「ちょっと、土浦くん!?」  
今日の彼はいつになく不機嫌に見える。実際、眉間の皺、少ない言葉数、  
いつもなら私に合わせてくれている歩幅も、今はお構いなしだ。  
そんな彼に腕を捕まれて引きずられるように歩きながら、  
普段の彼はこんな速さで歩くのかとも思っていた。  
「―ねえ、私これから森の広場に行こうと思ってたんだけど!」  
彼に連れてこられたのは、ついさっきまでいた場所で、私たちの  
教室のある普通科校舎とも、私の目的地の森の広場とも全く違う。  
音楽棟の、練習室。  
土浦くんは今しがた私が出てきたばかりのそこに私を押し込み、  
錠を下ろしてしまった。そして、グランドピアノの椅子に腰掛け、  
ふうっと大きく息をつく。…さっきまで、そこに座っていたのは…  
「…香穂、お前ここで何してた」  
やっと口を開いた彼の声は低く、いつもの彼のそれとは違って  
私は恐怖すら感じてしまい、答えられない。  
「…俺に言えないようなことをしていたのか?」  
「違うよ、なんでそうなるの!?月森くんに練習を見てもらってた  
だけなのに!月森くん伴奏もしてくれて…」  
あったことを話しただけだというのに、彼の眉は益々釣り上がり、  
私はどうしたら良いのかわからず再び沈黙する。  
「―香穂、お前は月森の方が好きなんだろ」  
そう言う彼は先程までとはまた違う、複雑な表情を浮かべていた。  
「そんなことない!私土浦くんの彼女なんだよ、土浦くんしか見てない!」  
土浦くんは必死に訴える私を嘲笑うようにふ、と口の端を上げる。  
「…そうか。じゃあ俺の言うことを聞いたら信じてやるよ。」  
私はもう従うしかないのだ。信じて欲しい、嫌われたくない。  
何、と問う私に土浦くんはいとも簡単に言い放った。  
「脱げよ。全部」  
 
あまりに衝撃的な言葉に、聞き返すことすら出来ない。  
椅子に腰掛けたまま、組んだ長い脚を手持ち無沙汰そうにゆらゆらと  
揺らして、それでも彼の瞳は私をじっと見つめたままだ。  
「…ね、ねえ、ここ学校だよ?」  
膝はがくがくと震え、今にも床に座り込んでしまいそうになる。  
「ああ、そうだな。さっきまで月森と一緒にいた…楽しかったか?」  
彼は全く意に介さないといった風情で薄い笑みすら浮かべている。  
彼とは何度か抱き合ったけれど、こんな明るい中、しかも学校内で  
そして自分から服を脱ぐことなど、あろうはずもない。  
――私を、捨てないで――  
私は瞳を閉じ、震える指で、制服の上着のボタンに手をかけた。  
ぱさり、と衣服が床に虚しく落ちていくさまを、土浦くんはただ座って  
見ている。羞恥心で心臓は破裂せんばかりに  
拍動し、指先の震えは増し、スカートのホックをやっとの思いで外して  
ブラとショーツだけが体に残る私を、明るい日の光が照らす。  
もう耐え切れず、私は泣きながらしゃがみこんでしまう。  
「…もう、いやあ…許して」  
土浦くんは自分のネクタイに手をかけ、緩めながら椅子から立ち上がる。  
「…まだ残ってるだろ?この格好のまま廊下に出されたいのか?」  
私はいやいやと首を振り、哀願するが彼は決して許してくれない。  
 
「昨日、放課後何してたんだ?」  
――昨日?それは…  
「…昨日…一緒に帰った時に言ったじゃない…土浦くんとの練習の前は  
…月森くんと音楽室で合奏したって!」  
彼は立ったまま、両手で体を隠して座り込んだ私を見下ろしている。  
「…確かに聞いたな。で、一昨日は?」  
さすがに一昨日となると記憶は曖昧で、私は懸命にそれを辿ろうとして…  
ついに、気付いた。そして、彼を見上げた。  
土浦くんは今までとは違う、不貞腐れた子供のような顔をして、  
それから寂しそうに笑って溜息をついた。  
「…屋上で月森の演奏を聞いた、で間違いないか?」  
そう、気がついたら毎日のように放課後月森くんと一緒にいた。  
最近の月森くんは以前と違って優しくて、よく笑う。話し掛け易く  
なったし、月森くんから誘われることも増えていた。下校は土浦くんと  
毎日一緒だけれど、彼は友達付き合いやサッカー部もあるし、始終  
一緒にいられるわけではなかったから。それにしても…。  
「…うん。私よりよく覚えてるね…」  
彼はその長い脚を折り、私の顔を覗き込んで。  
――当たり前だろ。香穂が言ったことなんだから。  
自分の言ったことに照れて目を反らしてしまう。それを見ると、  
土浦くんに対して申し訳ない気持ちが込み上げてきた。胸がきゅう、と苦しい。  
「…ごめんね。私バカだね…」  
こんな時に上手い言葉が見つからない。どうしたら、この気持ちを伝えられるだろう。  
私は覚悟を決め、土浦くんの目の前でブラのホックに手を掛け、それを外した。  
 
土浦くんは私の体に着いている最後の小さな布が、私自身の手によって  
ゆっくり下ろされる様を凝視していた。  
恥ずかしくて死んでしまいそうで、それなのに私は微かに快感を感じていた。  
「…ねえ、これで…許してくれる?」  
彼はブレザーを脱ぎ捨て、その上に私を寝かせると私の唇に噛り付くように  
キスをした。やっと、彼が触れてくれたことがうれしい。  
彼の舌が私の口内で動き回り、普段は楽器の音が響く練習室の中には  
私たちの息遣いと口づけの水音が響いていた。  
「…んっ…ふ…」  
息が苦しくて、逃げようとする私を許さずに彼の舌は私を捕える。  
そうして、土浦くんの手は私の素肌の上を移動させ、ついに私の胸をきゅ、と掴んだ。  
「はァッ…!」  
彼の大きな手に胸はすっかり収まり、彼は指で中心の頂を挟む。  
「はぁ、あ、や…」  
彼は唇を離し耳元に息を吹き込みながら、楽しそうに言う。  
「嫌、か?違うだろ。…こうされたかっただろう」  
そうして、土浦くんはすっかり力の抜けた私の足を開かせ、そこに手を差し入れた。  
「嫌と言ってる割りにはこれだけでもう…こんなに濡れてるけどな」  
わざと音をたてて秘所をなぞる。  
「ひぁッ!」  
彼の指は、既に大きくなってしまっている花芽に触れ、転がしはじめた。  
「あァ、や、ぅんッ、はぁっ!」  
強い快感に、私はそのまま達してしまいそうになったのだけれど。  
「…ダメだ。まだイカせないからな」  
土浦くんは手をそこから離し、床に落ちていた彼の制服のネクタイを手に取る。  
 
 

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