“ウォオオオオオオオオッ!!”  
 夜の闇を震わせる絶叫が響き渡る。今夜もファルーサ砦は力いっぱい盛り上がっていた。  
 もともと明日の命も知れない傭兵稼業、楽しいときはそれこそ力の限り楽しむのが、彼ら彼女らの流儀である。  
 そしてその先頭を切って楽しんでるのが、  
“クルクルクルクル……………ドッ”  
 強烈な斬撃に弾き飛ばされ、空中を車輪のように回っていた剣が地面に突き立った。  
「次の相手、カマ〜〜ンッ!!」  
 承認者ディレーオンに仕える鬣の部族の戦士にして、このファルーサ砦の団長リュースである。  
 ちなみに、砦の絶叫音の5割近くは彼ひとりで受け持っているといっても過言ではない。  
「ダメだぁ 今日の団長は強ぇぞ、いつもみてぇにヘマしやがらねぇ」  
 前線の砦でというものはどうしても娯楽に欠けてしまう。  
 混沌と戦うために志願してきた勇敢な戦士達も、退屈にだけは勝てない。それに訓練だけでは腕が鈍ってしまう。  
 そんな理由というか建前もあって、団員同士の腕試しも兼ねて、ファルーサ砦では毎夜のように賭け試合が行われていた。  
 ただ、今夜は多少しらけ気味である。オッズが偏っているのだ。  
 リュースの強さはこの砦にいる者なら誰でも知っているが、本番に強いタイプというやつなのか、試合では結構ポカをしたりして  
オッズが荒れるのだが、今夜に限っては連戦連勝である。  
「おい、誰かいねぇのかよ 団長に土つけるヤツはよぉ」  
「んじゃオマエいけよ」  
「え!? オ、オレはオマエほら、混沌にやられたキズがまだ癒えてねえからよ」  
「どこだよそのキズは? オレに見せてみろ」  
 このように、挑戦者すらいないほど今夜のリュースは強かった。  
 
「あらあら、調子に乗っちゃって」  
 肩に剣を担ぎながら、自信満々で輪の中心に立つリュースを、黒髪の美女(というより魔女)リヴリアは面白くなさそうに見つめる。  
「まぁ、リュースの本来の実力ならこの結果は当然だけどね」  
 相槌を打つのは、鋭い洞察力を持ってはいるが、こちらも団長に負けず劣らず抜けているアロートだ。  
「でもよかったですよね、久しぶりに団長の面目躍如で」  
 フォローしているようでフォローになってない発言をしているのが、目の下にあるキズがチャームポイントの砦の良心ティオシー。  
 あと一人はここにはいないが、話しの筋は通っていてもその目が信用できないと言われるシロフォノ。  
 これが混沌と戦う最前線、ファルーサ砦の幹部全員である。  
「でも、そろそろあの歩く認印を止めないと、またとんでもないものを勢いだけで承認しそうで怖いわ」  
「うぅ〜〜ん そうは言ってもねぇ 今夜のリュースに勝てそうって言ったら……」  
 アロートが集まっている砦の団員の中から、右から左に首を振って探すが、すべて考える事もなく素通りだ。  
「無理じゃないの?」  
「そうでもないわ、アナタの隣りにいるじゃない」  
「え!? リヴリアが出るの、そりゃ手段を選ばなきゃキミに勝てるヤツはいないだろうけど」  
「いまの言葉、しっかり覚えておくわアロート それはともかく、ティオシー」  
「はい!?」  
 リュースをじっと見ていたティオシーは、いきなり呼ばれてビクッと身体を震わせる。  
「アナタ、身体がウズウズしてるんじゃない」  
「い、いえ そんなことは……」  
「隠したってダメよ、試してみたいんでしょ? 自分がどの程度あのリュースに通用するか」  
「…………」  
 リヴリアの言葉にティオシーは迷った。彼女は狩人ではあるが、最近はリュースと肩を並べて前衛で戦う事も多い。  
 力があれば、それをどこかで試してみたいというのが人の悲しい性だ。戦士ならばなおさらである。  
 
「おい聞いたか、ティオシーちゃ、コホンッ……隊長がやるってよ!」  
「まじで!?」  
 抜け目なく聞き耳を立てていた混沌にキズつけられた男の一言で、  
『うぉおおおお!! ティオシー、ティオシー、ティオシー、あっそ〜〜れティオシー、ティオシー、ティオシー、』  
 またたく間に砦はテェオシーコールの大合唱だ。  
「ほら、みんなもそれを望んでるわよ、特にあの男がね……」  
 リヴリアがチョイチョイと指差す先を見る。  
「ティオシー、カマ〜〜ン!!」  
 それを見て、ゆっくりとティオシーは輪の中に足を踏み出した。  
「これでオッズも荒れるかな……」  
 背中を見送るリヴリアの手には、なにかが握られている。言わなくてもわかるとは思うが……  
「どっちに賭けてるわけ、リヴリアは?」  
「ないしょ♪」  
 魔女はニンマリと微笑んだ。  
 
 
『うぉおおおお!! ティオシー、ティオシー、ティオシー、がんばれぇ!! ティオシー、ティオシー、ティオシー………』  
「リヴリア、キミここの団長って誰だか知ってる?」  
「さぁ、私じゃないならティオシーじゃない?」  
 砦全体が割れんばかりのティオシーコール一色に染まっている。  
 リュースにとって我が家ともいうべきファルーサ砦は、いまや完全に敵地となっていた。一応言っておくが、彼が団長である。  
 もとからティオシーには、幹部の中でぶっちぎりの人望があるのだが、いまこうして砦が一つになり圧倒的な声援を送られてるのは、  
主にリュースが相手という事に原因があった。  
 それは別に彼に人望がないわけではない。ティオシーほどではないが、彼は団員に慕われているほうだ。ではなぜか?  
 好勝負と思われた二人の試合は蓋を開けてみれば、  
「魔術師の私が見てもわかるわ……これは」  
「シャーマンのボクが見てもわかるよ」  
 そう、ティオシーは一方的に押しまくられている。  
 試合が始まり、二人の剣が触れ合った5合目くらいには、もうそれは見えていた。  
 パワーはリュース、スピードはティオシーという構図なのだが、ティオシーはそのスピードを生かせない。  
 正面から打ち合えば重い斬撃に防戦一方、回り込もうとしても先読みされると、二人の剣士としての熟成の違いがはっきりと出ている。  
 ようするにこの大声援は、判官びいきと言うやつだ。クリスタニアに判官という役職があるかどうかは置いておく。  
「もうちょっとボクは!? ふぅ〜 いい勝負をすると思ってたんだけどなぁ」  
 横薙ぎに払ったリュースの剣を、ティオシーは紙一重、いや髪一重か? ぎりぎり頭を下げてかわす。髪の毛が何本か舞っていた。  
 刃は潰してあるとはいっても、所詮は鉄の棒、頭に直撃なら死ぬ。  
 
「でもティオシーってこんなものだったかしら? なんだか動きに切れがないような……」  
 そうこうしているうちに、二人は輪の中央、鍔迫り合いの形になっていた。  
 もちろんパワーはリュースの方が上、ティオシーは全身の筋力を使って耐えているが、リュースにはまだまだ余裕がありそうだ。  
 二人の顔は、いまや息が掛かるほど近い。  
 リュースがすっとティオシーの耳元に口を寄せる。なにかを囁いたようにリヴリアには見えた。  
 その瞬間、  
“バァッ……”  
 ティオシーが大きく後ろに飛び退く。リヴリアのすぐ目の前だ。  
「……ギタギタですね」  
 だからティオシーが小さな声で呟いた声も聞こえた。  
“ググッ……”  
 ティオシーが身を低くする。その姿は獲物に飛びかかる前の狼を想わせた。  
 リュースの方もそれを見て、自然体でだら〜〜んと腕は下げたままだが、目つきはさっきまでよりもずっと鋭くなる。  
 さすがに歴戦の戦士達、空気が変わったのを感じたのか、砦内は水を打ったようにシ―――ンと静かになる。  
 緊張に包まれる中で、  
“ゴクリッ……”  
 と、リヴリアが唾を呑み込んだのを合図にしたわけではないだろうが、不意にティオシーが動いた。  
 刹那で間合いを詰める。リュースはそれに驚いた風もなく剣を振り上げると、  
“ビュゴゥオオオオオオ!!”  
 一閃した。  
「!?」  
 ティオシーの身体が揺らめいたと思った瞬間、リヴリアはなにか目に見えないものをぶつけられてよろめく。  
 バランスを崩して尻もちを突きそうになったところを、さりげなく背中を支えられて振り向くと、  
 
「あら? シロフォノ、なにしてるの?」  
「そ、それが人に雑務全部押し付けた人のセリフですか」  
「まぁ、それはいいとして、ちょうどいいわ いまのはなに?」  
 シロフォノの言葉に悪びれた風もなく、リヴリアは目を中央の二人に戻しながら解説を求めた。  
 そんな事にはもう慣れっこになっているのか、シロフォノも二人に目を向ける。  
「気とか剣圧とか、そういった類のものですよ それを正面にいたからまともにくらったんです」  
 こう見えてこのシロフォノも、一流の上に超が付くくらいの腕を持っていた。弁も立つので解説役には打ってつけである。  
“プゥンン……”  
 これが目にも止まらぬというものなのか、ティオシーは瞬間移動のようにリュースの背後を取ると斬撃を放つ。  
 それをリュースは振り向き様に、おそらく勘のみで受け止めると、力任せにティオシーを吹き飛ばした。  
 ただ追撃は出来ない。ティオシーも自分から飛んでいるのですでに体勢を立て直していた。これでお互い睨み合いの仕切り直しである。  
「……ヒットアンドウェイに徹すれば、ティオシー有利なんじゃない?」  
 素人目に見ても(見えてはいないが)スピードはあきらかにティオシーがリュースを上回っている。  
 このまま続ければ、少なくともリュースには攻め手がないのだ。  
「捉えるところまではいってはいませんが、リュースはちゃんと反応してます それを考えたらあまり勝機はないです」  
 何度もアタックをかければ、いずれはリュースは捉えるだろう。それが不可能でも体力勝負になったら、やはりリュースが有利だ。  
「なるほどね でもやっぱりティオシーが有利よ」  
「ほぅ、その心は?」  
「リュースの性格」  
「……確かに」  
 待ちの戦法など堪えられる性分ではない。  
 リュースが前に出た。ティオシーほどではないにしても速い。あっという間に距離を詰める。  
 ティオシーは地を這うくらいに低く身を構えた。リュースが振りかぶる。寸前で避けてカウンター狙い……のはずだったんだろうが、  
“ガコォオオオッ!!”  
 リュースの剣を正面から受け止めた。否、受け止めさせられた。ずっしりと重い剣に膝を突きそうになると、  
 
「くそっ!」  
 悔しそうに言ってリュースがゆっくりと剣を引く。そのまま肩に担いで、トントンッとリズムを刻む。一つ息を吐くと、  
「いまのを受け止められちゃオレの負けだ、絶対にへし折れると思ったんだけだなぁ」  
 敗北宣言をした後なのに、態度は妙にサバサバしていた。とりあえず、久しぶりに思い切り戦えたので満足したようである。  
「……いえ、私の負けです 咄嗟に『タレント』を使ってしまいました」  
 『タレント』とは神獣に与えられた能力で、賭け試合に使うのは御法度なのだ。使わなければリュースの言った通りの結果だったろう。  
「ん? そうだったのか?」  
「……ええ、そうだったんです」  
 ティオシーがガックリと肩を落とした。彼女としては完璧な読み通りのシナリオだったのである。あの最後の一撃以外は……  
「じゃ、引き分けにしとくか?」  
 ポンッと軽く肩に手を置いたリュースに、ティオシーはビクッと身体を震わせる。リュースを見つめる顔は赤い。  
「おいおい、さっきのはオマエを本気にさせるた……」  
「勝負あったようね、勝者リュース!!」  
 リュースの言葉を遮って、勝手にウィナーコールをしたのは、いつの間にか輪の中央、二人の傍にいるリヴリアだ。  
「いや、おい、待ってて、オレが負けを認めてるんだから引きわ……」  
「それは承認できないわ、ティオシーもそうでしょ?」  
「……はい」  
 リヴリアには引き分けでは困る理由が個人的にある。  
 それにどこか、女の勘とでも言ったらいいんだろうか? ティオシーの様子が負けを受け入れたがってるように見えたのだ。  
「賭け試合なんだから、白黒ついてくれないと連中も納得しないわ」  
 その納得しそうにない連中の中で、リヴリアのウィナーコールでリュースに賭けていた者は、胴元からすでに金を受け取っている。  
 今更『さっきのはナシ』などと言おうものなら乱闘騒ぎどころか暴動になりかねない。  
「とりあえず、胸を張れとまでは言わないけど……勝者になっときなさい」  
 リュースの胸を叩こうとリヴリアが手の甲を上げたとき、ティオシーと目が合った。  
 リヴリアの視線から逃げるように、ササッとティオシーは顔をうつむかせる。  
 なぜかそれにムカついて、リヴリアは軽く叩くつもりが、手のひらをギュッと握って裏拳を入れてしまった。  
 
「しゃあねぇな、そうしとくか」  
 小揺るぎもしないリュースにまた腹が立つ。  
「決着つけたいのなら……また、次の機会になさい」  
 それだけ言うとリヴリアは二人に背中を向けた。影の中にその姿が沈みこむ。アルケナの『タレント』ダークリープだ。  
「なに怒ってんだ?」  
 その言葉にリヴリアは顔だけ振り向かせると、人を殺せるんじゃないかという視線でリュースを睨みつける  
 思わず後ず去るリュースがティオシーとぶつかった。  
「お、悪りぃ」  
「……いえ」  
 リュースの背中に手を置いたティオシーは、すぐには離れようとしない。  
 その光景からプイッとリヴリアは目を逸らすと、なにか小さく呟いて影の中に消えた。  
「なんなんだ?」  
「後で……部屋行きますね」  
 リュースが振り向くと、バタバタとした、試合のときとはまるで違う足取りで、逃げるように去っていくティオシーの後姿。  
「巣に飛び込んでくる獲物を黙って見逃してやるほどには……お人好しじゃないんだがなぁ」  
 唇をペロリと一舐めするリュース。  
 それを少し離れた場所から、じっと二人の男が見ていた。  
「シロフォノ、キミはリヴリアの唇がなんて言ってたかわかった?」  
「……『鈍感男』とか」  
「はぁ〜〜 シロフォノ、今夜はとことん飲もうか」  
「……お付き合いしますよ、とことん」  
 こうして、獣の牙ファルーサ砦の夜は更けていく。  
 
 
 リュースは闇の中、ベットに上半身裸で寝っ転がりながら、ジ―――ッと天井を眺めていた。  
 なんだか落ち着かない。うなじの辺りがチリチリする。初めての狩りをしたときの感覚に似ていた。  
 ……あのとき仕留めた獲物の肉は…………美味かったなぁ……  
 そんな事を思い出してると、  
“トントンッ……”  
 控えめにドアをノックする音。  
「開いてるぜ」  
 リュースが返事をすると、ドアがそろりそろり恐る恐るといった感じでゆっくりと開けられる。  
「……あの………遅くなりました……」  
「待つていうのも、たまには悪くないもんだな」  
 言ってリュースは腹筋だけで身体を起こすと、ベットの上で胡坐をかいて入り口の方を見た。  
 廊下から差し込んでくる明かりの中で、皮鎧を外して短衣になっているティオシーが、『どうしたらいいかわからない』といった顔で  
立ち尽くしてる。  
「そんなところに突っ立ってないで、汚いとこだけどここ座れよ」  
 ポンポンとリュースは自分が座っているベットの隣を叩いた。  
「は、はひ」  
 ガチガチに緊張しているのか、コミカルな裏声で返事をすると、ティオシーは暗がりでもわかるくらい紅潮した顔で部屋に入ってくる。  
 
「し、失礼します」  
 座る位置はリュースからは微妙〜〜に距離が離れていた。  
「オレがあのとき言った事、覚えているか?」  
 顔をうつむかせたまま、組んだ両の手をモジモジさせて、ティオシーは子供みたいにコクンッと頷く。  
「勝ったら『抱く』って言った事だぞ」  
 ティオシーは黙って顎を引いた。  
「ズバり言ったらオレはオマエを抱きたい……でもなあ、勝負に負けたからからとか、そんな理由でここにいるなら帰ってもいいぞ、  
そんな義務感だけで抱かれる女相手にしても盛り上がらんし、あれはオマエを本気にさせる為に軽い気持ちで言っ……」  
「義務感なんかじゃないです」  
 珍しく己の心情を論理立ててしゃべるリュースを、ティオシーは小さな、でもはっきりとした口調で遮る。  
「負けたからとかじゃなくて、いえ、それもありますが、それはきっかけであって、以前からそういう気持ちはあったというか……」  
 慣れない状況に混乱しているのか、ティオシーの言ってる事の方が論理立ってない。ようするに、  
「オマエもオレに抱かれたいんだな?」  
「はひ」  
 そういう事だ。  
「ならもっと……」  
「あ!?」  
 リュースが思っていたよりもずっと頼りない肩に手を廻すと、少し強引に自分の方に引き寄せた。  
「近くに来いよ」  
 ティオシーの心臓がドキドキと早鐘を打つ。リュースの顔が近い。  
 鍔迫り合いをしたときは押し返そうと必死だったのに、いまは……もっともっと近づきたい。  
 
「とりあえず、キスでもしとくか?」  
「は!?」  
 自然な仕草でリュースは顔を寄せると、  
「んンッ!!」  
 荒々しく唇を奪った。ティオシーの両目が大きく見開かれる。  
 先攻を取られたティオシーは驚愕の度合いが激しすぎて、抵抗するどころかどうする事もできない。  
“ぬにゅ……”  
 白い歯並びを押し割って、ティオシーの口内にリュースの舌が入り込んでくる。  
 まさかリュースのの舌を噛み切るわけにもいかず、怯えるように舌を縮こまらせて、ティオシーはただ蹂躙されるしかなかった。  
「ン……む……ん―……」  
 口づけを続けていると、  
「んん……んぁ……んむッ……ふぅ……んンッ……」  
 もともと神獣の民は情熱的だ。やがてティオシーの舌もオズオズと、それでいて大胆にリュースの舌に絡めてくる。  
 ティオシーの両腕はいつの間にか、リュースの首筋に巻きついていた。  
 唾液を流し込まれると少し躊躇ったそぶりを見せるが、ティオシーはコクリッと喉を鳴らして嚥下する。  
 その健気な反応にリュースは目の端でニッと笑うと、更に強く深く唇を押しつけながら、覆いかぶさるようにティオシーを押し倒した。  
「ん……んぁッ……んふ……んぅッ……うぅッ……ぷはぁ!!」  
 ようやくリュースが唇を解放すると、ティオシーが大きく苦しそうに息を吐いた。  
 
「どうした? 苦しそうにして?」  
「ハァハァ、あ、あんまり、ハァハァ、こ、こういうの、ハァハァ、な、慣れてなくて……」  
「ほ〜〜う あんまり……ね」  
 忙しく上下しているティオシーの乳房を見ながら、リュースは気づかれないようペロリと唇を舐める。  
 短衣の裾を掴むと、リュースはゆっくり捲り上げた。日焼けしたお腹が覗く。  
「あ!?」  
 咄嗟にティオシーはその手を掴んだ。  
「いやなのか?」  
「そ、そんな事は」  
 傭兵などをやっていれば、男であれ女であれ他人に肌を晒す事など日常茶飯事なのだが、ベットの上で見られるのは意味が違う。  
 ティオシーはこんなにも男の視線が羞恥心を煽るものとは知らなかった。  
 
 リュースの方はそれを察しているのかいないのか、意地悪く焦らすように少しずつ短衣を捲り上げていく。  
「うぅッ……」  
 ティオシーは目をギュッとつぶる。  
 リュースはその初々しい反応を見ながら、乳房のふくらみがチラリと覗くと、一気に短衣を頭から抜き取った。  
「あぁ!?」  
 腕を交差して胸元を隠そうとするティオシー。だが、それをリュースは許さない。  
 手首を掴まえると、バンザイをするような格好をとらせる。  
「動くなよ……」  
 パワーではリュースが上なのは実証済みだ。ただ、いまティオシーの身体を束縛しているものは腕力ではない。言の葉の力だ。  
 リュースの声が耳に入ると、なぜか従わなくてはいけないような気がするのだ。  
 ……ディレーオンにこんな『タレント』はあったっけ?……  
 ティオシーの頭に場違いな疑問が浮かんでくるが、そんな『タレント』は思い出せない。  
 だとするとこれはリュースの『タレント』なのだろうか? ならばリュースは改めて凄い。自分には効果が絶大だ。  
 そんな惚けた事を、目をつぶりながらティオシーが考えてると、すすっとリュースの顔が胸元に寄せられる。  
 
“ちゅむ……”  
 触れてもいないのにぷっくりと起立している、そこだけ日焼けしていない乳首を口に含むと、  
「んふッ!」  
 ティオシーの唇から鼻に掛かった声が漏れた。  
 これには流石にハッとなって、ティオシーは目を開けて胸元を覗き込む。リュースと……目が合った。  
「あ……ああ………」  
 笑みの形にリュースの目が細められると、ティオシーの頬がカ―ッと熱くなる。  
“カリッ……”  
「ひッ!」  
 リュースが軽く歯を立てると、ティオシーの身体が背を反らせて浮き上がった。その小さなお尻がベッドに着地する間もなく、  
「ぅあッ……はひぅッ!?……んンッ…そんな……か、噛んじゃ……ひゃんッ……な、舐めるのも……んぅッ!!」  
 何度も何度も微細な電気がティオシーの背中を突き抜ける。  
“ちゅるん……”  
 リュースは音を鳴らして色素の薄い乳首から唇を離すと、今度は反対の乳首に吸い付いた。  
 そちらも同じように舐めしゃぶり、歯を立て、更には乳輪全体を頬ばるほど強く吸ってやる。  
「ンあぁッ……はぅッ……んンッ……ぅああッ!!」  
 立て続けに襲ってくる快感の波に抗う事が出来ず、ティオシーは銀狼の部族にあるまじき事だが、その度に喉を無防備に晒していた。  
 リュースの唇は乳首だけでは飽き足らず、ふくらみのいたるところにキスの雨を降らせる。  
 どうやらマーキングをするのは犬だけの習性ではないようで、リュースは熱心にティオシーの乳房にキスマークを付けていった。  
 もうこれでしばらくは、ティオシーは人前で水浴びなどは出来そうもない。  
 リュースの所為はまるで『この身体はオレのもの』と主張しているようで、これも一種独占欲の表れだろう。  
 
 顔を上げてリュースが満足そうに微笑んだときには、ティオシーの乳房は所々紅くなっていた。  
 力なくコロンッとベッドに横たわるティオシーを見下ろしながら、これは癖なのか、ペロッと唇を舐めると人差し指を伸ばす。  
 下帯の上から秘唇をす――ッと撫で上げると、  
「ひやンッ!」  
 ティオシーの身体が可愛らしい声とともに、又しても大きく仰け反った。  
「んあッ……ふぅッ……うッ……はぁッ………うぅッ」  
 二度、三度と秘唇を擦ると、微かに湿った感覚がリュースの指先に伝わってくる。  
 それが濡れてると感じるまでに、さして時間は必要なかった。  
 下帯にはクッキリと、女の真珠ともいうべき部位が浮かび上がっている。それをリュースはいきなり強く摘んだ。  
「はひッ!!」  
 リュースは摘んだ突起を指の腹で転がしながら連続的に快楽のパルスを送り込む。  
 ティオシーはもう電気が走り抜けるどころの騒ぎじゃない。爪先から脳天へと快楽の矢が連射で突き抜ける。  
 身体がガクガクと震えだすと、それは唐突にやってきた。  
「あッ、あッ、ああッ!!」  
 ティオシーは身体の両側に置いた手でシーツを掴み、グッと背筋を反り返らせると、女の敏感すぎる真珠に結ばれた見えない糸を  
リュースに操られて、高々と腰を突き上げる。  
 小さな下帯には収まり切らない透明な雫が溢れ出し、内腿を伝ってベッドのシーツに水溜りを作っていた。  
 
 ぶるぶると震えている身体をティオシーは2、3秒ホバーリングさせた後、ポフッと力無く濡れたシーツの上に落ちる。  
 しばらくは、ティオシーの“ハァハァ”と荒い息遣いが音のすべてになった。  
「……ティオシー」  
 呼ばれてもティオシーからの返答はない。うっすらと目蓋を開けるが、瞳はいまいち焦点が定まっていなかった。  
「下帯も脱がすぞ、いいな?」  
 言いながらリュースはティオシーの返事も待たずに、器用に濡れた下帯を脱がしていく。  
“じゅりゅッ”  
「んンッ!」  
 すべりの良くなっている下帯はティオシーがお尻を浮かさずとも、リュースが力を込めると簡単に引き抜けた。  
 刹那の刺激にティオシーは身体を仰け反らせて、リュースに又しても喉を晒してしまう。  
 リュースはは笑みを一層深くすると、女が最も秘密にしておきたいだろう部位に顔を近づけた。  
 すでに秘裂はほころび、粘度の低い液が控えめに茂みを成している恥毛の先から、牡の視線を感じるのか涙を流すように滴り落ちる。  
 リュースは大口を開けると、獲物の急所へとむしゃぶりついた。  
「うぁあッ!!」  
 蜜をいっぱいに湛えた秘裂に口をつけると、舌はなんの抵抗もなく、ぬちゃりっと音を立てて柔らかな秘肉の中に沈み込む。  
“ちゅるん・じゅう・ちゅく……”  
「んぁッ………そん…音…んンッ…だめ……ひぅッ…んンッ……だめ……で……ぅあッ!!」  
 自分の身体が奏でているハシタナイ音に、恥ずかしくて情けなくて、ティオシーの目からは本物の涙が零れていた。  
 
 しかし、獅子は獲物に情けを掛けない。逆に嗜虐心を刺激されたのか、  
“ジュッ・ジュク・ジュル・ジュルル……”  
 わざと下品な音を立てて啜り上げ、経験の乏しい無力な獲物を嬲った。  
 リュースは秘裂全体を口唇でなぞり上げると、立て続けに尖らせた舌先をぬかるみの奥に挿し入れて掻き回す。  
「はひッ……ひッ……あ、ンぁッ……はぁ……んぁッ……ひぁッ!!」  
 ぷっくりと肥大して半分ピンクの身を覗かせている真珠に吸い付くと、ティオシーの身体が手負いの獣のように跳ねた。  
 リュースはお尻を引き寄せるようにして抑え込むと、さらに強く吸引しながら被っているフードを剥いたり戻したりを口内でくり返す。  
 散々弄られただけあって、敏感すぎる快楽神経のカタマリに集中砲火を浴びたティオシーは、足の指をキュッと握り、  
「うぁッ…は……ああッ……あ……ぅああッ……ふぅ……うぅ…あ、ひッ……うあぁぁッ!!」  
 リュースの頭を太股で挟み込みながら、あっさり2度目の絶頂に達した。  
 力の抜けていくティオシーの太股から頭を引き抜くと、リュースは大きく息を吐きながら、透明な雫でベトベトになった口の周りを  
さして気にした風もなく手の甲でぬぐう。  
「う〜〜ん こんな簡単にイカれると、なんだかオレはテクニシャンなのかと勘違いしそうになるな」  
 満更でもなさそうに、得意な顔をするリュース。しかし、それも仕方ないかもしれない。  
 目の前には、正体をなくしてカエルのように(狼なんだけど)だらしなく足を開いているティオシーが横たわっているのだ。  
 リュースは脱力してマグロ状態の(くどいようだが狼)ティオシーをゴロリと転がしてうつ伏せにすると、くりんっとしたお尻を  
高く掲げさせて、四つん這いの格好を取らせる。  
「……ティオシー」  
 リュースは半分アッチの世界にイッているティオシーに呼びかけながら、下帯を突き破りそうな勢いの股間の勃起を解き放った。  
“ガルルルゥゥゥ……”  
 と、唸りはしないが、赤黒く膨張している勃起は獅子の威厳を……持ってはいないが、初心な女が見たら腰を抜かしそうな迫力がある。  
 
「ティオシー……いいよな?」  
 お尻を愛でるように撫でながら、  
“グニュ……”  
 秘唇を割り開いた。勃起を宛がって2、3度擦ってみる。  
 ティオシーがピクリと身体を震わせた。意志とは関係なく、牝の粘膜が牡の勃起に絡みつく。  
 ぼ〜〜っとした、まだ白いもやのかかる頭で、ティオシーが『なんだろう?』と気だるそうに首を捻ると、リュースと目が合った。  
「いいよな?」  
 ……なにが?……  
 と、思ったが、考えがまとまらない。  
「んッ……んぅッ……あッ…あん……」  
 その間もリュースの勃起が、ティオシーの粘膜を行ったり来たりすりあげている。  
「いいよな?」  
 もう一度聞かれて、コクンとティオシーは訳もわからず頷いていた。  
 ペロリと唇を舐めると、  
「チマチマやってると痛みを長引かせるだけだからな、我慢してくれよ」  
 勃起の根元に手を添えて角度を調節する。亀頭の先端を宛がうと、リュースは一気に体重を掛けて腰を沈めた。  
「ッ!?」  
 突然の鋭い痛みにティオシーの喉から声にならない声が出る。  
 それでも秘唇は粘液質な音とともに、複雑に入り組んだ柔らかな肉壁を巻き込んで、熱くヌメりながら、奥へ奥へと勃起を誘うように  
締めつけてきた。  
「…んぐッ……いッ…」  
 いくら濡れてるとはいえ処女が膣の中まで濡れるわけもない。リュースの勃起はティオシーの秘肉をムリヤリ蹂躙する。  
 いままで経験した事のない痛みに、ティオシーは歯をくいしばる事しかできない。  
 ましてやこの痛みは、生涯で大抵は一度しか味わうことのない特殊なものだ。鮮血がシーツを赤く染めている。  
 
「痛いか?」  
 リュースが聞くまでもない事を聞いても、ティオシーはぶんぶんと首を横に振った。  
 だが痛くないわけがなく、そのいじましさが返って痛々しい。  
 リュースは勃起を挿したままで、しばらくはティオシーが落ち着くのを待った。  
 それに動かなくても、勃起は心地よい締めつけの中で力強く脈打っている。でも……ただ待つというのは、この団長は出来ない性格で。  
 ……背中が紅く染まって……なんとも……こう……  
“ペロリッ”  
「ひッ!!」  
 自分一人では絶対に見つけられない性感帯、予想もしなかった部位からの快感パルスにティオシーの身体が大きく反り上がる。  
 熱心にリュースは、それこそ獅子である事をどこかに忘れて、犬の如くティオシーの背中を丹念に舐め上げた。  
「うッ…うッ…んあッ……あッ…はぁんッ……」  
 その甲斐あってか、ティオシーの口唇からは徐々に艶のある声が漏れ出してくる。リュースは目を細めると、  
“きゅッ”  
「はひッ!」  
 乳首を捻る。ティオシーの背が更にグッと反りあがった。  
「もう動いても……良さそうだな」  
 耳元で囁きながら勝手に承認すると、リュースはもう容赦なく腰を振っている。  
“じゅむッ……じゅむッ……じゅむッ……”  
「はひッ……ひッ……あ、ンぁッ……」  
 二人の腰がぶつかる音と、自分の出すはしたない悲鳴、そしてリュースの息遣い、ティオシーの耳にはもうそれしか聞こえない。  
 でも、それすらも段々聞こえなくなってきた。また、頭の中を白いもやが覆っていく。  
 ガクガクと身体を震わせているティオシーに、リュースはこれがトドメとばかりに勃起を突き上げた。  
「はひッ!!」  
 亀頭がティオシーの膣内でブワッと膨らみ爆ぜる。  
「ンッ、ンッ……ふぅッ……はぁ……んぁッ……ぅああッ……あ!?……ああッ………ふぁッ!!」  
 遠吠えをする狼のような格好になると、最奥に熱いほとばしりを感じながら、ティオシーは白い奔流に飲み込まれた。  
 
 
「て!?、おい、おいティオシー」  
 くたりと愛液をしぶかせながら崩れ落ちたティオシーの頬を、温かなぬかるみの中から、愛液と精液、そして血に塗れたぬらつく  
勃起をズルリと引き出して、リュースはペチペチと叩く。  
 ティオシーはうんともすんと言わない。リュースは慌てて首筋に手をやった。  
「ふぅ〜〜 びびったぜ……」  
 獣の牙の百人隊長がこんな事で死んだら洒落にならない。  
「まぁ 少しずつ経験積んでいこうな、ティオシー」  
 聞いてはいないだろうティオシーにそう言うと、リュースは被害を免れた綺麗なシーツを掛けてやる。  
 顔を寄せて、誰もいるはずはないのだがリュースはキョロキョロすると、ティシーの頬に軽く口づけた。  
 柄にもない事をしている自覚はあるのか、リュースの顔は真っ赤である。  
「おやすみ……」  
 耳元で囁くと、彼には珍しくドアを静かに閉めて、逃げるようにその場を後にした。  
 
 
                                  ティオシー編 終わり  
 
 
 火照った身体を冷ます為、井戸で水を汲んでると、背後に気配が突然生まれる。  
「…………」  
 が、リュースは放っておく事にした。べつに殺気はない。  
 それにこの気配には慣れ親しんでいる。駆け出しの頃から、ずっと自分の背中を任せてきた気配だ。  
 リュースが黙っていると、向こうから話しかけてくる。  
「……どうだった……ティオシーの抱き心地は……」  
「なんで知ってるんだ?」  
「あれだけ声を出してれば薄い壁だもの、イヤでも聴こえるわ」  
 振り向くと予想通り、リヴリアが面白くなさそうな顔で立っていた。ちなみに、彼女の部屋はリュースの隣りである。  
「で、どうだったの?」  
「……それは、オマエと比べてか?」  
 その瞬間、リヴリアの瞳が殺意を帯びた。もっともそこには、べつの感情も隠れている。  
 リュースは『しまった調子に乗りすぎた』とは思ったが、もう遅い。  
「それが人に弱みを握られているヤツのセリフかしら……」  
「うっ!?」  
 小さくため息をつくと、リヴリアは背中を向けた。ガッカリと肩を落としているように見えるのは、リュースの気のせいだろうか?  
「答えたくないならいいわ」  
 そのまま去ろうとする。リュースは咄嗟に腕を掴んだ。  
「待てよ」  
「……離しなさい」  
 習性というのは恐ろしいもので、ドスの利いたリヴリアの声に、思わずリュースは手を離しそうになってしまったが、なんとか堪える。  
「なによ、また私をムリヤリ襲うの?」  
「ちがう……ムリヤリ抱きたくなったんだ」  
 リュースは力ずくでリヴリアを、自分の腕の中へと引き寄せ抱きしめた。  
 
 

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