「ほら、やるよ」  
私の前に、ぽとりと何かが落とされた。……使い捨てカイロ?  
「……なんのつもりですか?」  
私は正座の体勢は崩さず、顔だけをそちらに向け、カイロを落とした相手――柚木先輩を睨みつける。  
「お前がそんな格好をしているから、可哀想だと思ってね……。  
 優しいだろ、俺? だからそんな顔するなよ」  
そう言って先輩はしゃがみ込むと、私の肩に手を置き……体の輪郭に沿って手を下ろしていく。  
くやしいけど、あったかい手にほっとする。  
「ほら、体がこんなに冷えて……足なんてもう動かないんじゃないのか?」  
「誰のせいだと……っ!」  
大きな声を出した瞬間、柚木先輩が私の胸の先をつまんだ。  
「ここも随分固いな……そんなに寒い?」  
自分はちゃんと服を着て、私にはこんな事をさせて。  
それで、わざわざそんな事を言うなんて、ひどい。  
「当たり前です……」  
図らずも、声が震えてしまった。  
一方先輩はその情けない声に満足したようで、にやりと笑って立ち上がる。  
「忙しいんだよ、俺も。次に来るまで、待ってられるよな?」  
私だって暇な訳じゃないのに、勝手な事を言って……!  
下を向くと、ふわりと頭に暖かい感触。  
慌てて顔を上げるが、  
「それ。ちゃんと使えよ」  
それだけ言い残して、先輩は行ってしまった。  
 
 
姿が見えなくなってから、香穂子は両膝の先に落ちているカイロに手を伸ばした。  
が、なんだか裏側がつるつるしている。妙に思い、裏返してみると。  
「ちょっと、これ……」  
カイロの裏にはつるつるとした紙がついており、  
真ん中に入った切り込みから剥がせるようになっていた。  
つまり。  
「これ、貼るカイロじゃない!!」  
香穂子は大声で叫ぶと、貼るカイロを放り投げたのだった。……全裸で。  
 

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