これまでのあらすじ
コンクールはあと一回を残すのみ。冬海と柚木がトップを争っている。第一回は柚木、
二、三回は冬海が勝利している状態。
今まで同様、このコンクールも録音されている。冬海が金澤に第三回のコンクールの
録音のダビングを頼んだと知った柚木は、次の日の放課後、金澤に録音のダビングを
申し込む。面倒くさがりの金やんは、冬海の次にCDを聞けと発言。柚「それではい
つになるかわかりませんよ」金「そら、しょーがないなぁ」柚「弱りましたね……」
そこへ生け贄……冬海がやって来る。
『これ以上はダメだよ』イベント体験済みの冬海は、柚木の姿を見たとたんにおびえて
硬直モード。それでも勇気をふるってダビングの件を切り出す冬海に、金やんは事情を
説明し「どれくらいで聞き終わる?」。おずおずと答えようとする冬海の言葉を制する
ように柚木は「そうだ、これから僕の家に来て二人で聞かない?」と、表情だけはそら
もーにこやかに切り出す。冬海恐怖で仮死状態。金やん無責任に「あー、そりゃいい」
と大賛成。
かくて、まんまとお持ち帰りされてしまう冬海たんであった。
せめてもの抵抗でその場を動こうとしない冬海たんの手を引いて、柚木は出て行く。
金澤「いやぁ、青春だなあ」。性春ですよ金やん。
柚木の部屋は、離れ――というか、土蔵。フルートを練習する時の音対策の関係らしい。
広さは16畳ほど。床はフローリング。土蔵にしては大きい窓には、古風なはめ殺しの色
付きガラス。もしかして昔お妾さんでも閉じこめてましたか?
電気は通っているが、ガス・水道はなし。電子レンジや冷蔵庫等もあるが、目を引くの
は巨大なスピーカー付きのオーディオ一式。ブルジョアめ、自分で設定して腹が立つ。そ
の横に巨大な瓶があって、雑多な花が投げ入れてある。生け花の材料でしょうか。
勉強机やベッドがあるのは当然だが、ソファ&テーブルの応接セットがあるのは何故な
んだ柚木。そして扉にカギがかかるのはどういう訳なんだ柚木。
うかうかと連れ込まれてしまった冬海は、靴を脱いで上がったものの(お馬鹿さん)オ
ーディオの前で凍り付いたまま。柚木は冷蔵庫から自分の分だけ飲み物を出すと、ソファ
に座っていきなり「脱げ」と言い出すのだった。
「脱げよ」柚木は繰り返した。「聞こえないのか?」
実際、冬海は柚木の声が聞こえないかのようだった。両腕に学生カバンとクラリネット
のケースをしっかりと抱え、うつむいたまま身じろぎ一つしない。まるで動いたら最後、
命が助からないと思いこんでいるかのようだった。
「頭が悪いな」柚木は鼻で笑った。「明日の朝までそうしてるつもりなのか?」
それでも動こうとしない冬海に呆れたのか、柚木は立ち上がった。
床をきしませながら近づいてくる足音に、冬海がおびえた顔を上げた。
柚木はわざと冬海を無視しながら、その腕の中にあるクラリネットのケースに手をかけた。
ただ腕に抱えてあるだけのケースは簡単に抜き取れた。
「あっ……」
抗議とも驚きともつかぬかすれ声が、冬海の喉の奥から漏れた。
柚木はそのまま冬海に背を向けた。再びソファに腰を下ろすと、クラリネットのケース
を開けて中身を取り出す。
「ふうん。同じ木管楽器でも、ずいぶん作りが違うんだな」
黒光りする表面を、もてあそぶように指を走らせる。
自分の体に触れられているかのように、冬海はびくりと体をすくめた。
横目でその反応を楽しみながら、柚木はクラリネットのリードに指を滑らせた。
「ここに口を付けるんだよな。ずいぶんと細いな……」
「あっ……ダメっ……」
冬海の懇願を無視して、柚木はクラリネットのリードに唇を寄せ、それを口に含んだ。
舐った後、はっきり見えるようにゆっくりと舌を這わせる。
冬海ば、まるで自分の唇が奪われたかのように、顔を赤く染めた。カバンを握りしめる
手に力がこもる。
「や……やめて下さい……っ」
「おいおい」柚木は笑った。「この程度で興奮してどうするんだ。お前はこれからもっと
すごいことをされるんだよ」
「え……」
「それにしても、思ったよりすっしりして重たいんだね、クラリネットってヤツは」
冬海から視線を外さず、柚木はこう続ける。
「ついうっかり、手を滑らせて落としてしまいそうだよ」
効果はてきめんだった。冬海はよろけるように、柚木に向かって足を踏み出した。
「か……返して下さい……」
「何だって? よく聞こえないな。もっとこっちに来いよ」
冬海は柚木に命じられるままに足を進めた。
「わ、私のクラリネットを……返して……」
「もっとだよ。もっとこっちにおいで」
ふらふらと歩く冬海は、部屋を横切って、ソファセットに近づいて来た。
柚木は突然手の中のクラリネットを放り出すと、立ち上がった。驚いて立ち止まる冬海
の腕を掴むと、そのまま引き倒す。
冬海の腕からカバンが落ちて床に転がった。
気が付いた時には、冬海は柚木に後ろから抱きすくめられてソファに腰を下ろしていた。
「あ……」
モスグリーンの制服の足が自分の白い素足の下にすべりこみ、ゆっくりと腿を割ってゆ
くのを、冬海はなすすべもなく見つめていた。
「ちゃんと言うことを聞けたね。ごほうびに選ばせてあげるよ」
柚木の声が残酷な言葉をささやく。
「前からされるのと、後ろからされるのと、どっちが好き?」