「あー、ダメだダメだ、もう一回」  
何度目かわからない声が二人しかいない空間の中でよく響いた  
 
長い仕込みだった・・・心からそう感じていた  
ここで目的を達成するにはいくつもの条件が必要だった  
一つ、2人だけでいるということ  
一つ、周りに感づかれてはいけない  
一つ、この噂が広がってはいけない  
本当に長い道のりだった  
まず第一関門は本人のやる気であった、もともと引っ込み事案でなかなか前に踏み出せないような性格である  
とにかく持ち上げ奮起させなければならなかった、無論実力も必要だった  
だが、その点は心配していなかった、もともと磨けば、いや、磨かなくとも輝いていた、これは周りが気づいてなかっただけである  
 
そして目論見通り当然の事を成したようにオーディションは通った、正直、役目などなんでも良かった  
そう、ある程度のセリフがあれば良かったのだそれがヒロインの母でも、主人公の弟の麗人でもだ  
が、しかし、想像の上を彼女はいった、監督が気に入りヒロインとなったのだ  
 
そして第二関門である、監督は彼女を大層気にいって演技もベタ褒めしてしまっていた・・  
いわゆる褒めて伸ばす、自信が役者を目指していた頃いびりで嫌な思いをしてかなり心に黒いものがあったようだ  
その反動でか彼は褒めていた、これが仇となった計画に支障がでてしまうのだ  
だが折れるわけにはいかない、何度も彼と食事に行ったり打ち合わせなど行い、なんとかお互い心を許せるような感じができてきていた  
そしてあるとき、食事中にお願いをした、撮影中にこき下ろしてほしいと  
彼は困惑したが、これからの彼女の人生のために一度挫折を知っておいてほしいのだ、と話すと、なるほど、とうなづいた  
 
次の日約束通り彼はやってくれた、撮影が中断された後監督がこっそり来て、フォローしてあげてね、と声をかけてきた  
 
効果は覿面だった、もともと小動物的な彼女はかなり落ち込んでくれた  
そして周りのアイドルの仲間のみんなが彼女を慰めた、よくできた娘たちだ  
元気を取り戻してきた時、押しの一手である  
 
「特訓だ、次の撮影までに特訓してあの監督を「あっ」と言わせてやろうぜ」  
最初は悩んだようだったがすぐに良い返事がもらえた、よしよし  
 
そして第三関門を迎えた、次の敵はトレーナーである、よほどの事がなければアイドルのレッスンはトレーナーさんが行ってしまう  
もしそんなことをされれば今までの努力は水泡に帰してしまう、それだけは避けねばならなかった  
背に腹は代えられない、俺は夢を掴むため、止まるわけにはいかなかった  
次の日、トレーナー4姉妹に、熱海の旅館の旅行券を渡した、絶対に断れぬよう、アイドルのスケジュールは完全に調整しておいた、おかげで寝不足である  
その日に出発させもはや障害は排除できたと思っていた  
 
しかし、最後の難関はあった、デビル川ちひろである、予定では借りたレッスン場で計画を実行に移すつもりでいた  
だがデビルは俺の苦労を「トレーナーさんがいないんじゃレッスンはしないですよね、キャンセルしました」などと笑顔で言ってきた  
近くに灰皿かアイスピックがあればおそらくコナン君の出番があったのではないだろうか  
俺はデビルに、たまには美味しいものでも食べてきてください、と言って金を渡し、追い出すことができたのだった  
 
長い道のりであった、俺はいよいよ栄光の架橋、夢への第一歩、レッスン場に見立てられた会議室の扉を開いたのであった  
 
そしていよいよ、浅野風香との特訓が開始された、ほかのアイドルにも知られていない  
知られればおせっかいなアイドル軍団が押しよせてくるからである  
細工も行った、会議室の窓から一切光を洩れなくした光が漏れていればそれこそアイドルが突入してくる可能性が無限に広がってしまうのだ  
そう、まさに秘密特訓、俺の中の戦いが始まろうとしていた  
 
計画に動きはいらない、必要なのは勇気と発声練習だけだった  
そして発声練習が始まった、声はよく出ていた(と思う)、しかしそれは言わず険しい顔を続ける  
無論、発声のことなど知らない、そしてある程度時間の経過をみて俺は立ち上がった、そう、夢をつかむためだ  
風香は立ち上がった俺を見て演技を止めたが続けろと言うと続けた俺は後ろに回り込み彼女の腹に手を当てた  
彼女は「ひゃっ」と声を上げたが続けろというとやはり続けた  
「あーだめだ、ダメだ、腹から声が出てない!」  
本当になにも知らないが腹式だのオクターブがなんだのと普段からレッスンの時に言ってる言葉を連呼した  
彼女も何がなんだかわからなさそうだが、俺もわからん、だがそんなことはどうでもいいのだ  
とにかく混乱して正常な判断力を少しでも失わせることが目的なのだ  
いよいよ計画も佳境である俺は腹から手を離すと有無を言わさず今度が耳を彼女の腹に当てた、予想はしていたが小さく抗議の声が上がった  
しかし俺は取り合わない、腹から声を出すんだ!そう強くいうと再び彼女は特訓へと戻った  
ある程度時間が立ち彼女がいよいよ平静を取り戻したあと俺は急に  
「よーし!いいぞ声がでてきた!!」  
と声をあげ大きく頷く、いや、頷いたのではなく正確には頷きではなく頭をかなり上下させたのだ  
よーしなど実際はどうでもいい、要は頭を動かせればいいのだ俺の頭はいよいよ彼女の胸に当たった  
至福の瞬間、これをずっと待っていた、傍目から見てもでかい彼女の胸はまさに夢だった  
これには当然彼女は再び声をあげた  
取り合うわけにはいかない  
「どうした、どんどん声を出していけ!」  
喝を入れる、実際は間違いなく声は小さくなっているだろう、だがそんなことはどうでもよかった  
とにかく頭を上下させ彼女の胸を揺らし天国に居座り続けた  
 
そしてしばらくして頭の上下運動を止めると平静を取り戻したように声を出し始めた  
当然これで終わりではない、俺の最後のオッパイレクイエムが幕を開ける  
俺は耳を当てたまま左手も器用に手を当てた、そこに彼女が一瞬気を取られたその刹那、彼女の背中を回り込んだ俺の右手は彼女の胸の上に到達した  
かなりの悲鳴をあげたのではないだろうか  
だが俺はその悲鳴を上回る声で彼女の発声を称えた  
右手の事には一切気づかないふりをして続けさせる、もはや発声などどうでもいいのだ  
よし!よし!といいながら彼女の胸を撫でまわした、ちょうどドラマ内容的にもいわゆるくさいセリフが入っており  
いい演技だ、などと褒める、無論彼女の胸の柔らかさを右手に感じながらだ  
行動は進む、少しづつ力を入れいよいよ揉み始めた、これには  
「あの・・・胸・・・」  
などと抗議してきたが、そんなセリフは台本にはないぞ、と続けろのラッシュで切り抜け  
よーしともーみのコラボレーション  
下着はつけているだろうが彼女の胸はとにもかくにも柔らかい  
頑張って真剣な声を出してはいるものの今の俺の顔は弛緩しきった情けない笑顔をしていることであろう  
少し強くそして優しく彼女の胸を強弱をつけて揉む、どう揉んでも彼女のむねは優しく俺の手を跳ね返す  
素晴らしい、永遠にこの感覚を味わっていたい、そう感じたがいよいよ終わりが近づいていた  
彼女の声が先ほどから少し震えている、泣き出されトラウマにでもなってしまったら大変だ、その先に待つのはデビルの粛清である  
 
真に残念だが作戦はここまで、彼女から離れた  
さわやかな笑顔で今日はここまでだな、と言った、そして  
「夢中になったとはいえ女の子のお腹や腰を触るなんて本当に失礼なことをしてしまった、すまん」  
腰を90度曲げ謝罪する、あくまでつかんでいたのは腰だ、腰は曲げても主張を曲げるわけにはいかなかった、俺は自分を曲げないよ  
そんな様子を見て呆気にとられたか彼女はあっさり俺を許し頭を上げてくださいなんて言う  
計画通りだった  
 
 
その日は彼女によるご飯をご馳走し家の近くまで送った、その間彼女の胸を見るたび、下半身にテントが張られていた  
事務所に戻り会議室にしかけておいたビデオを回収し帰宅、レッスン中は見えなかった彼女の恥ずかしそうに耐える姿を見て  
そして右手に残る素晴らしい感覚を思い出し異常に興奮した  
 
次の日から再びドラマの撮影が再開された、撮影は滞りなく進んだが  
彼女の視線が今までと違う気がした、もしや怪しまれてしまっただろうか  
数日彼女への対応は細心の注意を払い行った、だがそんなものは所詮は杞憂だった  
 
ある日事務所で彼女は俺の傍に近付いて耳元で囁いた  
 
「またレッスンお願いします」  
 
俺の真の戦いはこれからだ    完  
 

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