覚醒者を倒した夜、ミリアとクレアは道を共にしていた。
明日にはその道は分かれ、ミリアは北東、クレアは南東、それぞれの地区へと戻ることになる。
ナンバー47、クレア。
覚醒者…一般には異常食欲者と呼ばれている強敵の妖魔を狩るメンバーには、全く相応しくない。
47とはすなわち組織内において最下位の戦士だからだ。
他のメンバー、ヘレンは頭からクレアを馬鹿にしてかかっていたしデネヴも同様、クレアを初めから戦力外と考えているようだった。
その実力を推し量るためリドの街に着く前夜、ミリアは一度手合わせをしている。
その際には自分の感じた印象よりもはるかに非力で、軽い失望を覚えたものだった。
しかし実際には情報外の、男の覚醒者との戦いにおいてクレアはまるで全ての攻撃を読んでいるかのように渡り合ったのだ。
そして結果として四人全員が生き残ることができた。
雨は降らず、空には銀色の月が雲影から顔を覗かせている。
まるで妖力を解放した己の瞳のようだ、とミリアは珍しく感傷的なことを思った。
その自分の瞳は赤々とした火を照り返している。
焚き火など、食料をあまり口にしない半妖の身である自分達には必要はないし、またその明かりも夜目が利くから必要ない。
だが、クレアはまるでそうすることが自然なように、火を焚いた。
おそらく最初見たときに連れていた少年には必要なものだったのだろう。
パチパチと、乾いた枝が弾ける音を聞きながらミリアとクレアは火を囲んで座っていた。
ミリアが顔をあげると、クレアは炎を見つめている。
その顔は無表情にも見えたが、瞳が静かな意志を感じさせた。
生きようとする意志を。おそらくは、あの少年のために…。
あの少年が、クレアにとってどういった存在なのか、ミリアは知らない。
だが、間違いなくあの少年のためにクレアは存在している部分があるのだろう。
それは友を亡くした自分には無いもので、少し羨ましく思えた。
視線に気づいたのか、ふとクレアが顔を上げ目が合う。
「何か?」
微かに訝しげな声音を発するクレア。
「いや…」
ミリアは咄嗟に目を逸らした。何故だか、クレアの瞳を見続けることが後ろめたかった。
炎を照り返して輝くその瞳は己の全てを見抜いてしまいそうで…。
クレアの瞳は銀眼の斬殺者としては、あまりに純粋だった。
真夜中、ミリアは何かが動く気配に目を覚ました。
クレアが、いない。
マントだけを残して姿が消えていた。触れるとまだ暖かい。
ミリアは神経を研ぎ澄まし、微弱な気配を探る。そしてすぐにクレアの気配を掴んだ。
それを追い、木々の間を抜けていくと、突如視界が明るく広がった。
淡い白光は泉の水面に照り返された月の光…その光の中にクレアは佇んでいた。
「クレア…?」
岸辺には衣服と鎧、そして大剣がある。
クレアが振り返り、水面に波紋が広がってゆく。
「ああ…寝汗を落としたかったんだ」
そういうクレアの声は心なしか掠れているように思えた。
ミリアの訝しげな表情を見て、クレアは安心させるように微笑む。
「大丈夫だ、夢を見ただけだ…少し、悪い夢だっただけだ」
今度こそ確実にクレアの声は震えていた。
ミリアはほぼ反射的に、泉に踏み込んでいた。
もともと身体の曲線が出る作りの衣服が水を吸い、べったりと張りつく。
「本当に、大丈夫なのか…!?」
顔を覗きこむように近づいた瞬間、クレアは雪崩れ込むように腕をまわしてくる。
戦闘の本能が身体を後退させかけたが、すぐに害意がないことを感じ取り、踏み止まる。
「クレアッ…!?」
クレアは…クレアの身体は小刻みに震えており、ミリアはそれで初めて声無き慟哭であることを知った。
「……テレサっ…テレサ、テレサぁ…!!」
噛みしめた歯の奥でくりかえす。
身体に異常は無い。だが、精神の惑乱が平衡感覚をゆらがせる。
「クレアッ!」
ミリアは崩れ落ちそうになるクレアを抱きしめ、支える。
テレサという名前には聞き覚えはなかった。だから、どうしてやるべきかもわからなかった。
できることといえば、呼びかけることだけ。
「テレサ…!!行…かないでッ…」
クレアは手を虚空に差し伸べて必死にもがく。
その都度、水面が乱れて水が跳ね、ミリアはずぶ濡れになった。
「しっかりしろ、クレアッ!!私を見ろ!!」
ミリアの大声が耳朶に強烈に響き、クレアは錯乱した目線を向ける。
こころのどこかに、冷静に状況を把握しようとする働きがまだ残っているのか。
幻惑がもたらす恐怖と悲しみを、ミリアの声が必死に抑えようとする。
「わかるか!?私だ、ミリアだ!!」
重ねてミリアは叫び、暴れるクレアをさらに強く抱きしめて抑える。
喘ぐような息にまぎれて、クレアの声は言葉にならない。
なおもクレアはもがいたが、ミリアは必死で抱きしめ続けた。
やがて、クレアの身体からぐったりと力が抜け、ミリアの腕にその体重がかかる。
クレアは、ミリアの肩に頭をもたれさせ、瞳から熱いものがこぼれ落ちるに任せていた。
こぼれ落ちた涙の雫はミリアの肩にかかった髪を伝い、泉に小さな波紋を形作る。
ようやくおとなしくなったクレアを抱きながら、ミリアの胸に不思議な感情が湧き上がっていた。
これは同情ではない…………愛しさ?
それは慈しみとでも言うべきもので、何故こんなに胸が締めつけられるのか、ミリア自身にもわからない。
ただ。
今は抱きしめてやらなければ…クレアは壊れてしまう。
そんな気がした。
「すまない…迷惑をかけた」
どれくらい抱きしめていただろうか。クレアは消え入りそうな声で告げてきた。
月明かりに照らし出された白い肌はしっとりと濡れ、艶かしい輝きを発している。
「…これだけ濡れてしまっては、水浴びしているのと大差ない、か」
ミリアは身体を離しながら呟く。
そして、水を吸って重くなった服に手をかけた。
そして手早くその肌をさらしてゆく。
クレアは驚きと困惑を微かにその表情に滲ませていたが、何も言わなかった。
しっとりと濡れたミリアの髪がクレアの胸元に触れる。
ごく自然に…二人は唇を重ねていた。
「……ん…ぁ……っ…」
ミリアは舌を口腔に侵入させ、クレアの口中を思いきり味わう。
舌が触れ合い、甘い香りがクレアの理性を痺れさせる。
クレアは下からミリアの首に両腕を回し、引き寄せる。
「ん……ぁ……っ」
どれくらいそうしていただろうか。
脚の間に膝を割り入れて、ミリアは腕の中にクレアの身体を抱く。
ミリア自身、己が大胆な行動に出ていることを頭の中で分かっていたが、止められない。
指は腹部を滑り、はやくもクレアの茂みを探し当てていた。
その腹部には…。忌まわしいそれは、自分にもある。
クレイモアである、証し。
しかし「それ」こそが今、自分とクレアをこの場に存在させている…。
己の身体を恨み、復讐を誓った自分にとっては皮肉なものだったが。
茂みを掻き分けた指はその部分へと至る。
そこは明らかに泉の水以外のもので潤っていた。
「あ……ミリア…」
触れた瞬間、クレアの肌に力が篭もったのがわかる。
ミリアの指がそこをなぞる。
クレアの銀の瞳から、一筋涙が零れる。
その涙を唇でぬぐって、ミリアは言う。
「嫌なら、すぐにやめる」
一応の確認。
もちろんクレアは拒まない。
ゆっくりと首を振り、自分から唇を重ねてくる。
より深く受け入れようと、ミリアは顎を退かずに唇を押しつける。
「ん……ふ……っ」
その間にもミリアの指は、クレアの濡れた秘裂を愛撫し続けている。
湿った、淫らな粘液は、指を動かす度はっきりと音をたてて流れ落ちてゆく。
指を押し込まれた柔らかい秘肉は奥へ、奥へと誘うような蠕動をみせる。
「っ…は…っあああ………っ!」
股間から腰全体に走る甘い痺れにクレアは堪えきれずに声をあげた。
そんな姿はますますミリアの動きを容赦のないものにしてゆく。
熱い胎内へと二本目の指を侵入させる。
蜜を掻き出すように。
全方向から締め付ける粘膜を擦るかのように。
クレアの粘膜は初々しく、だがその動きはとても淫らだった。
「はああっ!!」
まるで咽び泣くように鼻にかかった甘い喘ぎ。
それを聴覚で認識しているミリアの秘所も、我知らず濡れそぼっていた。
やがてクレアに限界が訪れる。
呼吸の間隔が狭くなり、喘ぎを押し殺せなくなる。
頭にまで突き抜ける快感。
「あ、ああぁっ……んっ…ああああぁぁぁっ!!」
その波を知ったミリアは思いきり指の動きを激しくさせ、クレアの悦楽の肉芽を擦ってやる。
激しく身体を痙攣させ、クレアは身体を大きくそらした。
密着したミリアの肢体にもその震えが伝わってくる。
あられもない声をあげて、クレアは快楽の頂点を極めた。
脱力するクレアの身体をきついくらいに抱きしめるミリア。
まるで安心させるように、啄むような小さなキスの雨を降らせてやる。
やがてクレアは固く閉じた目を開け、ミリアの唇を己の唇でとめる。
そしてその唇は頤を滑り、鎖骨へと至る。そのまま、埋めるようにして胸へと唇を滑らせると、
ミリアの鼓動が微かに伝わってくる。それはまるで妖力解放の時のように早鐘を打っていた。
「……っ…!!」
ミリアは咄嗟に声を殺す。
大きな胸。かつて、自分を愛してくれたあの人も、大きな胸にまだ小さかった自分を抱いてくれた。
懐かしさと愛しさを同時に覚えたクレアは、ミリアの胸に舌を滑らせる。
豊満な胸の先にある敏感な突起を口に含むと同時に、ミリアの秘所に手を差し入れる。
「ん……っ」
ミリアの眉が寄り、何かを我慢するように下唇を噛む。
クレアの指は無遠慮だった。ただひたむきに、ミリアのその部分を知ろうと、動きまわる。
強い指の動きに、それでもミリアは感じていた。
「ぁ……あ…っ」
クレアの指に力が入った。茂みを掻き分け、尖った女の芽を、親指と人差し指で挟んで執拗に攻める。
「あああっ…ク、クレアッ!!」
強すぎる快感を持て余したミリアは涙を浮かべて喘ぐ。
クレアは思いの他穏やかな表情でミリアを見ていた。
そして微かな微笑。例えるなら、悪戯好きの小悪魔のような。
膝の力が抜けそうな快感に、もはや腰を動かす事さえ出来ないミリア。
「敏感なんだなミリアは」
そう言いながら、濡れた泉の中心へ指を沈める。
「んんっ…!」
ミリアは無意識の内に腰をよじらせた。
クレアの指はいまだ敏感な肉芽を捉えたままだ。
内と外とを同時に弄られ、ミリアの胎内が面白いほどひきつれる。
先程とは反対にクレアの支え無しでは立っていられない。
今やクレアの指は三本に増え、容赦のない速さになっていた。
「ひぅ…は…あ、あぁぁっ!」
ミリアの声が切羽詰まる。クレアはますます容赦のない攻撃を加える。
「…クレアッ…もう…!」
肌を紅に染め汗を浮かべて苦しげに眉を寄せたミリアが、クレアの耳元にかすれた声で囁いた。
「ミリア…」
クレアが摘まんだ肉芽に力を込め、最奥に指を押し込むと同時にミリアの全身が痙攣し大きくのけぞった。
同時にクレアの手の平に熱い蜜がかかる。
「んんっ…あ、はあああぁぁぁ………っ!!」
最奥を満たす強烈な衝撃に絶頂を迎え、クレアに縋り付いたままぐったりとミリアの身体から力が抜ける。
熱を残しつつも気だるい感覚。
ミリアがそれに浸っていると、クレアがそっと顔を近づけた。
そのまま寄せられた唇に唇を重ねる。
甘いその味に朦朧としながらも、ミリアは懸命に舌を突き出した。
そして、クレアを抱く腕に力を込める。
彼女達の瞳のような銀の月は位置を変え、泉が反射する光は弱くなっていた。
朝が来れば、二人はそれぞれの場所へ向かう。
だが、まだ夜明けまでは時間があるはずだ。
せめて、それまではこの儚い戯れを。
唇を離したあと、二人は少し恥ずかしそう目を合わせ、再び指を滑らせていった。
end