―まずい、よなあ。  
 胡坐をかきながら、俺は数えることも忘れるくらいため息をつく。  
今俺は香穂ちゃん家の香穂ちゃんの部屋にいて、香穂ちゃんのお兄さんのTシャツとGパンを借りて、  
香穂ちゃんがシャワーを終えて出てくるのを待ってる。  
その上、バッグにはお節介な兄貴が無理矢理突っ込んでくれた―それも一ダースで!―銀の個装に包まれた  
アレもある。  
 試練、ってことかなあ。それとも上げ膳食わぬは男の恥ってやつ?マズいよなあ。息子が痛いくらい疼きだしてる。  
正直、香穂ちゃんを泣かせるのは怖い。けどそれと同じくらい、先に進みたいって気持ちもある。  
付き合ってもうすぐ半年経つから、もうそろそろいいんじゃないかって思うときもある。  
 事の成り行きは、すごい単純で。いつものデートの帰り道、いつもみたいに家まで送り届けようと  
二人で歩いてたところで、急に大粒の雨が降り出した。朝家を出たときはピーカンだったから、トーゼン  
傘なんて持ってない。大急ぎで香穂ちゃん家まで避難した。それはとっても正しい判断だったと思う。  
問題はその後。傘だけ借りて帰ろうとした俺を(だって俺雨くらいで風邪引くほどヤワじゃないし)香穂ちゃんが  
引き止めた。  
「そのままじゃ風邪引きますから!」  
「大丈夫だってこれくらい!」  
「ダメです!センパイが良くても私が心配するんです!」  
押し問答を繰り返すまでもなく、お風呂場に押し込められて。でもって、今に至る、と。  
おまけに―何てタイミングなんだろう―香穂ちゃんの家族は全員留守。これって、何、そーゆー事?  
 
「センパイお待たせー」  
 香穂ちゃんが入ってくる。正直、俺は噴き出しそうになった。身の丈より大きなTシャツに、足なんか全然  
隠してないキュロット。その上お約束の白いTシャツだから、ばっちりブラジャーのレースだとか背中の  
ホックだとかが透けて見える。落ち着け、俺!  
 香穂ちゃんはそんな俺の本能には無頓着で。  
「ホットミルク入れてきますねー」  
なんて笑って出て行く。・・・ホットミルク、飲んだら落ち着くかな。いや、ソレ無理だし!  
 
「はー、すごい雨」  
「急に降って来たもんね」  
 窓の外では、まだまだ音を立てて大粒の雨が降ってる。  
「わ、寒っ」  
「ここんとこ暖かかったから余計寒いのかな」  
「それは言えてますよね」  
 香穂ちゃんは俺のすぐ横で、足をぺたんと床に付けて座ってる。  
なんて無防備な・・・!今俺の耳にオオカミの耳が、香穂ちゃんの頭に羊の角が見えても誰も驚かないだろうなあ。  
襲ってくれって言ってるようなもんだ。  
「だから和樹センパイ、雨宿りしてけって言ったじゃないですか。服濡れてると風邪引きやすくなるんですから」  
「分かった分かった」  
 濡れた髪から、ふわっとシャンプーの香りがする。つやつやしてて、綺麗な髪。  
・・・ダメ、限界。  
 まだ水滴の垂れるそれに触る。  
「和樹センパイ?」  
 身体を引き寄せて、キス。  
「ん・・・」  
 抱きしめて、舌で唇を割った。俺にされるまま、香穂ちゃんは嫌がらない。手がTシャツの上から胸に触ると、  
身体が震えた。  
「・・・っ、センパイ」  
「ダメ?」  
 柔らかくて小さい身体。  
「ヤなら止めるよ?」  
「ヤじゃない、ですけど」  
「怖い?」  
「じゃなくて、カーテン開いてるし、まだ明るいし」  
カーテンを閉めて、窓の鍵を掛ける。ついでに明かりも落とした。その間、香穂ちゃんは床に座ったまま。  
ガチガチに緊張してんのが分かる。正直、俺も緊張してる。キスをして、傍のベッドに降ろした。  
組み敷くと、今まで以上に甘い匂いがした。  
 
 お互い初めてだってことは分かってたつもりだった。けどこうして本当にコトになると、歯止めなんて効かなくなる。  
「ん・・・っ」  
 香穂ちゃんの身体に、溺れてくみたいだ。滑らかな肌のあちこちに、口付けて痕を付ける。  
「センパイ、苦し」  
 首筋にも、所有の証。ブラのホックを外して、膨らみに触れた。  
「ずっとこうしたいって思ってたって言ったら、怒る?」  
「センパイ、・・・っ、だって」  
 組み敷いた身体が、赤く火照る。  
「でも俺は」  
 答えを聞かないで、乳首に歯を立てた。  
「や、ダメッ」  
「もっと香穂ちゃんのこと、知りたいって思ってた」  
「んん・・・っ」  
 甘い声は俺を拒否しない。殆ど用無しになってたTシャツを脱がして、下もまるむきに剥いだ。  
「―っ、センパイ」  
 恥ずかしいって言わんばかりに、香穂ちゃんが俺の頭を掴んで髪に手を入れてくる。  
「あんまり見ないで」  
「ヤダ」  
 まだ足りない。もっと俺だけの君を見せて。俺も知らない君を教えて。  
「あ、ダメ、やあん」  
 動けないほど抱きすくめて、胸を舌で舐め上げて、形が変わるほど強く揉みしだいた。おずおずと手が背中に回る。  
そこで初めて、Tシャツが借り物だったことを思い出した。皺が出来たり伸びたりする前に脱ぐと、香穂ちゃんが  
驚いたみたいに俺を見る。  
「どうしたの?」  
「センパイの身体、はじめてちゃんと見た」  
「音楽科ってカンジじゃないよね」  
「運動部、でも通じそう」  
「土浦にバスケして勝ったこともあるよ」  
 小学校ん時から毎日走ってるから、体力と筋肉には自信ある。でも。  
「・・・・」  
「今、何考えた?」  
「え!?」  
 一瞬押し黙った香穂ちゃんが顔を赤くした。  
「今何かやらしいこと考えてたでしょ。すごいじーっと見てた」  
 勿論やらしいことしてる自覚はあるけど。  
「だってそれはセンパイが、・・・っ!」  
 続きは言葉にさせなかった。キスを繰り返して、肌に肌を埋める。  
「や、センパイっ」  
 内腿を抱えて舐め上げて、きつく印を刻んだ。綺麗でまっさらな身体。俺だけにゆるされた身体。  
「ぅ、ああ」  
 熱く濡れたそこに、指の腹で初めて触った。香穂ちゃんが俺の肩に顔を埋めた。  
「痛い?」  
「痛くない、けど、何か、ヘン」  
 指先を沈めて、中を探った。蕩けそうに熱い。  
「や、センパイ、だめ、あんま、動かさ・・・あんっ」  
 耳元で喘ぐ声も、メチャメチャになる息も。俺がそうさせていて、香穂ちゃんがそれを受け入れてくれている。  
入り込んだ指が、弱いところを探り当てたらしい。恥ずかしそうに伏せてた瞳が開かれて。  
濡れた芽をくっといじると、  
「ああああっ」  
 一瞬そこが俺の指を千切りそうなくらい締まって、香穂ちゃんの身体からくったりと力が抜けた。  
「よかった?」  
「・・・センパイのH!信じらんない」  
 真っ赤になる香穂ちゃんをまた組み敷いて、ジーンズを脱ぐ。  
「・・・いい?」  
 ごめん、もうダメ。  
「・・・うん」  
 
 まさか使うなんて思わなかった兄貴のアレに心底感謝しながら、ゆっくりと身体を沈めた。細い腕が縋り付いてくる。  
「痛い?」  
「イタイ」  
 正直、俺も息ができないくらい苦しい。そこは火傷しそうなくらい熱くて、中に入ろうとする俺をきつく締め上げてくる。  
お互いの額に珠みたいな汗が浮かんで、泣きそうに歪んだ香穂ちゃんの汗を舐め取った。  
「和樹センパイ・・・」  
 それでも俺を受け入れようとしてくれる愛おしさに、理性のほうが負けた。  
「ああ・・・っ、あ・・・っ」  
固い何かに動きが止まって、身体のオクまでたどり着いたのが分かる。半分くらい衝動に任せてナカを動いた。  
「やだ、センパイ、苦し、ダメ・・・っ」  
「香穂・・・っ」  
 出来るだけ痛みを感じないように理性を振り絞ってゆっくり擦り上げて、イイ所を探しながら首筋に舌を這わせて  
耳を甘く噛んだ。舌で触れるたび、甘いと思う。そうだ。全部知りたかった。コンクールで知り合ってから今まで、ずっと。  
汗とシャワーで濡れた髪に触って、手を入れて、強く深く口付けた。舌を入れると絡み付いてくる。  
「センパイ、や、そこ」  
 甘さの混じった声に、探り当てたそこを殆ど容赦することなんか考えないで攻めた。背中に、痛いほど爪が立てられる。  
もう、制御なんて出来ない。  
「ひあっ、や、ああ」  
「も、ダメ」  
 頭の中がしろくなった。  
 
 
 二人して外に出ると、とうに雨は止んでいて。  
「晴れちゃいましたね」  
 俺を見送る、という香穂ちゃんに甘えて、駅まで手を繋いで帰る。  
前よりも愛おしさを感じながら。  
 
 
 

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