それは偶然だった。 
 香穂子が下校しようと練習室から出て、廊下を歩いている時に、ふと何気なく前方の 
練習室のドアにある窓が目に入った。正確には、窓から見える練習室内の倒れている人の脚。 
一瞬ドキリとしたものの、すぐにそれが1年の志水だと分かると香穂子はやれやれと 
いうように小さく溜息をついてそのドアを押し開けた。 
 中に入ると志水は以前もそうであったように、楽譜を散らばらせたまま床に丸くなって 
寝ていた。 
「志水くん、またこんなとこで眠っちゃって……志水くん! 風邪ひくよ!」 
 香穂子の声にも志水はただ「う…ん…」と言って寝がえりを打っただけで、起きる様子もない。 
 『寝て起きてチェロを弾いて寝て……』ただそれだけだと志水は言っていた。 
他はコンサートに行ったり、図書館で本を借りたりするだけで遊んだりはしないと…… 
その読書ですら『知識の宝庫、自分の音楽を豊かにする糧』だと言う。香穂子はそんな 
志水を、それって凄いことだよねと深く尊敬していた。 
 だが、それとこれとは別、下校時刻までにはまだ時間があるものの、ここで眠って 
いては良くないだろう。 
「志水くん!」 
 寝転がる志水の傍らに座りこんでその肩に手を遣る。 
「志水くん! もう夕方だってば!」 
 少しボリュームを上げて呼びながら肩を揺すってみると、やっと目が覚めたのか 
志水はボソボソと掠れた声を出した。 
「うう…ん…あ…れ? 香穂…先輩? ……そっか…これは……いつもの夢…です…ね 
 ……いつも夢の中で……先輩は……とてもいいメロディを僕に聴かせてくれます……」 
 横になったまま志水は手を伸ばし、その優しげな容姿とかけ離れた腕力で香穂子の肩を 
ぐいと引きよせてしまう。途端に香穂子はバランスを崩し「きゃっ!」と短い悲鳴を上げて 
志水に添い寝する形にされてしまった。それは吐息が互いの髪を震わすほどの距離。 
(キャー!! 近い! 近い! 近いって! 志水くん!!) 
 香穂子の心の叫びに気付くことなく、志水はまたしても惰眠を貪り始めていた。 
その綺麗な寝顔を見つめながら香穂子の口から感嘆の言葉が零れる。 
「うわっ、睫毛ながっ! …………ほんと…志水くんって、天使みたいだよねぇ……」 
 香穂子のその声が覚醒を促したのか、志水の瞼が少しだけ開く。そうして徐に志水の 
綺麗な指が香穂子の頬に伸びる。 
「……香穂先輩、先輩の音に…惹かれるのは……」 
 『先輩の音』……志水は時折、香穂子の演奏について語る時にこの言葉を使う。 
香穂子が魔法のヴァイオリンを失って、普通のヴァイオリンを今までと比べ物に 
ならないくらい稚拙な技術で弾き、自虐的に「とんだ聴き苦しいモノを…」と 
言った時もそうだった。 
『でも、先輩の音…でした…………ダメなところもたくさんあるんですけど嫌いじゃ 
 ないです先輩の音……』 
 志水の言葉には裏表がなく、いつも思ったまま感じたままを言ってくれる。だから、 
香穂子にはその時の志水の言葉が誰のどんな言葉よりも嬉しかった。 
 香穂子が上手に弾ける人と自分とを比べて落ち込んでいた時にも、上手に弾ける人を 
「うらやましい」と思う事はダメじゃないと言ってくれたのも志水だった。 
『それで先輩がダメなら僕も駄目になる』と……。そうやって志水は何度か、沈み込み 
そうになる香穂子の心を助けてくれた。 
 学年は一つ下なのだが、香穂子がヴァイオリンを続けていられる恩人の一人と言ってもいい。 
 
 香穂子がそんな思い出に浸っている間に、気付くと志水の顔が至近距離にあり、その唇は 
香穂子の唇に触れていた。瞬間、香穂子の脳は活動を停止する。 
(え?) 
 香穂子の脳が機能停止になっている間にも志水の舌は遠慮なく香穂子の唇を割って 
侵入を果たして行く。 
「――ぅ……」 
 余りの衝撃に呼吸すら忘れていた香穂子だったが、息苦しさを覚えて、やっとその 
思考が動き出す。 
(え? え!? えーーーっ!? も、も、もしかしなくても、私、志水くんと 
 キ、キスしちゃってる!? な、な、なんで? どうして!?) 
 先ほどの回想で急接近の動揺から少し落ち着き掛けた香穂子の思考も“未曾有”の 
経験にパニック状態に陥る。 
 そうしているうちにも志水の柔らかな舌先が香穂子の歯列をなぞり、息苦しさで開いて 
しまった隙間から志水の舌が香穂子の舌を求めて口腔内を隅々まで侵す。 
(ちょ、ちょっと待って、舌、舌、舌入ってるよね? 入ってる? え? 舌??) 
 香穂子の脳内処理能力は志水の行動に追いつかない。既に志水の舌は香穂子の縮こまる 
舌を優しく説き伏せるように刺激し誘い出そうとしていた。 
 その上、舌の動きにばかり気を取られていた香穂子は、タイや制服のボタンがとっくに 
外されてしまっていたことに気付いてもいなかった。 
(……あ…れ?……なんか…………キス……って……こんなに気持ち……いいんだ……) 
 初めての深いキスで呼吸もままならず意識がぼんやりする中で、香穂子はいつのまにか 
志水の舌の動きにたどたどしくではあったが応えていた。 
「――んふぅ……はぁ……」 
 絡まりあう舌の立てる小さな水音の合間に香穂子の鼻にかかった声が漏れる。そんな中、 
志水の手はブラ越しに香穂子の胸をやわらかく揉みしだきはじめていた。 
 香穂子が胸の頂と秘所とに未知のじりじりとした熱を持ちはじめた頃、志水はやっと 
香穂子の唇を解放した。 
 志水は香穂子の耳朶を甘く噛み、首筋に歯を立てると、そこから舌を這わせ愛撫する位置を 
少しずつ下げて行く。 
 
 香穂子のブラは既にホックが外されキャミソールと一緒に胸の上にたくしあげられていた。 
志水の唇は香穂子の白い乳房の上にたどり着くと、そこを強く吸って紅くキスマークを残した。 
「…結構……簡単に…付くものなんですね……」 
 志水は、ぽそりと言うと二つ三つと紅い小花を香穂子の肌に残す。 
「……先輩の……胸……白くて、柔らかくて……気持ちいい…です……」 
「……はぁ……し、志水…くん……こ、こんなの……おかしいよ……はぁん……」 
「そうですか?……僕は…とても自然な事だと思います……」 
「……そう……なの……?」 
「そうですよ……」 
(なんか……少し……違う気もするけど……) 
 
 志水は香穂子の両の乳房をやわやわと揉みしだき、その指の間からのぞく、既に硬く尖った 
鴇色の頂に舌を這わせた。 
「……ここ…こんなに硬くなってますね……」 
 志水が頂を吸うちゅっという音と同時に香穂子の口から「…あん」と小さな声が漏れる。 
志水はそのまま頂を舌先で転がし吸い、ねぶる。そうしてもう片方の頂は指先や掌を使って 
抓んだり擦ったりして香穂子の快楽を引き出して行った。 
「お臍の隣も……」 
 くすぐったそうに身を捩る香穂子に志水はまるでサービスとでもいうように印を残し 
舐め上げる。 
 そうしながらも志水の空いた手は香穂子のスカートの中、内腿を何度も擦り上げ、 
抵抗が無いとみるやその指先を熱く湿る秘裂の上に移動させ、スパッツの上から撫で 
始める。 
「や、やだ……そんなとこ……あぁ……はぁ……志水くん……」 
 香穂子が切なげな声を上げると志水は躊躇わずにスパッツに手をかけショーツごと 
半ば強引に脱がしてしまう。 
「香穂先輩……だいぶ濡れてましたよ。帰りに穿けなくなると困りますよね……」 
 志水は何でもない事のように言うと香穂子を見つめた。 
 
 脱げかけた制服、用を足さなくなったブラ、キスによって紅く濡れた唇、白い肌に 
散る自分の挿した所有の証。 
 志水はコクリと唾を飲むと香穂子のひざ裏に手を添えて、そのまま香穂子の肩下に 
押し付けるように引きあげ、香穂子に抵抗する間も与えず秘所を露わにしてしまった。 
「やっ、やだ、やだっ! 志水くんっ! こ、こんなの恥ずかしすぎるよっ!!」 
 途端に羞恥のあまり身を捩って逃げようとする香穂子だったが、脚を押さえられて 
思うように動けない上に、志水の指を痛める事が気がかりで思いっきり暴れることも 
できない。 
 香穂子の抗議が聞こえているはずなのに志水はやめるどころか躊躇うことなく香穂子の 
秘所に口付けてしまう。 
「し、志水くん!? な、何してるの!?……あぁ……やぁ……はぁぁあん……」 
「……先輩……男性の60%以上はここを舐めたいと思うとデータがあります。 
 僕も先輩の事が好きなので当然そう思います……」 
 志水の舌が溢れ出した香穂子の蜜を追ってそろそろと伺うように会陰を舐め上げる。 
その刺激に香穂子はたまらず背を反らせて嬌声を上げてしまう。 
「好きって……だけど…やぁぁあああん」 
「……さっきから先輩は嫌ばっかり言ってますが……ここを見ると、とてもそうは 
 思えません」 
「やだ、変な事言わないで……あぁっ……あぁん」 
「……先輩のここはとても綺麗です……きらきらして……ピンク色の小さな花みたいで……」 
 志水はそのまま花弁や蜜壺の周りをまるで焦らすようにそろそろと舐め続け、香穂子の 
華が淫らにひくりと震えて蜜を吐き出すたびに蜜壺を吸い上げ、その蜜を味わった。 
「先輩……もっと、もっと感じて……」 
「……あぁ……あはぁ……志水…くん……そんなにしたら……あぁん」 
 
 何度かそうしたことを繰り返しているうちに香穂子の指がおずおずと志水の髪に差し 
入れられる。強すぎる刺激に最初は志水の頭を軽く押し返す動きをしていた香穂子の指が 
その柔らかな癖毛を時折クシャリと掴むようになると、志水はようやく香穂子の蜜壺に 
指を挿し入れた。 
 香穂子の腰が悦びにピクリと撥ねる。 
「あああぁぁん!」 
「……香穂先輩……欲しかったんですね……」 
 志水の手は、とうの昔に香穂子の脚を拘束する役目から離れたのに、香穂子は最早 
抗う事をせず、快楽に流されていく。志水は何度か指の抽挿を繰り返し、香穂子の蜜壺が 
解れてくると挿入する指を増やしていった。 
 チェロを弾くための志水の繊細な指が香穂子の中で絶妙なハーモニーを奏でる。 
抽挿を繰り返しながら思い思いに動く指が香穂子の肉襞を広げ擦り上げ、嬌声を上げさせる。 
 浅い呼吸、上気した顔、しっとりと汗で湿る肌、薄く開かれた瞳に快楽ゆえに浮かぶ涙。 
「……先輩……とても綺麗です……」 
「……ん…あぁぁん……し…志水…くぅん……もう…だめ……お、おかしくなっちゃうっ!」 
 言われて志水は、それまで舌先でチロチロと嬲っていたぷっくりと膨らんだ香穂子の花芽を 
強く吸い上げた。 
 途端にぴんと伸ばされる香穂子の爪先。撓る背中。 
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああん!」 
 香穂子は志水の指をきゅうきゅうと締め付けながら、ふわりと浮くような白い世界へと 
達してしまった。 
「……先輩のこんなに可愛い顔が見られるなんて……たとえ夢だったとしても嬉しいです……」 
 香穂子の躰が弛緩すると、志水は蜜壺から指を引き抜き、香穂子の蜜でふやけきった 
指から蜜を舐めとった。 
 
 香穂子は荒い息が整ってくると少しずつ冷静になってきた。そして自分の現状を整理 
しようとした時、絶頂の余韻で震える脚もとでカチャリと志水のベルトが外れる音がして、 
志水の手が再び太腿に掛り、そうして固い何かが自分の秘裂に押しあてられるのを感じた。 
 香穂子は恐怖とともに瞬時に悟る。経験のない香穂子でも次に何が起こるのかは分かる。 
「――っ! 志水くん! それはだめ! お願い、やめて!!」 
「もう、無理です! ――先輩……」 
 逃げる香穂子の腰をつかんで猛った志水自身が、まだ誰の物も受け入れたことがない 
香穂子の蜜壺に沈められていく。嫌がっていても大量の蜜で濡れた香穂子の蜜壺は、 
ゆっくりとではあったが志水自身をずぶずぶと呑み込んでいく。 
「や……痛い……痛いよ……やあぁっ!」 
「……うっ…つっ」 
 指で慣らしたとはいえ狭い香穂子の肉壁が異物を押し出そうとする締め付けに志水も 
苦痛の声を漏らす。 
「……ぅ……い、痛い……よ……志水……くん……」 
「……僕も……です……が…………?」 
 志水も痛いのかと驚くと同時に、その動きが急に止まったことで香穂子はきつく閉じていた 
瞼を開く。そして、この痛む行為を志水がやめてくれることを祈りながらそっと声を掛ける。 
「……志水……くん……」 
「……僕は……これは、いつも見る夢だと……思っていたのですが……」 
「ゆ……夢?」 
「はい……この痛みようからすると……どうやら夢じゃないようですね……」 
 香穂子は愕然とする。この行為が志水の寝ぼけた故の行動だとしたら……初体験が 
寝ぼけた男の子にうっかりなんて……どう理解すればいいのか? どう感じればいいのか? 
行き場を失った感情が溢れ出すように香穂子の瞳からは涙が零れる。 
「……お…願い……もう…や…めて……」 
「……香穂先輩………………すみませんでした……」 
 
 志水は上着のポケットからティッシュを取りだして素早くシュシュッと引き出し、 
いまだ繋がり続ける自身の下側に宛がいそのままズルリと抜き去った。 
 香穂子は急いで捲れ上がったスカートを直し、自分の秘所にある志水が置き去りにした 
ティッシュを手に取った。こんな惨めな初体験があるだろうかと思いながら、そのティッシュに 
滲む紅色を見つめた。 
 
 気まずい沈黙の中、香穂子が脱がされたショーツを探して身を起こすと、志水と目が合った。 
「…………」 
「…………」 
「……し、志水くん……酷いよ……」 
「すみません……先輩の事が好きで…凄く好きで……」 
「――っ! 好きって……だからって……!」 
「先輩は……僕の事が嫌い……ですか?」 
 今まで見た事もないくらい表情を強張らせながらも志水は香穂子の答えを待つ。 
香穂子はそんな志水の顔を見ていられなくて視線を泳がせながら、叱られた子どもが 
言い訳するように小さな声でたどたどしく答える。 
「……き、嫌い……じゃ…ない…けど……」 
「けど……?」 
 視線を外した香穂子の顔を覗き込みながら志水が問う。志水は興味がある事に関する執着、 
探究心が旺盛だ。そして他の誰よりも冷静な判断をすることができる。香穂子はいい加減な 
返答では逃れられないと思い、混乱しながらもより適切な言葉を探して答えようとする。 
「……わ、分からなくて……志水くんの気持ちも…自分の気持ちも……どうしてこんな 
 ことになってるのかも……」 
「僕の気持……ですか?」 
 こくりと頷く香穂子に志水は少し考えてから言った。 
 
「香穂先輩、順番が違ってしまいましたが……僕は先輩が好きです。 
 僕と付き合って下さい……」 
 現状の把握さえ上手くできずに戸惑い、沈黙する香穂子に「駄目でしょうか?」と 
志水はたたみ掛ける。 
「だって、私、志水くんの事……」 
「嫌いじゃない……ですよね?」 
「――っ でも!」 
 
 言葉を続けようとした香穂子の顎下に志水の手が宛がわれ、唇は志水の親指でそっと塞がれる。 
「僕がキスしたのに拒まなかったのは……なぜですか?」 
 問われて香穂子の瞳が揺れる。未だに微かな痛みを訴える下腹部のその理由は決して 
志水だけのせいではないことを知っていたから……。 
 
「……私…が……志水くんのこと……好…き……だから……」 
 香穂子は胸の奥からきゅうっと込み上げる痛みに瞳を閉じた。志水の唇が香穂子の唇に重なる。 
 角度を変えて何度も舌を絡ませ合いながら、志水は香穂子の制服を脱がせていった。 
キャミソールとブラのストラップが肩から落とされスカートのボタンも外され、 
ファスナーが下ろされる。 
 肌寒さと、急に感じた照れから香穂子が身を捩り腕で胸を隠すと、志水は香穂子の手を取り、 
その指先に何度も唇を落として囁く。 
「……この指が……先輩のあの音を紡ぐんですね……僕は初めて先輩の音を聞いた時から 
 その音に惹かれていました。ずっと聞いていたい音だと……それが何故なのか分からなくて……」 
 志水の口から言葉が紡がれるたびにその震える唇が香穂子の冷めかけた躰にまた熱を熾す。 
 志水は香穂子の指を口に含み舌で転がし、指1本1本はもとより、爪の形をなぞるように 
舌を這わせ、嬲る。時折爪を甘く噛み香穂子の肩をひくりとさせながらその合間にも囁く。 
「……でも柚木先輩の家に行った時、香穂先輩の髪に柚木先輩がキスしたのを見て…… 
 よく分からない気持ちになりました。そんな感覚は初めてだったので…… 
 その感情について考えすぎて眠れない日もありました」 
 志水が香穂子の腕のやわ肉に這わせるようにそっと唇を進めるとくすぐったさから 
香穂子が身を捩る。 
「でも、第3セレクションで弦の切れたヴァイオリンを愛おしそうに見つめる先輩を見て… 
 僕は……先輩の音だけじゃなく……先輩のことが好きなんだと気付きました……」 
 脱いだ上着の上に香穂子をそっと横たえると志水は香穂子のシューズとハイソックスを 
脱がせ一糸纏わぬ姿にしてしまう。 
「……香穂先輩……とても綺麗です。僕の夢や想像なんか及びもつかないですね……」 
 ほうっとため息をつきながら志水はそのまま香穂子の爪先に口付け、足指に舌を這わす。 
「や、志水くん。くすぐったいよ……志水くんってば、何でこんなに慣れてるの? …やぁん」 
「……慣れてるわけではないですよ。そうですね……男子の情報ネットワークの賜物と 
 言ったところでしょうか……好きな女の子のためには予習は怠れませんから……」 
 にっこりと微笑む志水は天使の笑顔だ。例えその手が香穂子の胸を撫でていたとしても……。 
 
 志水は香穂子の全身にキスの雨を降らせる。少しでも好い反応があればそこにチリリと 
所有の紅い花を挿していく。 
 志水の丁寧な愛撫に香穂子の秘所は潤みを増す。それを確認するように志水の指が秘裂を 
上下に彷徨う。 
「……香穂先輩」 
 熱っぽく囁かれ香穂子が小さく頷くと、志水は空いた手でベストのポケットを探り 
四角い小袋を取りだした。 
「! それって……?」 
「この間の保体の授業で貰った物です。持っていて良かったです……」 
 香穂子にも覚えがある。一年生は全員保健体育の授業でコンドームを貰うのだ。 
香穂子はもちろん使う予定もないし、興味本位で開けてみるといっても授業の中で先生が 
開けて見せてくれたので、その必要もなく持っているだけでも恥ずかしいので即刻捨てて 
しまったのだが……志水が持っていたのは、用意が良かったわけではなく単なる捨て忘れ 
だろうと香穂子は思った。 ……事実はどうであれ。 
 
 志水はコンドームのパッケージを口にくわえて、残っていた衣服を素早く脱ぎ去った。 
 香穂子には、天使のように儚げで優しげな志水というイメージしか無かったが 
現れた志水の肢体は香穂子が思っていたよりも筋肉質で引き締まっていて美しかった。 
「――志水くんって……意外と筋肉あるんだね」 
「そう……ですか? 楽器を正しい姿勢で演奏する事は意外と重労働ですし…… 
 それにチェロはケースも入れると10kg程になるので毎日持って歩いていると少しは 
 筋肉がつくのかも知れません……」 
 コンドームのつけ方など香穂子はとうに忘れてしまっていたが、志水は話す間に 
淀みなくスルスルと付け終える。 
 
(あれが……私の中に……入る) 
 何とも言えない緊張感で震える香穂子の耳元で志水が囁く 
「先輩……香穂先輩……好きです。どうしていいか分からないくらい……」 
「――っ! 私も……志水くんが好き」 
 見つめ合い軽くキスを交わしてから、志水は香穂子の膝裏に手を差し入れ脚を引き上げると 
香穂子の秘裂にここまで硬くなるのかと思うほどに猛った自身を擦り付ける。 
志水としても今すぐにでも香穂子の最奥めがけて自身を突き入れて、香穂子が泣くのも構わずに 
無茶苦茶に穿ち続けたいという衝動が無かったわけではない。 
 だが、最初の挿入が性急すぎたと反省しているので“ゆっくり”を心がける。 
 志水は自身に手を添えて何度も何度も香穂子の秘裂の上を滑らせる。 
「ん……あぁ……」 
 香穂子の太腿が時折ふるりと震え、僅かではあったが、無意識にその腰が揺れるようになって、 
やっと志水は香穂子の蜜壺へ自身を沈めはじめた。 
 だが、またそれもごく浅い所での抽挿を繰り返すのみで、なかなか奥へは至らない。 
それは志水の香穂子の身体を思う優しさであったのだが、香穂子の内に灯ったまだ幼い慾は、 
わけも分からぬ熱で香穂子をじりじりと苛んでいた。 
「し……志水くん! 志水くんっ!」 
「先輩……?」 
 切なげに呼ばれて痛むのだろうかと志水は不安になる――が、直後、香穂子の腰が 
大きく動いた。 
「あぁぁあっ!」 
「――っ!」 
 
 ――入ってしまった。 …………一番奥まで。 
「先輩……なんて無茶……」 
「……大丈夫……みたい……全然痛くないわけじゃないけど……」 
 心配そうに顔を覗き込む志水に香穂子は照れ臭そうに笑ってみせる。志水はそんな香穂子に 
愛しさが増す。まったく、好きでたまらないと言っているのに、これ以上自分をどうしてくれる 
つもりなのかと……。 
「……動いても……?」 
「うん……」 
 香穂子が少し無理をしている事は志水にも分かっていた。 
「……ごめんなさい、先輩……もう少し我慢して下さい……」 
 志水は緩くかき混ぜるような動きで抽挿を繰り返し、香穂子に少しでも快感をもたらそうと 
頑張る。それは志水にとってもかなりの忍耐を伴うことだった。香穂子の肉襞は未だ処女特有の 
硬さがあったものの、そのざらつく感触はコンドーム越しにも感じられたし、志水が腰を引く 
たびに、香穂子の蜜壺がまるで志水自身を逃すまいとするような吸いつきで志水を責めたてる。 
志水はその射精感に抗うために額に汗を浮かべてしゃべり続けた。 
「なんだか本当に信じられなくて……先輩の事が好きだと気付いてしまったら…… 
 今度は毎日先輩の顔が見たい……声が聞きたい、触れたい……そう思うようになって 
 ……そのうちこうやって先輩と一つになりたいと……思うようになったら…… 
 もう毎日のように先輩をこうする夢を見るようになって……って、 
 なんか僕、ひとりで喋りすぎですね……凄く嬉しくて……」 
「……志水くん……私も嬉しいよ」 
 吐息の合間にキスと微笑みを交わす。 
 
 自身の抽挿の角度を少しずつ変えたり、浅く深くしたりして香穂子の表情の変化や 
無意識の反応を確認していた志水が深く息を吸って言う。 
「……さっきの感じでは……多分……この辺りが……先輩の……」 
「…ぁ……」 
 香穂子の微かな声だったが、その音を拾えない志水では無かった。 
「あぁ……やっぱりここですね……良かった……」 
 何がと問うべきかと頭の片隅で香穂子は思ったのだが、躰の中から生まれた快感の芽に 
全力で縋りつきたい気持ちの方が勝った。 
 志水もその気持ちを感じているのか動きを速めると、その抽挿に合わせて静かな練習室に 
香穂子の嬌声と水音が響く。 
「あぁ……あぁあん…はぁ……し、志水……くぅん……」 
「とても……とても…綺麗な音色です…先輩……もっと…もっと僕に…聞かせてください……」 
 香穂子は痛みの向こうから押し寄せてくる、自分をあのふわりと浮くような白い世界に 
いざなってくれる感覚を捕まえようとした。 
「あっ…あぁ…あん…なんか……あ、熱く…なる…はぁああっ」 
「あぁ……先輩の中、とても熱いです。……ぅっ……融けそうってこんな感じでしょうか」 
 志水は香穂子の溢れ出る蜜をからめて花芽に指を伸ばす。捏ねる指のリズムに合わせて 
香穂子の腿がヒクヒクと反応を返し、浅い呼吸と相俟って香穂子の絶頂が近い事を志水に 
教えていた。 
「や、やぁ…もう…もう……だめぇっ! 志水くん! 志水くん! ひゃあぁぁぁああんっ!」 
「――っつ! あぁ……香穂先輩っ!」 
 達する香穂子の奥へ、奥へといざなう締め付けに搾り取られるように、志水は白濁する慾を 
吐き出し続けた。 
 
 はぁ、はぁ、とまだ荒い息をしながら志水が囁く。 
「香穂先輩……凄く可愛かったです……」 
「か、可愛いのは……」 
 志水くんだよと続けようとして香穂子は自分の上の志水を見る。 
汗ばんだ額に癖のある髪を貼り付け、いつもとどこか違う貌をして微笑む志水。 
その唇が香穂子の唇をついばむ動きで志水自身がズルリと香穂子から抜け出そうになる。 
「あ…ん」 
 コンドームが外れてしまわないように志水が慌てて自身に手をやる。 
「あぁ……出ちゃいましたね……もう少し一つでいたかったんですけど……」 
 志水は悪戯っぽく笑うと、もう一度香穂子にキスをしてから身を離した。香穂子は 
志水が離れた事で志水の体温という熱を失い、幾ばくかの寂しさを感じた。 
「……私もそうみたい……もう少し一緒でいたかったかも……」 
 そろそろと起き上がって、香穂子が俯き加減ではにかみながらも志水に告げると、 
志水は少し驚いたような顔をして、それから香穂子をきゅっと抱きしめた。 
「香穂先輩……良かった……とても緊張しましたが……」 
 その言葉を聞いて、香穂子はコンクールの時でさえマイペースなあの志水くんが緊張?  
と幻聴でも聞いてしまったかのように驚いたが、ただ周囲の人間が理解できなかっただけで 
今までだって彼にとっては緊張していた事があったのかも知れないと思った。 
 
 そうして志水に送ってもらって家に帰り着いた香穂子は、入浴するべく脱衣所で服を 
脱いでギョッとした。 
 洗面台の鏡に映ったキスマークだらけの自分。 
 それでも流石はいつも冷静な志水といったところか、体育の着替えなどで香穂子が 
困らない位置を選んで付けたようだった。 
「……志水くん……恐るべし」 
 だが、恋人となった志水の本当の恐ろしさを香穂子が知るのは、翌日の事であった。 
 
 香穂子は登校途中で志水と逢い「おはよう」「おはようございます」と挨拶を交わして、 
なんだか気恥ずかしい感じでお互いあまり話さないまま登校した。校門を少し過ぎた所で 
香穂子のクラスの加地に声を掛けられる。 
「日野さん♪ おはよう。今日の髪型もとっても可愛いね。あっと、志水くんもおはよう」 
「加地くん……おはよう……あ、ありがとう……」 
「……あ……おはようございます……」 
 加地が香穂子を褒めるのは、いつものことなのだが……。加地は急に何かに気付いたように 
目を瞠り香穂子と志水を見比べた後、その恐るべき観察力で言ってのけた。 
「あれ? ふたりは付き合ってるんだ?」 
「え?」 
「はい……」 
 いつにない志水の即答に驚く香穂子を余所に加地は「そうなんだぁ……じゃ、また教室でね。 
日野さん」と明るく言って先に行ったが、香穂子に総てを捧げていると言って憚らなかった 
彼の胸中が如何なものであったか推して知るべしである。 
 香穂子と志水が付き合いだしたという噂は、朝の様子を見ていた女子から加地がらみで 
またたくまに広がった。 
 コンクールを通じて仲良くなったメンバーたちにも、移動教室などで会うたびに香穂子は 
事の真相を聞かれたが、隠す理由もないので肯定した。 
 だが、話しているうちに、土浦も火原も月森も別に香穂子が惚気たわけでもないのに、 
みんな急に顔を赤らめて用事を思い出し、慌てて去って行くという行動パターンを示したので 
香穂子は首をかしげる。 
 森や冬海、細かい事に気付きそうな報道部の菜美はいたって普通な態度だったから 
疑問は増えるばかりである。 
 そんな中、放課後には一番会いたくない人物、柚木に遭ってしまう。しかも屋上でふたりきり。 
 
 どんな嫌味を言われるかと香穂子が身構えていると、柚木は毒のない笑顔をにっこりと 
貼り付けて近寄り香穂子の髪を弄びながらその笑顔に似合わぬ冷たい声で詰問する。 
「ずいぶん噂になってるみたいじゃないか?」 
「お、お騒がせして……」 
「本当……」 
 言いかけて柚木が口を噤んだので、香穂子は何事かとその表情を窺う。柚木は香穂子の髪を 
はらりと後ろに払ってその首筋に指を滑らした。 
「! わっ! 何!?」 
「……キスマーク」 
「へ?」 
 反射的に首を押さえそうになった香穂子だったが、ふと、もし本当にキスマークが 
付いているのなら冬海は無理でも森や菜美が何か言うはずだと思った。 
「な、なに言ってるんですか!?」 
「……ふうん。ここに、とても小さくだけどキスマークが付いてる。あまり小さいから 
 よく見ないと気付かないくらいだけどね。……そう、どこがいいのか分からないけど 
 お前の事を好きで隅々まで見てしまうような物好きなら気付くかもってくらいのね。 
 まったく、彼もああ見えてなかなか牽制が上手だね」 
 言葉の意味を考えて難しい顔をしている香穂子に、柚木は小さくため息をついて 
「本当に鈍くてむかつく奴だな……香穂子?」 
 と意地悪く名前で呼んで香穂子の顔を覗き込む。反論すれば、どつぼにハマりそうで 
香穂子が何も言えずにいると、天の助けか屋内に繋がるドアが開いた。 
 出て来たのは志水で、柚木はいつもの笑顔を貼り付け瞬時に“柚木様”に戻る。 
「ああ、お邪魔だね。それじゃあ」 
 と言って柚木は志水と入れ違いにドアに吸い込まれて行った。 
 ドアが閉まる刹那、柚木は振り返り恋人同士を見た。 
「頑張ったってどうにもならないこと……そんなことはないんだよね、香穂子?」 
 柚木は、以前香穂子が言った言葉を繰り返し、不敵に嗤った。 
 
 
                 了 
 

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