桃尻姫 〜旅立編〜  
 
 桃から生まれた女の子は桃子と名づけられーおじいさんたちの子として大事に育てられました。  
尻から生まれたのだから尻子にしようと最初おじいさんは言いましたが、おばあさんが泣いて  
反対したので桃子に落ち着きました。  
 ふたりの愛情を一身に受けた桃子はすくすくと成長しました。それにしたがって、おじいさんは  
己の歪んだ欲望をなにも知らない幼い体にぶつけるようになりました。  
 おじいさんは桃子の成長具合を見ると言っては、その股間に顔をうずめました。あの日、  
桃子が生まれた時に飲んだ果汁の味が忘れられずにいたのです。桃子の股間はほのかに甘い  
香りがしましたが、果汁が出ることはありません。おじいさんは毎夜、むずがる桃子を  
押さえつけてその小さな谷間へ舌を這わせました。  
 行為は、やがて桃子の尻や胸がふくらみ始めてからも続けられました。その頃になると、  
桃子は裸体をさらすことに抵抗を示すようになりましたが、おじいさんは聞かずに、時には  
乱暴に衣服をはぎとり、か弱く震える割れ目に鼻先を突っ込みました。  
「やっ……」荒く熱い息が敏感なところに容赦なくかかります。  
 桃子の長い黒髪が乱れて、なだらかな胸の上に汗の玉と一緒に張りついていました。  
おじいさんが、桃子のまだ青白い尻を強く揉みながらズルルと音を立てて恥部を吸いました。  
「やぁ、いやあっ」  
「おとなしくしろ、誰がお前を育てたと思ってる、実の子でもないお前を!」そう言われると  
桃子はもう逆らえなくなってしまうのでした。  
 目を閉じようとした桃子の視界の端におばあさんの姿がありました。行為の最中おばあさんは  
いつも、泣いているのか笑っているのかわからない顔をしてふたりを眺めていました。  
 
「おばあさん、私の本当の親はどこにいるの?」  
 月日がたったある日のことです。おじいさんが山へ柴刈りに出かけたのを見はからって、  
桃子はずっと胸に秘めていたことを尋ねました。思いを隠し続けていたせいでしょうか、  
桃子の胸は、道ゆく誰もが目を奪われるほど大きく豊かに育っていました。  
「どうか教えて、おばあさん」  
 おばあさんはひとつ大きく息をついて、ゆっくりと口を開きました。  
「桃子、よくお聞き。お前は桃から生まれたんだよ」  
「ほんとのこと言ってよ」  
「本当のことじゃ。大きくて、ほの赤くて、とても甘いにおいがしていた。お前が生まれたあとに  
食ってしまったけれど、あんなにうまい桃はほかになかったよ」  
 おばあさんがぼけてしまった、そう思って桃子は恐ろしくなりました。でもそれから、  
もしおばあさんがぼけていないのだとしたら、と考えてしまって  
もっと恐ろしくなりました。  
「私は……私は人の子じゃないの?」  
「わー! うわぁー!」その時、突然外から叫び声が聞こえてきました。おじいさんの声です。  
ふたりが家を出ると、帰ってきたおじいさんが何者かとにらみあっているところでした。  
 それは一見して異形のものでした。背丈は桃子よりはるかに高く、身に着けているのは  
虎の皮でできた腰巻きだけ。全身毛むくじゃらで、肌の色は焼けたように赤く、頭には一本の  
ツノがありました。  
「お、鬼じゃ! 鬼じゃ!」おじいさんはあわてふためきました。  
「おいお前ら、ここらで桃から生まれた女を知らないか?」  
 地面もふるわすような低い声で鬼が言いました。  
 桃子の胸の奥のほうが強く揺さぶられるのを感じました。  
 
「桃から生まれた世にも珍しい女がいると聞いてな、王への貢ぎ物にしようと探してるんだ」  
 鬼は口元をゆがめて、鋭い牙をのぞかせながら言いました。  
「そんなことはさせんぞ!」おじいさんがいきり立ちます。  
「どうした、まるで近くにその女がいるような口ぶりだな」  
 鬼が桃子に目を向けました。鬼の目は黄色く、鈍い光を放っていて、どんな嘘やごまかしも  
見透かされてしまうと桃子は直感しました。  
「ところで、お前はずいぶんと甘いにおいをさせているなぁ」  
 鬼は舌なめずりをしながら桃子に近づきました。蛇かトカゲのように細長い舌で、チロチロと  
桃子の冷や汗のにおいを舐めとるようにせわしなく動きました。  
「ヒヒヒ、いやらしい女のにおいだ……」  
「ひい……っ」  
 舌が桃子の肌に触れようとした、まさにその時でした。  
(待て!)どこからともなく声が聞こえて、桃子は、自分が剣を手にしていることに気づきました。  
(それを使って!)  
 桃子の体が勝手に、声に応じて動きました。柄をしっかりと握りこみ、長く鋭い刀身を重みに  
まかせてふり下ろすと、目の前にいた鬼は、みじかな悲鳴を残して粉みじんに滅してしまいました。  
「お見事です、姫」  
 その声は足元から聞こえました。見ると一匹の白い犬が、かしこまるように座って桃子を  
見あげていました。  
「ひめ?」桃子は戸惑いながら、犬に話しました。  
「あなたのことです、桃から生まれた桃子姫、あなたは僕たちの希望です」  
 
 狐につままれたような思いで、桃子たちは犬を家に招きいれました。話はこうでした。  
「聖なる果実より生まれいでし者、それが唯一、邪鬼を滅ぼす力をもつ伝説の勇者なのです。  
剣を使えたのがその証。どうかわたしをお供に鬼ヶ島討伐の旅に出てください」  
「そんなこと、いきなり言われても……」  
 桃子は伝説の剣を握ったまま、胸の高鳴りを抑えることができませんでした。  
 この家から飛び出せるかもしれない、そう思うと心の奥が熱くふるえました。  
「桃子や、お行き」そう言ったのはおばあさんでした。  
「行きたいんなら我慢することはない、鬼を倒して平和な世にしておくれ」  
「おばあさん……」  
 横のおじいさんが何か言おうとして、目を伏せました。  
 今の桃子は、立派な剣を持っているのです。  
「おじいさん」桃子は剣をかたわらに置くと、手をついて深く頭を下げました。  
「これまで育ててくれて、ありがとうございました」  
「桃子……」  
「行ってまいります」  
 顔を上げた桃子の瞳に迷いの色はありませんでした。  
 おじいさんは声にならない声でうめいて、ボロボロ涙を流しました。涙はワラの上に落ちて、  
桃の香りのする染みをつくりました。  
「さあ! 行こう!」  
 犬を連れて家の外へ出ると、桃子は、青い空に向かって大きく伸びをしました。  
 
(つづく)  
 

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