なんだろう。なんだろう。  
 幾度と頭を捻ったが、答えはいっこうに出て来る様子が無い。  
 もう一度、疑問を心のなかで唱えた。  
 
 なんで、あの人の前だと上手く喋れないのだろう。  
 
 
「じゃあ、行って来ます!ちょっと待ってて下さいね。」  
 そう言って私はおばあちゃん達の御要望、ミスドのドーナッツを買う為に歩き出した。  
 大人数いる為、彼女達は何が好きなのか心の中で復唱しながらお店に向った。  
「えっとあの、ポンデリングと…」  
 大量に注文をする私をニコニコと店員さんは見ている。  
 少し恥ずかしく思いながらも、全ての注文を言い終えると、私はすぐに心の中で確認をする。  
 ok、全部ちゃんと頼んだ!  
 量のせいで、いつもより詰めるのに時間が掛かっている。ちょっと高い代金を払って  
六つも七つもある、ドーナッツの入った長細い家型の箱を持つと、両手が塞がってしまった。  
 今日はハンドバックでなかったことに少し安堵すると、そそくさとお店を後にした。  
 
 きた道をゆっくりと戻っていく。  
 丁度、野球少年の声と、ボールを打つバットの音がする河原近くの坂道で、彼に逢ってし  
まった。  
「あっ」  
 思わず声を上げてしまう。私は多少感じる気まずい空気に視線を下に向けた。  
「それ…」  
 彼がそう言って買って来たばかりのドーナッツの詰まった箱を指しているのを見て、少し  
恥ずかしくなった。彼は何も言っては居ないのに、私は突っ走って勝手に言い訳をした。  
「あの、これ私1人で食べる訳じゃなくて…友達と…」  
 それを見て、彼はクスッと笑みを洩らした。  
 思わずカッとなって、声を上げた。  
「本当です!あの…じゃ、じゃあ!」  
 私はいてもたっても居られなくなって、ドーナッツの箱を抱え思わず駆け出した。後ろで  
彼が笑っているのが分る。  
 恥ずかしさをどうにか押し込めながら、私は彼が見えなくなる所まで走った。  
「はあ、はあ…」  
 立ったままどうにかして息を整えた後、私はドーナッツの無事を確認した。  
「よかった〜」  
 安全を確認すると、思わず安堵の声が出てしまった。私はそのまま、またゆっくりと歩き  
始める。  
 後方で、ホームランを繰り出した様な、歯切れのいいバットの音が響いていた。  
 
 
「ただいま〜。」  
 パチと明かりを付けて、私は一息吐いた。  
 あの後、ドーナッツをつまみながら延々と話し込んでいたので、少し喉が痛い。元気なお  
ばあちゃん達で、とても楽しかったのだけれど。  
 私は余ったドーナッツの箱をテーブルの上に置くと、ハンガーをクローゼットから取り出  
して、上着を掛けた。ゆっくりと伸びをして、ベッドの上に座る。  
 すると、玄関からチャイムが聞こえて来た。誰だろ。そんなことを思いながらはーい!と  
返事をすると、鍵を開け、ドアを開いた。  
「…あっ」  
「どうも。」  
 ソコには、お隣の彼が立っていた。  
 私はまた何故か口下手になってしまっている。何を話せばいいのか、一向に思い付かない。  
「あのさ、ドーナッツ余ってる?」  
 突然切り出した彼に驚きながらも、私は何故か彼を部屋に入れていた。  
「…どうぞ。」  
 咄嗟に逃げ込んだキッチンで私は暖かいダージリンティーを煎れた。青いマグカップの方  
を彼に渡すと、彼は無表情に眺めながらマグカップを受け取った。  
「あ、あの…ドーナッツ余ってますけど、要るんですか?だったらあげますけど…。」  
 本題に話を移し、速く帰ってもらおうとしての行動。でも、彼は曖昧な返事をして頭を掻  
いた。  
「…?」  
 変な彼に思わず首を傾げていると、いつの間にか顔を背けた彼から声が聞こえた。  
「あのさ、友達って…男?」  
 私はキョトンとして、首を振った。普通じゃない、小さな声で答える。  
「お、おばあちゃん達」  
 すると、彼は少し俯いて焦った様に視線を他へ向けた。私は、訳が分らず彼に問いかける。  
「あの、どう言うことですか?」  
「いや、あの…。気になって…」  
「何で気になるんですか」  
 私は訳の分らない彼の言葉に、もう一度問い掛けた。彼にしては少し焦りの様なものを見  
せつつも答えた。  
 「好きだから、」言葉を続けようとする彼を遮って、私は大きな声を出した。「かっ、か  
らかわないで下さい!」  
「いや、からかってないよ。僕は、君が好きだ。」  
 思わず言葉に詰まって、私は下を向いた。  
 
 私にとって嫌な空気が、沈黙と共に訪れた。  
 思わず視線を更に落とす。内心、心臓がどうにかイカレてしまったのではないかと思う程  
早く運動を続けていて、とてもじゃないけど、彼の顔を見れる状態じゃなかった。…本音を  
言えば、"見たくなかった"なのだけれど。  
「!?」  
 急に肩に置かれた手に、思わず横に座る彼の方を見た。それがいけなかったのか、バッタ  
リと彼の視線と私の視線が出会ってしまう。  
「あ、あの…?」  
 そろそろと視線を外しながら私は言った。と言っても、本当に小さな声しか出てなかった  
と思う。こう言ったら変かも知れないけれど、彼は少しの揺るぎもなく、私を見つめたまま  
動こうとはしない。  
 私は視線を外したまま、もう一度声を掛けてみようと口を開いた。  
 その瞬間、彼はゴメンと洩らすと、私に食らい付く様に唇を合わせて来た。  
「ん!?」  
 驚きで目を見開いた。既に彼は私の顔を自分の方に向かせ、単なる口付けという行為から  
離れようとしていた。  
 予想通り、彼は私の口内に舌を侵入させて来た。アッと言う間の出来事で、抵抗もろくに  
しないまま私の舌は、彼の舌に捕われていた。  
「んふ…っ」  
 私の喉の奥に溜まっていく二酸化炭素が、ディープキスによって出来た口の隙間から洩れ  
る。その声の、あまりの厭らしさに私は軽く眉を寄せた。  
 ぎゅ、と肩を抱かれてしまう。  
 もう、逃げることは出来そうになかった。  
 
 今はいつだろう。  
 もう頭も思考回路もとろとろに蕩けてしまった私には、何分たったとか色々なことが分ら  
ない状態だったけれど、でも二つくらい理解ってる事がある。  
 一つは、彼とキスをしてしまったこと。  
 もう一つは、  私も満更ではなかった、と言うこと。  
 さっきより落ち着いた自分の鼓動を聞きながら、私は静かに目を閉じた。  
 
 

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