子竜たちが寝静まったのを見計らって、エレはそっと水竜家をあとにした。  
月が、青い。  
雲ひとつなく、澄み渡った空。風が心地いい。  
 
行き先は地竜家。  
急がなければならない。  
彼女の補佐竜は、とても早く目を覚ますから。  
それまでに、行って、用を済ませて、帰ってこなくては。  
 
地竜家の前にある、巨石のモニュメント(にしかエレには見えない)をくぐり、小石を拾う。  
数は三つ。  
ランバルスの部屋の窓めがけて、強すぎないように小石を放る。  
こつん。  
こつん。  
こつん。  
ランバルスは、灯りをつけて外を確かめるようなマネはしない。  
足音も立てずに階段を下りて、鍵音も立てずに扉を開け、音もなく扉を閉める。  
 
「久しぶりだな」  
「そうかしら?」  
「もっと来てもいいんだぜ。まあ、地下に降りようや」  
小声のやりとりは、それだけでイケナイことをしているという感じをエレにもたらす。  
 
地の貴石の力を使って、二人は書庫の地下に降りる。  
いつもの場所は地下12階。  
用心して子竜たちだけでは降りてこられない深さより二階深く。  
 
「最近どうだ?」  
「リリックがどんどん口うるさくなってくるわ」  
「そっちじゃない、お前さんの想い人の方さ」  
「コーセルテルで起きてることは大概知ってるんでしょう?分かってて聞くのは趣味が悪いわ」  
つんとそっぽうを向いたあごを、ランバルスが掴み、自分の方へ向けると軽く口づけた。  
エレも逆らわず、それどころか、もっと深いキスを求める。  
「んっんんー」  
 
想ったよりも深すぎたキスに、ぷはっと息を吐く。  
そして、ランバルスに抱きついた。  
「カディオが、ジャムを持ってきたの」  
「へぇ?」  
「私の好きなアンズの。何かのついでならともかく、ジャムを持ってくる為だけに来るのよ。  
 子竜にお使いさせればいいのに、自分で歩いて……」  
「今日お前さんに会えたのはそういう訳か。カディオには感謝しないとな」  
ランバルス離れた仕草で、エレを座らせ、肩布に手をかけた。  
「してあげる」  
エレはかいがいしくランバルスの肩布を外し、中に着ている上着を脱がし、シャツに手をかける。  
「脱がすのが好きとは、おもしろいお姫様だな」  
「……そんなこと言う人にはしてあげない」  
「そうか?じゃ、ここまで脱がしてくれたお礼をしないとな」  
ランバルスは歯と舌を使って、器用にエレの服を脱がす。  
「なんで……わざわざ口で脱がすの?」  
「その方が雰囲気でるだろ?」  
「なんの……雰囲気よ……」  
 
言いつつ、エレの声はずいぶん甘くなっている。  
バンザイさせられて、上着を一気にめくられると、地下の冷気がひやりとした。  
「寒いか?」  
裸の上にランバルスの肩布をかけられ、エレが赤くなる。  
「なんか……やらしい」  
「やらしいことしに来たのは誰だ?」  
「いつ来ても準備万端なのは誰よ」  
エレはびっとランバルスの右手にあるものを指さす。  
いわゆる、コンドーム。  
「はっはっは」  
「笑って誤魔化さないの!いっつもどうやって手に入れてるの?」  
「なんだ、欲しいのか?」  
そういうと既に脱いだズボンのポケットからずるずると取り出す。  
「いつ必要になるかわかんねーもんな」  
欲しいだけ持ってけ、と渡されたがそれは横に置いておいて、  
「寒いわ。あっためて」  
ランバルスの首に腕を回し、引き倒す。  
 
 
「ん、あー……あン……くすぐったい……」  
粗野に見える割りにやさしいセックスをするランバルスは、丁寧にエレの体にキスを落としていく。  
もちろん、跡を残すようなことはしない。そんな関係ではない。  
エレもエレで、出来るだけランバルスの背中に傷を残すようなことはしないようにしているが、飽くまで出来るだけの範囲だ。  
「でな、エレ」  
「んー」  
答える声がかなり甘い。  
「入れる前にちょっと舐めてくれたり……」  
「……」  
「いやならいいんだけどな」  
 
と言った声が淋しそうで、エレは笑ってしまった。  
「ちょっとだけよ」  
そういうと、エレが起きあがり、覆い被さっていたランバルスが逆に倒される。  
既に熱く、固くなっているそこを舌先で舐める。  
「んっ」  
「我慢しないで声出せば?どうせ外には聞こえないんだから」  
「はっ、そうだな。お姫……様ってのは……どこで、んんっこういうこと習うん……だ?」  
「家庭教師よ」  
「マジで?」  
これにはランバルスも素になった。  
房中の儀は基本から応用まで全て家庭教師が実地で教えるのだという。  
「マジでー。俺それやりてー」  
「……どんどん固くなってくんだけど?」  
「そうだな、もう、いいか」  
起きあがると、口で手にしたコンドームの封を破り、つける。  
 
 
:  
:  
:  
「いつかはカディオかミリュウに持ってかれちまうんだろうけど」  
「んっんんっ」  
「出来るだけ長くお友だちでいたいもんだな」  
「さい……ちゅうに、他の、男の、名前……なんて……!」  
「嫌か?」  
「い、やよ!……ぁん……!」  
「中はずいぶんよがってるみたいだけどな」  
「それ、と、これと、は……あ……」  
二人とも体力には自信がある方だが、ランバルスの方がずいぶん余裕がある。  
「ホラ、遠慮なんかしないでいいから好きな男の名前呼べよ」  
「ゃぁあ……ん」  
「その方が気持ちいいぞ?誰にも言わないしな」  
「ぁ……ああ、    !    !!」  
:  
:  
:  
 
 
すぅすぅと寝息を立てて、肩布一枚で眠る姿は別段色っぽかった。  
が、そろそろ起こしてやらなくてはならない。  
彼女の補佐竜にパニックを起こさせない為にも。  
肩を揺さぶると、いやいやと首を振る。  
しょうがないな、という気持ちと、いたずら心から、ランバルスはエレの耳元に口をよせて男の名を囁く。  
 
がば、と起きあがると、既に服をつけたランバルスの笑顔があり、自分は裸だった。  
「おはよう」  
「……おはよ」  
「……」  
「……さっきの、何?」  
「なにって?」  
「何か、耳元でいわなかった?」  
「気のせいだろ。それより、風邪引くぞ」  
「着るから、あっち向いてて」  
「はいはい」  
裸を見られても平気なのに、なぜ服を着る所は見られたくないのか。  
二人は同じ疑問を抱くが口には出さない。お互い様だから。  
それと、これぐらいの距離を保つ為に。  
 
まだ暗いかはたれの道にエレを送り出して、ランバルスは大あくびをした。  
今日は寝坊をしよう。ユイシィには怒られるだろうが、怒られて当然なこともしたしな。  
そしてまた、ランバルスは音もなく自室に戻った。  
 
 
 
おしまいっ  
 

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