「星史くん・・・あんたって・・・このサイテー男!」  
星史の言葉にひかるは怒りに体を震わせ、グーで星史を殴った。  
「なにすんだよ!」  
殴られた頬をさすりながら星史が叫んだ。  
「あんたみたいなサイテー男好きになるのは私くらいよ」  
「なんだと?」  
どうやら、星史のひかるに対する気持ちはひかるが星史を思う気持ちとはまだ差があるらしい。  
ため息を一つついたひかるは星史の目をみて  
「覚悟しなさいよ。これからは私しか見られないくらい夢中にさせてやるからね。」  
そういったひかるは秋の太陽に照らされて、大胆不敵な笑顔を見せる。  
その姿はとても魅力的だと星史は思うが、顔には出さず、  
「やれるもんならやってみな。そー簡単にはいかないぜ。」  
そういって笑った。  
今までとは違う二人の新しい季節はどうやら戦いになりそうである。  
                              FIN  
 

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