「急な話で悪いけど、明日の晩うちに泊まりにこない?」  
週末、金曜の夕方から学校帰りの足でおいで、と唐突に話が出る。  
その笑顔は裏のあるようには見えなかった。…だが、  
「…本当に大丈夫なんですか?」  
思わず香穂子が訝しげに訊く。如何せん相手が相手だ。  
断片的に話を聞くだけでも、ただならぬお家事情が伝わってくる。  
少なくとも後輩とは言え、年頃の少女が気軽に泊まりに行って良い雰囲気ではない。  
 
いつもの朝の、柚木家のお迎えの車。最初に比べれば緊張は解けたが、  
やはりごく普通の一般家庭に育った香穂子にとって高級車での登下校なんて言うのはやはり分不相応で慣れないものである。  
―――その車中での話である。  
思わず、何を着ていけばいいのか、菓子折りはどうするか?など既に色々考えすぎて  
パニックを起こしぐるぐると混乱をする香穂子に柚木が答えた。  
「丁度、表立った面々はみんな京都の方に行っていてね、問題は無いよ。  
面倒な話は避けたいし、残る者にも伏せておくよう言いつけるさ。気軽においで」  
「そ、そうですか」  
「…それとも、そんなに俺の家に来たくない訳?」  
と、とんでもない!と跳ね上がる。泊まりに行けるのはとても嬉しい。  
それも二人きりに近いとなれば、自然と香穂子の顔に笑みが浮かぶ。  
「お前も分かりやすい奴だね」  
あきれ顔で柚木は一言付け加えた。  
「…ノートと参考書、忘れず持ってくるようにね。数学が苦手なんだっけ?」  
「え」  
お前は一体なんだと思ってたの?とあきれた顔をし、長い指で香穂子の額をツンと突く。  
そう言えば一月しない内に期末考査があった事を思い出し、満面の笑みが乾いた笑いへと変わる。  
「コンクールの次はテストでもお手並み拝見といこうか。ねぇ?」  
お粗末な点数は勘弁願いたいね、と意地悪く笑う。  
柚木の笑顔の裏に隠された素顔を香穂子は知っている。  
でも、自分に向けられる笑顔が最初とは違うのも知っている。  
とにかく嬉しいのには変わりがない。車を降り、エントランスへの分かれ道で柚木と別れても、笑顔が途切れなかった。  
 
そして待ちに待った金曜の夜。  
店屋物で悪いね、と用意された夕食はよくよく見れば、その手の世界に疎い香穂子でも分かる、  
名の通る某高級料亭の仕出しだった。繊細な盛りつけの懐石料理に舌鼓を打ちつつ、  
下世話だが一瞬、これはいくらするんだ…と考えてしまう辺り少々情けなさも残る。  
なによりいくらヴァイオリンロマンスで結ばれた仲とはいえ、あの親衛隊の手前、  
校内で露骨に目立つ接触は避けざるを得ず、結果的に一緒に昼食をとった記憶すらあまり無い。  
二人きりでの夕食なんて初めてに近いのではないか、とまたにやけてしまう。  
夕食後は風呂だけ済ませ、宣言通り学生よろしく試験勉強に励む。  
教えるのが上手いと自称するだけあって、香穂子もいつも以上に熱心に問題集と格闘する。  
 
「さてと。…今日のところはこの辺にしようか」  
パタンとノートを閉じ、時計を見遣ると既に日付が変わっていた。香穂子も集中しきっていたのか時間の経過の早さに驚く。  
「えっ…やだ、もうこんな時間…通りで眠たいと思った…。じゃあ…そろそろ寝ましょうか?」  
そこで思わず呆気にとられた表情で柚木が問う。  
「…本当に勉強だけしにきたつもりだったんだ?感心だね」  
「…えっ!?だって先輩、私がにやけてたら馬鹿にしたじゃないですかっ!そ、そりゃ勉強のつもりで来ましたよ!」  
そんなあからさまに下心見え見えだったら馬鹿にもするさ、と鼻で笑う。  
あまりに素直な香穂子がおかしく、何より愛おしい。  
クククと笑いを堪えると、少々御機嫌ナナメの香穂子の赤い髪を撫でる。  
また乗せられた!とむくれっ面の香穂子も、こうなるとつい笑って許してしまう。  
 
「今日は頑張ったからご褒美」  
「んっ…」  
そう言うと、香穂子に優しく口づける。  
 
そのまま床に敷かれ、頬を抱き口付けられる。今までの学校で人目を忍んでの背徳的な行為も魅力的ではあったが、  
人目を心配せず思い切り触れられると思うと、香穂子も自ずと大胆になる。  
柔らかい唇を味わうと舌を絡め、柚木を求める。いつもより長めのキスの唾液を飲み下すと、耳元で囁いた。  
「…生意気にも上手くなってるじゃないか」  
耳にかかる吐息にピクンと反応する。それを見た柚木は満足げに笑い、  
うなじへと唇を進めると同時に寝間着をするりと解き、片手で器用にブラのホックを外し、膨らみを露にする。  
既に硬くなっている頂を指で摘むと甘い声が漏れる。もう片方を舌先で突くと感じ方が大きくなる。  
「んぁっ…やっ、せんぱ…いっ…」  
「もっと声上げていいんだよ…聞かせて」  
軽く歯を立てたりすると香穂子の体はますます敏感さに反応した。乳首への愛撫で、  
薄い下着をずらすと秘部のぬめりがクチュリと音を立てる。  
いつもより開放的になっているとはいえ、己の音に気付いた香穂子は恥ずかしさで思わず膝を閉じてしまう。  
「遠慮する必要なんて無いんだから…全部見せろよ」  
「でも…やっぱり恥ずかしい…」  
「…欲しいんだろ?目を逸らしてるような子にはあげないよ」  
意地を張ってはみたものの、流れるような誘導尋問と、なにより体に押し寄せる快感には敵わない。  
結局柚木のペースに乗せられ、その言葉におずおずと膝の力を緩めるとこくりと頷き、  
恐る恐る顔を覆う手を柚木の首に回す。背中で交差した手でぎゅっと背中を掴み、その瞳を見つめた。  
「先輩が…欲しいです…」  
「よくできました」  
満足そうに囁くと再び唇を重ね、露になった肉芽を細く長い指で摘むと快感で背が弓なりに反り、既にぬめりを帯びた秘部はますます濡れ、太腿まで伝った。  
 
「んっ…先輩っ…もう、だめぇ…我慢できない…」  
「まだ駄目」  
意地悪く笑うと濡れる秘部に指が滑り込ませる。探るように少しずつ、香穂子の体内を掻く。  
時折中を探る指をきつく締め付けるとそれを逃さず責め立てる。  
「あぁっ!んっ…そんな、音立てないで…んっ…はぁ…ぁ」  
「…わざと立ててるに決まってるだろ?…楽しませてくれるんだよな?」  
そう言うと、香穂子が肩で息をついているのを見ると指を引き抜き、昂った自身を当てがった。  
「先輩…」  
「いい?」  
こくん、と息をするのもやっとの様子で香穂子が頷いた。それを確認すると柚木は香穂子の中に己を埋めて行く。  
散々焦らされ、溢れんばかりに濡れた香穂子の秘部も、クチュ…と卑猥な水音を立て、すぐに難なく全てを飲み込んだ。  
「…入っ…た?」  
「…痛くない?」  
香穂子が頷いたのを確認して、動きを早める。香穂子の中のぬめりと熱さ、そして彼女自身の柚木を逃がしたくない、  
もっと一つになりたいという彼女の気持ちを表すかのように花芯がいっそう強く柚木自身を締め付ける。  
今までに無い快感に香穂子は更に強く柚木の背中に爪を立てる。  
「ぁ…うっ…やぁん…ああっ!んんっ…!そこ…っ」  
先から執拗に責め立てた秘部からはとろりと密が溢れ、熱く、熱を帯びる。硬くなった物が引いては突き、を繰り返すと香穂子は目尻に涙を浮かべながら甘い声を漏らす。  
「っ…んっ…お前の中…締ま…っ」  
柚木自身も押し寄せる快感に思わず大きく息を乱す。サラリとした柔らかな髪が香穂子の胸元をなでた。  
「んぁっ…先輩っ…来てっ…全部、欲しい…のっ…」  
「…香穂子っ」  
香穂子が掠れた声で泣くように呟くと柚木は香穂子の中に熱を吐き出す。  
朦朧とした意識の中、あまり彼は呼んではくれない名前を確かに聞いた。  
それを聞き届けるや否やの瀬戸際で、香穂子は中でドクンと波打つ感触を感じながら意識を手放した。  
 
翌朝、小鳥のさえずりで目が覚める。気がつくと腕枕をされていて、至近距離で長い睫毛が覗いた。  
昨夜の事を思い出し、思わずハッと体を確かめると寝間着や下着はしっかりしている。  
安心したのも束の間、どうやらまだ柚木は意識がないらしく、寝息を立てていた。  
「ありがとう…梓馬、先輩」  
「ん…」  
小声で名前を囁くとうっすらと目を覚ます。聞かれたかな、と少しドキリとしながら笑顔で囁いた。  
「おはようございます」  
「…お前が俺の事を名前で呼ぶの、珍しいな」  
「!」  
まさか寝たフリまでされるとは、と朝から度肝を抜かれる。昨晩、意識を手放す直前に聞こえた名前に対してだった、とは言えない。クスリと罰が悪そうに笑う。  
「今日は特別です」  
 
 
帰りの車中、肩を落として香穂子が呟く。  
「…結局、試験勉強っていうか…」  
「しただろ?それに大体俺が教えて点が取れない訳がないよな」  
量より質だ、と自信満々に言い、最後に一言しれっとした顔で付け足した。  
「…最初に話を出したとき、何を期待してたんだっけ?」  
とからかうように耳元で囁く。  
「しっ、知りません!」  
「おやおや?」  
いろんな意味でいつか見返してやる、と心に誓う。それはまだ遠い先の話かもしれないが。  
 

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