この夜、アルクェイド=ブリュンスタッドは死徒狩りにやって来たのだ。
獲物は自ら不死の王と名乗る、思い上がった齢百年足らずクソガキ共だ。小さなイギリスの
片田舎を領地と定め、無節操な吸血行為を繰り返し、結果屍喰鬼だらけの死の町と化した。
暇つぶしに軽く捻ってやろうと着てみれば、そいつはすでに何者かの手によって倒されていた。
「あーあ、先越されちゃったわね」
屍喰鬼もその主人である吸血鬼たちも何か巨大な砲のような物で吹き飛ばされたかのよう。
ある者は体が再構築出来ずに血だまりと化しつつあり、ある者は本来あるべき姿塵に帰りつつある。
とは言うものの、いくら雑魚とは言え腐っても化物だ、ただの人間に吸血鬼と面と向かって
しかも夜に戦って勝てる筈が無い。となると…
「…HELLSINGか、でもあいつ…アーカードとは流儀が違う…」
王立国教騎士団、イギリスを守護する教皇庁と双璧をなす退魔機関、その戦力は唯一にして最強
の保有戦力アーカードによって同等とされている。事実アーカードは手強い、無冠でこそあれ、
間違いなくその力は上位の祖と並ぶ、アルクェイド自身過去に二度ほど戦っているが、未だに
決着はついていない。
それにしてもあの男らしくない。奴も確かに一見粗雑な殺し方をするが基本に愚直なほどに忠実だ。
手口はふたつ、心臓を抉るか銃で急所を正確に撃ち抜く、だがあいつにしては大雑把すぎる。
頭か心臓を何となく狙ってただ無造作に撃ちぬく。なんというかシロウトくさいのだ。
「あいつでもないし、死神小僧(…今は死神爺か)とも違う。私の知らないゴミ処理係か」
アルクェイドはその見知らぬ狩人に興味がわいた。どんな奴か顔を見てやろう、
そして意識を研ぎ澄まし、周囲の気配をそれとなく探りながら廃墟の中を進んで行った。
「や、ヤー、インテグラ様、母体は倒しました、グールは全て沈黙…ミッションコンプリートしまシた」
馬鹿でかい大砲を抱え、弾薬箱をぶら下げた金髪娘が携帯片手になにやら話し込んでいる。
時折頭をぺこぺこ下げる。どうやら電話の相手は彼女の上役らしい。
「…は、ハイ、そっちの方はもう…ええ大丈夫デス、ええ」
「…初の個人戦闘にしてはまずまずのタイムだな、よしすみやかに帰投せよ」
「ヤー」
年の頃は十七・八歳ぐらいといったところだろうか。まだあどけない顔つきをした少女だ。
黄色い色の婦人警官のようなミニスカートの制服を身にまとっており、少し癖のある金髪を肩までの
ショートカットにしている。幼い顔の割には意外に背は高くスタイルも良い、はち切れそうに大きな胸
とモデルのようにすらりと伸びた長い脚が印象的だ。そして、その身から漂う只ならぬ鬼気…
「…死徒ね、それも見てくれからは信じられないほど強力な……まさかあいつが継嗣を造っていたとはね…」
アルクェイドは木の陰からその様子を伺っていた。
「…どうしようかなぁ、でも爺には連中と揉めるなって言われてるし」
それにしてもどこか抜けている、とてもじゃないがあのアーカードの子とは思えない。
ちょっとからかってやろう、そんな軽い気持ちで彼女は彼女に近づいていった。
「ハァイ♪ いい夜ね婦警さん、お仕事ご苦労様」
「え、あ、ああ…えっと、こ、コンバンワ…」
それはセラス・ヴィクトリアの前に唐突に現われた。
いつの間にか彼女はそこに居た。吸血鬼であるセラスに何も感づかせずに…
並みの吸血鬼ならあまりの事に驚愕しているだろう、この距離まで気配を察知させずましてや不意を突か
れる事など吸血鬼にとって本来あり得ない事態だからだ。だがセラスはそんな事などまるで気づいていない。
アルクェイドはわずかに眉をしかめる、余程の大物なのか天然なのか…。気を取り直して話を続ける。
「生まれたてのくせに上級の吸血鬼、いえ、それ以上のものを与えられているわね。
そこいらのなんちゃって死祖なんかお話にならないぐらいのものを…親も親だけど、
本人の資質もまあ、なかなかのものね…」
「えっと、…どちら様デスカ?」
「私? 私はアルクェイド=ブリュンスタッド。真祖のほうが通りがいいかしら」
「…だ、誰?」
「ぶ〜…アーカードの奴、何も教えてないのか…わたしを知らないなんてモグリもいいとこよ」
「ス、スイマセン…」
いまいち話が噛み合わない。なんというかアルクェイドは毒気を抜かれてしまった。
「ま、マスターのお知り合いでスか?」
「まあ、知らない仲じゃないわね…ちょっと殺されたり殺し返したりした仲よ」
「…それって、敵って奴じゃないデスカ!!」
「そうとも言うわね♪」
屈託無くアハハと笑う。そう、こっちの方もかなりのあーぱーなのだった。
「えっとあなた名前は」
「せ、セラス=ヴィクトリアって言います!」
「んーーー、婦警ね」
「…な、なして私のニックネームを!?」
セラスはこうして自分の主以外の吸血鬼と言葉を交わすのは初めてだった。彼女にとってマスター以外の吸血鬼
は敵であり、排除すべき対象でしかなかった。事実今まで出会ってきた吸血鬼たちは、一方的に捲くし立てるか
悪態をつくかのどちらかだ。このように会話が成立した事は今まで無かった。
「あ、あの…ワタシになにか御用デスカ…?」
「ん? べつに用って程の事じゃないんだけど」
アルクェイドはその瞬間、その金色の瞳に意志を込め、それをセラスへと向け投射した。
魅了の魔眼、最上位の吸血種のみが持つ事を許される黄金の瞳。その力は強大で行動の束縛や洗脳・記憶操作
どころか相手の精神を破壊しかねない程の力を秘める。セラスはその瞬間、体が強張り首から下が全く動かな
くなってしまった。
「聞こえる、婦警?」
「あ、あ、ああ、あ、あわわわわわわわ…」
「別にとって喰おうってわけじゃないわ。ちょっとお喋りがしたいだけ、それに…」
それに、そう殺すつもりなら既にそうしていた。そうしなかったのは個人的に彼女に興味があったこと、
それと何より彼女のじいやゼルレッチには王立国教騎士団と揉める事を禁じられている。
(ま、ますたー以外にエロ光線の使い手がいたなんて…!!)
アルクェイドはしばらく値踏みするかのように上から下まで視線を這わす。そしてセラスを観察するかのように
ヒョコヒョコとその周りを回ると彼女の顔を覗き込む、その眼は硬く閉じられており、口をぐっと結び小鳥の
ように震えている。まるで悪戯がばれて怒られている子供のようだ。
「ふふ」気まぐれなお姫様は愉快な悪戯を思いついた。この小動物のような死徒娘をからかってやろう、死徒を狩る
よりもずっと愉しそうだ。そういえば志貴の妹もこんな感じの年下の娘をいじめてたっけ。本人は否定するだろうけ
どアレは絶対に楽しんでやっている、そういう時って妹ってば何時にもまして生き生きしてるし…。きっと凄く愉し
いのね。よし、私も妹みたいにやってみよう!…えっとまずは、と、
ちなみにセラスのほうはというと、これから自分の身に降りかかる災難など知ろうはずもなく、ぶつぶつ呟いていた。
「精霊サマの言ったとおりだわ、私はコゲな星の下に生まれたんデスね…死んでるけど」
「む〜〜〜〜〜〜〜〜」
アルクェイドはというと腕組みをしてしばらく何かを考えていたようだが、やがてセラスの背後に立ちおもむろに
その豊かな胸を鷲づかみにした。実はさっきからずっと気になっていたようなのだが、彼女のバストは間違いなく
アルクェイドのそれよりも大きい。多分90cmは軽く越えている。アルクェイドも88cmはあるが、彼女と並ぶと
若干小ぶりにさえ見える。
「婦警のくせして生意気だぞ〜」
ちょっぴり嫉妬をこめてその豊かな胸を制服越しに少し強く揉みしだく。むにむにむに…
「うわ うわ うわあッ あ…、な、何するんですかーーー!!」
「ふふふ 愛いやつ愛いやつ〜」
「バカーーーーーーーッ」
――――――――――――しばらく、御待ちください
「…………」
「ねー、まだ怒ってる婦警?」
セラスは今にも泣き出しそうな表情でアルクェイドを見つめ返している。その視線には無言の抗議と恨みが過分に
込められている。金縛りにされた上におっぱいを小一時間ほど揉み尽くされたのだ、女なら誰だって怒る。
「…お、怒るないうのが無理デス!それにこれは完全にせ、せくしゃるはらすめんとデスヨ 犯罪デス犯罪!!」
「にゃはは」
アルクェイドは大して悪びれる様子もなくゆっくりと顔を近づけると、彼女の顔をまじまじと見つめる。
どちらかというと童顔で美人というより可愛いといった容貌だ。やや垂れ気味の大きな瞳、肩のあたりまで伸ばした
クセの強い金髪、死徒特有の透き通るような白い肌、以外に肉感的でセクシーな唇…
そして、そのおどおどした態度が何と言うのか嗜虐心をそそる。
「ねーそれはそうと婦警、キスとかした事ある?」
「何して急にそげな事…っふ!」
唐突にアルクェイドの唇が重なり、ちゅぱ…
「…ん…っふ…!?」
「〜〜〜〜ッッ!ひゃっ…!?ひゃめてクダサイ!!」
セラスは状況が掴めずに大きな眼をパチクリさせると、あわてて顔をそむけて唇を逸らしてか細い声で抗議する。
「気持ち良いでしょキスって、…あ、もしかしてこういうの初めて?」
「…あ、ああ、あ、あわわわわわわわ!!」
セラスは面白いくらいにその表情を変えると、真っ赤になった顔を伏し目がちにそむけた。
その行動の一つ一つが見ていて飽きないし、何より可愛いらしい…。アルクェイドのなかで加虐心が頭をもたげてくる。
「んもぅ可愛いなぁ、婦警は」
もう一度、更に深い口付けを交わす、そうして顎を掴んで無理矢理セラスの唇を強引にこじ開け舌を絡ます。
「んむ……ん……ふ……ぷぁ……ああっ……」
唇を離すと透明な唾液の糸が引いた。
そして、いつも志貴が自分にしてるように唇から首筋に、制服の詰襟を外してさらに鎖骨へと唇を這わせ、逆に鎖骨から
首筋へと舌で舐めあげる。
「や、やだ……」
唯一動く首を力なく動かし、抵抗するセラス。その顔は羞恥と見知らぬ快楽に眼を潤ませ頬を赤らめている。
志貴の妹、遠野秋葉が後輩の瀬尾晶を虐める気持ちが、今になって良く分かってきた。
可愛くて可愛くてしょうがないのだ。故に虐めたくなる、その脅えた顔つきを見ると徹底的に追い詰めたくなる、虐めて
虐めていぢめぬいてやりたくなる……その時アルクェイドの中で何かが壊れた。