「ほーら、口開けて」
「いっ、い〜よ。食事くらい自分で取れるって」
「だーめーよ!星史くんの事はおばさまにくれぐれもって頼まれてるんだから」
事の始まりはいつも通り。いつもみたいに夜更かしして、いつもみたいに竹刀で目覚ましを撃退し、いつもみたいにひかるに起こされ、いつもみたいに飛び起きて。
いつもと違うのは階段から転げ落ちた時の打ち所が悪かった事、それだけ。
そこから先の流れはまさに怒濤の如く。迎えにきたひかるは真っ青になって救急車を呼び、連絡を受けた両親は全ての仕事を放っぽり出して病院へ、当の星史をおいてきぼりにして、事態はどんどん大事になってしまった。
「だからちょっと骨にヒビが入ったぐらいで大げさなんだってば」
「何よ!私はもう、スッゴく心配したんだから!」
とは言えそこは頑丈な我らが隊長。入院の必要も無く軽い打ち身に腕の骨折と比較的軽傷で済み、来週にはギブスも取れるんだけど。
それでもこの状況を世話女房が黙って見ているはずも無く。ましてどうしても外せない出張があり文字通り泣く泣く出掛けた美鈴に頼まれ、俄然張り切ってるひかるを止める術なんて星史が持っているはずもなかった。