「怪我人なんだからおとなしくしていてね…アタシは屋敷に戻るわ」  
「ああ、ありがとう。ねえ003…」  
 声をかけられフランソワーズは振り向く。ベッドに横たわったままの009が顔  
だけを自分に向けている。ためらいがちにすこし恥ずかしそうに彼は問う。  
「その…君の本名を教えてくれないかな…お兄さんがジャンっていうのは教えてもら  
ったけど…フランス出身ってのはわかるけど…よかったら…」  
 彼女も改めて気が付いた。お互い試作品サイボーグの呼称ゼロゼロナンバーでしか  
今まで呼び合ったことがなかったのだ。優しい笑顔を彼に向ける。  
「…フランソワーズ・アルヌール。あなたの生まれていない頃同じ名の女優がいたわ」  
「そう…あ、ボクはジョー、島村ジョー…」  
 
 雨が激しく降りつづけている。まさに恵みの雨。おかげで暗殺者は姿をあらわさな  
い。…たったひとりの刺客に自分達8人は完膚なまでにたたきのめされた。そして仲  
間でも最強を誇る009の負傷。ようやくその彼が目を覚ました。それを伝えに皆が  
いるコズミ博士の屋敷に向かう。  
 黒い幽霊団を脱走した際に奪った潜水艦しかサイボーグの治療ができる医療設備は  
なかった。彼らを開発しともに組織を裏切り脱走したギルモア博士は友人のコズミ博  
士をたより全員で日本にやって来た。屋敷は人里はなれた海のそば。断崖絶壁の上に  
建てられている。潜水艦は複雑に入り組んだ海岸線のとある洞窟に隠されていた。そ  
こから雨の中屋敷を目指して彼女は岩場を進む。  
(!なに?ーなにか来る!)  
 彼女の強化された耳が異変に気付いた時はすでに遅かった。  
 
 突然フランソワーズは振り払えないほどの怪力で腕を掴まれた。何…音が聞こえ  
ない!周囲が真っ暗になる!これは…加速装置!?自分をねじ掴んでいる腕の主を  
見て言葉を失った。  
…0010!黒い幽霊団が送りこんだ刺客!…アタシ達とはきょうだいのサイボーグ!  
 
「きゃあああああ!」  
 フランソワーズは勢い良く突き倒される。人気のない山の中で朽ち果てた廃屋の床に  
転がった。窓は割れ雨漏りがしている。床も剥がれ落ち破れたボロボロの応接ソファが  
廃材の中で目立っていた。以前は連れこみホテルのロビーだったのだろう…日本人  
でない彼女には何の目的の建物かは皆目見当がつかなかった。  
「この雨の中ひとりでパトロールか?お嬢さん」  
 0010がうずくまる彼女を見下ろし笑っている。フランソワーズはすぐに立ちあが  
るときっと0010を睨みつけた。  
「はん!またその目か!私の言うことを聞かない哀れな人って俺を蔑んでるのか…あいも  
変わらず高慢ちきな女だな」  
 0010に返事もせず彼女は耳と目を澄ます。ここは一体どこなのか?仲間に無線で  
知らせないと…彼女の考えを見透かしたように0010は低く笑う。  
「お前達の能力は調べてある…ここは仲間と交信できる無線のレンジから外れてるぞ。  
…お前は自分の位置はわかっても仲間には伝えられない…くくく」  
 彼女ははっとする。怯えの表情を0010は見逃さなかった。  
「それにここは雨もしのいでくれるしな、電撃も使える」  
 殺される!フランソワーズは目を閉じた。  
 
 悲鳴を上げる間もなかった。足元に閃光が走る。激しい爆音が辺りに響き巻き起  
こった爆風にフランソワーズは吹き飛ばされる。勢いよくソファに背があたる。ぶ  
つかった衝撃で息が出来なくなった。  
「…うううっ…くうっ…」  
 0010が笑いながら近付く。ソファにもたれたままでうめき声を上げる彼女を  
見降ろす。  
「本当に弱いな…直撃していないのに…手応えがなくて面白くない。…この優れた  
体を持った俺様が出来そこないのお前達と同じゼロゼロナンバーのサイボーグなん  
て考えたくもないな。ヘドが出そうだ」  
 そう仲間なのだ。きょうだいなのだ、戦いたくない…理不尽な改造人間を製造し  
戦争で利益を受ける恐ろしい集団に協力してはならない…0010は彼女の必死な  
説得に耳を貸そうとはしなかった。戦いは避けられないのか?今もそうなのだろう  
か…悲痛な思いを胸にフランソワーズは黙って0010を見上げる。火花が散って  
いるように激しく視線が絡み合う。しばらくして彼が口を開いた。  
「…俺はお前のような女がいちばんキライだ…お高くとまって人を見下しやがって」  
 彼の言葉に絶望する。理解しあえそうにない…自分はここで死ぬのだ…。  
「…あんまり弱すぎてこのまま殺すのはつまらん」  
 0010の言葉にはっとする。彼がクククと含み笑いをしてみせた。  
「お前に死に場所を選択させてやろう…ここで今すぐ俺の電撃を食らってひとり寂  
しくのたれ死ぬか…それとも」  
 フランソワーズは無言で冷たく笑う0010を見つめる。  
「出来そこないのきょうだいと仲良く一緒に全員で殺されるか…だがただでは生きて  
返さん。命乞いをしてみせろ…そうすれば考えてやる」  
 ふたりが黙ると外の降りしきる雨の音が大きくなった。  
「どうだ?ひざまづいて俺に命乞いができるか?」  
 
 悪夢のような日々だった。突然誘拐されて、望んでもいない改造手術でまともな  
人間ではなくなって…長い冷凍睡眠で時間を超えた…死ねるものなら死にたいと何  
度も願った。  
 
(…ジャン兄さん…)  
 別れたときの兄の姿が頭をよぎる。きっと今は年老いて、家族がいて…もしかし  
たらもうこの世にいないかも…二度と生きて会うつもりはない唯一のきょうだい…。  
(…どのみち戦わなければボクらは死ぬ!)  
 自分の制止も聞かずによろよろと立ちあがった009…目の前に立っている00  
10にひとり立ち向かっていった。  
 
「どうなんだ?」  
 唇を噛み締める。死にたくない…ここでは死にたくない!たとえ殺されるとして  
もすこしでも生き延びたい!アタシ“たち”をかばって重傷を負った009のため  
にもひとりでは死にたくない…。彼女はもたれていたソファからよろよろと立ちあ  
がる。朽ち果てた床に膝をつく。両腕は力なくだらりと下がっている。全身がわな  
わなと震えた。顔を上げることができない。やっとの思いで声を絞り出す。  
「…た、助けて…ください…」  
 腕組みをした0010がせせら笑う。  
「ああん?聞こえねぇぞ…本気で生かしてもらいたいならもっと必死になってみせろ  
よ!死にたくねぇんだろ!」  
 0010の威嚇に肩がすくむ。両手を体の前に付けて大声で叫んだ。  
「助けてください!…死ぬのはこわい…うう…」  
 うなだれる彼女の姿に満足して0010は勝ち誇った声を上げる。  
「そうか…死にたくないか。ははは…そのためならなんでもできるか?」  
 彼女は顔をばっとあげる。  
「俺様の命令になんでも従うか?なんでもいうことをきくか?どうなんだ…クク…」  
 0010は口元にうすら笑いを浮かべ、その目は怪しく光っていた。  
 
 フランソワーズの背筋に水を掛けられたようにゾクリと悪寒が走った。思わず  
床についた両手を握り締める。まさか0010はアタシを…!  
「気位の高い女が屈服するのをたっぷり堪能させてもらおう…助かりたければ俺に  
懇願しろ。なんでもいうことをききますといってみろ」  
 拒絶できなかった。拒否すれば電撃を浴びせられる。この近距離では即死だ。加  
速装置を内蔵した0010からは到底逃げられない。  
「…あ、あなたの…いうことならなんでもききます…だから…命だけは助けてください…」  
「…そうか…ククク…あははははは」  
 0010はフランソワーズに歩み寄る。仁王立ちになって彼女を見下ろすと突然  
後頭部を掴んだ。  
「ふぐうっ!うううっむむむっ!」  
 くぐもった彼女の悲鳴が上がる。暴れる彼女に構わず自分の股間にグリグリと彼  
女の顔を押し付けていた。0010の防護服のブリーフがみるみるうちに膨らんで  
いく。両腕で鋼鉄の迷彩色の体を払いのけようとする。  
「おいおい抵抗するなよ。電撃を食らうと死ぬぞ」  
 彼女の力が抜け、腕の動きがはたと止まる。  
「…お前は売女だ。男に飢えた淫乱な雌だ。相手は男なら誰でもいいから突っ込んで  
もらいたいんだろう。あぁん?」  
 彼女は股間に顔を押さえ付けられたまま首を左右に振る。0010が笑った。  
「くく…お前は俺“たち”の間でも有名だったんだ。いつもウワサしていた。たった  
ひとりの女の改造人間だ。なんのためにいるのかって…そりゃあ決まってる。性欲  
処理用サイボーグに決まってるってなぁ!」  
 フランソワーズはかっと目を見開き0010を睨んだ。彼が自分を複数で呼んだ  
ことを不審に思ったがそのことはすぐに忘れた。自分に向けられた侮辱に憎悪の感  
情が沸き起こった。0010の暴言はさらに続く。  
「毎晩出来そこない同士で慰めあっているんだろう。とっかえひっかえでなあ!最  
高責任者のじじぃも色香で落としたんだろう!ええ?この淫売が!」  
 息を詰まらせながらフランソワーズはただ0010を睨む。  
「おっと…俺のいうことはなんでもきくんだろ。そうしないとお前は丸焦げだ。ブリ  
ーフをおろせ…お前がおろすんだ雌豚。妙なマネをしたら…わかってるな」  
   
 抵抗できなかった。0010の能力にはかなわない…従うしか今はこの場を生き  
延びる方法がない。膝立ちで顔を股間に押し付けられたままフランソワーズは00  
10を見上げてずっと睨んでいた…怒りをたたえていた瞳があきらめの表情に変わ  
る。だらりと頭を垂れて下を向いた。0010が急かす。  
「…はやくしろ。電撃をお見舞いするぞ」  
 震える両手をビキニタイプのブリーフの体側に運び指を両脇にかける。  
「…くうっ!」  
 口元を歪ませ目を閉じて一気にずり下ろした。顔を思わず背ける。  
「さあ売女!ありがたく拝んでみな…こんな立派なの見たことがないだろう…見ろ!」  
「うううっ…!あああ!?きゃああああああ!いやあああああッ!」  
 彼女は目の前に示された異物に絶叫する。…自然のものとは言い難い形状のモノだ  
った。0010の皮膚の表面は全身白と水色の迷彩になっておりすでに生身の体とは  
かけ離れている。姿をあらわした男性自身もまた生身の肉のものではなかった。  
 後退りし逃げようとする彼女の後頭部を0010は容赦なく掴む。  
「ふん…お前ら試作品には電撃を使えるヤツがいないな。男性器を改造されたヤツが  
いないから見たことがなかったか。絶縁体と特殊ゴムでコーティングされているん  
だ。幹の下部は特殊プラスチック製で蛇腹になっている…いくらでも膨張できるぞ。ど  
うだ素晴らしいだろう。うれしいだろう、出来そこないの雌豚め!興奮するか?」  
「ひいいぃぃぃ…」  
 フランソワーズは歯の根が合わなくなりガチガチと震えている。冗談ではない!  
アタシは…生身のままなのよ!こんな異物を受け入れたら死んでしまう!アタシの体  
は滅茶苦茶になってしまう!恐怖で全身に鳥肌が立った。  
「まずは口に含んでもらおうか…優しく優しくなあ。恥垢を舐めて落としてくれ」  
「いやッ…!いやよおおおっ!助けてッ!誰かああ!」  
 涙が溢れた。0010はそんな彼女をあざ笑い、頭を掴んだ手に力をこめる。  
「なぁにを言ってる…助かるためならなんでもするんだろう。なんなら電撃はやめ  
てこのまま頭を握りつぶしてやろうか?」  
 
 0010が指に力を込める。頭へ加えられた凄まじい痛みにフランソワーズは苦悶  
した。美しい顔を歪ませて悲痛な呻き声を上げる。  
「ううっ…ぐうっ…や、やめてっ!アアアッ」  
 そんな彼女に0010が凄んでみせた。  
「やめてくださいだろう?お前の命をどうするかは俺が決めるんだ。助けて欲しいなら  
もう少し俺様に敬意を払え!喜んでご奉仕しますくらい言ってみろ!ああん?」  
「う…やめてください。ご奉仕します…なんでもやりますから…」  
 消え入りそうな弱々しい声に0010が怒鳴ってみせる。  
「やりますだとおっ?もうすこし丁寧に頼み見事ができんのか?この売女!…ふん、  
そうだった。下品なお前にはもっとゲスな言葉のほうがお似合いだな。チ×ポをし  
ゃぶらせててださいくらい言ってみろ」  
 0010は優越感に浸り調子に乗っていた。  
(ゲスなのはどっちよ、この…バケモノ!)  
 圧倒的な力の差に抵抗できないフランソワーズは心の中で0010を罵倒する。  
しかし今は0010に従うしかない。非力で抵抗できない己を心から恨んだ。  
「…アタシに…あなたの、いえ0010様のチ×ポを…どうか舐めさせてください…」  
 廃屋に勝ち誇った笑い声がしばらくこだました。  
「はは、あははは…そうかそんなに舐めたいか売女!…俺もこの優れた体になってフ  
ァックするのは初めてだ…気持ち良くさせろよ売女!」  
(そんなところを改造してるのよ、今まで女のヒトに相手にされたことないんじゃ  
ない?)  
 口にすれば間違いなく殺される…黙ってはいたがフランソワーズは心底0010  
を見下していた。アタシはこんな最低な男に命乞いをするなんて!ひたすら己を恥  
じる。しかし生き残ることへの執念が彼女の誇りを捨て去らせていた。  
「はじめてもらおうか…売女」  
 素直に従う。目の前に示された凶悪な異物を両手で優しく挟みこむ。  
「はい…それでは口に含ませていただきます」  
 ゆっくりと口を開く。  
 
 口の中に含むとゴムの生臭い匂いに吐き気がした。彼女が口をペニスから放さぬよ  
う0010は彼女の頭に手を回し自分の側に引きつける。指を彼女の髪の地肌に食い  
こませる。  
「根元までしっかり咥えろ…舌を使え…そう、そうだ…コーティングされて感度が鈍  
いんだな…強く吸い付け!思いきりな、ようし、いいぞ…」  
 言われるままに彼女は必死で舌を使う。異質の素材でできた邪悪な造形物を舐めま  
わし吸い付く。  
「むむむ…うぐうっ、ぐっ…ううう、んむむむむ…」  
 唾液が口の中で溢れ口元からこぼれてくる。息苦しい。異物の下部に施された蛇腹  
の特殊プラスティックが口の中で擦れて痛くてたまらなかった。  
「俺のはたくましいだろう…ええ雌豚」  
 唯一生身の肉の部分が剥き出しになっているのは亀頭だった。その先端の鯉口から  
は先走りの液体が滲む。口の中で自分の唾液と交じり合いすぐに判別はつかなくなる。  
嫌悪感にまみれながら彼女はおぞましい行為にただ耐えていた。  
(アタシは…生き残るためならなんでもする…)  
 外の雨は激しく降り続けている…。  
 
 しばらく息を荒くして快感にうめいていた0010が膝を曲げて前屈みになった。  
「そのまま続けろ…よおし」  
 彼女の頭から手を離し、彼女の防護服の背中のファスナーを乱暴に引き降ろす。  
「ひいっ…いやあああ!」  
 ペニスを吐き出して彼女が絶叫する。0010は暴れる彼女をものともせず簡単に  
背中の開いた防護服の胸元を掴むとずり下げ、両袖を勢い良く彼女の両腕から引き抜  
いた。裏返しになった上着がベルトの上で引っかかる。ストレッチ素材でできたスポ  
ーツタイプのブラジャーに守られただけの上半身が晒された。  
「いや…いやっ!いやーっ!」  
    
「いい眺めだ…ずいぶんいやらしい体つきをしてるな、ええ?売女」  
 もみあいながら0010には余裕がある。逃げようと彼女は必死に抵抗するが腰に  
回された強靭な腕はどうあがいても振り払えない。身を反らし懸命に突き飛ばそうとする。  
胸板を叩き爪を立てる。しかし彼女に取りついた0010はびくともしない。  
「痛くもなんともないぞ売女…いよいよお前の待ち望んだ本番だ。そらよおお」  
「いやあああああっ!」  
 向かい合わせに軽々と抱きかかえるとソファに彼女を突き倒して無理矢理座らせた。  
そのまま前面に圧し掛かりブラジャーをずり上げる。豊かなバストが揺れて白いその  
姿をあらわした。  
「いやっ!アアアッ!いやあああっ!やめてっ!やめてェェェ!」  
 0010はふたつの隆起を乱暴に引き掴んで揉み始めた。フランソワーズは自由に  
なった両腕で力の限り0010を払いのけようと抵抗する。すべて無駄な抵抗だった。  
彼女の抵抗を面白がりながら0010は攻撃の手を緩めない。白い乳房が赤くなるほど  
ムチャクチャに揉みしだく。谷間に顔を埋めて弄ぶ。先端の乳首をこねくり回し噛みつ  
き音を立てて思うさまに吸い付く。  
「イタイッ…イヤッイヤッ!イヤーッ!」  
「ウソをつくなよ、売女…乳首がすっかりおっ立っちまってるぞ。喜んでるじゃねえか」  
「アアア…アウッ!アアアッイ!ヤッ!イヤアア…」  
 0010は笑いながら拒絶の意志と耐えがたい激痛をこらえきれず悲鳴を上げて喘  
ぐ彼女を貶める。愛撫には程遠い暴力が彼女の乳房を果てしなく苛む。  
 降り続く雨の音にフランソワーズは強化された耳を集中させた。すこしでも苦痛を  
和らげられるような気がしたからだ。しかし0010は動物の雄が雌に求める古代  
からのお決まりの最終段階の行為を強要する。  
「さてと…さっさとすませようぜ。お前もイキたくてウズウズしてるんだろう」  
 0010の片手が彼女の上着の裾をめくった。  
 
「!いっいやあっ!…いやああああ!」  
 フランソワーズはズボンを脱がせられないように力の限り自分の尻をソファに押  
し付ける。0010は彼女に構わず上着の裾をめくり上げズボン越しにデルタ部分  
を撫でまわす。彼女の苦しく喘ぐ様をニヤニヤしながら見つめた。  
「おとなしくしろよ、あんまりみっともない格好になって出来そこないの残りのきょ  
うだいのところに戻れるか?」  
 0010の言うとおりだった。もし服を破られたり、電撃で焼かれたりしたら不  
審に思われてしまう…全身から力が抜けた。  
「はははは、そうかお前もやってほしいのか、売女め!」  
 なすがままに身を任せる。0010が彼女のズボンのアジャスタを緩め、フロン  
トのファスナーをおろす。  
「面倒だから一気にいくぜ」  
 裸の尻がソファに当たる。ズボンとパンティが曲げた膝のところに止まっている。  
足を広げることができない。  
「まあなんとも乱れた姿だな。大事なところだけおっぴろげちまったか売女!俺様に  
うるさく説教していた女がこのザマだ、ざまあないな!ははは」  
 惨めだった。好きでもない男にこんな姿を晒して…彼女の瞳に悲憤の涙が滲む。だ  
が0010はさらに彼女を貶める。  
「犯してくださいといえ、売女」  
「えっ…」  
「はやく突っ込んでください、イカせてくださいといえ売女。性欲処理用サイボーグ  
の役目を務めさせてくださいといえ」  
 あまりの言葉に彼女の全身が震える。瞳を大きく見開き0010を凝視する。  
「優れた俺様のチ×ポが欲しくてたまりませんといってみろ!」  
 限界だった。0010に対し激しい殺意を抱いた。しかし今の自分にはなんの手段  
もない。唯一の武器であるレイガンはここに連れてこられたときすぐに奪われ、あさ  
っての場所で床に転がっている。心の中で彼女は叫ぶ。  
(ア…“アンタ”なんて…きょうだいじゃないっ!人間の心も体も失った機械のバケ  
モノよっ!)  
 
 絶体絶命の危機にさらされた彼女にふと先刻まで博士とともに看護し付き添って  
いた009のことが頭をよぎった。  
(…組織は回復しつつあるが、この熱がおさまらんことには…)  
 博士が顔を曇らせる。009の額に玉のように吹き出た汗を拭き取る。弾丸を撥  
ね返す人造皮膚に針を刺し点滴処置を施す。自分と肌の色は違うがこの同年代の少  
年は人間だと思った。まともな体でないはずの自分もまた同じ人間だと思った。  
(助けて!…009!ジョーッ!)  
 すでに別れて久しい、思い出の中の肉親、ただひとりの兄ジャンではなく名乗り  
あったばかりの009の名を呼び救いを求める。…しかし奇跡は起こらない。彼も  
また無線の届かない潜水艦にいる。まして傷の癒えぬ彼の登場は到底望めない。  
…すべては0010の望みどおりとなった…。鼻持ちならなかった女から思い通りの  
言葉を吐き出させて優越感に浸る。裏切り者を圧倒的な力で屈服させたことに満足  
する。抵抗しない彼女の上にぴったりと重なるとすぐに挿入を開始した。  
「性欲処理の売女サイボーグめ、お前の性能を確かめてやる!」  
「ああっ!ああああああ!ああっ…ああああああーっ!」  
 歯を食いしばって耐えようとしたが、焼けつくような激痛をこらえきれなかった。  
異物が体のにめり込んでいく。肉壁を擦り上げ奥まで突き進む。しばらくしてつな  
がった部分からヌチャヌチャと音が立ち始めた。  
「おうおう!さすがだな…ヌルヌルがすぐに出てきやがった。感じてるな売女!」  
「うううっ…くうっ!くくっ…ううう…ううっうあっ!あああっ!」  
 彼女の生身の部分は女性の本能で己の肉体を生身でない異物から守ろうとして  
いた。粘度の高い体液を分泌し異物を押し包み、覆いつくし滑りを良くすることで  
傷つけられないようガードする。しかしいくら潤滑油が溢れても奥まで突き上げら  
れるたびに痛みが全身を駆け巡る。0010が激しく腰を動かす。  
 
 雨が激しく打ちつける廃屋で、女は男に犯された…相手はただの人間ではなかった。  
機械の組み込まれた女と同じバケモノだった。女はきょうだいであるバケモノの慰み  
ものとなったのだ…。  
「すごいな、売女。よくしまるぞ…」  
 売女と蔑まれながらフランソワーズはひたすら耐えた。内臓が内側から押し上げら  
れる衝撃にただ耐えた。気持ち悪くてたまらなかった。  
(下手だわ、“コイツ”…!)  
 0010を心の中で罵倒し蔑み憎悪することで己を見失うまいと必死だった。  
 
 やがて0010は一方的にひとり昇天する。彼女の体の中でおぞましい液体を  
放った。彼女の体から己を引き剥がし肩を弾ませ言い放った。  
「俺様の精液は妊娠するくらい濃いぞ。…関係ないか。今度会う時お前は死ぬんだ」  
(俺だけで連中を片付けるんだ…俺一人でやっちまったがいいだろう?兄さん)  
 ひとりほくそえむ。彼女はぴくりとも反応しない。けっ…0010は唾を吐いた。  
「あばよ。早く帰ってやんな。その命…死ぬまで大事にしろよ」  
 0010は捨て台詞を残し風を切る音を残して一瞬で消える。  
 
「…ア…アンタなんかきょうだいじゃない…」  
 フランソワーズがつぶやく。耳と目を澄ます…雨雲を確認した。まだ雨は降るだろ  
う。それまでに屋敷に戻らないと!ゆっくりと身を起こしてみた。動ける!あたりを  
見まわした。割れた花瓶に雨水がたまっている。  
「不衛生だけど仕方ないわね…」  
 精液で汚れた内股を洗う。雨水が体に沁みる。ハンカチで拭ってみてはっとした。肉壁  
がプラスチックの異物で擦れて傷ついていた。血が滲んでいた。  
「許さない…アタシ達はアンタに殺されたりはしない…」  
 丹念に身繕いをする。床に落ちていた銃を拾い上げホルスターに納める。  
「殺してやる…」  
 悲壮なまでの決意を固めたフランソワーズの表情は、美しかった。  
   
 

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