「シンデレラは、12時を過ぎると魔法が解けてしまうのよ、ね」  
 
事務所のソファで眠ってしまった王子様をじぃっと見つめながら、美女が微笑む。  
若い子たちには勝てないわ、と普段は飄々としていたが、王子様を想う気持ちで負けるつもりは毛頭ない。  
自分より年下の王子様を愛するシンデレラ、その魔法が解けたらどうなるか。  
 
窓から事務所を照らす月光に裸体を晒し、美女は王子様に寄り添う。  
愛でられなくとも良い、寄り添えれば、支えられればそれで満足だ――そんな仮面を隠し、魔法の解けたシンデレラは王子様の唇を盗む。  
 
「ん・・」  
「・・・・――さん・・」  
「もう、いけない子ね」  
 
王子様の汗臭さが、たまらなく官能的だ――シンデレラは自らを変態ではないのかと、卑下しそうになり、首を振る。  
彼は、自分たちを分け隔てなく愛してくれている。  
きっと自らのフェティッシュな側面をも受け入れて、生かしてくれるだろう。  
 
「・・・・あれ?」  
 
思案しているうちに、王子様が目覚めたようだ。  
普段の軽さの中にも張り詰めた空気を纏う姿でなく、本当に無防備な姿の王子様。  
 
「―――さん!?なんで裸なんですか!?」  
「あら、貴方がそれを言うのかしら?」  
「え、俺何かしましたっけ!?」  
「ふふ、さぁ?どうかしらね」  
 
あたふたとしている王子様が、やはり愛しい。  
裸のまま王子様に寄り添うシンデレラが、微笑んだ。  
 
「私の、私たちの王子様。12時を過ぎて魔法の解けたシンデレラは嫌いかしら?」  
「あ・・ぅ、それは卑怯ですよ」  
 
裸体を抱き締められながら、シンデレラは満足そうに笑う。  
 
「夜はまだ始まったばかり。魔法の解けたシンデレラが、灰被りに戻る朝まで。エスコートしてくれるかしら、王子様?」  
「はい、喜んで」  
 
眠たげに瞬きを繰り返す王子様と、魔法が解けたシンデレラの影が交わる。  
朝、『偶然出会った』王子様と灰被りの空気が変わったと言われるまでは、二人はまだ魔法の中にいることになる――  
 

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