その町は東西冷戦の狭間に生まれ、麻薬を影の武器と使う大国の戦略を餌に発  
達した邪悪の都。  
世界中の悪党の中でも最も悪党らしい連中が集まり生存競争を行なっている犯罪  
者達の巣。  
破滅し生きながら既に地獄へと落ちた魂を持つ人間達しか居ないこの世の果て。  
様々な呼び名があるが、共通して無法地帯であるということを意味されている町  
、それがロアナプラ。  
そんな町に、かつて日本の裏社会の頂点に君臨した、神域の男が舞い降りたのだ  
った。  
 
 ロアナプラには大きな賭博場、カジノがあった。  
そのカジノは三合会と呼ばれる香港マフィアが牛耳っている。  
その夜もいつものように博徒が集まり、己の強運に任せて金を張り合っていた。  
そんな中、あるギャンブルのテーブルに人だかりが出来ていた。  
ギャンブルの種目は麻雀。  
このロアナプラには様々な国の文化が入り混じっている。そのため麻雀があって  
も可笑しくは無い。  
そもそも麻雀は中国生まれであり、中国人のマフィアが仕切っている場所なので  
あって当然と言えば当然である。  
 
「ロン…字一色、小四喜でダブル役満だ…」  
 
一人の男が牌を倒す。その場がざわ…ざわ…とざわめく。男の横には大金が積み  
あげられていた。  
その男は、肌の色だけをみれば日本人、黄色人種の肌の色だが、鼻は西洋人のよ  
うに高く、背も西洋人並みの身長であった。  
歳こそ若そうな気配だが髪は銀髪、否、白髪なのかも知れない。  
 
 しかしながら周りで見ていた男達はその白髪の男の打つ麻雀を見に集まってき  
ているのではない。  
この白髪の男が最後どんな目に合うのかが楽しみだったのだ。  
何故かというと、その白髪の男が金をむしっている相手が、このカジノを牛耳っ  
ている三合会の一員だったからだ。  
 
白髪の男はそれを知ってか知らないでか、その三合会の一員をこの麻雀の舞台か  
ら降ろそうとしないのだ。  
このまま麻雀を続けていくのは自分自身の命を縮める事に等しいということに気  
がついていないのだ。  
あるとするなら三合会の他の組員が駆けつけ、この白髪の男を血祭りにあげるこ  
とだって考えられるのに。  
それに逃げようとしても周りの男達に取り押さえられてしまうだろう。  
逆に周りの男達は白髪の男を取り押さえて三合会から金を貰おうと考えているの  
だ。  
周りで見ている男達はそういった意図で周りに集まっていた。  
血の滴るようなことや金が絡むことが大好きなのだ、このロアナプラに住む連中  
は。  
 
そうこうしてるうちに白髪の男の横にさらに大金がつみあがっていく。  
周りの男達がよくもまぁこんなに搾り取れたもんだと関心していた矢先に、この  
人だかりに向かってくる集団が居た。  
その集団の先頭をサングラスをかけ、肩にマフラーをかけた男が歩いていた。  
その男は三合会タイ支部のボス、張である。  
周りで見ていた男達は思わず張のために道を開けた。  
 
張は白髪の男の横に来た。  
「俺は三合会の幹部の張。お前さんここらじゃ見かけない顔だが名前はなんてい  
うんだ?」  
白髪の男が静かに口を開いた。  
「赤木・・・赤木しげる・・・」  
張は煙草に火をつけ、煙を天井に吐き出した。  
「お前さんがこれだけの大金をむしった男は…うちの組の一員だって事を判って  
たのか?」  
そう言い赤木の横に積んである大金に手を乗せた。アカギは無表情のままであっ  
た。  
「連絡を受けたんだ、『三合会の一員から金をむしっている男が居る』とね、日  
本人だったとはな。  
 …で、アカギとかいったか、お前さん自分がどれだけの事したのかわかってい  
るのか?」  
「さぁな・・・」  
 
瞬間、アカギの周りを三合会のメンバーが取り囲む。  
「お前さんはうちの組に泥を塗ったって事だ。悪く思うなよ」  
アカギは無表情のまま張に尋ねた。  
「俺をどうするつもりだ?」  
張は懐から拳銃を抜きアカギに向ける。  
「死んでもらおうか。うちに塗られた泥をお前の血で償わせるって訳だ。」  
その一言を聞いてアカギは取り囲まれているのにも関わらず、笑いを漏らした。  
「ククッ・・・まぁそんなところだろうと思ったぜ。」  
 
アカギの態度が殺される前の人間の態度と違うことを感じた張は不審に思った。  
「お前さん…死ぬのが怖くないのか?」  
「怖い?そんなわけは無い・・・死ぬときがきたら死ねばいいと思う・・・  
 殺しに来る相手が狂人だろうとなんだろうと・・・死ぬ時がきたなら・・・  
 ただ死ねばいい・・・・・・・・・」  
 
取り囲んでいた三合会の組員達も戸惑いを見せた。  
この男は何かが違う、そう感じていた。  
「それにだ・・・」  
アカギが口を開く。  
「ここは裏社会の中でも飛びっきりの無法地帯ロアナプラだ・・・  
 賭博で連勝するなんてことは命を縮める事と同じ・・・賭博で勝った金を狙う  
奴等に命を狙われかねんからな・・・  
 命が欲しいなら賭博にも手を出さんしこんなには勝たない・・・ここまで勝つ  
前に普通は降りる・・・  
 だが・・・オレに流れる血が・・・降りることを許さなかった・・・ここで降  
りるくらいなら・・・  
 焼け死ぬ・・・・・・!それで本望・・・!」  
 
張はその言葉を聞き、少し考えてから銃をしまった。  
「…面白い男だ…気に入ったぜ…ここで死ぬには惜しい…が、このままうちの金  
を持たせたまま返すわけにも行かないな」  
そういうと張は自分の部下に小さい声で命令し部下はすぐに電話を掛けに行かせ  
た。  
「お前さんのその精神に免じて殺すのはやめるが、俺たちと麻雀で勝負していた  
だきたい。  
 賭け金は俺達からむしった金全額とお前さんの有り金の両方。  
 お前さんが勝ったら金はまたお前の物になるってわけだ。」  
「構いませんよ。」  
 
アカギはそういうと懐から手持ちの金を出した。その金は僅かな金額であった。  
三合会からむしった量と比べると雀の涙程度の金額だ。  
思わず張はアカギに尋ねる。  
「お前さん…それが有り金か!?」  
「ククっ・・・そうさ・・・そもそも俺に金は必要ない・・・」  
「どういうことだ?俺の組から大金をふんじばったくせしてよ」  
 
アカギは煙草に火をつけ吹かし始めた。  
「俺にとっちゃ金なんてものは・・・休憩だ・・・勝負こそが人生の全て・・・  
!」  
張には理解できない考えだ。張は元裁判官で今は巨大組織の幹部、勝ち上がるこ  
とが人生の全てと考えていた。  
しかし目の前に居る男はその勝ち負けを決める方法自体が、人生の全てだと思っ  
ているのだ。  
「さて・・・どうするんだ?誰が俺と麻雀を打つんだ?」  
アカギは早く勝負がしたいのか、張をせかす。  
「少し待っていてくれ、今代打ちを呼んでいる所だ。」  
「ククっ・・・それは楽しみだ・・・」  
 
 それから10分後、そこに3人の男女がやってきた。  
3人の内2人は女性で、チャイナ服を着た長髪の女性と、ゴシックパンクで着飾っ  
た癖ッ毛の女性であった。  
残りはサングラスをかけ、コートを羽織ったアカギと同じ髪の色をした男性。  
 
その3人を見て張は言った。  
「俺はシェンホアしか呼んで無いんだが…」  
「アイヤそんな事言われますても私達3人で仕事するますからね、3人一緒に来  
る当然よ」  
チャイナ服を着た長髪の女性が答えた。  
「まぁ良い、シェンホアは出来ると思うがソーヤーとロットンは麻雀できるのか  
?」  
シェンホアは勿論と答え、残りの二人も出来ると頷いた。  
 
張はそれなら良い、と頷きアカギに言った。  
「アカギ、お前さんの相手はこの三人だ。」  
アカギは3人を見て微笑した。  
「つくづくワンパターンだな・・・」  
その言葉に反応したのはシェンホアだった。  
「何がワンパターンですか?」  
アカギは嘲笑しながら答えた。  
「人数で勝ちを拾いに行こうとする所がな・・・」  
張はそういうつもりではなかったが、そういう形になってしまったので何も言え  
なかった。  
 
「覚えておくんだ・・・マー公(マフィアの意)・・・・。3人で囲めば圧勝で  
きると思っているのか・・・?  
 バカじゃねえのか・・・・・?そういうこざかしいことと無関係の所に・・・  
強者は存在する・・・!」  
その言葉を聞いて武器を取り出したのはシェンホアではなく、ゴシックパンクの  
女性、ソーヤーであった。  
彼女は背中に背負っていた武器を取り出しアカギに向けた。  
「あらら」  
 
その武器を向けられたアカギは思わず声を漏らした。  
向けられている武器は拳銃ではなく、巨大なチェーンソーであった。  
「まてソーヤー、落ち着け。」  
張がソーヤーを止める。アカギはクスクスと笑いながらソーヤーに言った。  
「悪いな、あんたのことを言ったわけではなくお前らを雇った奴に言ったんだが  
な」  
このときアカギ意外に素直に謝る。しかし雇い主である張が少し不満そうな顔を  
している。  
「まぁいいさ、3人相手でも俺は一向に構いませんよ。」  
ソーヤーはチェーンソーをしまい、シェンホアとロットンと共に卓に着いた。  
 
「だが」  
アカギが三人が卓に着いたと同時に口を開いた。  
「俺と打つのならサシ馬を握っていただきたい・・・」  
それを聞いてシェンホアとソーヤーは顔を見合わせた。  
「まぁ、私は構うませんよ。ソーヤーとロットンもサシ馬握るよろしいか?」  
ソーヤーとロットンは頷く。  
「それで、何をサシ馬に乗せるのだ?日本の博徒よ」  
ロットンが少しカッコつけながら聞いた。  
アカギは微笑しつつ答えた。  
 
「腕一本だ・・・!」  
その言葉にシェンホアが思わず席から立ち上がった。  
「は!?どういうことですか?」  
「クク・・・言葉の通りだ・・・俺が勝ったらお前たちの腕を貰おう。」  
「そんな取り返しのつかなくなるものを賭けて…貴殿が負けた場合はどうするの  
だ?」  
「構わんさ、負けたら負けた時、俺は潔く腕を払うさ・・・!」  
 
そのアカギの言葉に不気味に笑いを漏らす者が居た。  
しかし笑い声には聞こえない。むしろ動物の、蛙の鳴き声のようにも聞こえた。  
その笑い声の主は掃除屋ソーヤーであった。  
彼女はゆっくり顔を上げ、アカギに対して言った。  
「ザリッ…たリないワ・・・ウで一本じャ・・・」  
「ククッ・・・面白い・・・なら何をサシ馬に乗せる?」  
 
アカギがそう聞くと、ソーヤーは自身を指差した。  
「ゼん身・・・にクタい全部ヲ・・・賭けテ・・・それデナいと・・・貴方をバ  
らばラに出来なイ・・・」  
「ソーヤー!止めるですだよ!肉体を賭けるするのはバカのすることね!」  
シェンホアのその言葉とは裏腹にアカギは笑いを漏らす。  
「面白い・・・この世の中・・・馬鹿な真似ほど・・・狂気の沙汰ほど面白い・  
・・受けようじゃないか・・・!」  
 
「ちょっちょっと待つですだよ!」  
シェンホアが止める。  
「私達も全身賭けるしなきゃいけないですか?」  
「いや、そうでもないさ・・・この女がお前たちの分も背負うって事だろ・・・  
違うか?」  
ソーヤーは頷く。シェンホアとロットンは何も言えなかった。  
「ククッ・・・たいした度胸だ・・・!それじゃぁ・・・やるか・・・この麻雀  
をっ・・・  
 全身・・・言わば自分の存在をも賭けた麻雀をっ・・・」  
アカギはそう言い洗牌を始めた。  
 
しかし洗牌をしながらアカギは一つの事を頭に浮かべていた。  
ソーヤーはアカギとのサシ馬を下げるどころか逆に倍プッシュしてきた。  
そこにアカギは心の中で驚いていたのだ。  
(同類の女・・・なのか?俺の同類は・・・あの鷲巣だけだと思っていたが・・  
・女で俺の同類が居るとは・・・  
 いや・・・違うか・・・?この女は仲間のために体を張るというだけのことか・・・)  
そして、アカギとシェンホア、ソーヤー、ロットンの麻雀勝負が今始まった・・・!  
 
 

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