アイドル:喜多見柚  
シチュエーション:行きずり、ラブホテル、純愛  
 
 
 
 ――その人に出会ったのは、本当に偶然だった。  
 
 
 
「はぁ……面白いこと、無いかなぁ」  
 
 家の近くにある街を見下ろせる丘の上の公園、そこに続く道。  
 それをぶらぶらと歩きながら、ぽつり、と白い息と一緒にアタシ――喜多見柚は溜息を一つ。  
 曇り夜空には星が見えず、今にも雪が降ってきそうな程にどんよりとして、ついでに寒い。  
 高校の終業式で、来ているものは制服で、足が出ているからだ。  
 ぶるぶる、と身体を震わせて息を吐く。  
 ほわぁ、とわざとらしく息を吐けば、白い盛大な吐息が暗闇へと溶けていった。  
   
 世間はクリスマスで、公園に続く道から眼下に広がる街並みは緑や赤、白のイルミネーションでカラフルに彩られている。  
 クリスマスの日に終業式を合わせるなんて面白くない、と思わないでもない。  
 きっとあのイルミネーションの中には、面白い、と思えるようなことが一杯あるのだろう。  
 面白くて、楽しい、そんな時間と場所があるのだろう。  
 けれど――アタシはあの中に混ざりたいとは思えなかった。  
 それは、あの光の中いるであろう恋人な人達や彼氏と一緒に歩いている友達を見たくない、なんて理由ではないと思う。  
 ただ単に、あの中にはアタシが探している面白いコトは無い、と心の何処かで感じていたからだ。  
 
「かと言って……他に面白いコトがある訳でも無いしなー」  
 
 けれど、イルミネーションの外に面白いことがあるかと問われるとそうでもなくて。  
 溜息混じりで吐いた息が、ふわふわ、と冷えた空を舞った。  
 それが少しだけ面白くて、また一つ、大きな息を吐いて白い塊が夜空に吸い込まれていくのを見送る。  
 まるでシャボン玉の歌のようで、ふふ、と笑って、もう一度だけ、息を吐いた。  
 
「シャボン玉飛んだー、屋根まで飛んだー、屋根まで飛んでー、壊れて消えた……」  
 
 ふと、歌ってみて疑問。  
 ――屋根を巻き込んで一緒に吹っ飛んだ、って意味にも取れるよね、これって。  
 シャボン玉が凄い威力を持った爆弾みたいなものだったのか、或いは、普通の意味でただシャボン玉が屋根の高さまで飛んだだけなのか。  
 歌を作った人がどんな意味で作ったのかは分からないが、前者の方が面白い気がして笑った。  
 
「ふふ――」  
 
 そう考えてみれば自然と零れる笑みに、幾分かすっきりとした。  
 すっきりとして、それで他にもそんな歌があっただろうか、なんて記憶を探ろうとして、けれど目の前に公園が広がって、そうだ公園のブランコにでも座って思い出してみよう、と思った――。  
 
 
「ばかやろぉぉぉぉッ!」  
 
 
「――わわっ?」  
 
 ――そんな時に聞こえた公園からの叫び声に、アタシは何でも無しに慌てて目を丸くしていた。  
 
「社長のばかやろー、給料やってるから働けだって? あほかぁッ、仕事量と全然あってねんんだよ! くそ上司もくそ上司だ、自分のミスを押しつけてそのままキャバクラだとォッ、ふざけんなぁぁぁおらぁぁぁぁッッ!」  
「え、えぇっと……」  
 
 慌てて、それでも自分の周囲に何もないことから少しだけ冷静になって。  
 とりあえず声の出どころを、ときょろきょろ――と探す間も無く、公園の手すり部分に人影。  
 身を乗り出すように、眼下に広がるイルミネーションな街に向けるかのように、人影の叫び声は続いた。  
   
「同僚も同僚だッ、新婚って言葉が通用するのは結婚一か月までだぁぁッ、半年も経って新婚面してんじゃねぇぇッ! ってか、別のお前は結婚すらしてねぇじゃねぇぇかぁぁぁぁッ!」  
「あ、あはは……」  
「くそぅ……うぅえっぷっ、ひっく……――の、ばかやろー……何もこんなボロボロのクリスマスに振らなくってもいいじゃねーかよーぅ……」  
 
 見事な罵詈雑言に罵詈雑言、そして罵詈雑言。  
 その様に若干引きつつ苦笑して、でも、とりあえず大事なことだと思って三回ほど言ったおいた、うん。  
 
 その叫んでいる人――20代真ん中ぐらいのおにーさんの口から出るのは、概ねシャチョウさんとジョウシさんなどの会社の悪口みたいで、仕事が多いのに給料が少ない、だの、ミスを押しつけられたことやそれなのに遊びに行っていることに対しての愚痴など、様々だった。  
 結構酔っぱらっているのか、途中途中に言っていることが支離滅裂で、最後の方になると単語すら聞き取れないほど。  
 どれだけ呑めばどれだけ酔うのか。  
 未成年なアタシからすればそれがどれだけかは分からないが、その様は明らかに呑み過ぎだと言えるほどである。  
 
 そうして。  
 満足したのか、或いは言いたいことが言えたのか。  
 最後に一言だけ寂しそうにぽつりと呟いて、ひっく、と時折肩を揺すりながらおにーさんは座り込んでしまった。  
 
 酔っぱらい。  
 それは、見ればすぐに理解出来る。  
 お父さんが飲み会から帰ってきた時はあんな風になっているのを見たことがあるからだ。  
 けど、あそこまで酷くは無かったような気がする。  
 あのまま放っておけばそのまま寝てしまいそうな、そんな気がした。  
   
「あー……んー……」  
 
 まあ、それはともかく。  
 そんな明らかに酔ってます、と言える人が公園の中にいる状態で、そこのぶらんこに座って歌を思い出して口ずさむ、なんてそんな高度な真似はさすがのアタシでもちょっと出来そうにない。  
 というか、したいと思えない。  
 はっきりと言えば、お断りしたい。  
 面白いかと問われれば、うん、と答えそうなシチュエーションだけど、どう考えても面倒なことに巻き込まれそうだと思った。  
 
 そうとなれば、そこまで意固地になる理由もない。  
 当初の予定から変更して面白いコトを探せないのは面白くないが、とりあえずはこのまま道を真っ直ぐに進んで家に帰れば酔っ払いのおにーさんには絡まれないで済むだろう。  
 不審者とまではいかないまでも、見るからに関わったら面倒そうな酔っ払いを相手にするというのは、気弱な女子高生からすればハードルが高いのだ。  
 ――自分で言って、悲しくなってきたなー、誰が気弱な女子高生だよーってな具合に。  
 まあ、それはともかくとして。  
 そうであるのなら、そのままに何も見なかったことにしてさっさと帰るために脚を進めればいいだけなのに。  
 
 
「あー……何も面白いこと、ひっく、無いなぁ……うぇっぷ」  
 
 
 寂しそうに一言だけ呟かれたその言葉に――気がついたら、アタシはその足を公園の中へと踏み入れていた。  
 
「こんばんわ、おにーさん」  
「うぅ、む……うん、こんばんわ……?」  
 
 ふらふら、と。  
 座っているのに揺れる、なんて器用なことをしているおにーさんの隣に制服のスカートがめくれないようにしゃがみ込んで、まずは一言だけ挨拶をしてみる。  
 危険人物そうならすぐさま逃げるため、なのだが。  
 ふらふら、ゆらゆら。  
 頭を揺らしながら彩り豊かな街並みをぼんやりと眺めていたおにーさんは口から気怠げな、けど確かな返事が返ってきて、次いで疑問に首を掲げた。  
 その様がどことなく可愛いいと思えて、くすり、と笑っていた。  
 
「……ええっと……君は誰だい?」  
「ただの女子高生、かな。ぶらぶらと歩いて、公園に来ようとして、酔っぱらいのおにーさんを見つけた、ね」  
「……ただの女子高生は、酔っぱらいのおにーさんには声を掛けないだろうに」  
「てへ、その通りだ」  
「……はっ、変な女子高生だな」  
 
 ぼうっ、とお酒の影響からかぼんやりとした視線の中に潤みを見つけて、ついついその視線に引き込まれてしまう。  
 友達が騒ぐようなイケメンという訳ではないけれど、でも、整っていると言ってもいいだろう容貌。  
 目鼻立ちはしっかりとしているのに、お酒で赤くなった顔は何処か幼さを感じさせた。  
 
 ざぁ、と風が夜の公園を吹き抜ける。  
 少しだけ笑ったようなおにーさんの前髪が風に揺られて、その奥にある視線が街へと向いた。  
 それに合わせて、アタシも街へと視線を向ける。  
 切りそろえている前髪が、はらりと舞った。  
 
「……街はクリスマスだ、向こうに行かなくていいのか?」  
「別に、いいんじゃない? クリスマスだからって楽しまなきゃいけない訳じゃないし、向こうにいっても、面白いコトがあるかは分からないもん」  
「ははっ……確かに。違いない」  
「おにーさんこそ、クリスマスを楽しまなくてもいいの?」  
「……別に。楽しまなくちゃいけない訳でも無いんだろう?」  
「てへ。違いないね」  
 
 少しだけ予想していた返答にくすくす、と笑ってみれば、赤ら顔でおにーさんも少しだけくすくすと笑う。  
 その横顔はついさっきまで愚痴を叫んでいた人と同じとは思えなくて、けれど、やっぱり同じに見えて、そしてどこか寂しそう。  
 街並みをぼんやりと見つめるその横顔は、迷子のようにも見えて。  
 それが、ただ酔っぱらいなだけのおにーさんを、幾分か近くに見せていた。  
 
「何か嫌なことでもあったの?」  
「そう、だな……色々あるな」  
「ふーん……例えば?」  
「仕事がきつい。ノルマが厳しくてさ、やってもやっても全然前に進めてない感じで、嫌になる」  
「……それで、シャチョウとジョウシに馬鹿野郎?」  
「……聞いていたのか」  
「聞こえたの。おにーさん、声、大きいんだもん」  
 
 くすくす、と笑うと、失敗したな、なんてくしゃくしゃと髪を弄るその様は子供の照れ隠しのようで。  
 ふい、と顔を背けたおにーさんが可愛らしくて、またくすくすと笑って、その存在をさらに近く感じる。  
 ざぁ、と吹き付ける風に目を細めて、二人そろってクリスマスな街並みに視線を落とした。  
   
「彼女にも振られたしな」  
「……へー」  
「それも聞こえてたんだろ?」  
「……ごめんね」  
「いいさ、声が大きい俺が悪い」  
 
 じゃり、とおにーさんが放り出していた脚を胡坐にして座り直す。  
 寒い夜風に幾分か酔いが醒めたのか、それとも、大声を出したからか。  
 少しだけすっきりとした顔で、その口をぽつりぽつりと開いていた。  
 
「仕事仕事でクリスマスまで仕事で、せめて飯はって思ってたら、出会いざまにビンタでさよなら、さ」  
「うわー……ドラマみたい」  
「正直惰性で付き合ってた感もあるが……まぁ、ドラマよりは面倒くさいな、現実ってやつは。君も大人になってみればわかる」  
「そんな大人にはなりたくないなぁ……けど、面倒くさいのに彼女さんと付き合ってたんだ?」  
「まぁ、初めのうちは好きだと思ってたんだが……何より付き合ってるのは面白かったし楽しかったからな。何も無くてもぶらぶらとデートしてただけでわくわくしたもんさ」  
「ふーん……」  
「まあ、それも終わった訳だが……あー、くそ……はぁ、面白いことねえなぁ……」  
「……」  
 
 ボーナスが減れば給料も減るし、休みは無いし、エトセトラエトセトラ。  
 まるで魔法のような言葉を紡ぎながら、がっくりと肩を落としてがりがりと頭をかくおにーさんをよそに、アタシは直感を感じていた。  
 ――似てるんだ、私とおにーさん。  
 時間の流れというのは中々に残酷なもので、何もしなくても歳は取るし、したいことがあっても時間は足りないし、流行というものに乗れないと社会からは浮いてしまう。  
 そんな時間の流れの中に身を置いていながら、それでも、時間の流れに溺れてしまわないようにしながらも何かを探してもがいているような、そんな感覚。  
 それが、私とおにーさんが似ていると感じた理由だった。  
   
 どきんっ、と胸が高鳴る。  
 ――面白いと思えることに、憧れた。  
 ただの何でもないそんな衝動は、けれど、けっして無視できるほど軽いものじゃなくて、そして、けっして簡単に見つけることの出来ないものだと思っていた。  
   
 普通と違うことはロック、なんて言うつもりはないけれど、これまで生きてきた中で、普通の中にアタシが求めている面白いコトというのは何一つとして無かった。  
 それはそうだ、普通だからこそ面白いコトじゃなくて、面白いコトだからこそ普通では有り得ないのだから。  
 だから、普通――日常の中に、アタシが面白いと思えるコトは無いのだと、心の何処かで諦めかけていた。  
 
 でも、普通ではない何かが――日常ではない何かを覗く扉が、今、目の前にいる。  
   
「――じゃあ、さ……」  
「んー……?」  
   
 ――それが面白いコトかどうかなんて、そんなのは分からない。  
 まだまだ十年そこらしか生きていない私にとって、日常というものを全て探せた訳でもないだろうし、そもそも非日常の中に面白いコトがあるかどうかなんてことも分からない。  
 けれど。  
 目の前のおにーさんとなら、その面白い何かを、探せる気がした。  
 ――目の前のおにーさんとなら、面白い何かを一緒に探したいと思ってしまった。  
 これはただの直感だ。  
 でも。  
 ――それが普通ではない、非日常なことだとしても。  
 ――おにーさんが一緒なら、何でも出来ると思った。  
 
 
「一緒に面白いこと……探してみようよ?」  
   
 
 だから。  
 それが例え普通の――健全な男女の関係と呼べるようなものでなくても。  
 世間一般では何と表現するのか分からないような、関係でも。  
 おにーさんと一緒に面白いコトを探していけるのなら、有りかな、なんて考えていた。  
 
 ――たった一晩だけの、面白いことを一緒に探す関係。  
 そんな関係に隠れた感情は、一体なんて言うのかな。  
 そんなことを考えながら、アタシはぱんぱん、とスカートを払っておにーさんを見下ろしていた。  
 
◇◇◇  
 
「……ん」  
 
 夜の公園からイルミネーションの街並みを超えて、また夜の道を行き。  
 アタシとおにーさんは、デートと呼ぶにはほど遠い道程を超えて、ホテルの部屋へと脚を踏み入れた。  
 ラブホテル――一般的にそう呼ばれるそのホテルの部屋は、イメージしていたピンクピンクな部屋ではなく、普通のホテルのようなだった。  
 白を基調とした清潔な印象はおよそそういった行為をするような感じは抱かない。  
 
 そんな部屋の中央付近にあるベッドに二人並んで腰掛けてから、既に早数分。  
 何もかもが初めてなアタシはこんな時に何をすればいいのかも考えられないほどに緊張していて、ばくんっばくんっ、と口から飛び出てきそうな心臓を抑えるのに必死だった。  
 ――ほんっと、今更ながらに何であんなこと言ったんだろ、アタシはー!  
 結局こちらから誘ったみたいな形で今に至る訳だが、それが本当に恥ずかしくて、もっと言い方があっただろうに、なんて顔から火が出そうになる。  
 だというのに。  
 ちらっ、ちらっ、と視線が合う度にその時間が長くなっていて、いつしか視線を合わせて見つめ合うようになっていて――。  
 ――気付いた時には、アタシとおにーさんは肩を寄せ合うように唇を重ねていた。  
 
「……ん。ふぁ……」  
 
 ――ファーストキス、初めてのキス。  
 それがラブホテルの、しかも知らないおにーさんが相手だという事実に、胸の奥がかっと熱くなって身体中へと走る。  
 普通じゃない、けど、背中がぞくぞくと震える感覚は面白いコトを見つけた時のようで。  
 ちゅ、と軽く音を立てて離れた唇をアタシはそっと指で触っていた。  
 
「……初めてだけど、レモン味じゃないんだね、やっぱり」  
「なっ……初めてだったのか? いや、それは、その……すまん」  
「どうして謝るの? アタシ、別に嫌がってないじゃん」  
「いや、でもな」  
「それに、初めてのキスがお酒の味だなんて、滅多に味わえることじゃないと思うよ?」  
「うぐっ……す、すまん」  
「てへ。いじめすぎちゃったか」  
 
 ふんわりと香るのはレモンの香りでも、その唇に残るのは少しだけ苦い、お酒の味。  
 舌の奥に引っかかるようなそんな味を、唇に残った香りを舌で舐め取って飲み込む。  
 ほわっ、と身体が熱くなったような気がして、顔と頭に熱が籠もる。  
 じんわり、と瞳が潤んだ気がした。  
 
「なぁ……やっぱり止めておかないか?」  
「どうして? アタシのこと、嫌い?」  
「いや、嫌いとかさっき会ったばっかりなんだけど……キスも初めてということは、そっちも初めてなんだろう? 俺が言うことじゃないが、こんな所で無駄にするのも馬鹿げてる」  
「……それで?」  
「いや、それでって……君はいいのか、こんなおっさんが初めての相手で」  
「うーん……」  
 
 とくんっ、と胸が鳴る。  
 好きな人が出来て、悶々して、告白して、彼氏になって、デートして、キスをする――少女漫画のような、甘い初めてのキス。  
 そんなものとは無縁だと思っていて、確かに無縁だったけれども、けれど、後悔をするようなキスでは無かった。  
 普通とは違うということもあるだろう。  
 面白い、と思うようなものではなかったが、でも、お酒の味がした初めてのキスは、もう少しだけしてみたい、なんて思えるキスだった。  
 
 ――状況に酔っているのか、或いはキスのお酒で酔っているのか。  
 とくんっ、とまた一つ身体に熱が灯って胸を高鳴らせていく。  
 初めての相手――それは言葉通りで、処女を捧げる相手のこと。  
 それを、おにーさんは自分で良いのか、なんてしつこいほどに確認してきて、その様が何だか必死そうで、可愛らしくもあって、くすり、と一笑み。  
 とくんっ、と胸がもう一つ高鳴る。  
 
 ――大丈夫……おにーさんは、きっと、優しいから。  
 これからすることが面白いコトなのかどうかなんて分からないけれど、おにーさんとなら、それでもいいかな、なんて思って。  
 アタシは、こくりと頷いていた。  
 
「おにーさんだからいいとしか言えないなー。あっ、でも勘違いしないでよ。アタシ、こんなの初めてなんだから」  
「いや、まあ、俺も会っていきなり懐かれてホテルとかは初めてだな……変わってるって言われないか?」  
「そんな子を真面目に相手しようとするおにーさんも変わってるって言われない?」  
「……言われるな」  
「でしょ? アタシとおにーさん、やっぱり似てるんだよ。だからお願い出来るの、面白いこと一緒にしたいって」  
「……その言い方はずるいなぁ」  
「てへ……んっ」  
 
 くしゃり、と苦笑するおにーさんの横顔に、とくんっ、と胸の高鳴り。  
 ふわり、と切りそろえている前髪におにーさんの指が触れて、額に触れて、頬に触れて――そして唇をなぞる。  
 それにどきんっとして、すりっ、て指の腹で唇を撫でられてまた胸が高鳴って。  
 ぴくんっ、と反応してしまったことが何だか恥ずかしくて、顔を背けようとした所で、キスをされる。  
 
 さっきと同じ触れるだけ――そんなことはなく。  
 少しだけ強く押しつけて、開けたり閉じたりするおにーさんの唇に合わせてアタシの口も動いて、さっきよりも深く深く、キスをしていく。  
 お酒の香りと味らしきものが少しだけ口の中に入って、頭の中をくらくらさせる。  
   
「ん……ふっ、んっ……んんっ」  
 
 息を止めておくのが我慢出来なくなって、鼻で息をするけど、キスをされた口から吸われているように苦しいまま。  
 だんだんと頭がぼーっとしてきて、力も抜けてきて。  
 頭をかき抱くようにし始めていたおにーさん肩に手を置いて、なんとか崩れ落ちないように気をつける――と、唐突に口の中に感じる、熱く、艶めかしい感触――おにーさんの舌。  
 ぬるり、と口の中を乱すかのように動いて、ざらり、とアタシの舌を絡め取ろうと蠢いていく。  
 
「ん、ふぁ……ちゅ、あふ……」  
 
 ――ふぁ、おにーさんの舌、熱い……。  
 ちゅる、ちゅぷ、にちゅ。  
 口の中でアタシとおにーさんの舌が絡みつく度に、口の中でにゅちゃにゅちゃ、と唾液の音が響く。  
 舌の先端がチロチロと動いて、広い部分がぬりゅぬりゅと合わされ、お互いの唾液や吐息を求めるように深く、ただ深く繋がっていく。  
 それが凄くエッチで、おにーさんの舌と唾液が熱くて――互いの思惑でその形を変えていく舌が面白くて、それを絡み合わせるのがただ気持ちよくて。  
 まるで眠る一歩手前や甘いモノを食べたときのような恍惚感が、頭の中を覆っていって、身体から力を失わせていく。  
 知らずの内におにーさんの肩からその首に腕を回していたアタシと、そんなアタシの髪に指を埋めるようにアタシ身体をいだくおにーさんは、口の周りが溢れ出た唾液でべとべとになるまでディープなキスをしていた。  
   
「はぁ……はぁ……ん、ちゅる、んく」  
「はぁ……ふぅ……。ちゅ……もう、止まれないぞ?」  
 
 とろり、とも。  
 にちゃり、とも。  
 何とも形容し難い感触に塗れた唾液がアタシとおにーさんの口で繋がって。  
 その周りを指で拭って、それを口に含んで、こくり、と一飲み。  
 キスの時はお酒の苦い味がしたと思ったのに、アタシのそれとおにーさんのそれが混ざり合った唾液はどことなく甘い。  
 ――何でだろう、面白い。  
 何かの化学反応だったりするのかな、なんて考えるのはやはりアタシが高校生だからで。  
 ぽわっ、と蕩けた頭でそんなことを考えてみた。  
 
 それとは別に。  
 そんなアタシの仕草が何かの琴線にヒットしたのか、不意打ちのように軽くキスをしたおにーさんは、アタシの耳元に口を寄せて擦れたような声で囁くように問いかける。  
 ――今なら、戻れる。  
 ――ここまでなら、おにーさんも止まってくれる。  
 ――今なら、普通の日常で我慢できるかもしれない。  
 この先に待っているであろう非日常な行為を不安に思うアタシの中の何かが、そんなふうに訴えかけてくる。  
 それに従うことは何ら恥ずかしいことは無いのだ、とおにーさんの視線が、そっと語りかけてくれていた。  
 
 ――やっぱり優しいな、おにーさん。  
 でも、そのおにーさんの優しさが逆にアタシの中の何かを吹っ切らせた、なんて知ったらどんな顔をするのかな、なんて思って。  
 にっこり、と笑って心配そうな顔のおにーさんに不意打ちのキス。  
 ちゅっ、とさっきまでとは違う触れるだけのキスの後に、アタシは口を開いた。  
 
「アタシ、初めてだからさ……優しくしてね?」  
「……はぁ。……わかった、出来る限り優しくするよ」  
「へへ。よろしくね……んっ、あっ……」  
 
 そんなアタシの言葉に観念したのか。  
 苦笑するその様はそれまでと同じで幼さを感じさせるのに、その視線は何処か見知らぬ誰かみたいで。  
 アタシの奥を覗こうとするようなその視線にぞくり、と身体を固くさせて、そっと頬に添えられたおにーさんの手が暖かくて安心して。  
 再び絡まろうとする熱い舌――それに意識がいくと同時に、制服とセーターの上から、そっとおにーさんの手がアタシの胸へと触れた。  
 
 ふわっ、と初めてのキスのように軽く触れるだけみたいなのに、けれど、確かに触られている感覚。  
 それが何故だか自分の身体のものではないようで、でも、少しだけ力を入れられて形を変える胸はアタシのもので。  
 理性と感覚、それに擦れ違いがあるようで、少しだけ不安だった。  
 
「緊張、してる……力、抜いて」  
「う、ん……んっ、ふ、ぁ。ちゅ、んぁ……」  
「……脱がすよ」  
「や……は、んッ。ふ、んんっ……あふ、っぁ……」  
 
 そんな不安を、おにーさんの唇を求めることでうやむやにしていく。  
 いつの間にかおにーさんの両手はアタシの左右の胸へと当てられていて、軽く、でも確かに力を入れて揉まれていく。  
 もにゅ、むにっ、と。  
 カーディガンと制服のワイシャツの感触が確かにあるのに、それが丸ごと形を変えられていく、その感覚。  
 自分ではない誰かが胸を揉んでいるのだという羞恥と、それをされながらも交えて絡めていく舌の熱くて甘い感覚。  
 それが頭の中でぐちゃぐちゃと混ざり合うように溶け合って。  
 ちゅっ、ちゅるっ、んちゅ。  
 唾液と粘膜の奏でる音がアタシの身体から力を抜いていって、またおにーさんの肩に手を置く形になって。  
 そんなアタシの胸を揉んでいたおにーさんの手が、すっ、とカーディガンのボタンに伸びた。  
   
 ――ああ、脱がされちゃうのか……アタシ。  
 実際はそうでもないだろうに、カーディガンのボタンを外す音がいやに頭の中に響いていく。  
 ボタンが一つ一つ外されていくたびに見える範囲が増えていく白い布地にどくんっ、と胸が暴れて。  
 カーディガンのボタンが一番下の数個以外を外されて。  
 暑い時にしたりする格好と同じはずなのに、どきんっ、と身体が震えた。  
 
 ごくりっ、と喉が大きな音を立てて唾液を飲み込んだ。  
 既にキスからは解放されていて、絡まった唾液が頬を濡らしていることを気にすることもなく、アタシの視線はカーディガンからワイシャツへと伸びるおにーさんの手に釘点けだった。  
 ――今度は、あの手がワイシャツを脱がしていくんだ。  
 その事実だけで顔が燃えそうなぐらいに熱くなって、けど、そのどきどきが嫌じゃない自分がいることに驚く。  
 そうしていると、おにーさんに顔を上げられて、唇を塞がれた。  
 
「ん……や、ぁ、ちゅ、んん」  
 
 舌が絡みそうで絡まない距離感。  
 熱い舌を絡めたくて、でも絡まなくて、ならばと深く求めるようにキスをして――ワイシャツのボタンが外されていく感覚に、どくんっ、全身が熱くなる。  
 きっと顔も身体も、肌は全て赤い。  
 そう思えるほどに熱く火照る身体は、それでも舌と舌が生み出す熱を求めていて。  
 一つボタンが外されるたびに感じる空気の流れが少しだけ心地よくて、その心地よさが脱がされていくという事実を明確にしていて。  
 はらっ、と。  
 ネクタイが、素肌とブラジャーの上に落ちた。  
 
「ん、ちゅ……やぁ、恥ずかし。……胸、小さいから」  
「可愛くて綺麗な胸だ…………触るぞ」  
「ふぁ、んっ……。んんっ……ぁ」  
 
 ちゅぱっ。  
 吸い付くように重ねて絡められていた唇が離れて、不足していた酸素を求めて肩を上下させながら露わになった肌とブラジャーを視界に収める。  
 ワイシャツのボタンはカーディガンと同じぐらいに開けられていて。  
 中途半端に開いたカーディガンとワイシャツ、その非日常な光景に頭がくらくらした。  
 どくんっ、どくんっ、と胸が高鳴る。  
 水着と大して変わらない筈なのに、下着を露わにすることがこんなに緊張するとは思わなかった。  
 キスの熱さでくらくらして、胸はばくばくと鼓動していて。  
 するっ、とおへその辺を汗で少しだけ湿ったおにーさんの手が滑ると、鼓動が高まってついつい声が漏れてしまった。  
 
「ふっ、んんっ……ぁ、はぁ」  
「ゃぁ、ふぁ、ん……ひ、んんっ……ひゃ、ふぅ、ぁ……」  
「……ふにふにとしてて、柔らかい……」  
「ん、やぁ、くちに、しな、んく……んんっ、あっ、ふぁんっ」  
 
 するりと触れられた肌はおにーさんの手に少しだけひっついて、その形をちょっとだけ変えていく。  
 太ったかな、とか、痩せたかな、とか。  
 自分の体型を気にする時とか、お風呂に入った時とか、そういった時に自分で触る感覚とは全然違う――熱くて、甘い感覚。  
 それがアタシの身体に触れていく度に、頭の中がぼーっとしていって何も考えられなくなっていく。  
   
 そうして。  
 下から、そっと持ち上げるようにおにーさんの手がアタシの胸に触れると、びりっ、とした電気みたいなのが、一瞬だけアタシの背筋を流れた。  
 ふわふわ。  
 まるで弾力を確かめるようにアタシの胸に触れるおにーさんの手が、強弱交えてアタシの胸を揉み始める。  
 初めは、優しく。  
 次いで、力を入れて。  
 いつしか下から持ち上げられるようにずらされたブラジャーは最早意味を成さず、ふるんっ、と露わになったアタシの胸はおにーさんの手によって直に揉まれていく。  
 しっとりと汗ばんでいるのはおにーさんの手か、はたまたアタシの胸か。  
 だけど、くりくり、と弄っているのか触っているのかよく分からない感覚の胸の先端――乳首が甘い感覚をもたらして、そんなことはどうでもよくなった。  
 
 びりっびりっ、とさっき感じた電気みたいなものが、背筋と頭の中を流れて、甘い声がアタシの口から漏れていく。  
 初めての感覚に涙とも汗ともつかないものが瞳を潤わせて、時折交わされる舌同士の絡みによって口元が唾液で汚されていく。  
 それが凄くエッチなような気がして、アタシの顔もエッチな顔になってるのかな、なんて思って。  
 おにーさんの熱い舌がアタシの乳首を舐め上げて、アタシはびくんっと身体を反応させる。  
 
「ん……ちゅっ」  
「ひゃあっ、はぁっ、んんっ、なめ、ちゃ……んくっ、つぁっ、あぁっ」  
「ちゅ、ん……れぅ」  
「はっ、ん、はぁっ、あ、あぁ……うぁ、んぁ」  
 
 熱い、ただ熱い、そんな感覚。  
 既にぷっくりとし始めていたアタシの乳首はおにーさんの舌によってその形を様々に変えて、その熱を求めては受け入れていく。  
 れる、と熱い舌で舐められて。  
 くに、と固い歯で甘く噛まれて。  
 ちゅる、と熱くて甘い唾液が絡まっていく。  
 その度にアタシは甘い色に染まっていく声を漏らしていて、頭の中にあるぼーっとした熱が段々とその色を白く染め上げていく。  
   
 いつのまにかもう片方の胸にはおにーさんの手が伸びていて、胸全体を揉み上げながら、その指や掌で乳首を刺激してくる。  
 それが凄く気持ちよくて、びりびりと頭の中を電気に似た何かが走っては、胸の奥底にむずむずとした感覚――快感を生み出そうとしていて。  
 身体の力が抜けていく感覚と身体が熱くなっていく快感に逆らえずにおにーさんにベッドに押し倒される形になって、震える身体で力無くシーツを掴んで。  
 
「ふぁ、ぁ、ゃ、んっ……ひ、ぅ、な、んぁ、きちゃ、っぁ……〜〜〜〜〜ッッ」   
 
 そして。  
 かりっ、と。  
 まるでその奥にある何かを引きずり出すように噛まれた乳首は、つきんっ、とした痛みと同時に甘い快感を全身に走らせていて。  
 ぶわっ、と頭の中にあった白い熱が全身や頭の中を一気に駆け抜けていって。  
 アタシの視界は、真っ白に染まっていた。  
 
◇  
   
「ん……」  
「……濡れてるな」  
「……むー。デリカシー無いなー、おにーさんは」  
「む……すまん」  
「……初めてなんだから、優しくしてよね?」  
「ああ……分かってるよ」  
「わっ」  
 
 ぴくんっ、ぴくんっ。  
 視界も身体も何もかもが熱で真っ白になった余韻に身体が震える。  
 見たことも聞いたことも感じたこともないその感覚は、面白いと思えるかは人それぞれだと思ったが、アタシは嫌いじゃないな、なんて思った。  
 身体中の至る所がひくひくとするのは自分の身体じゃないみたいだけど、それが非日常的で何処か面白い。  
 なんてことを考えて。  
 するん、と片足に残すように脱がされた下着に、とろり、と少しだけ糸を引いた粘質な液体。  
 それが自らの秘所から溢れ出た愛液である、と理解してアタシは顔を熱くする。  
 
 ――濡れちゃってるんだ、アタシ。  
 その事実がまた恥ずかしくて、でもどきどきとしていて。  
 すりっ、とおにーさんの指がアタシのそこ――秘所の廻りを撫で上げると、とろり、と熱い愛液がまた溢れていた。  
 
「ん……んっ、ぁぁ、んっ、ふあっ、やっ、んぁ」  
 
 にちゅり。  
 粘質な水音が、アタシの秘所を触るおにーさんの指で数を増やしていく。  
 秘所の入口を指先で探すように掻き回され、その敏感な部分――クリトリスを溢れた愛液によって濡らされていく。  
 その度に秘所の入口はひくひくと蠢いて、とろりとした熱い愛液は溢れ出ては、おにーさんの指を濡らしてクリトリスをも濡らしていく。  
 くちゅ、にちゃ、ぬちゅ、くにゅ、くりっ、ちゅぷ。  
 まるで舌を絡めるキスのように入口の廻りをべとべとにして、敏感な部分を濡らされて、責められて。  
 ビクビクッ、と。  
 ゾクゾクッ、と。  
 身体と背筋が震えて熱を生み出し、まだ何も受け入れていない秘所の奥がじゅん、と熱くて甘い熱を灯した。  
 
「はぁ……はぁ……ん、ふぁ……おにーさん?」  
「はぁ、はぁ……いくぞ?」  
「ん……大丈夫だよ…………きて?」  
「ん……」  
「ふ、ぁ……んくっ、〜〜〜〜〜ッッアァ」  
 
 胸の奥と秘所の奥が熱くて甘い何かを求めている、そんな感覚。  
 ぼろんっ、と取り出されたおにーさんの太くて長いそれ――肉棒にそれ以上のオモシロい何かを期待して、とろんっ、とした頭でおにーさんの言葉に頷く。  
 くちゅり、と肉棒が添えられた秘所は何かを取り入れようとヒクヒクと入口を蠢かし、その度に愛液を零しておにーさんの肉棒を濡らしていく。  
 受け入れ準備は万端、とでも言いたそうな自分の身体が恥ずかしくて、秘所に宛がわれたおにーさんの肉棒の大きさにちょっとだけ不安。  
 ずぬっ、と少しだけ入ったその先が怖くて顔をシーツへと埋めて。  
 ずんっ、と身体の中を無理矢理に押し広げて入ってくる感覚と。  
 ぶちんっ、とその途中で何かを突き破る音――処女膜を破られた痛みが、アタシの背筋を走っていた。  
 
「っ、ぁぁぁ……あ……あ……」  
「くぁ、狭っ……力抜いて……まだ半分だから」  
「あ……は、ぁ……はっ……」  
「うぅ……全部、入ったぞ……」  
 
 ――入っちゃった……アタシの中に……うぅ、やっぱり痛い、すっごい痛い……。  
 みちみち、と先ほどまで感じていた甘い快感は一気に鳴りを潜めて、変わりに引き裂かれた痛みが下腹部を襲う。  
 お腹の中が押し広げられるような異物感は今まで感じたことのないもので、ずぬずぬ、とまだ入り込もうとする熱が身体を中から焼き尽くそうなぐらいに熱い。  
 ずり、とおにーさんが腰を前に進める度に身体がぴくぴくと痙攣するかのように震えて、吐息に混じった声が口から漏れていく。  
 泣くつもりは無いのに、痛みからぽろぽろと涙が零れて、それをおにーさんがぺろりぺろりと舐め取っていく。  
 瞼、頬、鼻、耳――そして唇。  
 いつの間にか絡まっていた舌は痛みから失いかけていた熱を再び交換し、その熱に浮かされるようにおにーさんは腰の動きを始めていた。  
 
「はっ……あっ……ふっ……ん、ふぅ……」  
「すごっ、きつ……ごめっ、我慢できない……ッ」  
「はっ……ふ、ぁ……ひぅんッ、ひゃ、ぁっ」  
 
 ぎちぎち、と引き抜かれて。  
 みちみち、と入ってくる。  
 先ほどまでの甘い時間は一体何だったのだろうか、なんて思えるほどにおにーさんの動きに合わせて痛みが脳天まで突き抜けて、少しでも痛みを逃そうと吐息が零れていく。  
 ずちずち、ずぬり。  
 みちみち、にちり。  
 おにーさんが動くたびにビクンビクンと身体は震えて、舌を絡めるとゾクゾクと背筋が震える。  
 ぽろりと零れた涙は舐め取られて、一つキスを落とされて、そして挿入を続けていく――そんな時、唐突に身体がビクンッと反応した。  
 痛みとも、熱とも、甘い快感とも取れないそれは、さっきから痛みしか与えてこない秘所の辺りからのもので。  
 痛みと恥ずかしさと不安から逃れるように埋めていたシーツから視線を動かして――おにーさんが、腰の動きに合わせてクリトリスを弄り始めたのを理解した。  
 
「あ……あー……ひ、ふ、んぁ。んくっ、ふっ、はぁっ、んんっ、んくっ、ぁ、ん」  
「はぁ……は……少しほぐれてきた……か?」  
「わか、んぁ、ない、よぉ……は、ぁ、ん。じんじん、してっ、なんか、へん、ぁ、ふぁ」  
「はぁ……ん、少し強めでいくぞ」  
「ひぁ、っん、ひゃんっ、ひあっ、な、なんでこれッ」  
 
 小さいながらも痛いぐらいに固くなったクリトリスをさすさすと撫でながら、おにーさんは肉棒をアタシの秘所に深く深く突き入れる。  
 痛みと異物感で一杯だったアタシの中はそれだけで愛液を分泌し始め、ぎちぎち、と固かった感触は次第に粘質な水音を増し始めている。  
 ぐちぐち、ぬちち、ぬちぬち、にちゅん、にちゅにちゅ、ぬぷぷ。  
 抜いて、入れて、抜いて、入れて、抜いて、入れて。  
 その動きに合わせてのクリトリスへの刺激に、きゅんっ、と秘所の奥に消えかけていた熱が再び灯る。  
 指で擦られ、掌で撫でられ、爪先で弾かれ。  
 左手でクリトリス、右手で乳首を同じように弄られて、ゾクゾクッ、と背筋が快感で震え始めていた。  
 
「くはぁ……あ、ぁあっ、やぁ。ひゃ、ぁ……あぁ、んんっ」  
「あ、は……だんだん良くなって……気持ち……ッ」  
 
 破られた処女膜は、まだ痛い。  
 ツキンツキンッ、と鋭い痛みはまだ消えそうもない――それなのに、それを上回るほどの快感が、アタシの中を駆け巡り始めていた。  
 ずちゅっ、ずちゅっ、と愛液は潤滑油の役割のままおにーさんの肉棒に絡みつき。  
 ぐちゅっ、ぐちゅっ、とアタシの秘所はおにーさんの一突きがあるたびにぶるぶると震えていく。  
 そんな震える秘所はおにーさんの肉棒がごりごりと押し入ってくる度に、それをきゅんきゅんと締め付けていく。  
 それが感じているということだと理解して、ぞくっ、て背筋が震えた。  
 
「やぁ、ん、らめ、だよぉ、ん、はぁ、ひぅ、ぁ。初め、てなのっ、にぃ、感ひ、へぅ、ひ、んぁっ」  
「く、ぁ……も、もう、限界が……」  
 
 じゅちゅん、ぐちゅんっ、にちゅんっ、ぬぷんっ、にゅちゅっ、じゅぷんっ。  
 突き入れて、引いて、たったそれだけの前後運動。  
 未だ異物感が拭えないままなのに、潤滑油になっている愛液によって固いままのアタシの秘所がおにーさんの肉棒によって無理矢理に押し広げられるのが、快感だと感じていく。  
 アタシの手はシーツを握ったままで、顔は迫りくる何かを振り払うようにいやいやと振って。  
 時々、おにーさんに顔を掴まれて深く深く舌を絡めてキスをする。  
 上も下も、深く深く。  
 唾液はもうどちらのものか分からないほどに混ざり合って、汗も涙も分からなくなって、熱は互いに溶け合って。  
 むわっ、とした男と女の匂いもどちらのものか分からないほどにぐちゃぐちゃだ。  
 ぐちんっ、と秘所の最奥が肉棒で叩かれて、びりっ、ぞくっ、と快感が身体を仰け反らせる。  
 背中は宙に浮きそうで、そんなアタシの腰を掴んで、おにーさんはただひたすらにアタシの秘所にその肉棒を突き入れて。  
 その肉棒がびくっびくっと細かく脈動を始めて、おにーさんの限界が近いことを何となしに理解して――ぞくっぞくっ、とアタシの何かがそれを待ち望み出す。  
 
「は、ぁん、ふぁ、ふ、ゃぅ、んっ、んぁっ」  
「はぁ……はぁ……ん――出るッ」  
「あっ、アッ、たしも、ぅ、もぉ、んッ、んぁッ、イッ――〜〜ッッァァァ」  
 
 ずぷっ、ずぷんっ、ぶちゅんっ、じゅぷん。  
 びくっびくっと震え始めていた肉棒が秘所の一番奥――子宮をごつっごつっと叩いて、深く深く繋がっていく。  
 にぷちゅ、にゅちゅぷ、ぐぷ、じゅちゅ。  
 ひくひくと、子宮を叩かれて物欲しそうに震えだしたアタシの秘所が、抜かれていく肉棒を名残惜しそうに飲み込んでは、また突き入れられる悦びに震えて、アタシの意識と視界を白く染めようとしていく。  
 おにーさんの肉棒は火傷しそうなほどに熱くなっていて、同じように熱くなっているアタシの中にソレが放たれたら、なんて。  
 初めてなのに、名前も知らないおにーさんなのに。  
 そんな非日常がぞくっぞくっと背筋を走って、アタシの中がふるふるとさっき絶頂を向かえた時みたいに小刻みに震え出す。  
 あと何回、あと何回。  
 突かれる度に白く染まっていく意識の片隅でカウントをして、おにーさんも限界なのか、それまでとは違ってアタシの腰を掴んで乱暴に腰を前後させて、一気にカウントが進んで。  
 ゼロ。  
 そんなカウントと同時にびくんっと跳ねたアタシの視界も意識も真っ白に染まって。  
 一瞬だけ後れて、まるでアタシの中を全て満たすかのように。  
 びゅるるるる、と熱い熱いソレ――精液が、吐き出されて。  
 ごぷり、とアタシの中から溢れ出ていた。  
 
◇◇◇  
 
「はぁー……面白いこと、無いかなぁ……」  
 
 桜が咲き始めようか、と相談を始める日差しを浴びながら、けれど、何処となく肌寒い空気を感じてぽつりと呟く。  
 いつかの冬の日のように白い吐息は空へと放たれなくて。  
 今にも雪が降りそうだったあの日が、遥か過去のようだった。  
 
 たった一晩だけの、面白いことを探す関係。  
 そんな普通ではない――ホテルで肌を重ねた関係を、世間では一体なんというのだろうか。  
 おにーさんはアタシにお金を払おうとしたけれど、そんなことをしてしまえば、その関係にはきっと名前が付いてしまっていた。  
 ――それはきっと面白くない、なんて。  
 ――また一緒に面白いことを探してくれたら、それでいいよ、と。  
 名前の無い何かを探す旅、なんて浪漫溢れる名前を別につけてみて、でも、一人なのは何故か面白くなくて。  
 あの日のおにーさんだったら、一緒に探せただろうか、なんて思ってみたりして。  
 ただただ、時間は無慈悲に過ぎて行った。  
 
「面白いことか……ふぅ……」  
 
 
「――ちょっといいかな?」  
 
 
「……え?」  
「面白いことかどうかは分からないけど、さ……アイドル、してみないか?」  
   
 だからきっと、今日という日も無慈悲に過ぎていくんだろうな、なんて考えて。  
 後になって思い返してみれば、そんなことを思い返したな、なんてことを忘れてしまうような、そんな日に。  
   
 ――あの日のおにーさんは、あの日とは違うぴしっとしたスーツで、そこにいた。  
 
「え……おにー、さん?」  
「遅くなったしアイドルが面白いなんて保証も無いし、そもそも自信も無いけど……面白いことを探すっていう約束、果たしに来たよ」  
 
 ぴしっと着込んだスーツはあの酔っ払いだったおにーさんとは全く別のもので。  
 けど、困ったような、何処か照れたように頭をかくその様はまさしくおにーさんで。  
 それが、酷く懐かしい気がした。  
 
 ――きっとそれは、本当に偶然。  
 ――けれどそれは、本当に偶然。  
 ――そしてそれは、偶然という名の奇跡だった。  
 
 
(偶然という名の奇跡)     
   
「ねえねえ、Pさん?」  
「んー、どうした、柚?」  
「あの冬の日は運命的だったけど、こうして桜の季節も一緒に過ごせて嬉しいな」  
「……ああ、俺も嬉しいよ」  
「実は、さ……結構運命的なんじゃないかなーとか思ってるんだよね、Pさんとアタシの出会い」  
「何でさ?」  
「だってこんなアイドルになれると思ってなかったモン。聖なる夜の奇跡って感じ?」  
「あー……まあ、そういうことにしておくよ、うん」  
「……また、一緒に面白いコトを探してもいいんだよ?」  
「柚っ」  
「てへ」   
 

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