エースデパートへようこそ!その3  
 
あれから数日…僕はまた導かれるようにしてエースデパートにやってきた。  
今日の相手はアイさんか、それともミイちゃんか…またムフフな一日が始まるのだ。  
「どこじゃーー!!」  
しかしビルに入った僕を待受けていたのはどこかで聞き覚えのあるダミ声だった。  
「兄ちゃん!知らんか!子供知らんか!」  
「いえ知りません、子供知りません」  
僕は極力目を合わさないようにして首を振った。  
間違いない、初めて来た日にトイレに乗り込んできた人だ。  
くたびれたパーマ、ドラムカンみたいな体に張り付いたエプロン、履き古したつっかけ……  
見事なまでに完璧な『おばちゃん』だ。  
バーゲン品を探す時のように血走った目をギラつかせている。  
「ほなら兄ちゃん一緒に捜して!」  
「え!?」  
「な!頼むわ!」  
言いながらおばちゃんは僕の腕をグイグイ引っ張っていった。  
僕の返事を待つ気はさらさらない。  
おばちゃんにとって、頼むイコール交渉成立なのだ。  
「ア…アイさん!」  
僕はカウンターのアイさんに助けを求めたが…別の客に応対していてこっちに気付かない。  
「兄ちゃん男前やな!ウチの息子と兄ちゃんのムスコ交換せえへんか?ガハハハ」  
「アハ、アハハ」  
うわぁ……。  
 
エレベーターホールへと歩きながらおばちゃんは、一切遠慮せず僕の腕に腕を回して体を密着させてくる。  
見た目はドラムカンだが押し付けられる胸や腹の感触は意外とやわらかくて、それがまた凶悪に腹立たしい。  
「なんか、こうやってくっついてるとデートみたいやなぁー」  
おばちゃんが楽しそうに言った。満面の笑顔が気持ち悪すぎる。  
「…あのー、お子さんっておいくつなんですか?」  
忌まわしい感触をごまかすために興味ないことでもしゃべるしかない。  
「えー?いくつやと思うー?」  
知るかよ!見た事ねーんだよお前のバカ息子をよ!  
とりあえずその語尾にハートくっつけてしゃべるのをやめろ!  
「え…えーと……5才ぐらい?」  
「えーーウチそんなに若く見えるーー?いややわー兄ちゃーーん!」  
か、帰りたい……今すぐ帰りたい!  
僕の心の叫びと同時にエレベーターが下りて来た。  
けたたましい音をあげて金網が開く――と、そこに人の姿はなかった。  
ミイちゃんがいたら助けてもらえると思ったのに…。  
肩を落としながら箱に入るとすかさず、おばちゃんが閉ボタンをバチバチ押した。  
「――あっ!」  
僕はおばちゃんのたくらみに間一髪気付いてあわてて隣の開ボタンを連打した。  
ここで二人きりになったりさたら何されるかわかったもんじゃない!  
僕とミイちゃんの愛の巣だったこの箱はたちまち死の棺となってしまうだろう!  
「誰かー!誰か乗る人いませんかー!下へまいりまーす!!」  
ホールに体を乗り出して、僕はほとんど悲鳴をあげていた。  
運良くどこかの若奥様の姿が目に入り、僕は半ばムリヤリ箱の中に引きずり込んだ。  
 
地下一階までの時間は永遠にも感じられた。  
なにしろおばちゃんが股間を愛撫してくるのである。  
日々の水仕事によりごつごつと節くれだった手で愛撫してくるのである。  
箱の中では手前に若奥様、その後ろに僕らが立つ形になったが、おばちゃんにとっては二人きりでも三人いても関係なかった。  
むしろ他人がいたほうが燃えるタイプらしかった。  
奥様が怪訝な顔をしてチラチラこっちをうかがうたび、おばちゃんの手のひらに熱がこもるのを感じた。  
「これはアイさんの手なんだ、これはアイさんの手なんだ」  
目をつぶって、純白手袋に包まれたアイさんのしなやかな手を必死で想像した。  
しかしそれは逆効果だった。  
固くなり始めた僕の股間に気をよくしたおばちゃんが、さらに手を――!  
いつしか僕は泣いていた。心で泣いていた。  
ようやく地下一階に到着し、ドアが開くと若奥様は逃げるように出ていった。  
おばちゃんがニヤリと黄ばんだ歯を見せる。  
「なあなあ、ウチらどういう関係に見えたんかなぁ、ウフフフ」  
どういう関係も何も無関係じゃねーか!  
何らかの関係を持つつもりは未来永劫ねーよ!  
「――あっ!あそこ特売やってますよ、特売!」  
僕はできるだけ大げさに、食品売場の片隅を指さした。  
「特売っ!?」  
なんとこれが大成功だった。特売と聞いたおばちゃんは反射的にそっちへ気をそらしたのだ。  
悲しき性である。おばちゃんはやはり、女である前に一人のおばちゃんだったのだ。  
 
「さあ特売のプリン残り一個でーす、早い者勝ちですよー!」  
僕の指さした先ではかわいらしい女の子がプリンを売っている。  
「ウチのもんやあああああああああ」  
おばちゃんが怒濤の突撃でプリンへ向かっていく!  
信じられないスピードとパワーで並いるライバルおばちゃんをなぎ倒しながらプリンに迫る!  
「もろたで!ほぉあたたたたたたたたたた!!」  
おばちゃんの放った百烈券が空を切り裂き竜巻を発生させた!  
舞い上がるプリン、そして売り子ちゃん!  
「あたたたたたたたたたた!!」  
「きゃあーー!?」  
「う、売り子ちゃん!!」  
売り子ちゃんのミルクプリンのように真っ白なパンツが見えた。  
「やっ、やだ!見ないでくださぁーい!」  
必死でスカートを押さえるも暴風がその手を吹き飛ばす。  
「いやあー!!」  
これだ、これだよ!僕は思わず手を握った。まともなエロが心にしみる。  
同時におばちゃんのパンツも視界の端に見えているが僕は見ない、絶対見ない!  
「かあちゃーん!」  
「かあちゃん!がんばれー!!」  
その時であった、僕のそばにいつの間にか子供が二人、キャーキャー喜びながらおばちゃんを応援していた。  
「かあちゃんだって!?」  
「せやで、ボクらのかあちゃんや」  
「かあちゃんや!」  
男の子と女の子、たぶんお兄ちゃんと妹だろう。子供は二人いたのか。  
僕は妹ちゃんの姿を見て、こんなかわいい子もいずれあのかあちゃんのようになってしまうのか、  
と絶望というか世の無常感のようなものに囚われたが――とにかく見つかった!見つかったのだ!  
 
「かあちゃん!子供!子供おったでーー!!」  
変な関西弁を使っておばちゃんを呼ぶ、しかし今の特売ハンターたるおばちゃんにはプリンしか目に入っていない。  
「ほぁたあーーー!!」  
天空高く飛んだプリンをついにゲットすると、そのまま荒ぶる鷲のポーズで着地を決めた。  
売り場をメチャクチャにした竜巻が消える。  
「たたっ、たすけてぇええ!!」  
「あぶない!!」  
僕は落下してきた売り子ちゃんのところへ決死の思いでダイブした。  
ドッシン!!  
「がは!!」  
売り子ちゃんのヒップアタックを顔面で受けた僕はそのまま倒れて地面に後頭部をめり込ませた。  
猛烈な痛みと遠ざかる意識の中、小ぶりなヒップの重みを顔面に感じる。  
パンツがよく見えないぐらい近くに見えて、彼女の秘部の匂いが鼻をくすぐる。  
それはやっぱりミルクプリンみたいな甘い香りだった。  
「おきゃ、お客様、ありがとぉございます…」  
売り子ちゃんはガクガク震えて立てないようだった。  
今にもおしっこをもらしそうだが、いや、それはそれで。  
僕は顔面騎乗の幸せを胸いっぱいに感じながら、気を失ってしまった。  
 
「――お客様、お客様」  
どのくらい寝ていたのか、気づくと僕はベッドの上にいた。  
デパート内の救急医務室のようだ。  
「――よかったぁ、目が覚めましたね!」  
ベッドの横にいたのはおばちゃんでも売り子ちゃんでもない女の子だった。  
マイと名札をつけたその子はにっこりと僕に笑いかけた。  
<マイ編に続く。>  
 

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