ぼんやりしていた頭が、急速に覚醒する。力の入らない手のひらを無理矢理握りしめ、  
冬海は真っ直ぐに男たちを見た。  
「外して、ください……お願いします」  
 冬海の気配が変わったことを、斉藤は敏感に察した。舌打ちして、手の中のリモコンを  
操作する。  
「や……っ」  
 熱くなった粘膜をめちゃくちゃなリズムでかき回されて、冬海は大きく仰け反った。す  
ぐに振動が弱められて、腰がもどかしげに突き出される。そしてまた体の奥から揺すぶら  
れる。  
「やあああっ」  
 寸前まで高められて引き戻される、その繰り返しに冬海は何度も何度も首を振る。意志  
と関係なく腰が跳ね、真っ白い腿が宙を掻き、つま先が反り返る。ドロドロした熱い何か  
が出口を求めて冬海の体の中を駆けめぐり、狂おしいほどの焦燥感で炙られる。  
「冬海ちゃん、言っちゃえよ」  
「ほら」  
「ほら――言えよ」  
 身悶える冬海を見下し、男たちが何度も誘う。最初は優しげだったその声に、次第に苛  
立ちが含まれていく。  
 けれども冬海は頷かなかった。  
 
「は、ず……して……、ねが……っ」  
 男たちは目を見交わした。何故かはわからないが、冬海が自分を取り戻してしまったの  
は確かなようだった。寸前まで追いつめていた獲物を取り逃がした悔しさに、彼らの表情  
が歪む。  
 もう一度追い込んで気力を折ってしまいたいが、今、この場ではそれほど時間をかけて  
いられないのは、3人ともわかっていた。  
 暗黙の了解で彼らは方向を転換する。  
「……ふん、仕方ねえな」  
 大木がの言葉と同時に、斉藤がバイブの振動を落とす。  
「ふ……?」  
 熱い吐息をこぼしながら、冬海が潤んだ瞳をあげる。その前に大木が自分のモノを突き  
だした。  
「ほら、しゃぶれよ」  
「ちゃんとイカせることができたら、外してあげる」  
 斉藤がニコニコと笑いながら、リモコンを振る。  
 一瞬、目を見開いて、それから怯えた表情で冬海はリモコンと目の前のモノを見やった。  
 グロテスクなそれを、冬海は悲しいことにもう見慣れてしまっている。それどころか、  
その味も、手で触れたときにどんな反応を示すかも、どうすれば射精まで導くことができ  
るのかも。  
 悲しさとあきらめの入り交じった表情で、冬海はおずおずと口を開けた。差し出された  
舌が、ぴちゃりと幹に触れた。  
 
「エロく頼むよ〜、冬海ちゃん」  
 平井がおどけた声を上げる。その手にはビデオカメラが構えられている。  
 撮られている――。  
 だが、それにももう慣れてしまった。冬海は羞恥に体を震わせながら、大木のモノを口  
に含んだ。口の中いっぱいに独特の苦みが広がって、鼻孔に流れこむ生ぐさい臭いにむせ  
そうになる。目尻に涙を浮かべ、けれども冬海は逆にのどの奥へ迎えるように陰茎をくわ  
え込んだ。  
 幹の根元から絞り上げるように唇を動かし、傘のくぼみをチロチロと舌先で刺激する。  
教えられたとおりの従順な動きで、冬海は大木に奉仕した。一刻も早く、この時間を終わ  
らせたい。冬海の頭にあるのはそれだけだった。  
「ん……んぅ……ふ……」  
 先走りの粘度の高い液体と唾液が入り交じって、じゅぶじゅぶと音を立てる。口いっぱ  
いに広がっている生臭い味が舌を、頭を痺れさせていく。  
「冬海ちゃん、おしゃぶりがすっかり上手くなったね」  
「あーあ、涎垂らしちゃって。そんなにおいしい?」  
 いやらしい言葉が冬海の耳を打つ。恥ずかしさにぎゅっと唇をすぼめれば、あふれた唾  
液が口からこぼれて顎を伝って喉へ流れた。  
 一瞬、ドレスが汚れることを心配して、そんな自分が冬海は滑稽だった。しかし、めざ  
とく気づいた斉藤が、ドレスのファスナーに手をかけた。  
「いけないいけない。このままじゃ、せっかくの綺麗なドレスが汚れちゃうね」  
 背中のファスナーがおろされるのを感じて、冬海は首を振って抵抗しようとした。その  
頭を、大木の手ががっしりと抑える。  
 
「サボるなよ」  
 冬海の瞳から、涙が一筋こぼれ落ちた。  
 大人しくなった彼女の背中から、斉藤の手が差し入れられる。ブラジャーのホックを外  
されて、いきにり両方の乳首をつまみ上げられた。冬海がくぐもった悲鳴を上げる。  
「んぅ、うぅーっ」  
「すごいよ、冬海ちゃん。乳首がギンギンに硬くなっちゃってる。これじゃ苦しくて仕方  
なかったでしょ」  
(や、いやぁ……!)  
 ぐにぐにと乳首を揉まれて、閉じた瞼の裏でちかちかと火花が散る。親指と人差し指の  
間で潰すようにひねられて、痛いはずなのに体が震えるような快感を感じてしまう。そん  
な自分が悲しくてとてつもなく惨めだった。  
「冬海ちゃん、少し胸大きくなったんじゃない?」  
 平井がしゃがみ込んで、冬海の胸をアップで撮る。平井の言葉に、斉藤は乳首を放し、  
膨らみ全体へ指を這わせた。  
「あー、そうかもな。ま、まだまだちっちゃいけど」  
「ん、んーっ、ん……んんっ」  
 乳房を激しく揉みしだかれて、冬海は身をくねらせた。男の骨張った指が真っ白な肌に  
食い込んで、丸く形の良い膨らみを変形させる。  
「でも、冬海ちゃんの胸、すげー柔らか。最初の時はまだまだ硬いって感じだったけど、  
今は手に吸いつくみたいだな」  
「すっかりえろい体になっちゃって。これも、俺たちのおかげだねえ」  
 男たちの嘲りの声が冬海の熱をさらに煽っていく。下肢のバイブは今だに微弱に振動を  
止めてくれない。もどかしい振動が絶え間なく送りこまれて、思考を甘く溶かした。  
 
「く……ふ、ぅん……ぁ……」  
 冬海の口から漏れる声は、本人が意識しないうちに、どこか鼻にかかったような甘えた  
声になっている。  
「うはっ、冬海ちゃんすげーエロ顔。ほら、見てみ?」  
 ぐいと突き出されたビデオカメラの画面いっぱいに冬海の顔が映っていた。苦しそうに  
眉根を寄せ、けれども欲望に肌を上気させて、男のモノを加えている自分の姿が冬海の目  
に焼き付く。  
(いやっ、ちがう、ちがう……っ)  
 自分は悦んでなんかいない。感じてなんかいない。嫌悪感から必死に否定するけれど、  
体はまた熱く疼いてしまう。  
「ほら、ちゃんと手も使って。俺をイカせねーといつまでも終わんないぜ?」  
 大木が冬海の口の中にぐいと肉棒を押し込んだ。えづきそうになったけれど何とか耐え  
て、冬海は口腔内を犯すソレに両手を添えた。  
「……ん、ふ……む……」  
 両手で根元を持って、頭を激しく前後させる。傘の先端を何度も何度も舌先でこすりつ  
ける。頬がへこむぐらい、ぎゅっと男の幹を吸い上げる。  
(も、もう……終わって……)  
「うぉ……すげー」  
 冬海の頭の上で、大木が気持ちよさそうにうめく。手の中でびくびくと幹が震えて、男  
が間もなく達するのだと冬海に教えた――その、時。  
 
 コンコン、と、控え室の扉がノックされた。  
 
 
 最初、冬海はその音には気づかなかった。けれど、男たちのはっと息を呑む気配に動き  
を止める。  
 もう一度ノックの音がして、それから冬海を呼ぶ声が聞こえた。  
「……冬海ちゃん?」  
 香穂子だった。  
 冬海は控え室の扉を凝視したまま、凍り付いたように動くことができない。  
 扉の向こうに香穂子がいる。自分と香穂子を隔てているのは、このたった一枚の扉だけ。  
自分は――ドレスをはだけて乳房を晒し、男のモノをほおばったこんな姿で。  
(か、鍵……)  
 ドアノブの下の鍵がかかってないことを認めて、冬海は全身の血が一気に引いていくの  
を覚えた。  
「くそっ、あの女。またいいところで邪魔しやがって……」  
「……どうする?」  
 いらだたしげな声で、だが音量は極限まで落として、男たちが相談する。  
「冬海ちゃん? いないの?」  
 もう一度ノック。香穂子のいぶかしげな声。ドアノブがためらいがちに廻されようとする。  
 
「面倒くせえ。あいつも一緒に――」  
(――だめ!)  
 冬海は口のモノを吐き出し、とっさに声を上げていた。  
「……か、香穂子先輩……っ」  
「あ、よかった。いたんだ」  
 扉の向こうから、安心したような声が流れる。  
「もしかしたら倒れてるんじゃないかって心配したんだよ。具合大丈夫?」  
「はい。あの……今、着替えてる途中で……そ、その……」  
「ああ、そっか。驚かしちゃったね。ごめんごめん、開けないから」  
 ドアノブが元に戻されて、冬海はほっと息を吐いた。  
「あのね、今、火原先輩だから……もうちょっとしたら表彰式なんだけど、冬海ちゃん出  
られそう?」  
「あ……い、いえ……っ!?」  
 冬海はぎくりと背筋をこわばらせた。不吉な音を立てて、体の奥のバイブレーターがま  
た大きくうねりだしたのだ。  
 驚いて瞳をあげれば、斉藤がニヤリと笑いを浮かべながらリモコンを操作している。  
(あ、あ、やめ……やめて……)  
 頭を振って懇願しても、振動は止まない。それどころか、ますます激しく身の内で暴れ  
出した。  
 
「……冬海ちゃん?」  
「…ぅんっ、……あ、の、まだ……ちょっと、気分が悪くて……っ」  
 平井の手が乳房に伸ばされる。体をひねって抵抗してもむなしく、膨らみをこねくり回  
され、乳首を転がされて頭の中に火花が散る。  
(や……だめ…ぇ……)  
 快感に流されて思考がまとまらない。  
 扉の向こうに、香穂子先輩がいるのに。何も知らない大好きな大好きな先輩がいるのに。  
 どうして、わたし、こんな……。  
「すごいよ、冬海ちゃん。後から後からあふれて出てくる。お漏らししたみたいだ」  
 扉の向こうには聞こえない声で、ショートカットから覗く耳に斉藤が囁く。ついでのよ  
うに耳たぶを噛まれて、舌を差し込まれて中をかき回された。  
「ひ……ぅ……」  
 冬海は喉を逸らしてか細い悲鳴を上げた。  
「冬海ちゃん?」  
 香穂子の声が心配に曇る。  
 冬海は高みに上りつめようとする意識を必死に引き戻し、震える唇から言葉を押し出す。  
「わたし……表彰式は、欠席しま…って、ぁっ……か、金澤先生、に、伝えて、くださ……っ」  
 平静な声を装おうとするが、艶めいた喘ぎ声が漏れ出てしまうのは止められない。  
「そんなに悪いの? ね、一緒に保健室に行こうか?」  
 
(せんぱい……香穂子先輩……)  
 あの扉を開けたら。  
 3人の男にもてあそばれて、淫らに腰を振り、体を跳ねさせて、蜜を滴らせているわたしを。  
 香穂子先輩に見られたら。  
 それはたとえようもない恐怖なのに、想像するだけで甘い疼きが全身に広がっておかし  
くなってしまう。  
 ぐちゃぐちゅとバイブレーターが膣内をこね回す。音が聞こえてしまわないかと不安に  
なるけど、そんな気持ちさえ腰の奥でじんとした痺れに変わる。  
 熱い息を何度も何度も吐き出して、冬海は喜悦に震える喉から声を絞り出した。  
「…平気、で……す。せんぱいは、表彰式に……」  
「でも……」  
「いまっ……と、友だちが、来てくれてて……この後、保健室に、連れて行ってくれるっ  
……だ、から……わたしは、大丈夫……です」  
 しばらくの沈黙があった。  
 開けないで。  
 どうか開けないで。  
 そのまま立ち去ってください。  
 祈るような気持ちで扉を見つめる冬海の耳に、やがて優しい声が届いた。  
 
「……そっか。私も表彰式が終わったら、保健室に行くから。お大事にね」  
「は……い」  
 香穂子が去っていく気配。冬海が安堵の息を吐いた刹那、ビリビリと強い電流が全身を  
走り抜けた。  
「あぁ……っ」  
 耐えきれずに喉から嬌声がこぼれた。  
 斉藤が手を伸ばして、充血して膨れきったクリトリスを弄っていた。  
(いやぁっ、そこは……!)  
 冬海は怯えて身を竦めた。彼女のそこは敏感すぎるぐらい敏感で、いつも触られるとど  
うしようもないほどに感じて、わけがわからなくなってしまうのだ。  
「冬海ちゃん?」  
 冬海の嬌声を聞いてしまったのだろう。去りかけた香穂子が、また戻ってきていた。け  
れど、もう冬海に答える余裕はなかった。  
 斉藤が冬海の下肢に顔を埋める。ぬとりと生温かく柔らかいものが襞をかき分けて花芯  
に触れる。  
(ひ……っ)  
 冬海はきつくきつく唇を噛み止めて、声を漏れ出ないようにするので精一杯だ。口の中  
に鉄の味が広がったが、それももう冬海にはわからない。  
 ぬめぬめと斉藤の舌が敏感な芽を包んで震わせる。頭の中は霞がかかったように何も考  
えられないのに、感覚だけが鋭敏になっていく。何度も小さく意識が弾けた。  
 
「声出せよ」  
 大木が冬海の顎を捕まえて、上を向かせる。冬海は首を振って抵抗したが、男の力は強  
くて強引に顎をこじ開けられる。  
「“香穂子先輩”に、冬海ちゃんのエッチな声を聞いてもらおうぜ」  
「……誰の声? 冬海ちゃん?」  
 女性の控え室から聞こえてきた声に、香穂子が不審の声をあげた。内容は聞き取りづら  
かったが、男の声であることははっきりわかった。友だちが来ていると冬海は言っていた  
が、まさかそれが男性だとは信じられない。  
「冬海ちゃん、開けるよ?」  
「せんぱ……ひゃ……ああ、んんっ、あ……く、だ、だめ……あぁ……」  
 千々に乱れる思考をなんとかまとめて制止の声を上げようとするが、意味をなさない喘  
ぎ声ばかりがこぼれ出る。  
 男たちが冬海の膝裏に手をかけて、体を持ち上げた。まるで幼い子供をおしっこさせる  
ような体勢に羞恥心がどうしようもなく沸きあがる。  
 男たちが体の向きを扉の方に向ける。彼らの意図を察して、冬海は狂乱した。  
「いや、いや、ああ……っ、やめて、いゃあっ」  
 見られてしまう  
 大きく体を割り開かれて、いやらしいところにバイブを受け入れて、腰を淫らにくねら  
せ、あふれるほど蜜を流しているのも、乳首を充血させてカチカチに尖らせているのも、  
全部、全部、見られてしまう。  
 香穂子先輩に。  
 
 気が狂ったように手を振り回し、足を動かし、冬海は必死にもがいたけれど、溶かされ  
きった体は男たちによってやすやすと押さえ込まれてしまう。  
「どうしたの!?」  
 香穂子の驚いたような声。  
 ドアノブが廻る。  
 チョコレート色の扉が。  
 開いていく。  
「や……だめ!!」  
 絶望の悲鳴を上げた冬海の体がガクンと仰け反った。大木がバイブレーターをつかんで、  
激しく突き上げたのだ。  
 クリトリスへの刺激と膣襞への熱い摩擦が混ざり合って灼熱の奔流となって頭のてっぺ  
んから足の先まで走り抜ける。つま先が限界まで反り返り、ピンで留められた虫のように  
全身が突っ張って、歯を食いしばったけれど高い高い嬌声は止めようもなく口からこぼれ  
ていった。  
「あっあ、あ、ああああああああああああああああ!!」  
 全身がガクガクと痙攣する。視界が真っ白に染め上げられ、意識が弾け飛ぶ。  
 ようやく与えられた喜悦を味わい尽くそうと膣がぎゅうぎゅうとバイブレーターを締め  
付け、何度も押し寄せる快楽の波にびくんびくんと腿が震えた。  
「あ……あ……」  
 惚けたような喘ぎとも吐息ともつかない声が冬海の口から漏れる。ゆらゆらと快感の余  
韻に浸っていた体は、やがてくったりと脱力した。  
 
 視界が少しずつ少しずつ色を取り戻して、熱に潤んだ瞳がゆっくりと焦点を結んでいく。  
 真っ白な壁。チョコレート色の扉。赤いドレス。赤みを帯びた髪の毛に編み込まれた金  
色のリボン。信じられないというように、大きく大きく瞠られた瞳。  
「かほ……こ……せん……ぱい………」  
 ひどく怯えたか細い声が2人の間に流れた。  
「ふ、ゆうみちゃ……?」  
 香穂子の唇がかすかに動く。目の前の光景の意味を問うように、その語尾は上がったけ  
れど、冬海には答えられるはずもなかった。  
 ぶるぶると冬海の体が震え出す。  
「や……見ないでくださ……見ないで、あ……」  
 両腕で自分の顔を覆い、冬海は体を縮こまらせた。香穂子から自分の姿を隠すように。  
 伏せた瞳に、下肢から突き出たバイブが映る。冬海の愛液でてらてらといやらしく光る  
ソレを見た瞬間、現実が一気に押し寄せてきた。  
 見られた。  
 見られてしまった。  
 香穂子先輩にすべて。  
 ガクガクと冬海の顎が震える。ひゅうっと高く細い音が喉から漏れる。やがて、魂をも  
引き裂くような絶叫が、控え室の中に響き渡った。  
                                               <終>  
 
 

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