「ヘンね…どうしたのかしら」
手術台のカプセルの中にはジョーが横たわっている。瞳は閉じたままだ。
白衣の看護婦姿のフランソワーズは思わず腕の時計を見た。首をひねる。
「もうとっくに起きてもいい時間なのに…ウフッジョーったらお寝坊さんね」
笑いかけるが脳波の計器もいっこうに目覚めの針を指し示してはくれない。
すこし不安になった。
シューンッ 手術室の自動ドアが開く。
「ギルモア博士」
フランソワーズは安堵の声をあげた。そう自分達サイボーグを唯一診ることができる
生みの親とも言えるギルモア博士が入ってきた。
「博士…もう009のオーバーホールは終わりでしょう?なのにまだ…」
すこし不安な表情を見せながらフランソワーズは博士の隣で話し掛ける。
「すべて君次第じゃよ。003」
「えっ、なにをおっしゃっていらっしゃるんですか。博士?」
「彼が目覚めるかどうかは君の返答次第じゃといっておるのじゃ」
ギルモア博士が低く笑った。フランソワーズはただとまどう。
「彼にはしばらく眠ってもらっておる。断っておくがワシにしか操作はできんのじゃ。
イワンは夜の時間に入ったししばらく起きてこん」
フランソワーズは叫んでいた。
「そんな…なぜですの!」
「君とふたりっきり水入らずでしばらく過ごしたくてのう」
博士は笑う。
「ふざけないでください。すぐに彼を目覚めさせて!」
「これこれそんなに怒るでない。ワシならそのまま永遠の眠りにいざなうこともできるんじゃよ」
「そんな…彼を殺してしまうとおっしゃいますの」
フランソワーズはがくがくと震えた。思わずカプセルをドンドン叩く。
「ジョー!ねえ起きて…起きて!」
「よさんかね、そんな原始的なマネは。カプセルが壊れて空気圧でも漏れたらどうする。
それこそ死んでしまうぞ」
「はっ」
フランソワーズはあわててカプセルからとびのく。博士は高らかに笑った。
「君はワシのいうことをきくしかないんじゃ」
博士がフランソワーズの腕をつかむ。
「さあこっちに来なさい。ワシのいうことを素直にきくのじゃ!」
「いやです!はなして!」
「彼がずっとこのままでもいいのかね? それとも優しい君がこの生身の老人に暴力を振るうと?
そうすればどうなる? 賢い君のことじゃ。自分がどうればいいかすぐにわかるじゃろう?
どうかね…ん?」
意地悪く博士は笑う。
腕をつかまれたままフランソワーズはもう一度手術台を見下ろした。
カプセルの中のジョーはピクリともしない。彼女は肩をがっくりと落としうなだれた。
「わかりました…いうとおりにします」
「ガハハハハ!よしよし素直ないい娘じゃ!」
ギルモアは大笑いをしながらフランソワーズの手を取り無理矢理引っ張っていった。
老人とは思えないほど小躍りして足取りは軽い。
「…ジョー待っていて」
まさに後ろ髪を引かれるかのように何度も振り返りながら涙を浮かべてフランソワーズは博士に手を引
かれ手術室を後にした。