1  
 
 ……み、見てしまった。  
 香穂子は熱くなった頬を冷やすように、ぺたぺたと秋の冷気で冷えた手で頬を撫でる。  
 
(そ、そう……だよね。だってふたりは恋人同士だし……しないほうが、おかしいよね)  
 
 忘れ物を取りに教室まで来た香穂子の目に入ってきたのは、  
 友人とその彼氏の熱いキスシーンだった。  
 香穂子はそっと自分の唇に触れてみた。自分にも彼氏はいるけれど、  
 キスなんてものはしたことがない。たまに手を繋ぐくらいのものだ。  
 
(なんか、胸がむずむずする……)  
 
 付き合ったら、キスをするのは当然なのだろう。日にちに差はあれど、  
 雑誌の経験談でも、漫画でも、付き合ったらキスをするのが当然――そんな風に書いてある。  
 香穂子は急に不安になってきた。コンクールが終わって、三ヶ月。  
 それは彼と付き合い始めてからの日数でもある。  
 もしかして――自分に魅力がないのでは? と、香穂子は顔を青くする。  
 
(そう、だよ……キスなんて、しない方がおかしい……)  
 
 好きだというのは、もしかしたら音楽に対してだけだったのかもしれない。  
 だって、じゃなければおかしい。三ヶ月も経って、まだ手を繋ぐだけだなんて。  
 今までのは全部、自分の勘違いだったのだろうか。  
 そう思うと恥ずかしくて、不安で、香穂子は忘れ物を取りに来たことも忘れて駆け出した。  
 
 翌日、香穂子の目元に出来たのは、真っ黒なクマだった。  
 こんな顔で学校には行きたくない……そう思いつつも、母に行きなさいと言われ、渋々家を出る。  
 いつもの通学路を歩いていくと、彼の背中が視界に入って、香穂子はぎゅっと胸が縮まるのを感じた。  
 どうしよう。こんなに不安な気持ちで会いたくない。もし変なことを口走ってしまったら――。  
 
「おはようございます、香穂先輩」  
 
 み、見つかってしまった。なんでだろう。後ろにいたのに。  
 香穂子は驚いて、目を何度も瞬かせる。  
 
「お、おはよう、志水くん……」  
 
 心臓が変な風に動いて、声も喋り方も、どこかぎこちない。  
 そんな香穂子の変化と、目元のクマに気付いた志水が「どうしたんですか」とたずねてきたが、  
 香穂子は何もいうことが出来ず、曖昧に笑うことしか出来なかった。  
 
2  
 
 ――放課後。香穂子は予約を入れていた練習室で、ひとり練習をしていた。  
 コンクールが終わってからも、音楽は続けている。  
 それは、音楽の楽しさを教えてくれた志水のためかもしれない。  
 彼が自分の音楽を好きだと言ってくれたから、だから今までよりもずっと、  
 音楽を愛することが出来るようになったのかもしれない。  
 香穂子は肩からヴァイオリンを下ろし、ふうっとため息をこぼす。  
 
「まともに音が出ないや……そりゃ、そうだよね」  
 
 こんなに精神的に不安定なのに、ちゃんとした音が出せるはずもない。  
 香穂子はピアノの椅子に座り込み、項垂れた。  
 志水に会いたい、けど、会いたくない。  
 自分のことが好きかと聞きたい、けど、聞きたくない。  
 聞いてしまえば、今まで信じていたものが全部崩れてしまうような気がして、怖かった。  
 
「……香穂……先輩?」  
 
 突然聞こえてきた声に、ドキッとして顔をあげる。  
 練習室の扉が半分開いて、そこから志水が顔を覗かせていた。  
 
「すいません、練習の邪魔でしたか?」  
「う、ううん、そんなことないよ……どうしたの?」  
「いえ……なんだか、具合が悪そうだったので、心配で」  
 
 ……なんか、すごく現金だな。  
 こんな言葉をかけられたくらいで、舞い上がってしまいそうだ。  
 でも、と。脳裏に、昨日から感じていた疑問が過って、香穂子はまた表情を無くした。  
 
「……先輩?」  
「ご、ごめんね。あ、志水くん、ここ使う? わたし、もう帰ろうかなって思って」  
 
 慌てて立ち上がり、ヴァイオリンを片付け始めた香穂子を、志水のぼんやりとした瞳が追う。  
 
「先輩、なにか、あったんですか?」  
「え? な、なにが? なんにもないよ? ……」  
 
 そうはぐらかす香穂子を、志水の真っ直ぐな瞳が捉える。  
 あまりに真っ直ぐ過ぎる瞳に、逸らしたくても――逸らせられない。  
 
「音が……」  
 
 香穂子の目を真っ直ぐ見たまま、志水が呟くように言った。  
 
「音が、どこか不安定で……だから、先輩、何かあったんじゃないかって……」  
 
 そんな小さな変化にも、気付いていてくれていた。  
 翳っていた心に日が差したような気持ちになったけれど、また昨日のことを思い出して、翳る。  
 聞いて、みようか。少し怖いけど。でも、志水なら、ちゃんと答えてくれるだろう。  
 それが香穂子の期待を裏切るような言葉かもしれないけれど。でも、聞かずにはいれなかった。  
 誰もいない練習室。今が、最大のチャンスのように思えた。  
 
「志水くん……は、わたしの音楽、好き?」  
「はい……好きです」  
 
 即答され、一瞬面食らう。けれど、この言葉はコンクールの時から聞いていた言葉だ。  
 香穂子が、本当に知りたいのは――。  
 
「わ……わたしの、ことは……?」  
 
3  
 
 心臓発作を起こしてしまうのではないかと思う程、心臓がばたばたと暴れまわる。  
 どんな言葉が返ってくるだろう? 好き? それとも嫌い? 普通かもしれない。  
 思わずぎゅっと目を瞑る香穂子の耳に入って来たのは、胸が躍るような一言だった。  
 
「はい、大好きです」  
「え……ほ、本当、に? あの、ヴァイオリンを弾くわたしじゃ、なくて……?」  
「……? はい。先輩が、好きです」  
 
 壊れてしまいそうなくらい、ドキドキしている。  
 頬が熱く紅潮していくのがわかったけれど、止められない。  
 そして、勝手に口からこぼれた言葉も、止められなかった。  
 
「じゃあ、どうしてキスしてくれないの?」  
 
 言ってから、ハッとした。  
 
(な、何を言ったの? ……何を言っちゃったの!?)  
 
 熱湯を頭から浴びた直後に、冷水をかけられたような気分だ。  
 頭も体も馬鹿みたいに熱いのに、頭の中だけは妙に冷静で、変な気分。  
 俯きながら、恐る恐る志水の顔を盗み見ると、変わらない、いつものぼんやりとした顔。  
 香穂子の方が年上なのに、こんな時は彼の方が年上みたいだ。  
 
「キス……先輩、したいんですか?」  
「うぇっ!? や、あっ、あの、今のはちがっ……」  
「……したくないんですか?」  
 
 したいよ! 本当に好きなのかどうか確かめたい!  
 だけど、恥ずかしくて、そんなことは言えるはずもない。  
 
「僕は、したいです。先輩と、キス」  
 
 えっ、と香穂子は目を見開いた。今、なんて?  
 
「でも、先輩は、手を繋いだだけでも真っ赤になるから、いやなのかなって思ってました」  
「え、えええええええ?」  
「先輩がいやなことはしたくないので、ずっと我慢してたんです」  
 
 何それ。お互いに勘違いしてたってこと?  
 ……というか、全面的に自分が悪いような気がする。  
 勝手に勘違いして、志水の気持ちを疑って――酷い自己嫌悪が襲ってくる。  
 
4  
 
「先輩、して、良いですか? キス」  
 
 いつの間にか、志水は練習室の中に入ってきていて、  
 練習室の扉の鍵はしっかりと閉められていた。  
 香穂子は真っ赤になりながらも、どうにかうなずいてみせる。  
 いつも見るだけでドキドキしていた志水の笑顔だけど、今日はその何十倍もドキドキしてしまう。  
 
「先輩、不安にさせてしまいましたか? ごめんなさい――」  
 
 そう言って、そっと唇を押し当ててくる。これが、キス。  
 ……と、思っていたら。  
 
「んんっ!?」  
 
 し、舌が!? 舌が入って来た!  
 軽くパニックになり、必死に志水の胸を押すが、びくともしない。  
 どちらかというと背も低い方で、力もあんまりなさそうなのに――どこにこんな力が!?  
 
「ん、んん〜……っ!」  
(な、なんか……変な、気分、に……!?)  
 
 今まで味わったことのない気分に、香穂子は息をすることも忘れ、  
 ただ志水の深い深い口付けを受けるしか出来ない。  
 
「んぅ、ふっ……」  
 
 なんだか、凄く変な気分だった。なぜか下半身がむずむずして、胸がはちきれそうなくらいドキドキする。  
 ようやく唇が解放された時、香穂子はもう息も絶え絶えになってしまっていた。  
 
「……先輩、すいません。ずっと我慢してたら、押さえきれなくなって……」  
 
 腰が抜けてしまい、へなへなとその場に座り込む。  
 キスって、こんなに激しいものだったんだ……。  
 とろんとした瞳で、ぼんやりとそんなことを考える。  
 
「先輩……続き、して良いですか?」  
「え? つづき?」  
 
 ――って、なに?  
 
5  
 
「だめ……ですか?」  
 
 いや、だめも何も、続きっていったい……。……まさか?  
 「続き」の意味がわからず混乱していたが、ようやく合点が行った。  
 ティーン雑誌に良く書いてある一文を思い出したのだ。  
 それは――「初体験」。  
 今まであまり興味がなかったので気にしていなかったのが仇となったようだ。  
 香穂子は赤かった顔をさらに赤く、ゆでだこのように赤くして、どうにかうなずく。  
 
(ええい! こうなりゃままよ!)  
 
 そんな簡単に決断して良いようなことではないが、志水がしたいと言ってくれているのだ。  
 断るなんて――出来ない。まして、香穂子には志水を疑ったという前科がある。  
 せめて、志水の思う通りにしてあげたい。  
 
「先輩……好きです」  
 
 そう、耳元でささやかれ、もう一度口付けられる。  
 同時に、ぷちぷちと制服のボタンが外されていく――途中で、志水が「あ」と声をあげた。  
 
「ここじゃ、見えちゃいますね」  
 
 言うなり、香穂子を抱きかかえる。本当に、いったいどこにそんな力が……と思うが、  
 毎日チェロを持って登校している彼にとっては、香穂子くらいは楽に持ち上げられるのかもしれない。  
 
 もう、身に纏うものは下着だけになってしまった。  
 冬も近いということで、多少肌寒くはあったが、恥ずかしさによる体温の上昇のため、あまり気にならない。  
 
「先輩、綺麗です――」  
 
 どうして、そういうことを平気で言えるんだろう……。また、体温が上昇した。  
 背中に手を回され、ブラのホックが外される。はらり、と胸を覆う存在が消えた。  
 恥ずかしさで、志水の顔をまともに見れない。最近はもう、母にだって見せたことがない胸。  
 
「先輩……」  
「あっ!」  
 
 胸を触れられ、勝手に漏れ出た嬌声に、香穂子は思わず口を押さえた。  
 こんな声は、今まで出したことがない。どこに潜んでいたんだろう。  
 
6  
 
「先輩、声、出して下さい。防音だから、大丈夫です」  
「そ、そういう問題じゃ……あぅっ!」  
 
 はむ、とまるで苺を口に入れるように、志水が胸の突起を口に含む。  
 下半身が、とてもおかしい。むずむずして、うずうずして、なんだか気持ち悪い。  
 いいや、この表現もおかしい。気持ち悪いんじゃなくて――とにかく、変だ。すごく。  
 
「ひゃっ、あぁ……! 志水くん……っ」  
 
 突起を吸い上げられ、片方の手でもう一方の胸を揉みしだかれる。  
 こんな経験は、初めてだ。今まで興味すら湧かなかったのだから、当然だけれど。  
 
「はぁうっ!」  
 
 突然、胸の突起から口を外し、首のあたりを強く吸い上げる。痛いけど、どこか気持ち良い。  
 
「し、志水く……なんか、変だよ……」  
「感じてるんですか、先輩……?」  
「感じ……?」  
 
 良くわからなかったが、こんな風に変で、気持ち良いようなことを「感じる」というのだろう。そう解釈した。  
 志水の手が、ついに下部に伸びる。するり、と外され、露出された秘所は既に濡れていた。  
 
「ああっ!?」  
 
 志水の指が、秘所の入り口にそっと触れられる。まるで電流が全身を駆け抜けたようだ。  
 胸を舐められ、揉まれた時よりも強い衝撃に、どうにかなってしまいそうだった。  
 志水の愛撫により、多少の主張を始めている芽を、志水が壊れ物を扱うように触れる。  
 強い電流が、下腹部を中心に走る。声すらも出ず、香穂子はびくんと身体を震わせた。  
 
「香穂先輩……先輩のここは、凄く、かわいいです」  
「やっ、だめっ……志水くん!」  
 
 志水の顔が秘所に近づき、香穂子は慌てて制した。  
 が、志水はそんなことはお構いなしに、内部に舌が入り込んできた。  
 この衝撃を、どう表現すれば良いのだろう。身体がとろけそうに熱い。  
 
7  
 
「やあぁっ! だ、めえ……っ! 汚い、よぉ……っ」  
「汚くなんて、ないです。凄く綺麗で……」  
 
 志水の言葉は途中で途切れ、代わりに香穂子の嬌声が響き渡る。  
 内部を舌で激しく犯され、気がおかしくなってしまいそうだ。  
 ぐちゅぐちゅと舌で何度もかき回され、頭がおかしくなってくる。  
 下半身からビリビリと電流が駆け巡り、深すぎる快楽におちていく。  
 
「――っ!? あっ、ああああぁぁっ!」  
 
 何が起こったのか、最初は良くわからなかった。  
 今までの何倍も凄い電流が全身を駆け抜けて、身体は反り返り、  
 口からはどうしてこんな声が? と思ってしまう程甲高い声が出てきた。  
 そうして、ようやく秘所から志水の顔が離れ、  
 香穂子はほとんど何も考えられなくなりながら、ぼんやりとその顔を見上げた。  
 
「先輩、指、入れますね」  
 
 達したばかりで息も絶え絶えな香穂子を、更なる快感と、多少の痛みが襲う。  
 
「大丈夫ですか? 痛く、ありませんか?」  
「んっ……だ、いじょうぶ、だけど……なんか、変な感じなの……」  
 
 舌の時はそこまで感じなかった異物感が、今度は確かにある。  
 ぐちゅぐちゅと内部をかき回され、感じながらも、同時に少し怖くもあった。  
 
「先輩……大丈夫です。怖かったら、言ってくださいね」  
 
 そんな香穂子の気持ちを察したかのように出された言葉が、とても嬉しかった。  
 繰り返される愛撫に、頭がどうにかなってしまいそうだったけれど、  
 志水を想う気持ちだけはしっかりとそこにある。  
 だから、大丈夫。何も怖くはない。  
 
「志水くん……大好き……」  
「僕も……凄く大好きです、香穂先輩」  
 
 三度目のキスが、降って来る。  
 
8  
 
「……あ、どうしよう」  
「? どうしたの……?」  
 
 志水が困ったような顔をするので、心配になって顔を覗き込む。  
 
「その、なくて。……避妊具が」  
 
 かっ、と顔が赤くなった。  
 そ、そうよね、こういう時、必要だもんね……。  
 っていうか、なかったら妊娠しちゃうんだよね……。  
 
「ごめんなさい、先輩。ここまでしておいて」  
「や……やめちゃう、の?」  
 
 しゅんと項垂れる志水に、恐る恐るたずねてみる。  
 ……たずねてみてから、自分がどれだけ大胆なことを口にしたのかを認識した。  
 
「……香穂先輩。続き、しましょう。……帰ってから、になりますけど」  
「え……? で、でも」  
「僕の家……えっと、おばさんの家なんですけど、今日から旅行で、誰もいないんです。僕は、学校があるか  
 
ら留守番で……」  
「で、でも、いいの?」  
「はい……。あ、でも、先輩が困りますか? 少し遠いし、泊まることになるから……」  
 
 お、お泊り、かあ。お母さん、説得出来るかな……。  
 少し不安に思ったが、いざとなれば友人の家に泊まると嘘をつけば良い。……若干、心は痛むけれど。  
 
「あの、志水くんが迷惑じゃないなら……」  
「じゃあ、決まり、ですね。……先輩、すこしだけ、我慢してくださいね」  
 
 その後、香穂子が志水の気持ちを疑うことは二度となかったという……。  
 
 
終  
 

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