風竜術士エカテリーナ。  
俺の師匠。そして風竜族の血を引く人間でもある。  
風竜術士は代々風竜族の血をひく人間が受け継いでいる。  
はっきりと決まっているわけではないが、どうやら風竜族達は自分と師匠が結ばれることを望んでいるらしい。  
俺ももう子竜ではない。  
そのことが分かるくらいには大人になっている…つもりだ。  
 
 
その師匠の様子が最近おかしい。  
家事や子竜の世話等を全部俺に任せて出かけてしまうことはよくあるが、いつもとはどこか違う。  
一緒に住んでいる子竜達も、周りの人もいつもと変わりなく、師匠の「違い」に気づいた様子はない。  
しかし、何が違うのか、と尋ねられても答えられないのがもどかしいところだ。  
子竜達に話してみようとは思ったが、自分で言葉にできないことをどう伝えればいいのか。いっそノーセに…いや、奴なら難しい理屈を出してきて結局「口うるさい」とか「頑固すぎる」とか説教してくるに違いない。  
 
些細な違い。小さな違和感。  
きっと自分だけが気にしている些細なことなのだ。  
些細なことならさっさと忘れてしまえばいい。  
そう思うのに、その疑惑はなかなか心の中から消えようとはしない。  
…悪い予感ではないことを、ただ願うだけだ。  
 
 
小さな違和感を抱えたまま過ごしていたある日の夜。  
「おかえりなさい、師匠。…今日は遅かったですね」  
「あっ、ただいまシオリア。用事がなかなかすまなくって。  
 遅くなってごめんね。いつもありがと」  
いつもの笑顔、いつもの言葉―いつもの師匠だ。  
子竜達にも挨拶し、子竜達を伴って奥の部屋へと向かう。  
いつもと変わりない。いつもと…  
 
ふと師匠が足を止め、今入ってきた入り口の方へ視線を向ける。  
その表情は嬉しそうでいて切なそうで…今まで見たことのない、表情だった。  
一瞬、師匠がものすごく遠くにいるように感じた。  
師匠は、すぐそこに…手を伸ばせば届くところにいるのに、だ。  
大きくなる違和感。  
いったいこれは…なんなのだろう。  
 
 
 
師匠が身ごもったことを知ったのは、それからしばらくしてのことだった…  
 
 

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