桃尻姫 〜修行編〜
桃子一行は力をあわせて険しい山道を抜け、桃仙人のもとにたどり着きました。
鬼を倒すため、桃子の修行の日々が始まったのです。
仙人は桃子のおじいさんよりもずっと歳をとっていて、長い間山奥で生活していました。
でも気だけはすこぶる若く、隙あらば桃子の肉体を味わおうとちょっかいを出してきます。
修行着と称しておっぱい丸見えの服を着させようとしたり、釣りの修行中桃子の竿に魚が
かかると手伝うふりをして体に抱きついてきたり、座禅修行中には桃子が動けないのを
いいことに胸や尻をまさぐってきたりと、その手口はさまざまでした。
「よいか桃子、集中じゃ、いかなる時も集中を忘れてはいかん」
「でもそんなとこさわられたら……あ、やあんっ」
「どんな幻惑にも動じぬ心を持つのじゃ」
「は、はいっ、師匠っ」素直な桃子は仙人を信じて、ひたすら修行に打ちこむのでした。
そんながんばる桃子を、熱いまなざしで見つめる人がありました。
「桃子、おつかれ、今日もがんばってたな!」
「金ちゃん」
桃子と同じく仙人のもとで修行している、姉弟子の金太姫です。
桃子が入門したとき、仙人の家にはふたりの先輩がいました。金太は桃子より頭ひとつ
背が高く、髪はショートで、少年と見まごうような端正な顔だちをしていましたが、肩から
下はたしかに女性で、いつも全裸に赤い前かけだけを身につけ、小ぶりなお尻を丸出しに
して歩いていました。明るく、活発で、桃子ともすぐに打ちとけました。
もうひとりの浦島花子は、体つきは桃子よりやや子供っぽいものの、いつも落ちついて
もの静かな女性で、桃子が修行のつらさに泣き言をいいだした時も、優しくほほ笑みながら
最後まで聞いてくれました。金太も彼女には一目置いているようです。
桃子が厳しい修行を続けていられるのも、応援してくれる家来たちと、この頼れる姉たち
あってのことでした。
「あー疲れた、風呂いこ、風呂!」
金太は大きな声をあげると、桃子の返事を待たずに腕を絡ませてきました。
修行場の近くには天然温泉があって、桃子たちの癒しスポットになっていました。
「まったくあのエロジジイはしょうがねえな、今日もたらふくさわりやがって」
「金ちゃんも? ほんと、やんなるなあ」
お湯につかって深く息をつくと、桃子は夕陽にむかってぐーっと腕を伸ばしました。
温泉はもちろん露天です。木の香りに包まれながら山腹からの絶景をのぞむことができ、
開放感あふれる岩の湯船は、一日の疲れをほぐし、ゆっくりと溶かしてくれます。桃子は
こうして仲間とお風呂に入りながら、なんでもないことをしゃべったり笑いあったりする
時間が大好きでした。
「浦ちんは?」
「ん? あとから来るっていってたけど」
金太は桃子のまねをして腕を伸ばしながら、その裸体に目を落としました。夕陽を浴びる
肌は黄色く輝き、キラキラ光る水面の下に、健康的な女の子の体が見え隠れしていました。
「まあ、こんだけ立派だったらジジイもさわりたくなるよなあー」
冗談ぽく言って、湯の中にゆらめく桃子の乳房に手を出してきました。
「きゃっ、やめてよおっ」声をあげる桃子の顔は笑っています。不思議と、金太にはそういう
ことをされても嫌な気持ちになりませんでした。
同じ女の子だから? 同じ道をゆく友達だから? よくわかりません。おじいさんや家来や
師匠にさわられるのとは全然違う感覚があったのです。
金太の手や指の動きはとても的確でした。最初は機嫌をうかがうように、そっと指の腹を
白い肌にうずめ、手のひら全体でやさしく撫でまわします。桃子の肉体が反応してくると、
細く長い指先が注意深くふくらみを登り、桃色の乳首に到達します。指先は決してあせらず、
欲さず、魔女がお鍋をかきまぜる時みたいな動きで、敏感な乳首のまわりをさすります。
時おりコリコリ弾力ある先端をつっついて反応を楽しみながら、ゆっくりと。
「や、あ……」じりじりする快感のたまった乳首が小さく起きあがり、水面のキラキラから
ちょこんと頭を出しました。金太は静かに水の音をたてながら、なお優しい動きを続けます。
「かわいいな、桃子は」
「えっ……」
「なあ、キスしてもいいかな」
桃子は返事をためらいました。そんなことを聞かれたのは初めてで、一体どんなふうに
答えたらいいのか見当もつかなかったのです。
「ど……どこに?」なんだか変な答えになってしまって、桃子は顔を赤くしました。
「ふふっ、どこがいい?」
金太がほほ笑みながら、桃子に顔を近づけました。
その時です。がさりと葉を踏む音が聞こえて、ふたりは反射的に顔を離しました。
やって来たのは浦島花子でした。
「う、浦ちん」桃子は乱れる息を隠そうとしましたが、いつの間にかすっかりのぼせて
しまっていました。
「金太、桃子ちゃん、遅れてごめんなさい」
「んーん、全然」
桃子はそう言って笑いましたが、金太は何も言わずにちょっぴり口をとがらせました。
「じゃ、先、洗うわね」
花子はふたりに背を向けて座ると、手桶で湯をくんで、体を流しはじめました。
ふだん結わえている髪を下ろして、愛用の眼鏡もはずして、お風呂の中での花子は全然
雰囲気が違っていました。胸は桃子や金太にくらべると控えめですが愛らしいふくらみで、
とくに桃子が見とれるのはその肌の美しさでした。激しい修行のさなかとは思えないほど
白く、きめ細かく、つやつやしていて、水滴がすべるように背中をなぞってゆきます。
「きれいな背中……」桃子は思わずため息をつきました。
「なあ、あたいのこと忘れてない?」
隣の金太が耳もとでつぶやいて、もう一度桃子に手をのばしました。
「金ちゃんっ」桃子が身を引いてかわすと、すばやく腰に手を回して自分のもとに強く
抱き寄せました。水のはねる音がして、同時に、桃子は唇を奪われました。
「んっ……!」
もちろん生まれて初めてのキスでした。金太の薄い唇はとてもやわらかくて甘くて、
なのに桃子の全身に鋭い衝撃を走らせました。ビリビリしびれて、体の力がどんどん
抜けてゆくのです。水のはねるのとよく似た音をさせながら金太が強く唇を吸いました。
息が苦しくなって鼻息の音と小さな声が漏れました。信じられないほど目の前に金太の
きれいな瞳があって、どこを見たらいいのかわからないので桃子は目を閉じました。
「へへ、しちゃったな、キス……」
「金、ちゃん……」
ふたりがふたりにしか聞こえない声でささやきました。相手がすごく近い距離にいる
ときは、会話するのに声は必要ないということを桃子は知りました。
金太がさらに力強く腰を抱いて、唇を求めてきます。細いけれど引き締まった腕の筋肉、
触れている胸のふくらみ、そして薄い唇と差し入れられる舌。金太とくっついている色々な
部分が、もっと行為を求めるように熱くなってゆくのを感じました。
「み、見られちゃうよぉ……」
「大丈夫、わかりゃしないよ」
桃子の正面、湯船の外には花子の背中があります。金太はそちらに目もくれずに言い
ましたが、桃子は気が気ではありません。花子が振り向けばたちどころに、自分たちの
ふしだらな姿をさらすことになってしまうのです。
「金ちゃん、もう……んっ、んうっ」ここまでにしよう、という言葉をさえぎって、また
金太が唇を合わせました。すぐにその間からヌルヌルの舌を出し、桃子の口中に侵入させて
唾液の味を確かめます。
「んっ、ふ……」金太の甘い舌が情熱的に動き回るほどに、他人のものが自分のなかに
入ってくる違和感は充足感に置きかえられてゆきます。桃子は、もう何も考えられない
息苦しさの恍惚の中で、ぼんやりと花子の白い背中を見ていました。
つんと凛々しく上を向く金太の乳房が、桃子の胸に押しつけられてお互いの形をいびつに
変えます。乳首どうしがこすれ合ったり離れたりして、キスしてるのと同じとろける快感を
桃子にもたらします。
「あっ、あ! 金ちゃ……んんっ!」
ついに金太が、桃子の腰にあった手を股間に進ませてきました。桃子はなんとか阻もうと
しましたが、どうしても脚に力が入らず、あっさりと手を受け入れてしまいました。指先が
気持ちいいところをコリコリこすって、その下から体液があふれ出てきます。湯とは違う
粘度の高い液体を指先に感じながら、金太は声を殺して笑いました。
「声出したらバレちゃうぜ?」
「う、う……ふあぁんっ」
上と下の両方で金太が貪欲な愛撫をつづけます。舌は桃子の唾液を吸いつくすように動き、
指は包皮の下の赤い実をさすったりつまんだり。どちらも女の子の体を熟知した愛撫です。
「感じやすいな、桃子は。かわいいよ」
かわいい、金太にそう言われるたびに桃子の体の奥がじんじんしてきます。いやらしい、
とは何度も言われましたが、かわいい、は初めてでした。
「金ちゃん、わたしっ、熱い、熱いのっ……」
「いいよ、いっぱい感じろ、いっぱい気持ちよくなれ、ほら、ほらっ」
「あ! はあ、あぁあ!」
桃子のすべてが快感で支配されようとしたそのとき、体を流し終わった花子が、ふいに
こちらを向きました。目と目がしっかり合いました。
「あっ、あぁ、だめ、だめ、みちゃだめえ……!」いっそ立ち上がって逃げ出したいのに、
膝が震えて、頭がまっ白で、ものすごい快感が突き上げてきます。
(見られてる、見られてる、見られてる、はずかしいとこぜんぶ見られてる!)
桃子は泣きそうになりながら、それが一気にてっぺんまで昇りつめるのを感じました。
「ん、どうかした?」
湯船に入ろうとした花子が、ふたりに声をかけました。桃子はよだれのこぼれるのも
そのままに、目はうつろで、ただその身を金太にあずけていました。
「ちょっと、のぼせちゃったみたいだな」金太が答えました。
「大丈夫? 早くあがって、風にあたらせてあげて」
「ああ、ところでさ、見た? 今の桃子」
「えっ、桃子ちゃんが何? 眼鏡なしじゃなんにも見えないわ」
「だよな〜」
金太は笑みを浮かべながら、桃子をかついで立ち上がりました。
「じゃあ、お先にっ」
「気をつけてね」
ふたりを見送ってから、花子はあらためて湯につかりました。ふうと一息つくと、
「ふふふ、桃子ちゃんって、あんな顔するのね……」
そうつぶやいて、ひとり笑いました。
そのころ、仙人の家では大変なことが起きていました。
「師匠っ」「師匠!」動物たちが口々に叫ぶ師匠、桃仙人は、血の海の中に伏していました。
その体には無数の傷。鋭い刃物で斬られた傷が痛々しく見えています。
その奥に、刀から血をしたたらせる恐ろしい鬼の姿がありました。鬼は数えられないほど
何本も刀を持っていて、それは体の一部のようにも見えました。
「何者だ!」犬が牙をむいて吠えました。
「オイ雉、姫さま呼んでこい!」猿があわてて言うのと、雉が飛び立つのが同時でした。
「やべえよ、やべえよあいつ」おびえる顔で言ったのは金太の家来の小熊。
「落ち着け、落ち着くんだみんな」低い声でそう繰り返すのは花子の家来の海亀でした。
鬼は光のない目を家来たちに向けて、大きな口をゆっくりと開きました。
「桃から生まれた女というのは、どこにいる」
(つづく)