気づいたとき、フランソワーズは柔らかいものの上に裸で座らされていた。  
 自分の体の下にあるのが男の体だとわかるのに、長くはかからなかった。  
 場所は寝室から、リビング・ルームに移っている。  
 ソファにくつろいだポーズで座る男が、後ろからフランソワーズを抱きかかえていた。  
 尻には熱い棒が密着している。脇の下からまわされた両手が、乳をゆっくりと揉んでいた。  
「・・・はぁ」  
 意に反して、フランソワーズの口から最初に出たのは、熱いため息だった。  
 頭が、まだぼうっとしている。視界も、ぼやけている。男の動きに逆らおうという気力がわいてこない。  
 いまいましい電磁ロックは、ふたつの手首を結んだままだった。  
「目が覚めた?」  
 テーブルを挟んだ反対側には、ジュンが退屈そうな顔で洋酒を飲んでいた。  
「さっきはフランちゃんがイク前に、電流を強くしちゃってごめんね。もっと気持ちのいいこと続けたかったでしょ」  
 フランソワーズは首を振った。同時に体に絡みつく男の手から逃れようと、もがいた。しかし十分に力が入らない。  
 中途半端な動きは、かえって男のシンボルを揺すり、興奮させてしまったようだ。快感にうめく男の声が耳元に聞こえた。  
 男は、左腕でフランソワーズの腹のあたりをしっかりと抱きしめると、右手で太ももを割って入ってきた。  
「やめ・・・」  
 フランソワーズは、電磁ロックの丸いふくらみで男の手の甲をおさえる。  
 しかし、これもまた無駄な抵抗に終わる。男の手は、あっさりとフランソワーズの両手を押しのけて、股間へと達した。  
 にこ毛の感触を楽しむように、軽く撫でる。  
「い・・・や・・・」  
 フランソワーズは、痛みに耐えるような表情で、頭を振った。  
 気絶している間に、自分の体は誰かに洗われたらしい。撫でられるたびに股間からボディーシャンプーの香りが立ちのぼってきた。それがとても屈辱的だった。  
 
「フランちゃんがおまたを広げてくれないと、よく見えないわ」  
 ジュンがテーブルの向こうから身を乗り出すようにして、股間を凝視している。  
 フランソワーズは視線を避けるために、ももをねじ上げ、膝を閉じた。男の手を、太ももでみっしりと挟みつける形になったが、仕方なかった。  
「強情なんだから・・・。言うこときかないと、どうなるか忘れたの」  
「知らないわ」  
 ビデオに撮られたことを忘れたわけではない。といって、ジュンの言いなりになるのも耐えられなかった。  
 フランソワーズは、何もかもなかったことにしたくて、激しく首を振った。  
「こういう場所にビデオを流すこともできるのよ」  
 この部屋の壁にも大画面のモニターがあった。そのスイッチを、ジュンが入れた。  
「!!」  
 モニターに映った光景を見て、フランソワーズは声にならない悲鳴をあげる。  
 ヨーロッパ調のインテリアで統一された部屋だった。椅子に腰かけた男が、テレビでサッカーの試合を見ている。  
 しかし、男の顔にスポーツを楽しんでいる色はない。憂鬱そうに、顔をしかめていた。ただ流れいく時間をつぶすだけのために、テレビを見ているのは明らかだった。  
 男は、兄のジャンだった。  
「あのテレビにフランちゃんの裸が映れば、お兄さんの顔も、生き生きするかもね」  
「卑怯よ!」  
 フランソワーズは、たまらずに叫んだ。  
「あら、肉親を人質にとらないだけ、マシだと思わない? なんで『黒い幽霊団』がそうしなかったのかは、わからないけど」  
「・・・ひどい」  
 フランソワーズは、うなだれた。  
 兄が暗い顔をしているのは、自分がいなくなったせいだということが、痛いほどわかった。その兄に、これ以上不幸な思いをさせたくはない。  
 
 ジュンが、テーブルを越えて、こちら側にやってきた。  
 フランソワーズの髪をつかんで、顔をもちあげる。  
「めそめそしてれば、許されるとでも思ってんの! あんたが屈服するまで、あたしは放さないからね」  
「どうしろというの」  
 ジュンが笑った。悪魔の笑いだった。  
「3日間・・・。3日間だけでいいわ。・・・あたしの奴隷になってくれる?」  
 フランソワーズは、知らずのうちに身震いした。  
 ジュンの怨念の深さを悟った。彼女は、自分の恨みをはらしたいだけのために、『新・黒い幽霊団』の技術と組織力をつかっているのだ。  
「その変わり、ちょっとでも逆らったら、お兄さんにいやな思いをしてもらうよ。・・・わかった?」  
 フランソワーズは、気おされたように、こくりとうなづいた。その頬に、ジュンのスナップをきかせた平手打ちが飛んできた。  
「奴隷は、敬語を使うんだよ。・・・はい、わかりました、ジュン様、と言え」  
「はい、わかりました・・・、ジュン様」  
「気を抜くんじゃないよ」  
 ジュンは、一回フランソワーズの頭をこづくと、テーブルの反対側に戻った。  
「さ、おまたを広げな。男の体の上でストリップするんだ」  
 女テニス・プレイヤーは、洋酒のグラスを手にとると、楽しげに笑った。  
 フランソワーズは、体をかすかに振るわせながら、膝をゆるめた。男の手が後ろから伸びてきて、太ももを開こうとする。  
「余計なことすんじゃないよ」ジュンの叱責が男に飛ぶ。「みんなフランソワーズにやらせるんだ」  
 男の手が引っ込んだ。  
 フランソワーズの膝が、男の脚の上で、ためらうように揺れる。  
「どうしたんだよ。今さらお嬢ちゃんじゃねえだろ」ジュンがせかす。  
「せめて・・・」フランソワーズは、かすかな声で哀願した。「そのテレビを消して・・・ください」  
 ジャンが映っているのがつらかった。その前で淫らなことなど、できるとは思えなかった。  
「ふざけんな」ジュンの投げた氷が、フランソワーズの額にあたった。「女奴隷には、なんの権利もないんだよ。さっさと、オマンコを見せろ」  
 フランソワーズは、歯を食いしばった。今は、耐える時だと思った。この試練を乗り越えれば、きっといいことがある。今までが、そうだったように・・・。  
 フランソワーズは、意を決すると、みずから脚を開き始めた。  
 
 脚を30度ほど開くと、ジュンが焦れたように怒鳴る。  
「のろのろするんじゃないよ。両足をソファーの上に置いて、開脚するんだ。手は頭の後ろにまわしな」  
 フランソワーズの両脚が、男のももの上で横長のM字形を描く。  
 電磁ロックで縛られた両手を後頭部にまわすと、乳房がそそり立ち、まるで男を挑発するヌードモデルのようになった。  
 バストからウエストにかけての美しい曲線美があらわになる。柔らかく生えそろった陰毛の下では、割れ目がわずかにほころび、瑞々しい肉襞が顔をのぞかせていた。  
 ジュンは、一瞬、言葉を失った。同性の目から見ても完璧な肉体美だった。  
 が、その美しさが、彼女をますますいらだたせた。  
「なにぼうっとしてんだよ。尻を動かして、マシンガンを喜ばしてやれ」  
 マシンガンというのは、後ろの男のあだ名なのだろう。  
 ソファに両足をかけたため、フランソワーズの重心は後ろに傾いている。背中から尻にかけて完全に男と密着していた。熱い肉棒は、ぴったりと尻の谷間にはまっていた。  
 フランソワーズは、その肉棒を右に左に倒すように尻を振った。丸い尻が、男の腹と太ももの境目あたりを、むにむにと押す。  
「ぐへへ・・・、たまらんぜ」  
 すぐ耳の近くで、男がうめく。すでに先走りの液を数滴、フランソワーズの腰に飛ばしていた。ジュンの命令とはいえ、後ろから抱きしめることができないのが、つらかった。  
 不自然な姿勢を支えているフランソワーズの太ももが、ぷるぷるとふるえ始める。  
 肉体的なつらさと緊張感から、思わず「はふ・・・」と小さな吐息をもらした。  
「感じはじめたのかい?」  
 ジュンは聞き逃さなかった。つかつかとフランソワーズの前まで歩み寄ると、股間に手を伸ばし、無造作に陰毛をかきむしった。  
 
「これが亜麻色のヘアか・・・。スケベな色だよ」  
 ジュンは、陰毛に指をからませると、数本引き抜いた。  
「・・・っつ」  
 フランソワーズは、痛みに顔をしかめる。  
「こっちは、もっとスケベなんだろ・・・」  
 ジュンは、割れ目に指を伸ばし、大きく左右に開いた。  
 桜色の媚肉は、弾力性にあふれている。真珠のようなクリトリスから、まだ閉じている膣口まで、どこをとっても優美だった。  
 ジュンは、にゅるん、と中指を膣口にくぐらせた。  
「あぅ」  
 フランソワーズは、腰を浮かしかけた。その動きを押さえるように、ジュンの親指はクリトリスにそえられる。  
「ああ・・・んぁっ」  
 甘い嗚咽をもらしてしまった。ジュンの指の素速くて繊細な動きが、直接、性感を刺激した。  
「ほうら・・・もうとろ〜りとしてきた」  
 その言葉を信じたくなかった。しかし、実際に股間でうごめく指が、にっちゃにっちゃと湿った音をたてはじめている。  
 自分でも驚くほどに、反応が速い。気絶していた間も、男の慰み物になっていたからだろうか。  
 ジュンの指が、くにくにとクリトリスを押すと、恥ずかしいくらいに蜜液がこぼれでた。  
「やっぱ、おまえは好きものなんだよ」  
 
「これ以上、我慢できん!」  
 マシンガンが、後ろからフランソワーズにむさぼりついた。ジュンは止めない。  
 腋の下から回された男の両手が、乳房を押し上げ、もみしだいた。ざらざらとした舌で、肩から首筋にかけてねっとりと舐めあげる。  
「フンっ・・・う」  
 フランソワーズは、唇を噛みしめながら、喉の奥で悲鳴をはなった。  
 言葉は乱暴だったが、ジュンも背後の男も、タッチは繊細だった。まるで恋人にでも接するように、乳房や媚肉を優しく扱う。  
 その感触が、フランソワーズを戸惑わせた。  
 今まで、ジュンに従うふりをしつつも、心の奥底では抵抗をやめるつもりはなかった。  
 しかし、目や耳の特殊な能力が効かない。マイクロ発信器は、送受信ともに働かない。  
 強い電流を流されたときに、体内の機械のほとんどが調子悪くなってしまったようだ。  
 その程度の防御もできない自分の機能を、今さらながら呪った。サイボーグとしての能力強化を拒否してきたことが、仇になってしまった。  
 手足をもがれたような不甲斐なさを感じる。  
 男の手の間からこぼれている乳首が、ジュンの口にふくまれた。舌で転がされているうちに、ビクン、ビクンと、何度も甘い衝撃が走った。  
「そろそろ男のモノを挿れてもらいたくなっただろ」  
 フランソワーズは、ゆっくりと首を振る。しかし、潤んだ瞳は、体が燃えさかっていることを告げていた。  
「可愛いフランソワーズ・・・」  
 不意に、ジュンがフランソワーズの唇を奪う。  
「んんんむ」  
 フランソワーズは目を見開いて驚く。  
 ジュンのキスは、恐ろしいほどにうまかった。適度な圧力で、フランソワーズの柔らかな唇をまくりあげた。こまかく震える舌で、口腔内の性感帯を的確に刺激した。  
 口のなかに割り込んできた舌を、フランソワーズはつい自分の舌で歓迎してしまった。ふたりの女の舌が、音をたてて絡みあった。  
 
 フランソワーズがキスに気をとられている間に、男は彼女の体を持ち上げ、中腰の姿勢をとらせる。  
 肉棒の先端が蜜壺にあてがわれた。  
「ンン!」  
 フランソワーズはあらためて焦りを感じる。こんなに簡単に犯されていいものか・・・。  
 が、次の瞬間、蜜壺は何の抵抗もなく、男の傘をニュルンと呑みこんだ。  
 ジュンが、唇を放す。  
「ぁぁぁぁぁぁぁ・・・」  
 フランソワーズの口から切なげな声が、糸を引くように漏れた。キスのためにあふれ出ていた唾液が、口元からこぼれた。  
 腰を押し下げられるままに、男を奥深くへと迎え入れていく。男のシンボルが侵入してくるにしたがい、体が前かがみになり、乳房がふるふると揺れた。  
 ついにフランソワーズの蜜壺は、ペニスの根元までしっかりとくわえこんでしまった。  
「はっうっ」  
 顔をのけぞらせて、頭をふった。体の奥まで貫かれて、尻から脚の裏側にかけて痺れきったような心地がした。  
 これが愛する男のものだったら、たまらない快感となっていただろう。  
「それじゃあ、おまえの本番ショーを、たっぷりと見させてもらうよ」  
 ジュンが、元の椅子に戻り、目を輝かせながら、見守った。  
 フランソワーズが美しいだけに、男を迎えるために開ききった股間が淫らだった。  
 蜜液をきらりと光らせながら、浅黒いペニスを呑みこんでいた。  
 つやつやとしたクリトリスは、内側から押されてせり上がっている。張りつめた乳房は、重たげに揺れていた。  
 
 男はすぐに動かない。いや、動きたくなかった。  
 ペニスはすでに、蜜液を浴びて濡れそぼっていた。蜜壺のなかでは幾重にも連なった粘膜が、男根を優しく締め上げている。  
 その甘美な感触をいつまでも堪能したかった。腹を押す尻肉のしっとりとした感触も味わいつくそうとした。  
 フランソワーズの胎内で、小さな痙攣が、二度三度と走り、男を刺激した。  
 それが合図だった。  
 男は、自分の特殊な能力を発動させた。  
 ペニスが突然こまかく振動し、同時に幹全体がくねくねとヘビのように動きだした。  
「ゃあっン・・・」  
 予想もしない展開に、フランソワーズは、悲鳴にも近いかん高い声を放った。  
 まさかストロークなしで、男根に胎内がかき乱されるとは思わなかった。  
 初めての体験に、どうしたらいいかわからなくなる。乳首が勝手に反応し、熱い芯が通ったように、鮮やかなピンク色を見せて、そりかえった。  
 男のペニスは振動をとめないまま、螺旋を描き出す。  
「ひぅっっ・・・」  
 フランソワーズの額に汗がにじむ。快感の塊が、体の奥深くから、ペニスによって掻き出されていくようだった。  
 尻肉がブルンッと震えた。共鳴した乳房が、ぷるぷるとわなないた。  
「マシンガンのペニスには、バイブが仕込まれているんだ」ジュンが楽しげに語る。  
「0013と一緒だった片輪たちは、おまえたちに負けてから、レイプ専門のサイボーグに生まれ変わったんだよ」  
 レイプ専門・・・? 片輪? なんのことだかわからない。頭がぼうっとして、考えることができない。  
 0013なんて、ずいぶん古い話・・・。  
 どっちにしろ、それ以上、考える時間などなかった。  
 背後の男が、フランソワーズを羽交い締めにして、体を持ち上げはじめたのだ。  
 
「ああっ」  
 足が宙に浮いて、不安になる。  
 やはり男は改造人間だ。力がすさまじかった。女の尻を貫いたまま、立ち上がり、体を反らせた。  
 フランソワーズは、男の体の前に磔にされたような形になった。  
 その格好のまま、男は歩き始めた。もちろん、その間も、ペニスの動きは止まらない。  
「イヤぁぁぁぁっ!」  
 男の目的がわかった。目の前には、夜景を眺めるための巨大な窓ガラスがあった。  
 人の背丈ほどもあるガラスにふたりの姿が映る。  
 尻をつらぬかれたまま身もだえている自分自身を見て、フランソワーズは新たな羞恥心にさいなまれる。  
 かあーっ、と全身が熱くなり、汗がにじみでた。乳白色の肌がうっすらと紅潮した。  
 と同時に、股間に刺さったまま、びくともしない男のペニスに脅威を感じた。とてもかなわない、と思った。  
 自分の顔の後ろから覗いている男とガラス越しに目があった。初めて、まじまじと顔を見た。  
 白髪に皺だらけの顔。こんなに年寄りだとは思わなかった。  
「やっと、おれの顔を見てくれたな」鉤鼻の顔が特徴的だった。「久しぶりにお前と会えてうれしいよ」  
 フランソワーズは、かすかに首を振る。0013一味と闘ったのは、主にジョーとアルベルトとグレートだったから、他の仲間のことはよく覚えていない。  
「あの頃より、熟れたな。尻もオッパイも、めっぽう大人っぽくなったじゃねえか。ひとりやふたりの男じゃあ、満足できない体になっただろ?」  
「・・・い、いえ・・・、ウッ!」  
 否定した瞬間、体の中のペニスの回転が速まった。膣内の襞のひとつひとつが裏返されるような異様な感覚だった。  
「嘘つき奴隷女には罰が必要だな。晒し者の刑だ」  
 男は、一気に窓ガラスへと進んだ。  
「アアアッ・・・。やめ・・・、やめてェ」  
 
 なすすべもなかった。  
 フランソワーズの全身が、巨大なガラス窓に押しつけられた。  
 乳房が、真っ平らなガラスにつぶされ、きれいにふたつの円を描く。乳首が不自然な角度で倒れ、体のなかに埋めこまれた。  
 目の前には、都会の夜景が果てしなく広がっている。  
「どうだ? 東京中の男たちに、視姦されている気分は?」  
「はあ・・・、はあ・・・」  
 答えることなどできない。  
 冷静に考えれば、ホテルの最上階の窓など、そうそう覗きこめるものではない。  
 しかし、眼下に広がる明かりの一つ一つが、男たちの視線のように感じられた。全身が粟立つような、すさまじい感覚におそわれる。  
「もっと乱れた姿も見せてやろうぜ」  
 男はフランソワーズの腰を引いた。両足が逆Vの字を描くくらいの位置に整える。  
 フランソワーズは、額と縛られたままの両手をガラス窓について、体をささえた。熱い吐息をもらすたびに、ガラスが曇った。  
 男がストロークを開始した。  
「んあああぁっ・・・ぅはっ」  
 こらえきれずに、獣じみた声を放ってしまった。  
 くねくねと踊り狂うペニスが、蜜壺を繰り返しえぐる。剛速球のスクリューボールを胎内に投げ込まれているようだった。  
 快感などという生やさしいものではなかった。衝撃的な体感に、肉体は屈服するしかなかった。  
「やっ・・・、んんんっ・・・、アアン」  
 股間を打ち抜かれる勢いで、上半身が少しずつガラス窓を這いのぼる。  
 額は何度か、ゴンゴンと窓を撃った。今では、乳房が揺れるたびに、ペタ、ペタとガラスにあたる。  
 打ちふるえる尻から腰にかけて、男が撫で上げる。  
「ひぅ・・・はぅっ・・・」  
 恥じらいを感じているヒマなどなかった。もう何をされても感じてしまう。  
 男の手が前にまわされ、乳房を絞り上げた。  
「ひっあぁぁぁん」  
 鼻と口から同時に悲鳴が漏れた。  
 胸の間にたまった汗が、ガラスの表面を流れ落ちた。媚肉から溢れた液が、両ももの内側を濡らしていた。  
 感きわまった蜜壺は、男性を締め上げようとする。が、粘膜が男にまとわりつこうとするたびに、強引に押し開かれ、内側からかきむしられる。  
「いいっう・・・んぁ・・・だめ・・・」  
 このままでは、体が壊れちゃうんじゃないかと思った。それほど男の攻めは、強力だった。  
 
「まだまだ。これからだぜ」  
 男はにやりと笑うと、子宮口にあたっているペニスの先端を、細かく振動させた。  
「ウワぅッ」  
 フランソワーズは背中をのけぞらせて、咆哮した。膣内の奥壁を打たれるたびに、下半身全体が共鳴した。  
 腹膜全体が揺れて、はかりしれない陶酔をもたらしている。体のなかで火山が爆発したようだった。  
 痛烈な愉悦が全身に染みわたる。口は無言の悲鳴をあげたまま閉じることができない。つややかな唇の間に、唾液の糸が生まれるのも止められなかった。  
 体の中から湧き起こる衝動に、身を任せるしかない。そうでもしなければ、本当に心と体がばらばらになってしまいそうだった。  
 知らずのうちに腰を上下に振り、媚肉をペニスの根元に押しつけている。おびただしい愛液が、男の陰毛や袋までびしょ濡れにした。  
 みずから乳房を、窓ガラスに押しつけた。汗にまみれた肌がガラスの表面を滑って、キュッ、キュッ、と音をたてた。  
 次の瞬間、津波のような絶頂感に、全身がのみこまれた。  
「ふあっ!・・・ウ」  
 フランソワーズの声が、部屋全体に響きわたった。ガラスがビリビリと振動した。  
 戦慄的な官能に、体中が痺れきった。膝がガクガクとふるえたかと思うと、全身の力がぬけていく。額をガラスに押し当てて、なんとか体を支えた。  
「・・・はっ・・・ふぅ・・・はあ」  
 乱れた呼吸を直すことができない。  
 
 男がペニスを引き抜くと、フランソワーズはその場に座りこんでしまった。  
「いったの?」  
 ジュンは、亜麻色の髪をつかみ、顔を覗きこむ。  
 フランソワーズは、虚ろな目をしたまま、首をゆっくりと振った。  
「ちゃんと答えるんだよ」  
「はい・・・。たぶん」  
 観念したように目を閉じた。  
「ふん。どうやら人に見られるのが好きらしいね。絨毯は、おまえがもらした液体で、びしょびしょだよ」  
 フランソワーズは、目を上げることができなかった。すぐ近くでは、バイブ入りの男根が、まだうなりをあげている。  
「それじゃあ、おまえをもっと楽しませてやろう・・・」  
 ジュンが、フランソワーズの手から電磁ロックをはずす。が、開放感を味わえたのつかの間、首にヒヤリと冷たい感触が走った。  
「え・・・」  
 手でさぐると、細長い革が巻かれている。男が背後から、首輪をつけたのだ。  
「ははは。奴隷には、こっちのほうが似合うと思ったのよ」ジュンが嬉しそうに言いながら、首輪にリード(綱)をつけた。「じゃ、散歩に行きましょう」  
 リードを思いっきり引っ張る。  
「やめて・・・。やめてください」  
 フランソワーズは慌てた。首筋がよじれて、喉がつぶれるかと思った。リードをつかみ、ジュンに必死に訴えかけた。  
 
「抵抗はやめな。おまえがしているのは、ただの首輪じゃないんだよ」  
 テニス・プレーヤーは、手に持ったリモコンを見せつけ、スイッチを入れた。  
 その途端、強烈な耳鳴りがフランソワーズを襲った。  
「アウウッ!」  
 脳味噌が沸騰しそうなほどの頭痛が起きる。目を閉じても、幻覚が見える。そこにあるはずのない自動車や人の群れが、次々と飛び込んできた。  
 すぐにスイッチが切られたが、早まった鼓動は収まらない。フランソワーズは、しばらく肩で息をした。  
「おまえの首輪には、小型マッド・マシンが仕込まれているんだ」  
 マッド・マシン・・・。これもまた古い記憶のなかにある言葉だ。たしか、ドルフィン教授が開発したもので、すべての機械を狂わす超音波をだす・・・。  
「逆らうとどうなるかわかっただろ? じゃあ、散歩に行くよ」  
 ジュンが再びリードを引く。  
 仕方なくよろよろと立ち上がろうとしたフランソワーズを、ジュンはさらに怒鳴りつけた。  
「だれが立っていいと言った! 犬になって四つん這いで歩くんだ。膝をついてもいけないよ」  
 犬のポーズをとる。すらりとした脚を伸ばすと、自然と尻を突き出す形になった。太ももの付け根では、ピンク色の裂け目がまだあたたかく潤っている。  
「へへ。もう一度入れてみたいものだな」  
 マシンガンが、後ろから目を輝かす。しかし、ジュンに「勝手なことするな」と叱りつけられ、隣の部屋へ下がるよう命じられた。  
 
「あの・・・どこへ」  
 ジュンが平然と入口に向かうので、フランソワーズはさすがに身がすくんだ。  
「散歩は外でするもんだろ」  
「そんな・・・」  
「安心しな。ホテルの廊下だけで許してやるよ」  
「人に見られたら・・」  
「奴隷がまともな心配すんじゃないよ」  
 ジュンは、部屋のドアを開けた。ホテル特有の無機質な匂いがフランソワーズの全身を撫でる。  
「ゆ・・・、許して」  
 身を震わせて懇願した。しかし返事はなく、リードが思いっきり引っ張られる。手足を動かすしかない。  
 引きずられるままに、廊下に出された。白い裸身が、ほの暗い照明を浴びてわなないた。  
「ううっ・・・」  
 背後でドアが閉まったとき、フランソワーズは喉の奥でうめいた。  
 えんじ色のカーペットが敷かれた廊下は無人だった。視聴覚の特殊な機能は失われたけど、研ぎすまされた神経は、どんな小さな音も感じとろうとする。  
「犬のフランソワーズの散歩が始まるよ。一往復だけだから、びくびくするな」  
 ジュンは冷徹に言い放って、エレベーターホールへと歩き始めた。  
 一歩一歩が屈辱的だった。首輪だけをつけた素裸。性器も丸出しにして、四つん這いで歩かなければならない。  
 ジュンはやけにゆっくりと進む。手と足を動かしながら、フランソワーズはみじめな思いに打ちひしがれる。  
 その間も、胸の下では乳房が、プルンプルンと揺れ、尻肉は交互に盛り上がった。自分の女らしさを、これほどわずらわしく感じたことはなかった。  
 
 ようやくエレベーターの前まで着いた。ゆっくりと回れ右をして戻り始める。  
 豪華なスイートばかりが並ぶ部屋数の少ないフロアだ。もしかしたら、このまま誰にも見つからずに部屋にたどりつけるかもしれない。  
 そう安心しかけた時、チンと音が鳴って、エレベーターの上のランプがともった。  
「あ」  
 急ぎ足になろうとしたフランソワーズの首を、ジュンが押さえつけた。  
「ペースを変えてはいけないよ」  
「ぁぁ・・・」  
 エレベーターの扉が開き、後ろから人が近づいてくる。つかつかと大股で歩いているのがわかる。  
 フランソワーズは、少しでも視線を避けようと、太ももをなるべく合わせる。  
 その格好は、尻は高々と突き上げることにもなった。尻肉が豊かだから、肛門は見えない。それでも両脚の付け根で、くっきりと割れ目を刻んでいる媚肉は隠しようがなかった。  
 極度の緊張と恥ずかしさから失禁してしまいそうだった。蜜壺の奥がジンジンと疼いた。亜麻色の陰毛が、かすかに震えていた。  
 風が吹くような感じで、人の気配が迫ってきた。  
 40代と思われる立派な身なりの白人男性だった。上層階級の人間らしく、こんな時でも他人のプライバシーへの無関心を装っていた。  
 巻き毛に隠されたフランソワーズの横顔にちらっと視線を走らせると、一瞬肩をすくめてから通り過ぎていく。  
「羞恥プレイに慣れている人でよかったね」  
 男の気配が廊下の奥に消えてから、ジュンが耳元でささやいた。  
 フランソワーズは、ますますみじめな気分になった。  
 いつもだったら彼女に関心を示さない男はいない。ホテルの廊下ですれ違ったら、にっこりと会釈を送り、積極的なイタリア男だったら声をかけてくるかもしれない。  
 それが今や、真っ当な人間には、目をそむけられる存在になってしまった。  
 本物の犬になった気がした。  
 
「服を着な。じっと我慢したご褒美に、ホテルの外に連れて行ってあげるよ。首輪はとってあげられないけどね」  
 ジュンが下着や衣装をクローゼットから取りだし、ベッドの上に並べた。  
 部屋に戻り、二本足で立つことを許された。フランソワーズを犯した男たちの姿は、いつの間にか消えていた。  
 ジュンとふたりきりになった室内で、下着を手にとる。  
「これは・・・」  
 そのデザインに呆気にとられた。ブラジャーもパンティも、悩ましいワインレッド。  
 それだけならまだしも、ブラには胸を覆う部分がなく、三角形のストラップがふたつつながっているだけだった。  
 パンティはサイドとバックが紐状になっていて、ただでさえ心もとないのに、股間の部分に穴が開いている。  
「可愛い奴隷には、オープンタイプがお似合いだと思ってね」  
 こんな下着はつけたくないのだが、小型マッド・マシンの首輪を巻かれたままでは仕方ない。  
 パンティをはいても、股の間がまだすーすーする。ブラジャーをつけると、三角形の枠組みによって絞り上げられた両の乳房が、誇らしげにそそり立った。  
「うわ〜ん。きれい」  
 ジュンが気持ち悪い声をあげて、両手で乳頭のあたりを、プルルンと弾いた。  
「あぐっ」  
 フランソワーズは、変な声をあげてしまった。不覚にも絶頂を味わい、犬のポーズで全裸をさらした体は、まだ炎をともし続けていた。  
 少し触られただけで、体のなかがざわめき、乳首の固さが増した。  
 用意された服は、ストレッチ素材の白のマイクロミニに、ざくっとしたインディゴのGジャン。フランソワーズが着れば、それなりにお洒落な格好になった。  
 しかしミニスカートは豊かな尻にぴったりとまとわりつき、パンティの透けは隠せない。少し前屈みになっただけで、尻の谷間に食い込む下着が見えてしまう。  
 Gジャンは上の方のボタンをはめることを許されず、襟元から今にも乳房がこぼれでてしまいそうだった。  
 この格好でヨーロッパの町に出れば、間違いなく娼婦と間違われるだろう。  
 高いピンヒールのミュールを履かされ、ジュンに連れられてホテルを出た。  
 
 ホテルの地下の駐車場から、ジュンの手下のマシンガンの運転する黒塗りの車に乗せられる。車は、すぐ近くの駅に着いた。  
 まさかとは思ったが、フランソワーズは、ラッシュアワーの通勤列車に押しこまれた。  
「どこへ行くの?」  
「おまえに日本をもっと知ってもらいたくってね。通勤地獄なんて体験したことないだろう」  
 車内は人いきれでむっとしていた。人と人の間に割り込んでくるフランソワーズの姿に、男も女も関係なく目を見張った。  
 ただでさえ美しいのに、流麗なボディを強調するセクシーな服を着ている。そんな白人女性が目立たぬはずがない。  
 フランソワーズはジュンにぐいぐいと背中を押されて、車両の中央に立つ。  
 隣で新聞を読んでいた中年男は、自分の目を疑った。  
 大きく開いたGジャンの胸元から、柔らかそうな乳房の丸みがはっきりと見えた。いや、覗きこめば、Gジャンの厚い生地を押し上げている乳首まで確認できた。  
 中年男は、それだけて天にも昇りたい気持ちになった。こんないい女の生乳など、一生見る機会がないと思っていた。  
 新聞を読むふりして、チラチラとフランソワーズの胸元に何度も目を走らせた。  
 だが、電車は動き始めても、彼女に好色の手を伸ばす男はいない。  
 いやらしいことを考えるよりも、完璧な美しさに打たれ、むしろ近寄りがたい存在と思ってしまっている。  
「ち・・・勇気のない男ばかりだよ」  
 斜め後ろに立つジュンが舌打ちをする。同時に、フランソワーズのヒップを撫で上げた。  
「こんなところで」  
「日本に何年住んでるんだい? これが通勤電車の醍醐味なんだよ」  
 ジュンは、強い握力でフランソワーズの柔らかい尻肉をこね上げる。マイクロミニの裾がせり上がり、尻の丸みが見え隠れした。  
 フランソワーズは、サラリーマンの間から手を伸ばして吊り革をつかむ。。ジュンに逆らうことはできない。あきらめて目を閉じた。  
 ジュンの指は、容赦なく尻にくいこんだ。豊麗な膨らみが、ぷりぷりと指を跳ね返す。  
 
 フランソワーズは、唇をぐっと噛みしめた。周りの者に気づかれたくはなかった。  
 指はスカートの裾をたくし上げ、尻の谷間に割ってはいる。太ももの付け根に押し入り、尻肉の左右の内側をぴたぴたと叩く。足を開けという無言の命令だった。  
 フランソワーズはぎゅうぎゅう詰めの空間で、少しずつ足を開いていく。  
 ふくらはぎに力をこめ、上体はシャンとした姿勢を保とうとする。バックからの侵入に、女の体はなんてもろいんだろう、と悔しかった。  
 ジュンの中指が、オープンパンティの穴の部分に引っかかる。薄い布の下に指をくぐらせて、媚肉と肛門の間の敏感な部分を、何度もなぞった。  
 フランソワーズは、眉間に皺をよせ、あえて厳しい表情をつくった。  
 手の動きのために、小さめのスカートは後ろへと引っ張られている。  
 すでに恥丘のふくらみがスカート越しにもわかるようになっていた。股間の下で何かがうごめいていることがばれるのも、時間の問題だ。  
 実際、斜め前の座席から、ちらちらとこちらを見ている男がいる。  
 さりげなく左手をスカートの前に重ねた。  
「余計なことしたね」  
 ジュンが、耳元で叱責した。指の動きが速まる。  
 きっと膣やクリトリスを責めてくるのだろう。そう覚悟した瞬間、中指の腹が肛門に重ねられた。  
 
(イヤ・・・)  
 思わず声を漏らしそうになった。肛門のすぼまりをもみしだかれ、なんだかくすぐったかった。  
 女陰部への責めなら、感じ方も予想できるし、耐えてもみせると思った。しかし、お尻の穴は、あまりにも経験不足で、自分でもどうなるかわからない。  
 中指の先が、すぼまりの中心の凹みに、ぴたりと重ねられた。次の瞬間、ぐぐっと力が込められ、尻の穴が開かれていった。  
(ぁぁっ・・・)  
 フランソワーズは、ほとんど聞き取れないくらいの小声を洩らした。  
 腰に力が入らずに、下半身が崩れそうになる。それでいながら上半身は、その場で飛び上がりたいような妙な焦燥感に包まれる。  
 ジュンは、ぐにぐにと指を回しながら、第一関節のあたりまで指を沈めた。小さな肛門が、きつく指を締めつけた。  
 直腸の筋肉をほぐすように、ゆっくりと指を出し入れする。  
(ふむむ・・・)  
 フランソワーズは知らずのうちに膝を曲げ、尻をやや後ろに突きだしていた。周りに人がいなければ、おおおお! と叫びだしたかった。  
 これが性感かどうかはわからない。しかし、懐かしいような、切ないような、不思議な感覚があった。  
「アナルも好きなんだね。・・・スケベ・サイボーグ!」  
 ジュンが、耳元でののしった。  
 
 電車が駅に着き、乗客が入れ替わる。  
 ターミナル駅に近づく途中なので、混む一方だった。  
 ジュンの指がすっと抜かれ、背後の気配が消え去った。  
 肛門は、すぐには閉じられず、名残惜しそうにまだヒクヒクしている。  
 これで電車の中での刑罰は終わったのだろうか。  
 フランソワーズは、シートに座る人と膝をつき合わせる場所まで押し出された。ややほっとして、スカートの皺を直した時だった。  
 後ろからぴったりと体を密着させてくる男がいた。  
 フランソワーズよりは背の低い男らしい。ツンツンとしたペニス特有の弾力が、ズボン越しにむき出しの太ももを押していた。  
 怒りにかられて背後を振り返る。  
 薄汚いジャンバーを着た労務者風の男が、尻にまとわりついていた。頭ははげあがり、背中が不自然に曲がっている醜い男だった。  
 眉をつり上げて、怒鳴りつけようとする。が、その機先を制すように、小男が手の中の小さな道具を見せつけた。出っ歯をむき出しにして笑った。  
 マッド・マシンのリモコンだった・・・。フランソワーズは、がっくりと肩を落とした。この男も、ジュンの手先だったのか。  
 電車が走り始めたのを合図に、小男は無遠慮に尻を撫で回し始めた。  
 ミニの裾を大胆にまくり上げ、乳白色の尻肌に両手でじかに触れる。クリンとした丸みを揉みあげた。  
 醜い小男の玩弄物になるのは、ジュンに責められるよりも、ずっと屈辱的だった。  
 いくら混んでいるとはいえ、人と人の間にわずかな隙間がある。生の尻を誰かに見られているかと思うと、もちろん恥ずかしい。  
 しかし、死んでも感じるものか、と、きりっと口を結んで窓の外の暗い景色を見た。  
 
 フランソワーズは、小男の姿に見覚えがあった。不意に記憶がよみがえった。  
 やはり0013仲間だ。昔、秋のコズミ博士をさらったセムシ男だ。  
 あの日、落ち葉が舞い散る林でフランソワーズとジョーは愛し合っていた。  
 初めてフェラチオを覚えたのも、あのときだった。  
 0011との戦いで痛めつけられた体がようやく回復したばかりだった。健康を取り戻せたことがうれしくて、自分から積極的にジョーを求めたのだった。  
 ズボンの上からジョーの下腹部をさすると、手の中でみるみるペニスが固くなるのがわかった。たまらずにジッパーを下ろし、たくましい男性自身を取りだした。  
 あまりにも愛くるしくて口に含みたいと思った。その気配を察したジョーが、頭に手をあてて、押し下げた。  
 どうしたらいいかわからないまま、唇で挟んだ。愛しい人のペニスをほおばるだけで、こんなにも感動するものかと驚いた。  
 はぐはぐと甘がみすると、「あ、歯を立てないで」とジョーに注意された。  
「どうすればいいの?」  
「舌と唇だけで・・・、舐めおろして」  
 経験したことのない動きに、顎がはずれるかと思った。初めてのことだから、歯があたらないようにするだけで緊張した。  
 ジョーが「むむむ」と呻くのを聞いた時は、ほんとうに嬉しかった。  
 男は女の口でいくのを喜ぶという。まだリセにいる時に、聞きかじった知識だ。それを実践したくて、舌でペニスの裏側を思いっきりしゃぶりあげた。  
「いい・・・、いいよ。フランソワーズ・・・」  
 ふたりの距離が、ますます近づいたのを実感した。  
 そんな至福の時を破ったのが、この不細工な男だ。  
 セムシは、フランソワーズが動けないのをいいことに、背中に顔をうずめて、ハアハアと荒い息を吐きつけている。  
 そのおぞましさに耐えていた彼女を、さらに狼狽させる事態が起こった。  
 前の席に座っている男が、スカートの裾に手を伸ばしたのだ。  
 
 お尻の側がめくられているため、白いミニスカートはすでに股の付け根近くまでずれあがっていた。  
 裾を男が両手でつまみ、そろそろと持ち上げる。  
 フランソワーズは、あわててスカートの裾の真ん中を押さえた。それでも男の動きがとまらないので、外側は足の付け根までまくられてしまった。  
 その男も、年をとった労務者風だった。後ろのセムシと風情がよく似ている。  
 安っぽい雰囲気が、かすかに記憶を刺激した。松葉杖に銃器を仕込んだ男で、たしかカカシと呼ばれていたはずだ。  
 カカシの手と争っているすきに、背後からセムシの手が伸びてきた。大きく開いた襟元にずけずけと入りこむ。  
「あ・・・」  
 小さな声をあげたときにはもう遅く、節くれだった指が乳房を裾野から撫で上げていた。人差し指で乳首をいじり回し、残りの4本の指をじわじわと豊かな膨らみに食い込ませる。  
 フランソワーズは、吊り革から手を放し、セムシの手首をつかんだ。  
 電車が揺れた。両手で襟元とスカートを押さえている彼女は、バランスをとるために股をやや広げた。  
 ミュールのかかとが高いので、その動作でさえ、ぎこちなくなる。  
 前の席のカカシは、もうスカートには固執しなかった。男を迎え入れるかのように、いい感じで開かれた股間に直接手を伸ばす。  
「だめ・・・、ア」  
 抵抗する声もむなしかった。オープンパンティの穴は、さっきのジュンの責めで十分に開かれている。  
 カカシは縦長の穴からせり出している媚肉を自在にさすることができた。やわらかな陰毛が、指先をくすぐった。  
 カカシの薄汚い指が、割れ目にニュッと入りこみ、敏感な真珠をいじくりはじめた。  
「う・・・」  
 フランソワーズは、驚きの声を喉の奥で呑みこんだ。  
 カカシの指先にもバイブレーターが仕込まれていた。クリトリスが絶え間なく振るわせられた。  
 
 むんむんとした色気は発散させながら、フランソワーズは身をくねらせる。乳房とクリトリスを同時に責められては、どうしようもない。  
 その上、セムシはもう一方の手を、尻にくいこんだパンティにくぐらせ、肛門のあたりをくすぐり始めている。  
 異様にエロチックな気配に、周りの男たちが共犯になった。直接触れてくる者はいないものの、みな食い入るようにフランソワーズの肢体に見入った。  
 たまたまそばにいた女は、無関心を装うか、好奇心いっぱいに眺めるかで、いずれにせよ車内に味方はひとりもいなかった。  
 美しすぎる女がいじめられているのを見て、喜んでいる地味な女もいた。  
 フランソワーズは、奥歯を噛みしめ、男たちの責めと闘った。  
 人前で慰み物になっている屈辱には耐えよう。しかし、これ以上乱れるような無様な真似だけはすまいと思った。  
 だが、その意志もどこまでもつか、わからない。  
 男たちの指が同時に、胎内へ侵入してきた。カカシの指は膣に、セムシの指は肛門に突き刺さる。  
 前と後ろの穴で細かいグラインドが始まる。  
「ンンンっ・・・」  
 妖しげな感覚が脳天まで突き上げてきた。緊張感も手伝って、フランソワーズは、一瞬、気を失いそうになる。  
 その隙を、貪婪な男たちは見逃さない。セムシは、スカートを押さえている左手をとり、自分の股間に導いた。  
 
 フランソワーズの胸が、ドキンと高鳴った。  
 手に触れたのは、生のペニスだった。恥知らずにも男は電車のなかで、ファスナーを開けて中身を取りだしたのだ。  
 無理矢理、男のものを握らされた。はちきれるように固く熱かった。  
 美しい指に包まれて、雄のシンボルがビクビクと動く。電車の揺れに体を合わせているだけで、自然と幹をさすりあげることになった。  
 スカートの前面は、すっかり無防備になっている。  
 カカシの手によって、ミニの裾があっさりとめくりあげられた。  
 周りの男たちが、「おおお」と、小さな歓声をあげる。  
 オープンパンティの穴から、亜麻色のヘアーに彩られた薄桃色の媚肉が、むくりと盛り上がっていた。割れ目はわずかに開き、つややかな花弁が顔をのぞかせている。  
 気がつけば、腰から下をすっかりさらけ出してしまっていた。  
 ワインレッドのオープンパンティは、もちろん何の役にもたたない。尻の谷間と、媚肉の両側に食い込んで、下半身の完璧な造形を強調するばかりだった。  
 カカシの中指が、ぬっぷりと膣の中へ入りこみ、奥にたまっていた蜜液を掻き出す。  
 続いて、濡れた指であでやかな女陰を左右に大きく開いた。花弁の内側やクリトリスを、縦横無尽に撫で回した。  
(ああっ・・・うっ・・・)  
 フランソワーズは声をあげそうになるのを、必死にこらえる。  
 自分でも驚くほど、性感が鋭敏になっていた。  
 人前だというのに、敏感すぎる・・・。困惑したフランソワーズは、ふと首輪に手をやった。ほんのわずかだけど、ピリピリとした振動が伝わってきた。  
(あ・・・)  
 実は、マッド・マシンが、発動しているのだ。気が狂わならないほどの弱い出力だけど、確実に体の感覚はむしばまれている。  
 フランソワーズは、ぞっとした。  
 あたしは狂っていく・・・。  
 
 電車は再び駅に着く。  
 フランソワーズの周りで降りようとする者はひとりもいなかった。事の成り行きを最後まで見守ろうと、誰もが固唾を呑んでいた。  
 新たな乗客で車内の混雑は限界に達し、尋常でない熱気に包まれた。  
 発車のベルが鳴る。  
 フランソワーズは、体をさいなむ官能と闘いながら、ぼんやりとプラットホームの光景を見ていた。  
 カカシは、揃えた指を股間の亀裂に細かく往復させている。指先には、とろりとした愛液が糸を引いている。  
 後ろのセムシは、しつこいくらいに乳房と肛門をもみしだく。乳首が痛いほどに疼いた。  
 もう立っているのが限界だった。  
 その時、かすんだような視界に、信じがたいものが映った。  
(ジョー!!)  
 幻かと思った。彼のことを思いだしたばかりだから、幻影を見たのかと疑った。  
 しかし、ホームの人混みの間に見えるのは、紛れもなく片目を髪で隠したジョーの顔。  
 どうして、こんなところに。  
 助けに来てくれたとは思えない。今日は、ジュンと夕食をとって帰るから、遅くなると言い残して研究所を出てきた。  
 マイクロ発信器を使えないことが、これほどもどかしいとは・・・。  
 身もだえするフランソワーズの目に、さらに驚くべき光景が映った。  
 ジョーの隣に、若い女性が寄り添っているのだ。  
 ショートカットが似合う、清楚な美人だった。背の高さはジョーとほとんど変わらず、大人の魅力を発散している。  
 ふたりは親しげに顔を寄せて話しあっている。  
(まだあの人と会ってたのね)  
 フランソワーズは、黒髪の女性をにらみつけた。  
 
 小松玲子。それが女の名だ。  
 変死した考古学者、小松博士のひとり娘で、年は20代後半。すらりとした体つきなのに、日本人では珍しいくらいに豊かな胸をつきだしていた。  
 あの頃はまだ「新・黒い幽霊団」との戦いが始まってなかった。サイボーグ戦士たちは決して姿を見せぬ巨大な敵の影を感じ、不安な日々を送っていた。  
 ジョーは、小松博士の死の謎を解くために、日本全国を走り回り、しばしば玲子から話を聞きだした。  
 旅先で偶然出会い、ふたりきりで奈良の古跡を回ったこともある。  
 フランソワーズがやきもちを焼くと、調査のために会っているだけだと説明した。  
 ジョーは異常なくらいに小松博士の事件にのめりこんでいた。張々湖は、博士の魂が乗り移ったと言ってたけど、ほんとうは・・・?  
 ジョーは、年上の女性に弱いから。  
 事件は未解決で終わったはずなのに、まだ会っていたなんて。  
 ねえ、ジョー。どうして、あたしに内緒にしてたの?  
 たまたま用事があっただけなのかもしれない。でも秘密にされていたことが辛かった。  
 直接問いかけることができないので、いやな想像ばかりが働く。  
 ジョーの器用な指先が、玲子のシャツのボタンをはずしていく。しっとりとした肌に、彼の唇が吸いつく。  
 恥じらいを見せながらも、燃え上がる玲子の体。声にならない悲鳴。  
 そんな光景ばかりが目に浮かぶ。  
 バカなことばかり考えてしまうのも、マッド・マシンのせいなのか?  
 電車が動き始めた。ふたりの姿はあっという間に視界から消えた。  
 フランソワーズは、もはや動揺を隠せなくなっていた。  
 観念したように目を閉じて、わき上がる官能に身を任せた。  
 
 セムシもカカシも、フランソワーズの態度の変化に驚きつつも、にやりと笑った。  
 女の体が、突然くにゃっと柔らかくなり、腰をくねらせ始めた。コクンと白い喉を鳴らし、舌で唇を舐めた。  
(来るなら来て・・・)  
 恋人に裏切られたショックから、フランソワーズは完全に開き直った。  
 カカシが、中指と薬指を揃えて、蜜壺に指を埋めた。同時に親指では、ピンと尖ったクリトリスを押し回した。  
「ああっ・・・はン」  
 フランソワーズは、吊り革にぶら下がって体を支えた。甘い声が洩れるのを止められなかった。  
 カカシの責めを受けて、蜜壺はとろりと愛液を吐き出す。電車の走行音があるのに、股間から、にちゃにちゃと湿った音が聞こえてきた。  
 車内は殺気だっていた。異常な光景を見られるのは、フランソワーズ周辺の限られた者に限る。  
 誰もが官能に喘ぐ顔を、みだらに身もだえる体を、この目で見たかった。できるだけそばに近づこうとする。  
 まさに立錐の余地もなくなった。フランソワーズたちもまともに身動きがとれない。  
 セムシが、Gジャンの襟を両手でもち、勢いよく左右に広げた。ボタンが弾ける。  
 車内がどよめきたった。  
 形のいいふたつの乳房が、プルンとこぼれでた。薄桃色の乳首は、見事にそりかえっている。  
 腋から乳房にかけての曲線、まろやかな下端、鎖骨から乳首にかけてのスロープ、そのすべてが美しく、男たちを悩殺した。  
 乳頭の微妙な凹み具合まで、理想的な形をしている。  
 セムシは、美しい隆起を背後からむぎゅっと鷲づかみにする。人差し指と中指の間で乳首をはさみ、力いっぱいにもみしだいた。  
「うぅっ・・・ふっ」  
 フランソワーズは、自分の腕に唇を押し当てて、あえぎ声を押し殺した。  
 
 股間をせめるカカシは両手を使いだす。  
 左手の指で女陰を十二分にくつろげると、右手の指をほぼ垂直に立てて、蜜壺を激しく責めたてた。  
「・・・っは・・・っう・・・」  
 腕にあてた唇から、悩ましげな声がもれる。眉をよせて、苦痛に耐えるような表情。ほっそりとした腕には、透明なよだれがこぼれてる。  
 蜜壺の奥の粘膜はもちろん、全身の筋肉がわなないた。人前で性器を押し広げられ、妖しいほどの高ぶりが巻きおこっていた。  
 乳房をもむ手の動きも執拗だった。その弾力、その柔らかさに、けっして飽きるということがないようだ。  
 指を深く食い込ませ、手のひら全体でふくらみを胸板に押しつける。ひねりを加えながら、揉み上げる。  
 両方の乳首をつまみ、くに、くに、と振り回す。  
 うっすらと汗をかいた肌は、車内灯を浴びて、輝きを増していた。揉めば揉むほど、女としての価値が高まっていくようだった。  
「あああっ・・・ン!」  
 背筋を突き抜けるような新たな衝撃に打たれて、フランソワーズは腰をガクガクと前後にふるわせた。思わず腕から唇がはずれ、甘い嗚咽を放つ。  
 股間を貫く指が鉤型に曲げられ、恥骨の裏側の粘膜を激しくさすり始めたのだ。  
 いわゆるGスポットと呼ばれる部分。フランソワーズのそこは、おそろしいほどに感度がよかった。  
 鋭敏な襞をかきむしられるたびに、真っ白い光が全身を包みこんだ。どうすることもできない。太ももを引きつらせて、尻をぷるぷると振るわせるしかなかった。  
 今や細紐も同然になったパンティは、尻や媚肉や食い込みきって、柔肌を刺激した。  
 
 フランソワーズはみずからを解き放って、感じまくっていた。  
 そうすれば、先ほど目撃した、いやな光景が頭から消え去ると信じているかのように。  
 しかし実際には、体が燃え上がるほどにジョーの姿が思い出された。そしていまいましい小松玲子の風貌も。  
 フランソワーズの頭のなかでは、ふたりはすでに合体していた。  
 瀟洒な洋館。ランプの間接照明。ジョーの腕の中で、ふるえる玲子。  
 雄々しいペニスが、陰裂に突き刺さる。濡れたような黒いヘアーがまとわりつく。  
 サイボーグらしい、すさまじいグラインドに、いつもは清楚な玲子も乱れまくる。太ももを男の腰に回し、首筋にかじりついている。  
 みずから腰を振り、ジョーのペニスを貪欲に呑み込もうとしていた。  
「いや・・・いやいや・・・いやぁ・・・ん」  
 フランソワーズは、泣きじゃくったような声を放った。髪の毛を乱しながら、首をうち振った。  
 男たちの責めに感きわまったのか、頭に浮かぶ光景を否定したいのか。自分でもわからなかった。  
 ただ、彼女がすっかり取り乱していることは、誰の目にも明らかだった。  
 股間から発せられる濃厚な香りが、車内にあふれかえった。蜜壺も車内も興奮の坩堝と化していた。  
 
 セムシが乳房を放すのと、カカシが膣から指を引き抜いたのは同時だった。  
 下半身の力が抜けきっていたフランソワーズは、支えを失って、その場に崩れ落ちる。  
 激しい衝撃に完全に打ちのめされ、肩をガクガクとふるわせていた。  
 セムシが、フランソワーズの髪をつかんで顔を上げる。首が人形のようにカクンと折れ曲がった。  
 目の前には、カカシのペニスが突き出されていた。ファスナーの間から、浅黒い肉棒がそそり立っている。  
 何も考えることはできなかった。  
 フランソワーズは、男の膝に両手をついて身を乗り出す。  
 車内が静まりかえる。まさかこの美貌の持ち主がそこまでしないだろうと、誰もが思っていた。  
 しかしフランソワーズは、可憐な唇を大きく開けた。上下の白い歯の間に、露のように透明な唾液が糸を引いた。  
 ペニスに魅入られたように、顔を近づける。  
「はむ」  
 音を立てながら、唇全体を男根に押し被せていった。  
 滅多に洗わないのか、異常な臭気を放っている。  
 しかし、フランソワーズはまるで気にならない。自分の唾液で清めるように、男のモノをしゃぶりたてた。  
 唇から喉の奥まで焼けつくように燃えあがった。ペニスを舐めおろすたびに、鼻から脳にかけて、苛烈な感動が走り抜けた。  
 脳がとろけてしまいそうだった。  
 いや、もうとろけていたのかもしれない。  
 
「電車の中で感じまくるなんて、犬以下だね」  
 ジュンにののしられても、目を伏せるしかなかった。  
 場所は高層ビルに囲まれた公園。ターミナル駅に電車が着くと、フランソワーズはジュンに抱えられるようにして、ここまで連れてこられた。  
 Gジャンの胸元は閉じられたし、ミニスカもとりあえずは尻をおおっている。  
 しかし公園の中では、再び犬のポーズをとらされた。二本足で歩くことは許されない。首輪は再びリードで引っ張られている。  
「あの・・・」  
 フランソワーズが、もじもじしてジュンを見上げた。  
「なんだい?」  
「トイレに行かせてもらえますか」  
「犬にトイレはもったいないよ。そのへんの茂みでやっちゃいな」  
 それは出来なかった。先ほどから、家路につくサラリーマンたちが、何人も通りすぎ、犬の格好をしている美女を見て、驚いたり、呆れたりしていた。  
 これ以上はしたない姿を見せることはできない。  
 ただ、サラリーマンの中には、一種のパフォーマンスと思ったものもいるようだ。  
 一方、パフォーマンスでもなんでもいいから、女が乱れる姿が見られれば満足という男たちも、公園にいた。  
 彼らは草むらに身を隠し、目だけをらんらんと輝かせている。覗きの常習犯たちだ。  
 今夜は、月光と照明灯の光を受けて青白く輝く白人女性の肢体に、目を凝らしている。足の長い女が四つん這いで歩くと、尻が見事につきだされて、見応えがあった。  
 そんな卑劣な男たちを、むざむざ喜ばせたくはない。  
 フランソワーズは、尿意を我慢する。  
 そのあたりは、やはり彼女も戦士だ。戦闘が長期化することもから、多少の生理的なコントロールはできる体になっていた。  
 ジュンは、フランソワーズを大きなケヤキの木の下まで連れて行った。  
「はい、ここでシーシーしな」  
「け・・・、けっこうです」  
 フランソワーズは、腰をふるわせた。  
 
「あたしの好意を無視するのかい?」ジュンが睨みつけた。「またお仕置きしなくっちゃだわ」  
「ああ」フランソワーズは長いまつ毛を伏せた。「どうか、もう・・・、許して」  
「ふん」  
 鼻で笑うと、ジュンは携帯をとりだした。メモリからある番号を呼び出して、発信ボタンを押す。  
「あ、もしもし。○号室にお泊まりの島村さんをお願いします」  
 はっとして、フランソワーズは顔を上げた。この女の口から、ジョーの名前が出てくるなんて。  
 ジュンは、送話口を押さえながら、ウインクした。  
「あんたの恋人に、ここまで来てもらうよ」  
「やめて!」叫ばずにいられなかった。「お願い、それだけは・・・。何でもしますから! 許してください」  
 ジュンの足にかじりついた。  
 冷静に考えれば、強敵のジョーを呼び寄せるはずがなかったかもしれない。しかし、フランソワーズには余裕がなかった。  
 テニス・プレイヤーは、さげすんだ目つきで見下ろしながら、携帯を切った。  
「恋する女はあわれねえ」亜麻色の髪に手を置き、子犬をあやすようにかき回す。「あんたのいい人は、今ごろ、別の女とやりまくってるかもしれないのにさ」  
「ウソよ!」  
 フランソワーズの声は、裏返っていた。  
 
「信じたくないのは、フランちゃんの勝手だけど・・・。でも、あんたも見たでしょ、駅のホームで一緒にいるところを」  
「・・・」  
 ただ黙って首を振るしかなかった。  
 そこまで計算して、あたしを陥れたのか。  
 それとも全部、ジュンたちの仕込みで、実はジョーは今ごろ海を望む研究所であたしの帰りを待っている?  
 ジュンが座り込む。四つん這いになっているフランソワーズと対等の位置まで、顔を下げた。  
「でもさ、フランちゃんも、彼を責められないわよね。知ってるよ、記憶障害の男と浮気したことは・・・。ユウジって言ったっけ?」  
「あの人とは・・・」声が、知らずのうちにかん高くなる。「なんにもないわ」  
「『新・黒い幽霊団』の部会で、そんな報告があったんだよ。ユウジ自身の口からね」  
 返す言葉がなかった。  
 たしかに、”眼と耳”事件のとき、ユウジは海に落ちただけで、死亡は確認されてない。生き延びて、なんらかの証言をしたとしても不思議ではない。  
 フランソワーズの表情は凍りついていた。顔色が青ざめて見えたのは、月や照明のせいばかりではなかった。  

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