アイドル:速水奏、佐久間まゆ、喜多見柚  
シチュエーション:寝込み、部位別キス  
 
 
「ふぁ……」  
 
 こっくり。  
 舟を漕ぎそうになるが、大きく開きそうになる欠伸を無理矢理に噛みしめて、目元に浮かんだ涙を拭う。  
 視界も思考も働くが、どうにも頭の中が薄いもやがかかっているようで重く感じる。  
 ちゅんちゅん、と時を知らせる鳥の声と、それに合わせて木漏れる光によって、ようやく自らの状況を理解した。  
 
「むぅ……もう朝か……」  
 
 徹夜。  
 首を回し肩を回し、そのたびにゴキゴキと鳴り響く関節の痛みに顔を顰めながら、ふあ、ともう一つ欠伸。  
 ぼんやりとした頭で傍らに置いてある温くなってしまったコーヒーを一気に喉を通しながら、俺は机とパソコンに視線を向けた。  
 
「奏のはこれで良し。ええっと……まゆ、もこれで問題は無し。柚もこれで良い、っと」  
 
 がさがさ、と書類とパソコンを見比べながら、俺はそれらを纏めて封筒へと入れていく。  
 これは仕事の関係書類だ。  
 女子高生の世代に向ける化粧品、そのCM。  
 そんな仕事を取ってきたのはいいが、先方からの注文は、販売目的先である女子高生と年齢の近いアイドルということだった。  
 それに加えて――クールな表情、キュートな笑顔、パッションな元気、それが似合う娘で頼むよ、きみぃ――なんて要望が来たものだから、俺はその選定に動き回っていたのである。  
   
「えーと、あと必要なものは……」  
 
 そうして選定されたのが、3人のアイドルだった。  
 一人は、クールな表情と少女らしからぬ雰囲気を持つアイドルの速水奏。  
 一人は、元モデルで愛くるしくも恋する少女のようなキュートな表情を持つアイドルの佐久間まゆ。  
 一人は、年頃の少女のように毎日を面白く生きようと溢れるパッションのままに笑顔を浮かべるアイドルの喜多見柚。  
 その3人である。  
 
「まゆなら3人の中でもまとめ役が出来るだろうし、奏にしても普段はああでも締める時は締めるだろうし……柚もまあ、仕事をする時は真面目だしな」  
 
 ひな祭りの仕事の時に、ひな壇の準備及び片づけが一向に進まなかったことを思い出して、苦笑する。  
 あっこれ可愛い、とか、ちっちゃいなーこれ、とか、えへへ、とか。  
 人形や小物を引っ張り出してはいちいち手が止まり、思い出したかのように俺と自らが見比べて照れて手が止まっていたな、なんて。  
 そんな情景を思い浮かべて、苦笑が微笑みに変化していることを自覚しないままに、俺は時計へと視線を向ける。  
 
「ふぁぁぁ……んー、少しぐらいなら眠れる、か?」  
 
 時計の針は6時30分を示そうとしていた。  
 8時30分に事務所へ顔を出してくれ、と3人には伝えていたので、計算上はあと2時間ほど時間が空くことになる。  
 ――眠れる。  
 そう思った俺の行動は早かった。  
 まずは、着いたら起こしてくれ、とメモを作成の上で冷蔵庫に貼る。  
 絶対に誰かは見る所だから、間違いないだろう。  
 次いで、それぞれに纏めた書類に時間があれば確認を、という附箋を付ける。  
 これで、もう少しだけ眠れる時間を増やせることが出来た。  
 
「……さて」  
 
 全ての準備は整った。  
 既に頭の中は睡眠不足を訴える頭痛で一杯で、瞼は今にも閉店間近のシャッターだ。  
 ふらっ、ふらっ、ぽすんっ。  
 仮眠室まで行くのは我慢できそうになく、導かれるようにソファに横になって――。  
 
 
 ――そこで、俺の意識は途切れていた。  
 
 
◇◇◇  
 
 ケース1、佐久間まゆ。  
 
「おはようございますぅ……あらぁ?」  
 
 がちゃり、と扉を開けて挨拶の一言――けれど返答は無し。  
 時刻は現在7時30分。  
 普通であれば少しばかり早いと思われる時間だが、扉を開けた少女――佐久間まゆからしてみればこの時間に出てくるのは普通であるし、少しでも早く出てくればプロデューサーと少しでも長くいられるから、なんて少女な想い。  
 そんなことをおくびにも出さず、けれど怪訝な表情で首を傾ける。  
 いくら早いとは言っても、事務所には電気が点いているし扉の位置から見えるデスクではパソコンがらんらんと明かりを放っている。  
 誰か――プロデューサーがいることは明白で、けれどその姿は見えなくて。  
 
「コンビニにでも行っているのかしら……あら?」  
「ぐぅ……ぐぅ……」  
 
 事務所の横にあるトイレに人の気配は無かった。  
 そのことから、件のプロデューサーがコンビニにでも行っているのか、とまゆは推測した。  
 パソコン回りには書類が散らばっているから、仕事が忙しく、けれどお腹が減ってカップラーメンでも買いに行っているのだろう、と。  
 ――カップラーメンは栄養価が偏ってて体にはあまり良くないんですけどねぇ。  
 少なからず好意を向けている――否、愛していると言っても過言ではない相手の体調を心配するのは普通のことだが、それが切っ掛けで嫌われるのも嫌だ、なんて考えるのは乙女だからだろうか。  
 そんな感情をとりあえず置いておいて、プロデューサーの机に向かおうとして――その途中にあるソファに、まゆの視線は釘点けになった。  
 
 少し、ぼさぼさになった髪。  
 それに少しだけ繋がっている、無精ひげ。  
 それに囲まれる形の唇からは寝息が聞こえて、それに合わせて胸とその上に放り投げられた右手が上下する。  
 左手はソファから零れて床に落ち、それでも、何処か無防備なその様は年相応には見えないものだった。  
 
「……少し、無防備ですよぉ、プロデューサーさぁん?」  
 
 少しだけ胸がトクンと高鳴り、温かい感情を胸の中に抱いてまゆはプロデューサーのそばに膝を落とした。  
 閉じられた瞼の回りに少しだけ隅――きっと、徹夜したのだろう。  
 徹夜して、眠くて眠くて仕方なくて、仮眠室までが我慢できずにソファで寝たのだろう。  
 まゆが呼ばれた化粧品CM、彼が徹夜までして仕上げようとすることなどそれぐらいだ。  
 ちらり、と視線をデスクに向けてみれば、そこには確かに自らの名前が書かれた封筒。  
 その中を覗いてみれば、きっと自分に似合う衣装やCM内容が記されていて、アイドルとして大切にされていることを理解出来るだろう。  
   
 だが。  
 まゆはそれをしなかった。  
 
「う、ん……まゆ……」  
「……大切だと思っているのは、プロデューサーさんだけじゃないんですよぉ?」  
 
 はらり、とプロデューサーの前髪を払う。  
 それだけで無防備だった様がさらに無防備になったようで、トクン、とまた高鳴り。  
 ――和久井さんみたいな人じゃなくて良かったですねぇ、プロデューサーさん。  
 モデルの仕事は、女という社会の縮図であった、とまゆは思う。  
 羨望から始まる嫉妬、或いは嫉妬のみ――そんな仕事だった。  
 辟易していた、と言える。  
 女の子らしくて、可愛らしくて、そんな憧れはとうの昔に擦り切れていて。  
 世界に絶望する、その一歩手前から救ってくれたのプロデューサーを慕うのは当然だと思えた。  
   
 ――大切にされたくて、大切にしたくて。  
 
 そんな想いの名を、まゆは知っている。  
 胸を高鳴らせる想いの名を知っていて、けれど、それが表に出てくることを必死に押しとどめる。  
 どのような結末になっても、きっと絶望する――自分かもしれないし、友達仲間と呼べるアイドル達かもしれない。  
 それに耐えられるとは思えない、思っていない。  
 だから、自分は愛でそれに蓋をする。  
 愛なら、向けるだけで満たされるから。  
 
「……」  
 
 ――でも、気づいて欲しい、なんて思うのも、また。  
 言葉には出せない、そんな感情をもって、まゆはツキン、と少しだけ痛む胸のまま。  
 
 
 ――髪に、口付けをしていた。  
 
 
「……朝ごはん、買ってきておきますねぇ」  
 
 床に落ちていた左手をそっとプロデューサーの胸の上において、まゆは物音をさせぬようにとその場を後にした。  
 ――唇が、熱い。  
 
 
◇◇◇  
 
 ケース2、速水奏。  
 
「……あら?」  
 
 がちゃり、と扉を開けて、それで誰もいないことに気付く。  
 事務所の明かりが点いているし、デスクのパソコンの電源も点きっぱなし。  
 あのパソコンの主がプロデューサーであったことを思い出して、少女――速水奏は落胆したように息を吐いた。  
 
「なんだ……早く来ちゃって馬鹿みたい」  
 
 時計の針は7時50分ほど。  
 予定時刻が8時30分だったことを考えると、実に早いと言えた。  
 仕事に関して話がある、とプロデューサーに呼び出された時はそれでわくわくしていたのに、今はそれも落ち込んでいる。  
 それがプロデューサーの姿が見えないだけという理由に、奏は苦笑した。  
 
「けど、プロデューサさんもプロデューサーさんよね、女の子を呼び出すんだから少し早く準備するのは……あら?」  
「ふぁ……むに……」  
 
 依存している、とは違う、何処か寄り添っているような安心感と胸の高鳴り。  
 プロデューサーといる時は、何時もそんな感情を抱く。  
 奏は、その風貌から男女問わずに視線を集める。  
 整った容姿に引き締まった身体、であるというのに出る部分は出ているスタイルで着崩した制服で、さらにはアイドル。  
 それをやっかむ女子は元より、それを狙う男子――或いは教師まで視線を集めているのだから、人気を集めるという点に関しては成功と言えるのかもしれない。  
 けれど。  
 プロデューサーは、そんな視線を奏に向けることは無かった。  
 常日頃から、アイドルとして大切にし、守ろうとする視線。  
 そんな感情が嬉しくて、けれど何故か悔しくて。  
 そんなのだからこそ、奏はことあるごとに唇を寄せようとしてプロデューサーをからかっていた。  
 
 ――そんな奏の視線の先には、無防備に眠るプロデューサーの姿。  
 そんな様が何処かおかしくて、けれど可愛らしくて。  
 自然と、笑みが浮かんでいた。  
   
「ふふ……目元も口元もクマみたい……楓さんみたいね、これじゃ。でも……ふふ」  
 
 眠る目元は若干黒くて、それが口元の黒さに似ていてどこか熊を連想させる。  
 起きている時は芯が通っていながらも優しいというのに、その様はどこか男らしさを感じさせた。  
 どくん、と胸が高鳴る。  
 
「ふふ……あんまり無防備に寝てると、イタズラ、しちゃうわよ……?」  
 
 すぅすぅ、という寝息が頬を撫でるほどに顔を近づけて、プロデューサーのまつ毛が存外にも長いことを知る。  
 良く言えば整っていて、悪く言えば没個性。  
 そんな彼を気にしだしたのは、一体いつごろからだったろうか、なんて自問自答。  
 アイドルになった時、きっとその時なのだ、と。  
 寝息から、少しだけコーヒーの香りがした。  
 
「ん……かな、で……むにゃ」  
「……」  
 
 眠るプロデューサーの頬に手を滑らせて、親指の腹でその唇をなぞる。  
 少しだけ乾燥した感触に、ざらざらとした無精ひげ。  
 どくん、と胸が高鳴って、自然と唇に視線が向かう――ぼっ、と顔が熱くなった気がした。  
 
「……誰にでも優しいと、知らないうちに傷つける人がいるわよ?」  
 
 熱くなった反動で慌てて腕を引こうとして、それでも、引くことなくプロデューサーの頬を撫でる。  
 それだけで幾分か安心出来たのか、熱は少しだけ引いて、心地よい温もりだけが残る。  
 
 ――眠っている時にまで優しいとか、反則でしかないわよね。  
 
 それなのに、それで安心出来たりとか嬉しかったりとか抱きつきたくなるとか、自分はどれだけ乙女だったのだろう、なんて恥ずかしくて。  
 それを隠そうとして、眠っているのをいいことに奏はプロデューサーの顔を覗き込む。  
 ―−近ければ影が出来て見辛いだろう、なんて安直すぎたかな。  
 
「…………」  
 
 そうして、顔を覗き込めば必然的に顔を近くなって。  
 常は近づこうとしても避けられる、そんな唇が目の前にあった。  
 ――どきん、と胸が高鳴る。  
 ――どきん、と一際強く。  
 ――どきん、とさらに強く高鳴って。  
   
「ッ」  
 
 
 ――その耳に、自然と唇を寄せた。  
 
 
「……リップ、塗り直しておかなきゃ」  
 
 寄り添いたくて、けれど、引き寄せたくて。  
 誘われていると思えるほどに無防備なプロデューサーから視線を外して、けれど一度だけまた向けて――次は、唇に、なんて思って。  
 ――顔が熱いままに、奏はその場を後にした。  
 
 
◇◇◇  
 
 ケース3、喜多見柚。  
 
「……うーむ」  
 
 フード付きのパーカーを羽織る少女――喜多見柚は、腕を組んで考えていた。  
 お昼ご飯のこと――ではない、朝ごはんは食べたばかりで、お腹はまだ空いているとは言い難い。  
 学校や宿題のこと――でもない、学校の授業にはついていけているし、宿題等に関しても分からない部分があれば聞くことが出来る。  
 ――まあ、その聞く相手であるプロデューサーが目の前で寝ていることが、柚の頭を悩ませている原因なのだが。  
 
「……ん、にゃ」  
「……ほんっと、気持ちよさそうに寝てるし」  
 
 何か寝言のようならしきものを口にするプロデューサーの頬を、ツンツン、と突っついてみる。  
 むにむにとしていて、けれど女の子のそれとは違う弾力を持っていて。  
 面白いもの、と思えるそれを、ツンツンつんつん、と柚は楽しげに指で突く。  
 
「ん……むぅ」  
「くすっ……」  
 
 時刻は既に8時を過ぎている。  
 プロデューサーに呼び出されたのが8時30分だから、そんなに時間がある訳ではない――のだが、けれど、その時間までプロデューサーが眠っているということに疑問を覚える。  
 確か、まゆと奏が一緒に呼び出されていた筈なのだが。  
 そう考えてみても、まあいいか、と自己完結。  
 ――今だけは、2人きり、なんだよね。  
 そう思って、トクン、と高鳴る鼓動を隠すようにツンツン。  
   
「ん……ゆ、ず……やめ」  
「……起きてるの?」  
 
 ――だと言うのに、どうしてこうもこちらの心を掻き乱すというのか、このプロデューサーは。  
 どきんっ、と一際高く高鳴る鼓動は悪戯が見つかった時のそれに似ていて、慌てて引っ込めた腕は行方もなくぶらぶらと。  
 嫌そうに少しだけ動いた顔はこちらから背けるようにソファに埋まって、重力に任せていた身体は何かの力か、しっかりとソファに寝そべる形となっていた。  
 ちら、と時計を見ると、8時10分が来ようとしていた。  
 そろそろ、この時間も終わりを迎えようとしている。  
 2人きりの時間が終わりを告げる――その事実が胸の奥底を少しだけもやっとさせて、むー、と一唸り。  
 
「よし……お、起こしちゃったら、ごめんね……?」  
「ん……」  
 
 名残惜しい、そう思ってしまう時間が終わってしまう――ならば、その残り時間を色濃くしよう、と画策してしまうのは、果たして罪なのか。  
 ――いや、罪ではなかろう、ふふ。  
 うんうん、とこれまた自己完結をさせて、柚は、どきん、と高鳴る鼓動と熱くなる顔を極力暴れさせないように、ソファへと――その上で眠るプロデューサーの更に上へ、身体を落としていく。  
 ぎしり、とソファが2人分の体重に耐えきろうとして苦痛を漏らし、それでも負けじと確かな弾性でそれを耐える。  
 細そうに見えて以外としっかりと筋肉がついている腰は柚を支えるには十分なもので、薄そうに見えるその胸板は柚がもたれるに十分な広さと安心できる厚さがあった。  
   
 ――汗とアイロンと、男の人の匂い、だね。  
 どきんどきん、と高鳴る鼓動はプロデューサーの胸板によって形を変える自身の胸から確かに聞こえていて。  
 その事実と現実が、何処か安心出来てしまうということに柚は苦笑した。  
   
 ――きっと2人でいるだけで、何もしなくても楽しくて安心出来ると思える。  
 
 それが何だか嬉しくて、けれど何処か悔しくて。  
 もう少しだけ悪戯してやろう、と思った柚は、けれど、浮かび付いたそれに顔を真っ赤にと染めた。  
 ――う、うぅ、無防備なプロデューサーさんが悪いんだからね。  
 そうして顔はプロデューサーの顔に近づけられて。  
 少しだけ重たそうに、けれど何処かその重たさを享受するかのように身じろぎしながら胸を上下させる、そんな動きに柚は合わせていた。  
 
「……ん」  
 
   
 ――その頬に、キスをする。  
 
 
「……このまま、私も寝ちゃおうっと」  
 
 少しだけ恥ずかしくて熱いけど、でも、少しだけ安心できる熱。  
 それが全身に優しく巡って、うとうと、と瞼が重くなる衝動。  
 ――それに逆らうことなく、えへへ、と柚は眠りについた。  
 
 
◇◇◇  
 
 結論から述べれば、そのCM撮影は大成功であったと言っていい。  
 
 可愛らしくてキュートな化粧をしたまゆは髪にキスを(寸止めである)して――思慕を表現し。  
 綺麗で大人っぽいクールな化粧をした奏では耳にキス(こちらも寸止め)で――誘惑を表現し。  
 パッションな魅力溢れる化粧をした柚は頬にキス(もちろん寸止め)で――親愛を表現し。  
 
 キスをする部位によってその意味が変わることは知っていたが、年頃の女の子らしい感情を言葉に出さずに表現するというそのCMは実に――特にまゆ達の同世代の女の子達から好評だったらしい。  
 時々、浪漫志向の高い勘違い男やギャル男が女の子を口説く目的などで購入したらしいが、まあ、好評であったという事実は大変喜ばしいことであった。  
 続く新開発中の商品もCMを頼みます、などと逆に依頼されたのだから、それも仕方がないだろう。  
 
 ただ、まあ。  
 
「……プロデューサーさぁんはぁ、まゆだけを見てくれるんですよぉ?」  
「あら……それはどうかしらね? 私は……ふふ」  
「えへへ……私は〜……えへへ」  
「寝ていたから、カウント無しですねぇ」  
「ええ、そうね。ノーカンね」  
「ええっ?!」  
 
 あの日から、まゆ達同士の距離感が変わったような気がするのだ。  
 剣呑か、と思いきや、今みたいに冗談交じりで談笑することもあるし、かといえば――俺が混じった時だけ――ぴりっとした互いを牽制し合うような雰囲気にもなったり。  
 まったく、謎である。  
 あの日――俺が仮眠から起きた時に何故か言い争いをしていた時からすれば、仲が進む進歩でもあったのかもしれない、なんて思うことにしておこう。  
 今の俺に出来ること。  
 ――それは、アイドル達と供に歩んでいくことなのだから。  
 
 
「みんな、これからも頑張っていこうな!」  
   
 
(アイドル達と、眠れる事務所の王子様)  
 
 
「……うふふ」  
「……デリカシーが無いわね、プロデューサーさんは」  
「鈍感とも言えるよね」  
「何で俺が責められてんの?!」  
「プロデューサーさん、ですからねぇ……」  
「プロデューサーさんだものねぇ……」  
「プロデューサーさんだもんね」  
「……」  
 

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