「やっぱり、今日はやめよう」  
「―――え?」  
自分のそこに押し当てたられたものが突然引いたのを感じて、私はぎゅっと瞑っていた目を開けた。  
至近距離の月森くんの顔は、びっくりするほど真剣だった。  
「君を傷つけたくない」  
確かに、指を入れられただけで痛みで涙がにじむ自分に、それが入るとは到底思えなかった。  
さっきだって押し当てられただけで、あまりの圧迫感に呻き声を出してしまったぐらいだ。  
……とはいえ、私と月森くんの間にあるそれは、張り詰めたままなわけで。  
「でも、こういうのって、男の人はつらいんじゃないの…?」  
「それは―――、その…時間を置いたり、何とか……すれば」  
心底疑問に思って尋ねただけなのに、月森くんは薄暗い彼の部屋でもわかるぐらいに真っ赤になった。  
何とかって……と思わず繰り返しそうになって、今度はこちらが真っ赤になる。  
いや、そうだよね。月森くんも男子高校生なわけで…。付き合って数ヶ月で、しかもこんな状況まで来ているのに、  
彼のそういう姿は想像しがたかった。  
 
「私が……しようか?」  
ぽつりと呟くと、月森くんは目を丸くする。  
「……は?」  
「は?って、なに」  
「いや、あまりに突然だったから」  
「だって…私だけが気持ちいいままで終わるのって、フェアじゃないという…か」  
恥ずかしさで語尾が小さくなったけれど、本心だった。  
自分も初めてで、彼の愛撫の巧拙なんてわからない。けれど、優しく丁寧な手つきに、十分に濡れたのは事実だった。  
「嫌じゃないのか?」  
「嫌じゃないよ。……初めてだからわかんないけど、多分、大丈夫」  
実は、どんなことするのかもよくわかってなかったりする。  
裸のままというのも恥ずかしくて、私はベッド際に落ちていたピンクのキャミソールをとりあえず着た。  
上だけというのも間抜けだけど、ショーツをつけるにはまだ濡れているから仕方がない。  
 
ベッドの背もたれに身体を預けるようにして座った月森くんの足の間に、私は正座を崩すような格好でぺたんと座る。  
正面に月森くんのものがあって、恥ずかしさに思わず目を逸らしそうになった。  
 
とりあえず…ゴム、外すべきだよね。  
ぴっちりと覆いかぶさったゴムを外そうと、そっと両手で根元に触れてみる。  
「………っ」  
彼の腰が微かに震えた。  
被せられた薄いゴムはびっくりするほどきつい。くるくると上へめくりあげるように、そっと剥がしていく。  
これ、無駄になっちゃったなぁ…月森くん、ごめん。でも、どんな顔して買ったんだろ?  
 
剥き出しになった先端に、ちゅ…と口付ける。舌先に自分の唾液ではないぬめりを感じて、それを追い求めるように、  
割れ目へと舌を這わせた。  
男の人も、濡れるんだ―――。  
高まっていたのは自分だけではなかったことを知って、私はなんだか嬉しかった。  
 
先端の下の、少し窪んだラインを舌でなぞると、月森くんが低く呻く。  
そのままつつ…と尖らせた舌を上下させる。  
何度か舌を這わせたあと、先端を丸ごと口に含んだ。それだけで口の中が彼のものでいっぱいになる。息が苦しい。  
「……すごい格好だな」  
少し熱っぽい声と共に、月森くんの手がキャミソールの中の胸へと伸びる。  
「んーっ!」  
きゅ、と先端をつままれて、私は声を上げられないつらさに思わず涙目になった。  
くぐもった声が月森くんのものに響いて、私は自分の口内の熱さにすら感じてしまう。  
 
「香穂…子」  
「ん?」  
「そのまま…上下に動かしてくれないか」  
月森くんのものを口いっぱいにほおばったまま、私はわずかに頷いた。  
 
こう…かな?  
歯を立てないように、上へと唇をスライドさせる。  
本当は、口に入れたこの状態だけで、苦しくて仕方がない。歯を立てないようにと気を配れば、  
自然と唇と頬に力を込めるから顎が疲れてがくがくしそうだった。  
それでも。  
感じて欲しい。  
彼が優しくしてくれた分だけ、私も優しくしたかった。  
 
「……っ…は……」  
ちらりと上目遣いで見ると、眉をしかめて声を漏らす月森くんと目が合った。  
きっと私しか知らない彼の表情。私も、彼にしか見せていない表情がある。それは初めて同士の特権。  
追い立てるように、私は必死で口を上下に動かす。  
月森くんが、私の髪を撫でる。優しく、ときどき荒く。まるで私の動きに呼応するかのように。  
 
「――んん…っ……!」  
口の中のものがぐっと大きくなる。  
どくん、と口の中に放たれたものを反射的に飲み込んで、私は唇を離した。  
ちょっと苦くて…しょっぱい気もする。  
何に例えればいいのかわからない味に戸惑っていると、次の瞬間口元に熱い感触を感じた。  
「きゃっ!」  
頬に、唇に、その感触はたて続けに飛んで、どろり、と顔の上を伝って流れていく。  
「………え………?」  
「日野!」  
月森くんが慌てているのが何故かよくわからないまま、顔のものを拭ってみると、手に白いものがねとりとついた。  
これって、月森くんの……?  
「―――すまない、大丈夫か」  
「う、うん。ごめん。続けて出るなんて、知らなくて―――」  
………びっくりした。一回で全部出るんじゃないんだ。  
どうしよう。顔も手もベタベタだ。シャワーを浴びに行くにしても、この手ではまず彼の部屋のドアノブから  
汚してしまう。  
 
迷っていると、パサ、と柔らかな布の感触がした。掛け布団用のシーツで頬をぬぐってくれる月森くんと、  
白い布の波の中で目が合う。  
「シーツ、汚れちゃうよ」  
「構わない」  
シーツ越しの指先がくすぐったくて、私はくすっと笑った。  
「日野って呼ばれたの、ひさしぶり」  
「……あわてていたからな」  
照れたときのくせで、月森くんが視線を外す。  
頬を撫でる彼の手に自分の手を重ねて、指を絡めるようにつないでみせた。  
「月森くん」  
「なんだ?」  
「今度は…ちゃんと続きしようね」  
あなたのくれるものなら、痛みさえきっと受け入れられるから。  
つないでいた手を、ぐっと引き寄せられて身体が傾いだ。シーツごと彼の腕の中に収まって、私と月森くんの  
鼓動が重なる。  
どちらからともなく引き合うように、私たちはシーツにくるまって何度も何度もキスをした。  
 
<FIN>  
 

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