鍵のかかった完全防音の練習室。まさか彼がこんなことをするなんて…

「いやっ、やめて、つ、月森くんっ」
私は同じ楽器を専攻している音楽科の月森くんと放課後一緒に
練習することが多くなっていた。初めは私が無理矢理話し掛けている
だけだったけれど、最近は彼からも誘ってくれるようになって、
秘かに彼に抱いている恋心を自覚した矢先に、何故かわからないが
練習室の床に押し倒されてしまったのだった。真面目でクールで
他人に興味をもたない近寄りがたかった彼が別人のように見える。

「…昼休み、君は土浦と一緒にいただろう」
―土浦くん?…ああ、昼休みにたまたま購買で会って、次の
セレクションのことで10分ほど話しただけだ。そう言おうとしたけれど。
「土浦のことが好きなのか?あいつと付き合っているのか?」
床に肩を押しつけられ、恐怖に何も言うことができない。
焦り、怒り、悲しみ…今の月森くんの表情は一体何を表しているんだろう。
こんな彼を見たのは初めてだった。

「…やはり、普通科の女生徒たちがしていた噂は本当だったのか」
月森くんはふと私から目を逸らして自嘲気味に笑い、再び私を見る。
長い睫毛に縁取られた綺麗な瞳。こんな状態でもつい見惚れてしまう。
けれど、彼は私がぼうっとしている間に私の制服の上着をたくし上げ
はじめた。苦しそうな表情を浮かべたままに。
「い、一体どうしたの、月森くん、噂ってなに!?」
彼は手を休めることなく、ついに私の胸を下着の上から掴んだ。
「ひゃあっ!」
自分で自分の声が信じられずに驚いた。それは自分でも初めて聞いた
甘い『喘ぎ声』。当然といえば当然なのかもしれない、
私に触れているのは私が憧れていたその人なのだから。
「…気持ちいいのか?土浦とはいつもこういうことをしているからか?」
左胸を揉まれ、耳元でそう囁かれ、もう私は何も考えられなくなってゆく。
「やっ…違っ、ん」
土浦くんとはただのコンクール仲間だと、誤解だと言いたいのに、
この状況ではそれもできない。ただ彼の動きに翻弄されてゆく。

月森くんは私の胸を覆っている下着を上部にずらした。
望んでいた展開ではないというのに、抵抗する気はほとんど失せてしまい
あまり大きくないから恥ずかしい、などと思ってしまう。
彼は右胸の頂を指の腹で押し潰したり親指と人差し指で摘んだりしつつ、
もう片方の胸の突起を舌で転がしはじめた。
「んぁっ、ぅ、ぁあッ、ひぁっ」
痺れるような快感に、もう声は押さえることができない。
そうして、彼は空いている手を私のスカートの中に入れ、太股をさすり
ながら次第に手を上に移動させてゆく。
ついに彼の指が下着の上から『そこ』に辿り着いた時、私の躯は
びくりと震えた。その反応に、私の胸から唇を離した月森くんは、
「…土浦以外の男に触れられても感じるのか、君は?」
冷たい瞳で、私に言い放つ。
「ち、違…そんな、非道い…」
土浦くんどころか、こんなことをされるのは生まれて初めてなのに。
「君が俺に抱かれて悦ぶいやらしい女だと土浦が知ったらどう思うだろうな」
月森くんが私に触れたのは、土浦くんに対するあてつけなのだ。
どうしようもない悲しみが込み上げて、涙が流れた。
金属音が耳に響く。それはベルトを外す性急な月森くんの動作の音。
私はこれから、好きな人に抱かれるのだろう。それなのに、この絶望感。
「土浦に見せてやりたい、この瞬間を」
そう言って月森くんは私のショーツを下ろし、昂ぶりを私の『そこ』にあてた。

「好きではない男に触れられても女性はこんなに濡れるのか?
それとも君は特別にいやらしいのか?」
彼は自身の昂ぶりを私の秘所にあて、上下に動かして私から溢れた
蜜を塗り付けていく。しばしば上部の突起に彼自身があたり、
絶望と悲しみで涙を流しながらも
「ぅあ…ひッ!」
電流が流れるような激しい快感に身を震わせる私は、本当に
いやらしいのかもしれない。月森くんは私の後頭部に左手をまわし、
頭を抱き抱え、右手は彼の昂ぶりの根元を押さえてふう、と息をついた。
「…日野、よく見ろ。これから君と繋がるのは土浦じゃない。俺だ」
そう言われた瞬間、身を裂かれるような痛みが走る。
「――つぅッ……!」
彼が、入ってくる。鋭い痛みと圧迫感。
彼の大きくてグロテスクなそれが私の中に収まる様を見せられ、
犯されているというのに幸福感も感じてしまう。そのとき、
真っ赤な鮮血が彼の昂ぶりを伝い、床にぱた、と落ちた。
その様子を見て取った月森くんは目を見開き、私の瞳を覗き込んだ。
明らかに困惑している。そんな表情の彼を安心させたくて、
私は無理に微笑んだ。
「…日野、君は…」
こくり、と頷くのが精一杯だった。涙で視界は霞み、彼が私の頬に当てた
手をも濡らしていく。月森くんは身を進めるのを止め、
泣きそうな顔をしている。何と言えば、彼を慰められるのだろうと
思ってしまう程の、悲しそうな顔。

「…私と土浦くん…噂になっているの?」
あまり大きな声を上げるとずき、と彼と繋がっている部分が痛むので、
ゆっくり、息を吐きながら問う。彼は変わらず眉を歪めたまま、頷く。
「…土浦と君が一緒に練習室に出入りするのを度々見かけた。
君と土浦が付き合っているという噂も耳にした。…そんなことを
見聞きする度にどうしようもなくイライラして練習にも身が入らない」
私の髪を撫でながら、月森くんも小さな声で、ゆっくりと言う。
「…ずっと、土浦のことが気に入らないだけだと思っていた…けれど
…さっき泣きながら俺に笑いかける君を見て、気付いた」

――君が好きだ――

その言葉を聞いた瞬間に、私の顔は火照り、心臓は破裂しそうな程に
鼓動を始めた。これが夢じゃない証拠に、二人が繋がり合うそこは、
まだ鈍い痛みを告げていた。それは同じ痛みだのに、彼に想いを
告白された途端に、甘い幸せな痛みに変わってしまう。
「…私の勝ち、だね」
何を言っているのかわからない、という表情をして、月森くんが首を傾げる。
「…私、月森くんより先に気付いたよ。月森くんが好きだって」
月森くんは、耳まで真っ赤にして私から目を逸らしてしまった。
さっきまでの怖かった人とは別人のようだけれど、これがいつも
私が見ていた月森くんだ。冷たくて人を寄せ付けないかと思いきや、
本当は不器用で寂しがり屋で優しい人。そんな彼に私は惹かれたのだ。

月森くんは私の目の縁に溜まった涙を唇で吸い取り、困ったように
微笑んで、私の唇に彼のそれを重ねた。体は既に繋がっているのに。
「…ねえ、実を言うと今のが私のファーストキスだったり…」
なんだか可笑しい。順番が滅茶苦茶だ。
「そんなことを言ったら、俺は異性に対してこんな気持ちななった
こと自体初めてだ。気付いたのも今さっきで…」
確かにそうかもしれない。つい一月くらい前に女子からもらった
ラブレターを綺麗な顔を少しも崩さず、事もなげに正門前の
ゴミ箱に捨てる彼に抗議したことがあった。
「じゃあ、同性にはあるの?」
そんなことを言って、笑って、しばらくの間二人でただ抱き合い、
唇を重ね、互いの鼓動を聞いていた。彼が中にいる圧迫感にも
慣れてきたようだった。このままじゃ、彼が可哀相だと思う。
「…ね…月森くん、動いて欲しい」
その言葉に、彼の昂ぶりが私の中でひく、と動いたのが解った。
「…痛いだろう…?」
月森くんはまた眉を歪めて悲しげな顔をする。
「大丈夫、大分慣れたみたいだし…仕方ないよ、初めてなんだから」
痛くたって構わないのだ。好きな人とひとつになるこの痛みは、
きっとこの時をずっと覚えていられるようにするためなんだ。
そう考えたら、もっと痛くても耐えられる。

月森くんが穏やかに抜き差しを始める。
動くとやはり独特の圧迫感と痛みが起こるのだけれど、綺麗な顔を
時折顰めて息を荒げる月森くんを見ているうちに、私の中も次第に
解れていくようで、頭の中が白く熱くなってゆく。
「あっ、はっ…うぅん、うッ」
そんな私の変化を悟ったのか、彼は思い出したように手を滑らせ、
結合部の少し上にあるぷっくりと膨れている花芽に指を這わせた。
「ひゃぁッ!」
電流のように快感が全身を突き抜ける。彼は段々腰の動きを早めながら
私の蜜で濡れた指先を執拗に動かした。
「や、ぁあッ、あン、あぁんッ!」
恥ずかしい声が抑えられない。体がびりびりと痺れ、強すぎる快感に
身を捩らせて耐えようとしても、彼が花芽を激しく擦り上げてくるため
私の意識は翻弄される。快楽の頂点に達しそうになったその時
「――ん、…ッ!」
私の中で、月森くんが痙攣し、熱いものが私を満たした。
…彼の体は数秒間(もっと長く感じたけれど実際はそうなんだろう)
硬直し、その後ぐったりと私に覆い被さった。肩で荒い息をしている。
彼の頬に手を伸ばすと、しっとりと汗をかいていた。
…ひょっとして。これって。
「…すまない、その…中で…」
彼が真っ赤に上気させた顔で慌て始めた。

月森くんは私の中からずるりと彼自身を引き出すと、どろりとした
液体が脚を伝い、床に流れ落ちた。破瓜の鮮血や、私の蜜や
独特の匂いのある、月森くんの体液。それを彼が丁寧に拭ってくれた。
恥ずかしいから自分で拭くと言ったのに彼は聞き入れてくれず、
今更ながら全てを彼に晒す羞恥と、敏感になっている秘所を
彼の手が往復する快楽に、体がひくひくと震える。

乱れた制服を整え、すっかり日が暮れてしまった練習室で、
壁に寄り掛かって座る月森くんに後ろから抱き締められる格好で
行為のあとの倦怠感に惚けていた。先に沈黙を破ったのは彼だった。
「…ひとつ、頼みたいことがあるんだが」
「なに?」
少しの沈黙と、背中ごしに伝わる彼の鼓動。
「もし君がよければ、香穂子と…呼んでもいいだろうか?」
そう言われた時、そういえば、最近土浦くんに香穂、と呼ばれるように
なっていたことを思い出した。きっと月森くんは昼休み、私を
名前で呼ぶ土浦くんを見かけて誤解したのだと気付いた。
「…香穂子」
そう耳元で囁く月森くんを振り返り、見上げて微笑んだ。

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