しとしとと降り始めた雨の音を聞いて、慌てて火を弱めた。洗濯物を仕舞っていないことに気付いたのだ。  
 バタバタと居間を通り抜け、部屋一つ向こう側にある縁側へと急いだ。  
 薄暗い光に映し出され、黒い影が洗濯物を取り込んでいてくれた。  
「伊右衛門はん…」  
 嬉しくなって、横に並ぶ。そこでやっと気付いたのか、伊右衛門は彼女の方を見た。  
「大変やな」  
「ええ…」  
 二人で取り込んだ洗濯物はあまり濡れずに済んだ。  
 伊右衛門からも預かった洗濯物を畳の上に置くと、その横に座り一つ一つ丁寧に畳み始める。  
 何故か伊右衛門は、じっとその姿を見つめていた。  
「どうしたんです?」  
 京都特有の訛りで、照れた様に聞いた。  
 「綺麗やなあ、思って」と伊右衛門は独り言の様な返事をする。  
 彼女は嬉しそうにすると、畳んでいたものを置いて伊右衛門の横にすっと座った。そして、肩に頭をもたれる。伊右衛門は照れているのか、前を濡らす雨をずっと見ていた。  
「伊右衛門はん、今日何かへんやわ」  
 悪戯っぽく微笑むと、彼の腕に抱きついた。顔はとても嬉しそうに輝いている。  
「そうか?」  
「ええ」  
 彼女が返事をすれば、伊右衛門は納得した様に言葉を繰り返した。  
 そこで、暖かな沈黙が訪れる。沈黙と言えど、二人はそれを分かち合い、理解しあっている。  
「…」  
 黙ったままであった伊右衛門が、急に言った。  
「鍋は大丈夫やろか」  
「…あっ。伊右衛門はん、ちょっと待ってはってね。」  
 伊右衛門との暖かい時間に、家事のこと等すっかり忘れていた彼女は、今度はトタトタと来た道を戻って行った。  
 
 
 
 昼食も終わり、雨音が強くなってきていた。  
 まるで土を削ろうとする様に、大きな雨粒は地に体当たりを続ける。  
 二人はゆっくりと、伊右衛門の入れた緑茶で食後のお茶を楽しんでいた。  
「やっぱり、美味しいわあ。伊右衛門はんのお茶は」  
 穏やかな表情の妻を、伊右衛門は表情の掴めない顔で見る。彼女は綺麗な顔に少々疑問の  
色を浮かべつつ、お茶を一口飲んだ。  
「なあ、」  
 突然のことに驚いて、お茶が肺に入りそうになった。なんとかそれを胃に流し込むと、伊右  
衛門の方を見た。  
「大丈夫か?」  
「ええ…。それより、どうしなはったんです?伊右衛門はんから話し掛けるなんて…」  
「いつも済まないなあ、思て。」  
 またまた突然のことに、今度は笑みを洩らした。  
「いいんです。好きで着いてきてはるんよ」  
 伊右衛門は珍しく少し考える素振りをして、言う。  
「いや、少し我が儘を言ってもええんや」  
 伊右衛門の心遣いに、胸が暖かくなる。  
 彼女は考えてみた。  
 一つだけ、今までどうしても言えなかったことがあるのだ。  
 彼には迷惑かも知れない。そう思って、ずっと胸に秘めて来たことだ。  
「…一つだけ、ええ?」  
 すこし俯いて、恐る恐る聞いた。伊右衛門は静かに頷く。  
 「じゃあ、」とそこで一拍置いてから、決意した様に、それでも弱々しい声で言った。  
「伊右衛門はん……だ、抱いてくだはりません?」  
 京都弁が、語尾が震えた。  
 伊右衛門のいつもの感情の読み取れない顔から、少々の困惑が読み取れた。  
「伊右衛門はん…」  
 思わず、確かめそうになって口を鉗んだ。幾ら言ってしまったとは言え、そんなことは  
したく無いと思ったからだろう。  
 伊右衛門は少し悩むと、静かに口を開いた。  
「おいで」  
 胡座を掻いた伊右衛門は、両膝に手の平を置くと、もう一度言った。  
「おいで」  
 
 ゆっくりと近づき、勇気を振り絞って伊右衛門の首に腕を回す。緊張からか、その腕は  
小さく震えていた。  
 伊右衛門はくいと妻の腰を引き寄せると、頭にも手を置いて優しく抱き締めた。  
「そんな緊張せんでもええんや」  
 軽い口付けが、額に落とされた。  
 彼女はほわりと赤く染まり、伊右衛門の着物の裾を強く掴んだ。それを合図とするかの  
様に、伊右衛門は、今度は熱い口付けを唇にと落とす。  
 驚きで一瞬目を丸くした妻は、ゆっくりとその目を閉じた。  
「んっ」  
 強く求める彼の唇に、妻は熱い息を洩らす。  
 空気を吸おうと口を開いた瞬間、伊右衛門の下が忍び込んで来た。  
 辛うじて息は出来たものの、今度は伊右衛門の暖かな舌の愛撫によって息苦しくなって  
来た。  
 彼女は次第に強く興奮して来たのか、赤い顔で、目を瞑り一心不乱に口付けをする夫の顔  
を盗み見ていた。それは、彼女に歓びを与え、涙まで与えた。  
「…どうしたんや?」  
 頬を包む自分の手に小さな水滴が当たった為に、伊右衛門は一旦彼女を離した。心配の色  
が伺える目付きで、妻の瞳を覗き込む様にし、優しく問いかける。  
 彼女は涙目のまま微笑んでみせて、そして言った。  
「ほんまに幸せやなあ、思はって…」  
 一旦、言葉を切ると一瞬の隙を狙って伊右衛門の唇を奪った。彼女はいたずらっ子の笑  
みを浮かべて、囁く様に言った。実際はあまり大きな声で言えなかっただけかも知れないが。  
「ねえ、伊右衛門はん。続けて下さい」  
「…」  
 伊右衛門は何も答えずに、彼女の首筋に己の唇を移動した。すうっと軽くなぞれば、彼女  
が少しずつ息を荒くする。  
 なんとも言えぬ歓びを感じながら、首筋を少しずつ移動した。  
 その間、手は着物の帯を外しに掛かっている。  
「あ…伊右衛門はん…」  
 帯を外され、胸元をはだけさせられた彼女はぎゅっと手を握りしめると恥ずかしそうに伊  
右衛門に訴えた。しかし、伊右衛門は聞いて居ないのか、返事をしない。  
「んん…」  
 乳房を揉みしだかれ、妻の顔は少しずつ快楽に歪んだ。その天辺に付く、突起を愛撫すれ  
ば、尚更表情を変える。  
 伊右衛門は新しい玩具に熱中する子供の様に、妻の変化に歓びを感じ、また自分も感じて  
いた。  
「好きや…」  
 気付けば、伊右衛門はそう妻に囁いていた。  
 
 
「うん…」  
 妻は照れた様にそう返した。  
 伊右衛門は照れ隠しをする様に、突然彼女の秘部に触れた。驚きで、思わず彼女は伊右衛  
門にしがみつく。  
「伊…右衛門、はん…!突然なんて…」  
 言葉を言い切る前に、自分の声で遮ってしまった。伊右衛門が表面を指の腹で擦り出した  
のだ。  
「や…あんっ!伊右衛門はっ…」  
 生理的に出た妻の言葉に、伊右衛門の動きは止まった。  
「嫌なん?」  
 そう訪ねる彼は特別意地悪な顔をしている訳でもなく、寧ろ不安げな表情である。  
 得に意識もしていなかった彼女は慌てて首を振った。今は何より、夫と繋がりたいと思っ  
ていたからだろう。  
 伊右衛門は「そうか」と独り呟くとまた手を動かした。空いている左手で、乳房も一気に  
愛撫する。  
 これまで経験のナイ妻は急激な快感に眉を寄せ、必死に耐えようとした。  
「ふあっ…!んあっああっ!!」  
 しかし、どんどんと快楽の方へ思考が引張られてしまう。  
 また伊右衛門の方も、乱れる妻と口から洩れ出す気持ちよさげな声に、段々と自身が頭を  
上げ始めていた。着流す程度の着物では、自身と着物が、丁度膝の上に乗る妻の動きに合わ  
せ、擦られて行く。  
「…っく」と苦しそうな声を洩らした。  
 伊右衛門は、我慢出来無さそうに妻を立たせると、着物の下の部分を捲り、出て来た秘部にいきなり  
かぶりついた…かの様に見えた。  
「あっっ!!や、そこは汚っ」  
「…」  
 甘すっぱい様な塩っぱいの様な妻の味を堪能する伊右衛門は、彼女の言葉には反応を見せ  
ず、その部分に夢中になっていた。  
 知らず知らずの内に、もっと、もっとと欲して奥にまで舌を入れていた。  
「あああッ!!!あ…あはあ、んああっ!」  
 彼女の方はもう、ギリギリの線である。足も、これ以上立っていられるか分らない。ふと、  
伊右衛門はソコから顔を離すと突然自分の帯を解き始めた。薄らと目を開けた妻は、荒い息  
をしながらもモノ欲しそうに彼の顔を見ている。  
「ええか…?」  
 彼女はこくこくと頷く。  
 それでも慎重に、伊右衛門は念を押すと、ゆっくりと腰を進めた。  
 
 伊右衛門のいきり立った太い自身を、彼女のソコは押し返そうと蠢いていた。  
 彼女を座らせる様にして挿入しようとするものの、上手く入らない。  
 「くっは…」と伊右衛門は熱い息を吐いた。  
 伊右衛門のソレは、既に擦れるだけでも感じる程に、敏感である。こんなことをしている  
間に出してしまいかねない。  
 伊右衛門は何故かそれを内心嫌悪した。  
 自分勝手であるかも知れないが、彼女の中に出したい。そう思ったのだ。  
「済まない」  
「あン…伊右衛門はん…?」  
 急に妻の頭を抱えた伊右衛門は、妻の反応にろくな反応も見せず、頭を手で押す様に抑え  
て、無理矢理挿入し始めた。  
「あっ!?あ゛あああぁぁ!!!」  
 辛そうに眉を寄せ、悩ましげに着物の袖を掴む妻に、伊右衛門は更に欲情した。  
 しかし、その表情は明らかに痛いと表現しているものである。ゆっくりと動きを止め、  
優しく後頭部を撫でた。  
「大丈夫か…?」  
「…つ、続けてくだっ、は…い」  
 入っているだけで痛いのだろうか。彼女は息を荒くしながら、そう告げると、強く抱きつ  
いた。伊右衛門はもう一度優しく頭を撫でると、そのまま自身を押し込んだ。  
「んあっああああ!!」  
 身体と口が悲鳴を上げる。ぎゅっと手を握りしめ、その痛みに耐えた。長い様な短い様な。  
伊右衛門はいつの間にか動きを止めていた。  
「痛…いか?」  
 伊右衛門も息が荒い。妻は自分で感じてくれているのかと嬉しくなり、思わず微笑んだ。  
まだ、その顔は痛みに歪んでいたが。  
「あ…伊右衛門は、痛いけど続、けてくだはります?伊右衛門はんと一つになりたいどす…」  
 その言葉を聞くと、伊右衛門は微笑んだ一少なくとも彼女にはそう見えた一。そしてそっ  
と口付けをし、そのままゆっくりと動きだした。  
 
「はぁっ…んあぁ、」  
 そんな喘ぎを聞き続けてどのくらいたっただろうか。伊右衛門の自身はそろそろ快感で感  
覚が無くなりかけて来ていた。妻の方も、随分と快楽へ呑まれて行った様だ。  
 二人の息は荒く、もう何も言葉を口にしていない。まるでお互いの身体を貪り合うだけに  
生まれた獣の様に、その行為を止めようとはしなかった。  
「あっ…ふぁああっ!!」  
「くは…」  
 歓びを上げる妻と、限界の近そうな夫。  
 二人は更に更にお互いを求めあい、いつしか絶頂に達した。  
 
 「なあ、」と伊右衛門は自分の横に寝転ぶ妻に声を掛けた。  
「なんです?」  
 京都弁の訛り。幸せに満ちた声で彼女は答えた。  
「他にないんか?」  
「なにがです?」  
 ふと考えてみて、思い当たる節が合った。彼女が思うにあのワガママのことであろう。  
「じゃあ、後もう一つだけ、ええ?」  
 すっと伊右衛門の胸に抱きつくと、さっきお願いする時とは打って変わって、幸せそうな  
声と顔と、満面の笑顔で言った。  
 
「私のこと、ずっと愛しとって下さい」  
 
 

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