もう一体、どれだけ前の事か。もはやジャニスには思い出せない。思い出す必要もなかったし、思い出すこともなかった。これからの自分にとって、時間など何の意味も持たない上、昔話に浸るような女でもない。  
 しかし、ふとしたきっかけで、思い出すこともある。  
 スースーと、寝息を立てて眠る生贄・・に『なるはずだった』娘、アリッサ。その可愛い寝顔を見て、ジャニスはあの時の事を思い出す。  
 (そういえば、少し似ていたかもしれない)  
 ジャニスの心が、まだ人間として生きていた時へと返って行く・・・  
 
 ジャニスが獲物を狩ろうと、草むらをかき分けて走る音。そしてその前方から聞こえてくる、獲物の逃げる音。  
 「キャハハハハッ!」  
 ジャニスは狂ったように笑いながら、その狩りを楽しんでいた。今頃彼女の兄も、別の獲物を追いかけている頃だろう。  
 ジャニスの兄ルディに捕まった『二本足の獲物』は、世にも恐ろしい、残酷で苦しい最期を迎える。運良く、その場で斬り殺されるという、比較的楽な死に方をした者もいることはいたが、やはり大半は城に連れ込まれ、あらゆるやり方で、絶望の内に殺されて行くのだった。  
 
 一方ジャニスはというと、こちらも獲物を捕まえると、やはり殺してしまう。ただ、その殺し方には多少、違いがあった。というのも、ジャニスはかなりの色者であったからだ。  
 もちろん男に関しては、捕らえるとさっさと兄に渡し、共にその死に様を鑑賞した。しかし、捕らえる相手が女であった場合、必ず自分でその命を奪った。  
 同じ女でも、ジャニスの全く好みではない女は、さっさと首を落とすか、身体をとにかく斬り刻むかして、さっさと狩りを終わらせた。  
 だが、ジャニスの好みの、美しい女であれば、その殺し方は様々であった。  
 ある娘は、最後まで拒否した末、首を締め上げられ、死姦された。ある女は性交中、そのあまりに豊富な男の経験を語ってしまい、ジャニスを激昂させ、首を噛みちぎられた。  
 ある少女は、ジャニスの陰部を毎夜唇で満足させるのを強いられ、何度目かの性交の際、拒否したために無理やり犯され、絶頂の瞬間に、首を飛ばされた。  
 そんな狂った性生活を送っていたジャニスの目に、この世で見た事も無いほど美しい娘が映った。娘は美しい金髪で、長さは、その時代にしては短かい部類に入った。  
 娘は、全裸になって水浴びをしていた。その身体も、大きすぎず小さすぎずの、ジャニスにとって、最も理想とするスタイルを誇っていた。  
 (うつ・・くしい)  
 
 慌てて駆け寄ろうとするジャニスの視界に、別の人影が写った。ジャニスにとって、何の欲望も沸かない性、男だった。  
 男は中々美しい顔立であったのだが、ジャニスは全くそんな事には気を止めず、娘ばかりを見つめていた。  
 (ああ、あの娘。私の下で、如何なる声を上げるのだろうか)  
 いても立ってもいられず、ジャニスは飛び出した。  
 ガサッ、という音に男と娘は振り返り、悲鳴を上げる。  
 「で、出たーっ!!」  
 すでにジャニスの悪行は、領民で知らぬ者がいない程知られている。当然の反応だった。二人はそれぞれ、別の道へと逃げて行く。  
 当然、ジャニスは女の方を追った。程なくして女は道に足を取られ、ジャニスに追いつかれてしまう。  
 「フフっ、さあ、カワイガッテあげるからね」  
 と、ジャニスは大胆に、それでいて細心の注意を払いながら、娘の服を斬り捨てた。  
 「きゃああっ!」  
 「ヒメイをアゲルノハこれからダヨ」  
 ジャニスは何の躊躇いも無く、濡れていた己の股間を、娘の物に触れ合わせる。  
 「ひいっ!」  
 まだ逃げようとする女の腕を掴みながら、ジャニスは己の快感に没頭し始める。グチャグチャと響く、性交の音に、ジャニスは歓喜の表情を浮かべる。  
 「お、お願い。許して」  
 娘が涙を流して哀願する様に、ジャニスはさらに興奮する。  
 「ダメダメ!キャハハッ!アンタカワイイもん。一生、ペットにしてあげる」  
 「そ、そんな・・」  
 娘の頼みは当たり前のように聞き入れられず、ジャニスはさらに調子に乗り、何度も何度も、それこそ夜が明けるまで、娘の身体を貪った。  
 「ああっ!ああっ!」  
 「アア、なんてカワイイの?」  
 魂を失ったように、虚ろな目になっていた娘は、いつの間にか快楽におぼれていた。もう相手がジャニスだと分らないほど、意識を朦朧とさせたままで。  
 ジャニスの方は、娘の快感に歪む娘の顔に一々喜びながら、飽きる事無く娘を犯した。  
 
 「おのれっ!おのれ悪魔め!」  
 不意に、ジャニスのすぐ後ろから、男の声が聞こえた。ジャニスが振り返ると、眼前にナイフが迫っていた。ジャニスは何とか避け切れたが、そのまま体勢を崩し、草むらに倒れてしまう。  
 「貴様、よくもレティを汚したな!この悪魔!」  
 その時初めて、ジャニスは娘の名を知った。  
 (そうかあの娘、レティというのか)  
 ほんの一瞬前には殺されかけたというのに、ジャニスは美しい娘・レティを、感慨深げに見つめた。その態度は、さらに男の怒りに油を注ぐ。  
 「貴様!よくも、よくもよくもおお!」  
 男の、叫ぶような声でようやく我に返ったジャニスは、すぐに刃を構えようとする。しかし、転ばされた衝撃で、シザーは手の届かない場所にあった。結局、抵抗の隙も与えられず、ジャニスは男に押し倒され、思いっきり殴られる。  
 「ちくしょう!この悪魔め!皆より先に、この俺が殺してやる!」  
 (皆より先に?)  
 「ナンノコトだ!?」  
 「うるせえ!!」  
 「あうっ!」  
 ガツンッ、という音がするほど強い、男の殴打。  
 (痛い!痛い!死んじゃう!)  
 心で悲鳴を上げるジャニスだったが、男は当然のごとく、何の手加減もしない。  
 だがやがてジャニスが完全に押し黙ると、男は殴るのをやめ、何を思ったか笑い出した。あまりに異常な状態が続いていたため、気が触れたのかもしれなかった。  
 「へ・・へへっ。悪魔と呼ばれてても、所詮ただの小娘だな」  
 「うっ・・く・・・・・」  
 ジャニスはもはや、口が利けないくらい弱っていた。視界もぼやけ、痛みも感じない。  
 「そうだ。おまえ一応、女だったな。魔女の満腔は、一体どんな味がするんだ?ええ?」  
 「・・・!」  
 ジャニスの耳に、極めて不愉快な言葉が入ってきた途端、ジャニスの激情は、再び激しく燃え上がった。  
 
 「ソンナコトはユルサナイ!ワタシニサワルナ下民め!!」  
 その言葉の内容とは裏腹に、あまりに殴られ過ぎたせいで、思うように大きな声が出ない。男は一気に、顔を歪めて、怒鳴る。  
 「ああ!?また殴られたいのかこの馬鹿がっ!!犯してやるっつってんだよ小娘っ!!」  
 「イヤ、オトコナンカニこのワタシガ!!・・・サワルナッ!!」  
 男は聞き入れなかった。聞き入れるはずが無かった。  
 人並み以上に大きく勃起したモノを取り出し、いまだ愛液を垂らしたままのジャニスの穴へ狙いをつける。そして、ジャニスに抵抗する間も与えず、一気に突き刺す。  
 「ヒギャアッ!!」  
 ジャニスが、潰れたカエルのような声を上げる。男はジャニスのその反応で、すぐに悟った。  
 「何だ、初めてなのかよお前。ギャハハッ!魔女の正体は、男も知らねー、ただのガキだったなんてなあ!!」  
 ズブッ、ズブッ、と男はまるで、ジャニスに苦しみを味あわせるように、何の遠慮も無く腰を振った。男の黒ビカリしていた棒は、処女の血によって赤く染まって行く。  
 「ウギャアッ!死ぬ、シヌッ!!」  
 「死ぬ、だあ!?何人も殺したくせに、ふざけた事言ってんじゃねーよ!!」  
 男は両手の指の爪を、ジャニスの尻に強く食い込ませる。  
 「イタッイッッ!」  
 ジャニスの尻に、血が流れる。  
 それを知った男の指は、今度はジャニスの尻の穴をまさぐり始めた。ほとんど、何の前劇も無いまま、男のごつごつとした指がジャニスの肛門へと入ってゆく。  
 「ひ、ヒギッイッッ!!」  
 ジャニスは遂に涙を流した。それを満足そうに男は舐め上げ、指と、そして肉棒の出し入れを、一層激しくして行く。  
 「ヒャハハッ!魔女の中は、やっぱり極上だな!!」  
 そう叫ぶと、男は突然、大きな一突きをした。  
 そして、そのまま達した。  
 ジャニスの中に、恐らく傍らにいる娘に出すはずだったはずの、大量の精液が流れ込んで来る・・。  
 
 「ア、アア・・アアアアア」  
 ジャニスのまぶたが、力なく閉じた。  
 強い苦痛の中で、軽く上り詰めてしまったジャニスは、そのまま意識を失ってしまう。  
 「へ、へへッ。こんな、こんなもんじゃすまさねーぞおい?皆の敵なんだからな、お前は」  
 そう言う男の口元には、絶え間なく引きつった笑みがあった。もはや男にとって、ジャニスは恐ろしい殺人鬼ではなく、全てのストレスをぶつける、性玩具にしか見えなかった。  
 男は再び、意識を失ったままのジャニスに己の肉棒をつきいれ、激しく揺り動かした。その揺れで、再びジャニスは意識を呼び起こされる。  
 「い、イヤアッ!イヤアッ!!」  
 「ヒャハッ、ヒャハハハハっ!」  
 男は狂ったように叫びながら、ジャニスの膣内を貪り、味わった。  
 そして二度目の絶頂の瞬間、男は、自分の頭に赤い噴水を作った。  
 「お、オニイチャン!!」  
 男の首を、鋏で落としたのはジャニスの兄・ルディだった。ルディの呼吸は、走り回った後の様に激しい。いや、実際に走っていたのだ。逃げ回るために。  
 「ジャニス!領民がトチ狂いやがった!!」  
 「え?」  
 聞き返す間も無かった。  
 ルディの胸から、何本もの剣先が生えて来たように、ジャニスの目には見えた。  
 「妹だ!こいつも殺せ!!」  
 ヒュンッ、という音がジャニスの耳に聞こえたのとほぼ同時に、ジャニスの首はなくなっていた。  
 
 
 忌まわしい、生前の記憶を思い出し、ジャニスは顔をゆがめた。  
 (結末はともかくとして、この記憶にはあの娘が出てくる)  
 レティという娘のことだ。  
 「ホントウニよく似テイル。ウマレカワリかな?あの子の。ワタシニ会うために、アリッサにウマレカワッタノカモ」  
 いつものジャニスからは想像できないような少女らしい、それでいて勝手な発言だった。  
 「ダトシタラ・・ヤッパリ、あの時デキナカッタコトヲスルベキダヨネ」  
 再び、ジャニスはアリッサにキスをする。  
 「コンドハ・・ダレニモジャマサセナイヨ」  
 そう言うジャニスの目には、先ほどとは別の、怪しい炎が燃え上がっていた。  
 「ダレニモね・・・」  
 そう自分に言い聞かせるように呟くと、ジャニスは再び、アリッサの身体と自分の身体を重ねるのだった。  
 

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