地方出身者が多いとあるプロダクション、その中には様々な事情により実家から何時間も掛けて通勤するメンバーが一定の割合存在する。
そんな娘達の交通費、時間の制約等々の不都合解消のため、学生寮の様な簡素ながらも寝泊まりができる施設が併設されていたりする。
親御さん達にも、送迎ついでに現役芸能人に会えると言う現金な理由から概ね好評で。
ただ問題は、管理人代わりのプロデューサーは男性だと言うことで…。
ブライダルショーも無事終わり、
年少組はそろそろ寝る時間。
とあるプロダクションに併設された、アイドル用宿泊施設の談話室は、いつも以上に騒がしかった。
そして現在進行形で、全力ではっちゃけているのが約一名。
ご存知、妄想アイドル(?)喜多日菜子である。
〜喜多日菜子の妄想劇場、開幕中〜
「白亜の教会…手に持つブーケ…薄いヴェールに白いドレス…そして何より!隣を歩く王子様、いいえ旦那様!朗々と上げられる誓いの言葉……そして、そして二人は…!」
かおる は よくわかっていない!
ちえ は うっとりしている!
くみこ は あきれている!
さちこ は きょうみがなさそうな ふりをしている!
川島さんは…まあ、うん、チャンスあるよ、きっと。
「何で私にだけ妙に引き気味なの!?」
神の声に反応しないで下さい。
十人十色の反応が起こる中、妄想劇場(日菜子の特技。特定の駄目な…否、想像力豊かな人達がいると効果アップ)
のある意味最大の被害者が帰還。
「只今戻りましたー。ん、どうしたんだ?皆集まって」
「ただいまーってうわぁ、部屋にぽわぽわした空気とダルそうな空気が混在してる!何これ!?」
「あ、やっと帰ってきた。和久井さん何か言ってた?」
「こういったイベントならもっと相応しい人がいるでしょうって、最後まで不満そうだったよ。ま、口元が微妙に緩んでたけどな?…ともあれ、久美子に響子、お疲れ様。ほらほら皆も!話を聞くのは明日の朝にでもしてやってくれ、な?」
「ありがと、プロデューサー。響子も、さっさとシャワー浴びて来なよ。私は先に寝させて貰うね」
「うん、そうさせて貰うね。…あのー日菜子ちゃん、ちょっと通してくれるとありがたいんだけど…」
「あ、お帰りなさい響子ちゃん、プロデュー…いえ、アナタ!」
「相変わらず脈絡が無いなぁ!けど何となく経過が想像できてしまう自分が恨めしいよ!」
「愛の力ですよね!」
「慣れただけだ!」
「あ、あの…千枝、鞄、お持ちしますねっ」
「うん?いやいやいいよ、重いし。アイドル相手に恐れ多い…」
「だ、大丈夫ですっ。これも奥さんのつとめ、ですっ」
「…うん、千枝は千枝で落ち着こうか。何度だって言うけど、恩返しのつもりで俺を社会的に殺そうとしないでくれ」
「え、あう…そんな…」
「いや、迷惑とかそんなんじゃないんだ。ないんだが…年齢とか、年齢とか、年齢とかを考えよう、な?」
「うう…晶葉さん、コールドスリープぎじゅつのかいはつはまだですかー…?」
「何恐ろしい計画の一端をポロっと漏らしてんの!?何!?俺千枝と同い年になるまで冷凍保存されんの!?」
「い、いえ…その、できれば千枝より三歳くらい年上がいいなー、とか…えへへ」
「違う、問題はもうちょっと根っこの方だ!三年程度の開きとか気にしてる場合じゃ無い!」
「…そうだよ…千枝。ほら…あっちの……方…」
「ああ、確かに10年の開きをものともしない古兵達がいますね」
『流石にそこまで離れて無いわよ!』
「こっちはこっちで脳がアルコール浸しになってらっしゃる…」
「まあ、ある意味一番この手のイベントに近い人達だけにちょっと悔しかったんじゃないでしょうか。…ある意味、一番遠いとも言えますけど」
「若干ヤケ酒気味な人がいるのはそのせいか…。まあ、今回のイベントも大成功だったし少なくとも1、2件はモデルの依頼が来るだろ。何ならファンクラブ誌用にこっちから撮影に出向くのもアリだし…」
「ほんと!?せんせー、かおるもあんなの着てみたーい!」
「ジュニア向け雑誌でウェディング衣装か…。よし、リサーチしてみるよ」
「…ちょっと、期待……してる」
「ま、当分結婚できる年齢にはならないお子様達も、そろそろ永遠に結婚できなくなるお姉様方も夢をみる分には自由ですよねー。
と、言うワケでここは間をとってボクがプロデューサーさんを一生飼ってあげますね♪」
「寝言は寝て言え。自称カワイイ(笑)ちんちくりん娘」
「酷くないですか!?と言うかその称号いい加減にやめてください!段々世間一般に定着して変なキャラ付けがされつつあるんですから!」
「やかましい自業自得だ!お前ら色物枠のおかげで、最近年少組が間違った方向に逞しさを獲得しつつあるんだぞ!?」
「ぐ、そこを突かれると何も言い返せない…!」
「いや、それ以前に輿水君も結婚できる年齢では無いような…まあ、それを言うなら五十嵐君もまた然りだけどね。…あといい加減、君らは痛飲を止めないかな」
「いいれすよーだ…どうせ外でお酒飲んだら補導されるんれすもん。うぇりんぐどれるらんて、着ても裾を引きずるんれす…うぅ」
「いや日下部君、あれはもともとそういうものであって…ダメだ、聞きやしない。と言うか君は二十歳になったばかりなんだから…いや、これ以上は藪蛇だな」
「ふ、ボクを甘く見ないで下さい東郷さん。あと2年プロデューサーさんが結婚しなければ何の問題もないんです、そしてこんなプロデューサーさんをわざわざ選んであげるような物好きなんてそうそういるワケが無いんですから、ほら、自ずと行き着く先は決まってるでしょう?」
「いや決まってねぇよ!好いてくれる相手もいないのに無理に結婚しようとは思わないし、例え相手がいないのに結婚したくてもお前のペットと化す理由にはならないよな!?」
「…日菜子が言うのも何ですが、プロデューサーさんはもう少し今の周囲に目を向けるべきだと思うんです。切実に。響子ちゃんもそう思いませんか?」
「あ、やっとクールダウンした。と言うか、ゆっくりシャワー浴びたはずなのにまだ皆いるし…。
うーん、ほぼ皆押せ押せな現状じゃ、逆に気付かないものなのかもねって、以前三浦あずささんが言ってたよ?」
「…やっぱり、765プロにいたときもプロデューサーさんはこんな感じだったのかな…千枝、自信なくしそうです」
「うん、こっちに何かと理由を付けて遊びに来てるって事は…やっぱりそうなんじゃ無いかな…
ごめん千枝ちゃん、フォローはできないけどそんな年齢に見合わない遠い目をしないで、ね?
ほらほら川島さん日下部ちゃん、そんな所で寝てたら風邪引いちゃいますよー?」
「はい、がんばります…うぅ。
あ、薫ちゃん寝ちゃってる。雪美ちゃん、運ぶの手伝ってくださーい」
「……ん」
「お、やっとお開きか。それじゃ皆、お休み。俺もシャワー浴びて寝ますかね…幸子もあまり気にすんなよ、お前にだって絶対似合うからさ、ウェディングドレス」
「は…はぁ!?な、何を当たり前の事を言ってるんですか!ふんっ、そんなんでボクの機嫌を直そうだなんて、プロデューサーさんの浅はかさにはガッカリです」
「や、口元ヒクヒクしてるじゃないか。相変わらず分かり易…いや何でも無い。
大丈夫、明日にでもモデルの仕事、とって来てやるから。じゃ、お休み。
…こないだみたいに、腹いせにベッドに忍び込むのはやめろよー?双海姉妹で懲りてるし、同じ手は食わんけどな」
「な…っ、何を去り際に暴露してんですかぁー!…はっ、いや違、捏造、そう捏造です!何を去り際に捏造してんです…か…」
「…さーちこちゃん♪お部屋に戻ったら、寝る前にちょっとガールズトークでもしよっか?」
「う、うわぁぁぁん!プロデューサーさんのアホぉぉぉー!」
「そんなアイドルにあるまじき叫びを上げないの。さ、連行連行ー」
「あー…響子君、なるべく静かにしてくれよ?それさえ守ってくれれば、まあ…存分にやってくれたまえ」
「東郷さんまで酷い!?」
そうして夜も更けていく…。