最初に気付いたのは、いつものごとく目ざとい天羽だった。  
同じ付属大に進学して最初の休日(とはいえ学部は違うが)、二人揃ってショッピングに出かけて、  
天羽は妙なことに気付いた。春先だというのに、髪を上げた香穂子の首周りに妙なものが目立つのだ。  
虫刺されのような鬱血のような、赤かったり青かったりする大小いくつもの痣のような物。  
虫にしてはは季節がずれている。ヴァイオリンを弾く時に出来る痕は、その構造上一箇所にしか付かない。  
となると。  
「香穂、キスマーク付いてる」  
 金澤と親友との間にある関係は、二人が「付き合い」始めたときから承知している。  
「え、ウソ!」  
「首筋」  
「!」  
「それから項」  
 香穂子は大急ぎで髪留めを外して、上げた髪を下ろす。とりあえず殆どのそれはナリを潜めた。  
「隠れた?」  
「まーさっきよりはマシだと思うよ」  
 にやにやと緩む口元を天羽は止められない。いつもの特ダネを掴んだ目に、香穂子は身を固くする。  
とはいえとうに引退して卒業した身だから、まかり間違っても記事にはならないのだけど。  
「金やん、ついに手ぇ出したか」  
「菜美っ」  
「そーだよねえ、卒業したもんねえ。やっぱり金やんもオトコだし。しっかし激しいねえ、結構あるよ?」  
「・・・」  
 香穂子にも思い当たる節はある。ここのところ、卒業して晴れて公認、もといお日様の下で付き合えるように  
なってからこっち、それに逆行するように金澤は身体を求めてくるようになってきたのだ。  
(・・・普通、逆だよねえ)  
 正直、普通にデートしてるだけで十分だと思う。まだ身体を合わせるのに抵抗がなくなったわけでもない。  
けれど同時に、求められるコト自体が嬉しいとも思うのだから、末期だ。何せ二年間、金澤は第三者に  
すっぱ抜かれることを警戒してキス一つしてこなかったのだから。  
「明日も金やん家行くんでしょ?気をつけなよ?特に避妊」  
「菜美!」  
「ジョーダンジョーダン」  
天羽はけらけらと笑った。  
 
 金澤が料理好きなことを知識としては知っていても実践で味わう機会がなかっただけに、最近の解禁は嬉しい。  
頼まれた材料をいくつか買い込んで、インターフォンを押した。  
「お、来たか」  
 
「ご馳走様でした」  
 料理担当は金澤で、洗い物を香穂子が行うのがいつの間にか暗黙の了解になっていた。料理が趣味の相手とはいえ、  
上げ膳据え膳では気が引ける。洗いあがった皿を拭きながら、ぼんやりと部屋を見渡した。ここ暫くで見慣れた部屋は  
相変わらず雑然としている。見慣れた、という事実が示すことに至って、香穂子は顔を赤くした。それだけここに  
入り浸っている、ということである。今更気兼ねするような関係でもないのだけれど。  
目敏く金澤が反応した。  
「何、お前さん何を想像した?」  
「・・・ばっ」  
 赤かった程度の香穂子の顔が一気に沸騰する。何を想像したかなんて今更分かっている。ここ一月この部屋で頻繁に  
行われていることなど、一つしかない。  
「こういうことか?」  
「ひゃあっ」  
 後ろから抱きしめて、服の隙間から手を入れた。知り尽くした急所を攻めながら片手でブラのホックを外す。  
「や、センセ」  
 服の中を自由自在に動き回る腕を捕らえようとして、逆に胸の支えがなくなったことにうろたえた。  
「今から「先生」禁止な」  
「ーーーーーっ!」  
 耳元で囁かれると弱いことも、了解済み。  
「っあ」  
 胸から臍に至るラインを爪でつっと撫でると、香穂子の身体が面白いように反応した。  
「んもう先生のバカ!H!変態!」  
「そりゃどーも」  
 勿論金澤にも言い分はある。約二年もの間、鼻先に人参を吊り下げられた馬のごとき状態に耐えて、清い関係のまま  
(天羽含む一部を除けば)ばれずに卒業までこぎつけたのだ。今更気兼ねする必要も背後に気をつける必要もない。  
(分かってねーなあ)  
 金澤は思う。  
(俺がどんだけ我慢してきたと思ってんの?)  
 人畜無害なメリーさんの仮面を被る気も、もうない。  
 
 金澤の家は横浜市内に数限りなくあるワンルームマンションの一室である。昔取った杵柄と今の職業のせいで、とにかく  
AV(オーディオヴィジュアル・・・アダルトビデオにあらず)が多い。そういう理由で防音設備を優先させたせいか、  
部屋のほうはたいして広くもないのに家賃が張る。とはいえ別に貧乏もしていないのだし、一人暮らしなんざこんなもんだ、  
というのが金澤の本音だ。  
(ま、今んなっちゃ都合いいけどな)  
 おかげで、有難いことに香穂子を連れ込んでナニをしても、隣近所に文句を言われることもない。  
「ん、やあ」  
 ベッドに押し倒して口付ける。白いタートルネックのセーターはとうに丸まって部屋の隅に転がり、役目を果たしていない  
ブラがキャミソールの中で不安定に動いた。  
「紘人さ・・っ」  
 鎖骨に口付けると、熱の籠もった声が返ってくる。それでも拒んでいるのではないことを、声の甘さが証明している。  
キャミソールの下に手を入れ柔らかい膨らみを頂の突起ごと掴むと、耐えられないと言ったように背が反った。  
「先生、や」  
「「先生」禁止つったろ?」  
「っ、ずるい!」  
 今更初めて抱くわけでもないのに、反応はいちいちひどく敏感で瑞々しい。だからこそ余計溺れさせたくなる。溺れさせて、  
何も分からないほど、いっそ自分なしでは昼も夜も明けなくなるほど狂わせてみたい。キャミソールをブラごとひん剥いて、  
既にぴんと固く立った頂を殊更に舌と指で弄んだ。  
「んんっ」  
 あえかな反抗は教え込まれた快感の中にすぐに沈み込んで消えてしまう。  
「せ、紘人さ、あ」  
 香穂子が金澤の背に縋る。組み敷く手が胸を背を腹を撫でる。身体の奥底までいいように溶かされ煽られて、  
膝なんかとうに割られている。認めたくなくても身体は正直に、十分蕩かされた疼きを痛いほど教えてくる。  
手付かずだったスカートに手が掛けられて下着一枚にされると、金澤がにやりと笑った。  
「さっき二回「先生」って呼んだよな」  
「や、なに・・・」  
 金澤はがっちりと太腿を押さえて離さない。そのまま下着の両端をまとめる紐に手ならぬ口をかけた。しゅる、と  
布地の擦れる音がして、急に腰のあたりが心許なくなる。  
「お仕置き」  
「や、あ」  
 十二分に濡れた秘所が解放されて、抱え込んでいた熱を主張するように腿を濡らす。それを丁寧に舐め上げて、  
遠慮なく泉に舌を這わせた。  
「先生、そんなとこ、したら」  
「三回目」  
「ああんっ」  
 先ほどより大きな音を立てて、愛液を吸い上げる。足を押さえるだけでは片手が無沙汰で、もう片手で乳房を強く  
捏ね回す。  
「ああ・・・っ、ひあっ」  
 二箇所からの容赦ない快感に、どうにかなりそうだ。いや、この人はそうなることを求めている。  
 
 初めて抱いてから一月程度で、香穂子の身体は確実にオンナに変わりつつある。自分が初めてであることを身を以って  
知っている分、自分が仕込んだということでもある。半分面白くもあり、半分年の差からの背徳感もあった、面白いように  
感じて乱れてイく香穂子を、この先二度と手放せなくなりそうだ。だとしたら、溺れているのは自分のほうだろうか。  
いや、今更どうでもいい。  
「や、も、ダメ」  
 芽に歯を立てると、ぐっと香穂子の背が反る。間髪入れずに中指を第一関節まで埋め込んで中を抉る。イイ所なんかとうに  
熟知している。あとは香穂子の抵抗一つだ。  
「ダメ、そこ、やなの、いっちゃ、あぁっ」  
 秘所が痛いほど食らい付いて、一度は舐め取った愛液がこれでもかと溢れてくる。ぼんやりと達した香穂子は余韻に浸って  
いて、組み敷かれても気付かない。荒い息が、金澤の身体の下で力を失っていく。  
「お前も敏感になったな」  
『誰のせいだと思ってるんですか」  
「ふうん、じゃあその自覚はあるわけだ」  
「・・・っ、だって」  
 ここのところ、会う度に身体を求めてきたのは誰ですか、と視線と赤くなる頬が言っている。  
「分かった、分かったよ」  
 火照った身体を抱え込んで。  
「あ」  
 一気に貫いた。  
「あああっ」  
  打ち込まれた楔に押し出されるように、甘ったるい悲鳴が上がる。一気に身体の奥まで踏み込んできた熱い塊に息が止まる。  
押し開かれた違和感はいつものように、すぐに狂おしいほどの快感に取って代わる。  
「あぁん、ひああっ」  
 先ほど一度イっただけあって身体は遮二無二再びの絶頂を求めて金澤を飲み込み、収縮し、強請るように縋りつく。  
思うさま揺さぶられて擦り上げられて知り尽くされた身体の弱点を内側から攻められて、何も考えられなくなる。  
不意に、再び達する寸前で金澤が香穂子を抱え上げた。  
「センセイ・・・?んぁっ」  
 一気に深くなった結合に悲鳴を上げたのもつかの間。  
「ああああ、あ」  
 自分の体重による沈み込みと加速する下からの突き上げに、全身を珠のような汗が滑り落ちる。今はまだ四月のはずなのに、  
部屋の中はひどく暑い。二つの身体がぶつかり合い溶け合い絡み合う水音が耳を打つ。  
「やぁ、あん、ああっ」  
 意識を手放す前に見た金澤の表情はひどく満足げだった。  
 
「・・・あ」  
 熱が引いて、視界に色が戻ってくる。香穂子は自分がまだ金澤に抱かれたままであることを認識した。  
身体の内側にはまだ溶け合ったままのそれがある。押し開かれた秘所はそれを拒まない。  
肩だの胸だの好き放題刻印を付けて楽しんでいる金澤の頬に触れて。  
「紘人、さん」  
「ん〜?」  
 自分から口付けた。  
「・・・って、ドコ触って・・・やあんっ」  
 大きな手が、背を撫でる。撫でるというよりがっちり拘束するような動きと連動するように、身体の中で金澤が熱と  
勢いを取り戻していく。  
「さっき何つった?」  
 そういえば、溺れそうになりながら先生と呼んだかもしれない。  
「・・・っ!」  
 墓穴を掘ったことに気付いて赤くなる香穂子に構わず、金澤は香穂子の手首を掴んで耳朶を甘く噛んだ。  
「や、もう紘人さんのケダモノ〜!」  
 香穂子が解放されるのは、もう少し先のようである。  
 

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