冬のはじめのある日の事。
「メリア母さん……あみもの……教えて……?」
暗竜のエリーゼは自らの竜術士にそう切り出した。
それは、これからしだいに増してゆく寒さに備えたメリアが、
ラルカとエリーゼに手編みの帽子をプレゼントしたすぐ後のことだった。
「まあ、エリーゼ、急にどうしたの?」
メリアは少し驚きながらも、このところ急に積極的になったエリーゼの
成長を喜び、笑顔を浮かべた。
「…いいわよ。じゃあ、用意を持ってきてあげる。」
ふふ、と笑い声をもらすメリアに、エリーゼは少しはにかみながらコクンと頷いた。
少ししてメリアが毛糸と編み棒を手に持ち戻ってくる。
「じゃあ、まず何から編みはじめましょうか?」
最初だから、あまり難しくないものがいいだろうか、等とメリアが考えていると、
「……手袋が、いい。」
と、エリーゼからのリクエストが入る。
「そうね…それじゃあ手袋から作っていきましょう。まずはね…」
メリアは編み棒と毛糸玉を手に取ると、器用に編み目を作っていく。
それを感心した表情でじっと見つめ、見よう見まねで編み棒を動かすエリーゼ。
「…こうやって…編み目の数を手のサイズに合わせて…そうそう。」
メリアの指導の下、ほんの少しづつエリーゼが感を掴んでいく。
「……。メリア母さん、私も…やってみていい……?」
そんな様子をそれまで眺めていたラルカが、一生懸命なエリーゼに何かを感じたのか、
この編み物教室に参加を申し出る。
そして、単なる毛糸が少しづつ手袋の形を成してゆく――。
その手袋が無事、完成したのは数日後だった。
「初めてなのに、よく出来てるわ二人とも。
でも……ラルカもエリーゼも……ちょっとサイズが大きかったわね…。」
出来上がったそれぞれの手袋を見て、メリアは少し残念そうに言った。
しかし…
「私の…これで、いい……。」
エリーゼが言った。
「私も……自分のじゃ、ないから……。」
ラルカも、言った。
「…え?」
驚くメリアだったが、すぐにどういうことか思い当たった。
「……あなたたち…。」
思わず苦笑するメリアをよそに、帽子を被っていそいそと出かける用意をする二人。
「おでかけ…してくる。」
「おにいちゃん…近くに配達、来てる…。」
出来上がったばかりの手袋を、プレゼント用の袋に入れて。
『…行ってきます。』
二人の暗竜は、声を揃えて出かけていった。
「あら、あなたは……。」
地竜のユイシィは、小さな訪問者に笑顔を浮かべた。
「ロービィ…いる?」
「ええいるわ。どうぞ、あがって?」
ユイシィはそう言うと、ロービィに声をかけた。
「ロービィ、あなたにかわいいお客さんよ?」
エリーゼとユイシィは、それまで面識がなかったが、
ついこの間、エリーゼが手紙を持って地竜術士家を訪れた事があった。
嬉しそうに手紙を受け取っていたロービィを思い出し、
口調に少し、からかう様なニュアンスが混じってしまう。
「エ、エリーゼっ?」
ロービィがエリーゼの姿を見て、驚きと喜びの混ざった声を上げる。
「ここまで、遠かったんじゃない?一人で来たの?」
問い掛けられて、エリーゼはコクンと首を縦に振って返事をする。
そして、顔を薄紅く染めながら、おずおずと目的のものを差し出した。
「え?これ……くれるの?」
コクン、とエリーゼ。
包みを受け取ったロービィも、思わず顔が紅くなる。
「ありがとう…あの、開けていい…?」
「……。(コクン)」
包みを開け、中身を取り出すロービィ。
「わぁ…手袋だ。」
「メリア母さん…に、教えてもらって…私、編んだの…。」
「えっエリーゼが自分で編んだのっ?」
少し意外そうに驚いて、エリーゼと手袋を交互に見るロービィ。
しきりに感心し嬉ぶロービィに、エリーゼは小さく笑って見せた――。
終わり。