舞台は1944年のドイツ 
 
阿鼻と叫喚―――その後の虚空。  
この国は……いや、この世界は狂っている。今現在この世界に存在している、  
生命の大半は人間の悪意と暴力によって根絶やしにされてしまっている。  
 
「……ソロソロヤベーカモシレネーナ、御主人。」  
 
月夜に輝く森の中、魔力によって淘汰された人形が言う。  
 
「早ク例ノギリシア経由ノ魔術書ッテーノヲ見ツケテ、コンナ国トハ  
サッサトオサラバシヨーゼ。イクラアンタデモ、近代兵器ヲ持チエタ大多数ノ  
軍隊ノ前デハ流石ニヤバイダロ?」  
「この私を舐めているのか?如何なる精密で破壊力のある兵器といえど、  
所詮無機質な道具に過ぎん。この私の前では無力だな。」  
「……ソーダナ。ナンタッテ吸血鬼、ソレニソノ真祖ッテーモンナンダカラナ。  
魔力デ抵抗スルノハ、ヤハリ魔力デシカナイッテコトカ。」  
「その通りだ……と、言いたいが……やはり不気味な所もある。  
ある程度は、注意を払わなければならない。」  
「サッキ無力ッテイッタジャネーカ。」  
「私だって全部は把握してないんだよ。それに国によって機密の兵器も存在するかもしれないしな。  
剣、銃の進化系……ガトリングガンからマシンガン、ダイナマイト等、etc…  
総て人間が産んだ、狂気の産物………それがこの結果だ。過去の魔法戦争とは比べ物に  
ならない……この戦争に二流、三流の魔法使い等が参入しても犬死が結果だ。  
………それに、この国もナチスが最近人間狩りを強化しているからな。」  
 
「ムカツクカ……?」  
「……ああ。奴等人間は未だに2000年前の「罪」を引き摺っている。  
まさかとは思ったが、再び十字軍の悪夢が到来するとはな。………かといって、  
私は人間の諍いには投入しない。それに、予感だが……何れナチ共は近い将来滅びる。  
独裁政治に侵された国は、昔からそんなもんさ……。」  
「予感ネ……ナンカコ難シイ話ヨクワカラネーガ、御主人ハ平和ヲ望ンデルッテーコトダロ?」  
「な…!?バッ…馬鹿!……私は『闇の福音』で恐れられる、絶対悪の吸血鬼だぞ!!  
い、何れはこの私が世界をせーふくしてやるのさっ。アハ…アハハハハ!」  
 
「……モット素直ニナレヨ。ソンナンダカラオ子様ナン……」  
 
―――ボガッ!  
 
「うるさいっ!チャチャ、さっさと街に行くぞ!」  
「……ヘイヘイ。」  
 
……そして着いた街が『アイゼナハ』。街の規模はそれ程大きくはなく…寧ろ田舎といってもいいかも知れない。  
 
「コノ街ノ図書館ニ例ノ魔術書がアンノカ?」  
「多分な。現在ここの魔法協会は隔離している……調べたところ、警備しているのは  
その書棚に張られた結界だけだな。その方陣を破れば……」  
「随分ト手薄ダナ。」  
「まあ、大した物だとは期待していないがな。」  
 
歩いて数十分……図書館に着き、中に入った。  
 
「モシカシテココノ本棚ニアンノカ?」  
「……ここだな。」  
 
私は入り口から一番右端の本棚に近づき呪文を詠唱する。  
同時にそこの床下が消え、地下に続く階段が見えた。  
 
「……幻術カイ。」  
 
続く螺旋階段を、私たちは歩いていく……するともう一つの大きな  
本棚が見えてきた。  
 
「結界が張ってあるな。」  
 
徐に呪文を唱える。  
 
「リク・ラク ラ・ラック ライラック……『マギカ・マティオー』」  
 
……詠唱すると、施されていた結界が解除された。  
領域に踏み入り、書棚の本をあさってみる。  
 
「……下流魔法の本ばかりだな。」  
「ハズレタカ。」  
「だな。殆んどラテン語系の本で、古代ギリシア語系魔術書が無い。」  
 
他に術が施されている場所は感じられない……  
 
「仕方が無い。一旦ここから出るぞ。」  
 
 
図書館を後にする。外を出ると、空は白みだしてきた……。  
 
「さて……一端この街の宿にでも泊まるか……早く寝たい。」  
 
変哲の無い普通の宿に泊まり、私達は部屋で一息を付く。  
 
「デ、寝タラサッサトコノ国カラズラカローゼ?御主人。」  
「いや……私にはまだ、やる事がある。」  
「ナンダ?マタ魔道具関係カ?」  
「いや、違う。……このドイツ、ナチスのある軍隊が気になってな。  
実はそれが真の目的でここに来た訳だ。」  
「人間ノ諍イッテーノニハ興味ガ無カッタンジャネーノカ?」  
「『人間』ならな……。」  
「??ナンダト?」  
 
私はこの馬鹿げた物事を説いた。  
 
「この軍隊は唯の『人間』じゃあない。『吸血鬼』で結成された軍隊なんだ。」  
「マジカヨ!ナチノヤロー共もナカナカヤルナ。」  
「……私がヴァチカン欧州総局から入手した極秘情報だが、ヴァチカン側はどうやら  
奴等ナチスのその軍隊に、強力に力を貸したらしい。」  
「マア、同盟国ダシナ。」  
「表向きは……これすら裏だが、占領地からの物質、人員輸送計画………  
……しかしこれだけでは無い。あれに比べれば、これは唯の眼眩ましでしかない。  
真の目的……『吸血鬼製造計画』……秘匿名『Letzt Batallion』。」  
「スゲーナ、吸血鬼ノ軍隊カヨ。ソレガ戦争ニ乱入シタラ、マサシク最強ジャネーカ。  
……モシカシタラ、本当ニ近イ将来独裁政治ッテーノガ確立シチマウカモナ。」  
「私はそれが気に食わないんだよ。仮に全世界が独裁政治などやられてしまったら、  
憲法によって様々な規制が付いてしまう。そんな束縛された世界など、私は御免だ。」  
「御主人ニ憲法モヘッタクレモネート思ウケドナ。」  
「う、うっさいっ!……私は穏便にこの世界で生きたいんだよっ。  
……それに『吸血鬼製造計画』という辺り、人工的に造りだしているのだろう……  
ふざけたものだな……私が真の吸血鬼というものを奴等に見せ付け、奴等諸共亡ぼしてやろう。」  
「久シ振リニオオ暴レスンノカ?」  
「そうだ。この大戦の最中、私の賞金首を狙ってくるのは近年少なかったからな。  
……そして出発は今日の夕方……目的地はベルリン、オイロパセンター通りを少し通った所にあるホテルだ……。  
………さて、眠くなってきたな……チャチャ、今から寝るから夕方近くになったら起こしてくれ……。」  
「アイアイサー。」  
 
……人工的に造りだしているのだから、吸血鬼といえどどうせ3流以下の吸血鬼だろう。  
真祖の私には問題無いが……しかし、何か……多少不安が、胸中を過るが……考えない事にしよう……  
…  
……  
 
 
―――「オーイ、起キロ、御主人」(ぺちぺち)  
 
「ん……ひ、ひゃあ…!……こ、この馬鹿!」(バキッ!)  
 
覚めるとチャチャゼロが私の顔をぺちぺちしていた………  
すかさず私は、この人形をぶっ飛ばす……  
 
「このアホッ!貴様は普通に起こせんのか!」  
「戦前ノ余興ッテヤツダヨ。」  
「意味が分からん!」(ポカポカッ!)  
 
宿から出ると、空が暗紅に染まっていた……良い時間帯だ。  
私は手持ちのマントを靡かせ、そのまま空を疾走した。  
 
「調子ハドーヨ?イイ?」  
「今まで通り、最強無敵『闇の福音』のままだ。」  
「私モ、ヤツラハ気ニ食ワナイカラナ……サッサト終了ニシチマオーゼ。」  
「この世界大戦、徐々に終焉に近づいているからな……外法の力が生み出される前に、  
それを根絶やしにしないと…悲劇の連鎖は続いてしまう。メビウスの輪のようにな……  
人間の争いは『人間』に任せ、吸血鬼の争いは『吸血鬼』が責任を取ろう。」  
「御主人、カッコイー。」  
「ふふん♪そうだ、もっと私を崇めろ!アハハハハ!!」  
「…………(ヤッパアホカ……?)」  
 
私達は瞬く間にベルリンに到着した。丁度空が暗黒に包まれ『吸血鬼』にとっては良い感じだ。  
ベルリンは私の予想の範疇を超えていた……眼前には廃都…戦争の現実を眼の辺りにする。  
 
「何カ、スゲーコトニナッテンナ。」  
「ふん……ここは実に居心地が悪い………速く終わらせたいな……。」  
 
オイロパセンターを通ると、目的の規模が多大なホテルに到着した。  
目の前には例のハーケンクロイツが付いた、ジープ車が沢山並んでいる……  
ラストバタリオン……予想するに…いや、確実にSSの軍隊だろう。  
 
「奴等が居る階は、27Fだな……これさえ消滅させれば、ナチスドイツに未来は無い。」  
「ナンデ言イキレンダ?」  
「所詮人間だからさ……人間は脆いものだ。それに比べ、吸血鬼程厄介な存在は無い。  
知性を持った存在であり不死性、魔術、魔獣使役、特殊能力……etc,etc……  
……そして一番厄介なのが、人間を紙のように引き千切るその圧倒的な『暴力』………  
それに値するリスクがあるものの、やはり危険性の高い怪物だ。」  
「デモソノ怪物モ、御主人ニトッテハヒヨッコノヨーナモンダロ?」  
「フフ……まあな。人間としては一流でも、吸血鬼となっては私の前では所詮3流だ。  
私がゴミの様に亡ぼしてやろう。チャチャ、お前はここにいろ。」  
「エー、私モ殺リタインダケド。」  
「向こう側の状況をまだ把握していない。故に貴様を操る余裕は無いんだ。  
大人しく屋上で待っていろ。」  
「シャーネーナ。」  
 
私は空に羽ばたきチャチャゼロをホテル屋上に置くと、27Fの奴等が居る部屋を見沿える。  
……そしてそのまま、ガラス越しから突入していった。  
 
―――バリンッッ!!!  
――――――ガシャッ!!  
 
ガラスを突き破り、私は狂気の渦に突入していった―――  
 
目の前には軍服を着ている、ナチス親衛隊が3人……そして、場に似合わぬ男がいた。  
ワインを慈しんでいる、スーツからハーケンクロイツの腕章にメガネを掛けた小太り……  
……いや、肥満の男がいた。  
 
「……貴様が総大将か……?」  
 
私が問うと、ヤツは答えた。  
 
「ははっ、ははははは。狂気が来たぞ、恐怖が来たぞ……ようこそ、『闇の福音』EVANGELINE.A.K.MCDOWELL嬢。  
まさか貴女が来訪するとはね……貴女の仰る通り、私はその様な存在でしょう。」  
 
そう言うとヤツは、頬の肉をわずかに歪ませ上げる様に笑った。  
 
「……フン、私の事は察しているのか。」  
「勿論だとも。貴女のような異形の化物は、あいつ以来だからね。」  
 
……『あいつ』……?  
 
「でも残念だがね、今私は貴女と闘争している暇は無いんだよ。残念だがね。」  
「……私が逃がすと思うか?」  
「ふふん……ワルツの幕開けはまだなのだよ。『狂気』を相手にするにはまだ早い……。  
『狂気』と『狂気』……共にダンスを踊るのはまだ早いんだよ…………。  
……それでは御機嫌よう、不死の御嬢様。」  
 
そう言うと、奴は部屋のドアノブを開け、指を鳴らし消えていった……。  
……同時にSS兵達が一斉に私の方に銃…マシンガンの銃口を向けて、同時に狙撃してきた。  
 
―――ドドドドドドッッッ!!!  
 
私の肉片が散漫し、辺りが血に塗れる―――  
そして、兵が言葉を発する。  
 
「ハハッ。何だ?このガキは?まるで虫の様に散ったな。」  
「―――それじゃあ今度は貴様らが虫の様に散って貰おう。」  
「!!!?」  
 
―――血肉は蝙蝠に変わり、私は『再生』する。  
 
「……!!……な、何だお前は……!!」  
「さて……貴様らはその身を、蝙蝠や魔獣に変える事が出来るかな……?  
『リク・ラク ラ・ラック ライラック…………氷の精霊(セプテンデキム・スピリトゥス) 17頭(グラキアーレス)  
集い来りて(コエウンテース) 敵を切り裂け(イニミクム・コンキダント)  
魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾(セリエス)・氷の17矢(グラキアーリス)』」  
 
……魔法を唱えると魔法の射手が奴等を貫き、絶命させた。  
 
「フン……お前ら出来損ないは、魂諸共塵に還れ。」  
 
―――ドゴゴォッ!!!!!  
 
―――――!!  
 
左右の壁から、無数のSS兵が乱入してくる。  
 
「……では、再び塵どもを『塵』に還そう。覚悟は良いか……?死人ども。」  
 
吸血鬼の軍隊は一斉に銃を構えるが、私は窓から外を出て死角に入るとすかさず魔法を詠唱した。  
 
「『来れ氷精(ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス) 大気に満ちよ(エクステンダントゥル・アーエーリ)  
白夜の国の(トゥンドラーム・エト) 凍土と氷河を(グラキエーム・ロキー・ノクティス・アルバエ)  
こおる大地(クリユスタリザティオー・テルストリス)!! 』」  
 
『こおる大地 』が、全ての吸血鬼達を貫き氷結する。  
四方は静寂。とりあえず、ここにいたラスト・バタリオンは殲滅させた………  
 
「……奴は逃げたが、この場は押さえた。今はそれでいいか………………  
…………?…………なんだ…?…この……嫌な感じは……?」  
 
私の予感が的中した。……何か強力な気が近づいてくる………正常ではない、『狂気』が。  
どんどん近づいてくる………それに見合わせる様に、辺りが喧騒とする様な感じがした。  
20M…10…8………人のような影が見えてきた。  
 
「………Guten Abend。『闇の福音』EVANGELINE.A.K.MCDOWELL。  
クク……クハハハハ。何とも楽しい状況じゃあないか。真祖の吸血鬼が、こんな退廃した国に来訪するとは。  
やはり、目的は我々と同じ『最後の大隊』か。」  
 
狂気の代弁者が語る。奴は……尋常ではない。唯の吸血鬼ではなさそうだ。  
一体なんなんだ……?……この私が、恐怖だと……?……ふん。  
 
「……我々とは何なんだ?それと貴様は何者だ。」  
「私の名はアーカード。英国国教騎士団『HELLSING』に使えるアンデッドだ。」  
「アンチ・キリストを葬るために結成された、あの機関か……その機関に何故吸血鬼がいるんだ?  
それに、貴様唯の吸血鬼ではないな……?」  
「クク……色々と訳ありでね……人間に仕えているのだよ。  
それに唯の吸血鬼ではない、ときたか……それを詮索したいのなら……今、ここで戦りあってみるか?  
『お楽しみ』を始めようじゃないか。」  
「上等じゃないか……ここで、この狂った国で、貴様を狂気とともにジュデッカの底に沈めてやる!!」  
 
―――私は狂気と対峙する。……私自身も、既に正気では無いのかもしれない。  
……『狂気』と『狂気』の闘争が始まる。―――私は眼前に向かい、魔法を詠唱をする。  
 
「『魔法の射手(サギタ・マギカ) 氷の17矢(セリエス・グラキアリース)!!』」  
 
氷の矢が奴を貫く。すかさず私は連続で詠唱した。  
 
「射殺せ……『闇の精霊(ウンデトリーギンタ)29柱(スピーリトゥス・オグスクーリー)  
魔法の射手(サギタ・マギカ)!! 連弾(セリエス)・闇の29矢(オブスクーリー)!!』」  
 
 
無数の矢が貫き通し、奴は往生している……。  
 
 
「……………………。」  
 
私はそのまま立ち尽くした………アーカードと名乗る吸血鬼は、それでもなお平然としていた。  
奴はこちらを見据え、嫌な微笑を施した。  
 
「ハハハ……それでは、今度は此方から進撃しよう。」  
 
――――バンッッ!!!  
 
「クッ……!」  
 
銃口をこちらへ向け、狙撃してきた。だが、障壁がそれの進入を許す事は無い…………  
 
――――しかし、銃弾は障壁を破り私の肩を貫いた……。  
 
「―――!!…………チッ……!!……なんだ、これは……?  
…血が……止まらない……だと…………?……どうやらただの銃弾では無い様だな。」  
「その通り。ランチェスター大聖堂の銀十字架錫を溶かし鋳造した13mm爆裂鉄鋼弾だ………。  
これで撃たれたら、どんな化物でもひとたまりも無い。そして黒魔術影響の効果も無効にする。  
……これまでか?……さあ、そろそろ貴様の狂気を見せろ…『Dark Evangel』」  
 
流血が止まらない………私と対峙し…ここまで『出来る』吸血鬼が存在するとは…………  
私も…そろそろ狂気に身を委ねるしかない………。  
 
「なら見せてやる…………私の狂気をな。」  
 
―――私は奴の背後に回り首を伐り取る。そして、躊躇無く全肢体をバラバラに切り裂いた。  
恍惚の微笑を浮かべ、少々愉悦を感じる―――これが私の『狂気』……理性などは全くもって関係ない。  
認めたくは無いが…………フン……  
 
「……これが『私』だ。」  
 
私が空を見上げ、虚無感に浸る……しかし何処からか狂った様な声が聞こえてきた……。  
 
「クッククク……面白い……実に面白いぞ!!!……貴様をカテゴリーS級以上の吸血鬼と認めよう。  
さて……お楽しみはここからだ……真の吸血鬼の闘争を……始めようじゃあないか……!  
『拘束制御術式第3号第2号第1号開放 状況Aクロムウェル発動による承認認識  
目前敵の完全沈黙までの間 能力使用限定解除開始』……さて、ジェノサイドの狂宴を開始しよう……。」  
 
『クロムウェル』?……魔術、呪術か……?  
奴の血肉が黒煙に変わり、異様な光景が眼に写る。これは……再生?  
 
「な…何だこれは……?」  
 
奴の姿は無い……魔獣のような無数の眼が付いた化物や6本の黒耀の魔手、人とは形容し難いものが氾濫していた。  
……そして無数の魔手が、私を貫いた………  
 
「く……あ……!」  
 
これも魔術が施されている為か……一瞬一瞬の痛みを感じる。が、私はすぐさま再生を試みた。  
 
「『魔王』め………散れ!『氷爆(ニウイス・カースス)!!』」  
 
―――ズドンッッ!!!!  
 
……繊細に散った氷の欠片の中、異形の存在はなお平然としている。  
 
「ハハハハハハッッ!!!異常と闇が散漫してくるぞ!!もっと来るがいい!!  
狂気の福音をもっと私に伝えろ!!さあ、早く!!ハリー!ハリー!ハリー!ハリー!!!!!!!」  
 
『異形』が語る。  
これはこの世から早く消滅させなければならない―――私は悟った。  
そして、終焉が近づいてくる……  
 
「そうかそうか……私は興味がないのだが、ならば最高の狂気を伝えよう…これで終極だ。ノスフェラトゥ・アーカード。  
そしてジュデッカの底に沈むがいい!!  
『契約に従い(ト・シュンボライオン) 我に従え(ディアーコネートー・モイ・ヘー) 氷の女王(クリュスタリネー・バシレイア)  
来れ(エピゲネーテートー) とこしえの(タイオーニオン) やみ(エレボス)!  
えいえんのひょうが(ハイオーニエ・クリュスタレ)!!』」  
 
―――辺り一面が、銀世界に豹変する。……そして私は終止符を打つ。  
 
「『全ての(パーサイス) 命ある者に(ゾーサイス) 等しき死を(トン・イソン・タナトン)!  
其は(ホス) 安らぎ也(アタラクシア)!  
”おわるせかい”(コズミケー・カタストロフェー)!!』………地獄に還るがいい!!アーカード!!!」  
 
 
―――銀世界が狂気諸共粉砕し、奴は粉微塵と化した。  
まるで悪夢を見ていた様な気がする………この私が…ここまで追い詰められるとは………。  
ここは魔界か?―――そんな感覚も一瞬過ぎった……だがこの魔界で最後に拳を挙げるのは、この私だ。  
 
「フン……やはり世界は広いな……。」  
 
―――月夜が煌めく中、私は余韻に浸る。  
 
「……ギヂギギギギギ」  
 
――――――!?  
 
「な……」  
 
輝く氷欠片の中から歪んだ黒煙がたぎねっていた。  
そしてその黒煙が形成し、再び吸血鬼が復活する――――  
 
「……hahaha、何を言ってるんだ……?ここは『戦場』だ。この場所こそ『地獄』だ。  
そして不死者の大隊『Letzt Batallion』、人形使い、闇の福音、真祖『EVANGELINE.A.K.MCDOWELL』……  
この世界はやはりまだまだ狂気に満ちている……貴様もその狂った羽の一部だ。」  
「………なるほど。  
………貴様は、今の私では殺しきれないな………私は一端ここで撤退させて貰うよ。  
対策を練ろう……次こそは、貴様は消滅の運命だ。」  
 
私はマントを靡かせ空へ、月夜の中へ忘却する………そして奴が嘯いた。  
 
「貴様を闇に帰すのは、この私だ。いや……出来るのはこの私だけ。  
そして近い将来、また逢うだろう……『valete,EVANGELINE.A.K.MCDOWELL』」  
 
そう言い放ち、奴も闇に消えていった………。  
……ふと、チャチャゼロを思い出す……私はあの人形の元に戻った。  
 
「………御主人!御主人!!………イッテーナンダッタンダ!?アノ吸血鬼!  
マサカ御主人ト張リ合ウ奴ガイルナンテ、号外ニュースモノダゼ!!タイムズニモノルヨ!!  
御主人、アイツ知ッテタ?」  
「全く知らなかった。奴が言うにはどうやら英国のHELLSING機関に属しているヴァンパイアらしい。  
HELLSINGはクリ−チャー専門の殲滅機関だ。どうやら目的は私達と同じだった。」  
「ア、前御主人ガ言ッテタッケ?……ツーカソレナラ御主人モ狙ラワレテルンジェネーノ?」  
「いや、その件に関しては大丈夫だ。私は自ら表に出て破壊行為などは行わない。  
それに私は最強だからな……そう簡単に奴等は手足は出せないだろう。  
HELLSINGの目的は、多分あのデブの男が率いる吸血鬼大隊だ……私と戦闘した吸血鬼どもは、  
あれはまだ実験段階に過ぎないだろう……これからは魔法や特殊能力を持った吸血鬼を輩出してくるだろうな。  
そんなのが表沙汰に出てみろ……これこそ思うつぼ、だ。  
それに対抗すべく存在するのは、吸血鬼アーカード。私でさえ知らなかったんだ……あれがHELLSINGのジョーカーだろうな。」  
 
「ツーカアイツガ強大ナ魔力ヲ放ッタ瞬間、変ナ犬トカ化物トカニ変形シテ原形ガ留マッテナカッタシナ。  
御主人、アノ魔法ハシッテタ??」  
「いや、全く………あんな魔術は覚えが無い……ヤツ独自の魔術かもな。  
クロムウェル、と言っていたが……思い付くのが『清教徒革命の指導者』……『ピューリタン派』……  
彼らの手本は『テンプル騎士団』……そしてその先祖は『ヨハネ派』となり…………  
その教理は『ゾロアスターとヘルメスの教理』……ヘルメス学の魔術学、錬金術が思いつくが皆目見当は見当たらない。」  
「……ナンカムツカシーナ。ナンニセヨ、私デナクテヨカッタヨ。  
アンナ化物達トハ、流石にヤリアイタクネー。」  
「あーゆーのは私専門だ、お前は雑魚専門だな……だから出てきても邪魔なだけだ。  
……もうこの国には用は無い、そろそろここから出よう。  
フン……満月だというのに、どうも気分が優れんっ!」  
「御主人ヲ手コズラセタ相手ダッタカラナ……マタアーユー吸血鬼ナンテ出テコラレタラ、流石ノ私デモチョット。」  
「フフ。チャチャがアーカードと戦ったら、それこそ本当におもちゃにされてしまうな。」  
「ロリロリ吸血鬼ガ廃退シタ街中デ微妙ナギャグヲ言ッテル……絵ニナルナ。」  
「なるかっ!変なこと言ってないで、さっさとここから出るぞ!」  
 
再びマントを靡かせ、この街から抜け出した……そして、今までの歴史を反芻してみる。  
一体、この世界はどうなって行くのだろうか?アーカード、ラストバタリオン……あの様な馬鹿どもが存在する限り、  
この世界は『狂気』として成立してしまうだろう……もっとも、奴等だけではないだろうが。  
これからは世界を、もっと検索しなければならない………私は、少しだけ哀愁に浸る……。  
……満月の月夜が美麗で……ちょっと、気分が良くなってきた気がする。  
 
――――『Non est Deus mortuorum, sed vivorum. Vos ergo multum erratis.』  
"死者の神にはあらず、生者の神にてまします。されば汝ら大いに誤れり"――――  
 
私が告げる、郷愁の福音―――――  
 
 
 
 
 
元ネタは「ネギま」と「HELLSING」パロディで、エヴァンジェリンVSアーカードの吸血鬼対決。  
ネギまのキャラ、エヴァンジェリン視点で書きました。  
 
cast―――  
エヴァンジェリン A.K マクダウェル……100年以上生きる真祖の吸血鬼、最強の魔法使い――出典「魔法先生ネギま!」  
チャチャゼロ……1989年以前にエヴァに隷属していた魔力で動く人形――出典「魔法先生ネギま!」  
アーカード……英国国教騎士団HELLSINGが100年かけて製造した最強の吸血鬼――出典「HELLSING」  
中尉……メガネを掛けたデブの中尉。後の「少佐」であり、ラストバタリオンを築いた。――出典「HELLSING」  
 
HELLSING……大英帝国と国教を犯そうとする反キリストの化物(フリークス)どもを”葬り去る為”に  
組織された特務機関――出典「HELLSING」  
ラストバタリオン……ナチスドイツの吸血鬼の戦闘団。不死身の人でなしの軍隊。――出典「HELLSING」  
 

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