東の空にかかる雲は朝焼けの名残の薔薇色。清々しい早朝だ。
雲を見ながら歩いていたら、道の向こうから地竜術士と七竜の竜術士が並んでやってきた。先方もこち
らに気づいたらしい。片手を挙げて挨拶を交わす。
「二人揃って、朝早くからどうした」
「ミルク配達の獣人さんの台車が壊れちゃって、動かすのを手伝ってたんですよ。ランバルスさんが通
りかかってくれて助かりました」
「カディオ、おまえさんこそどこぞのキャベツ畑でも耕して朝帰りか?」
マシェルのいる前でいきなりそうくるとは思わなかった。咄嗟に切り返す言葉が見つからず、口ばかり
が間抜けに開閉する。ふざけた男の目に不審の色が浮かぶ。
「まさか……図星、なのか?」
「いや、だから、それはその」
「はっはっは、なんだそうかそういうことか。なに遠慮するこたぁない、応援してるからがんばって収
穫をあげるんだぞ」
そう言ってバシバシ背中を叩き、また歩き出す。わざとだ、絶対にわざとだ。
会話に取り残されたにぶにぶ兄弟の片割れは首をかしげている。
「こっちの方にキャベツ畑なんてありましたっけ?」
「いーから帰るぞマシェルっ。そいつはカディオだけの秘密の花園だ」
「畑じゃなかったんですか」
「どっちでもいいんだ。どうせ出来るのはキャベツでも花でもない。父ちゃん息子を急き立てて、夜っ
引て種蒔いて十ォ月十日、息子は畑を飛び出したァ、あそーれ」
「唄うな!教えるな!阿呆唄が子竜の耳に入ったらどうするっっ!!」
辛うじて投げつけた突っ込みは高笑いする男の背に跳ね返って落ちた。
「誰も聞いちゃいねーって。じゃあなカディオ、何か出来たら報告楽しみにしてるぞー」
「だから何かって何が出来るんですかランバルスさん」
「はっはっはっはっ」
自分が歩いてきた道を、二人はにぎやかに遠ざかっていく。その先にある――畑の主の家。
困った相手に知られたことを一体何と言い訳しよう。
溜息をつきつき東の空に向き直る。甘い気分も雲居の色も、とうの昔に消えていた。