「カエルってさ、リーネ様のこと好きなの?」  
ゲルン、と変な声が出る。  
喉の近くにしまってある長い舌を思わず飲み込みそうになった。  
質問者である少女―ルッカはひどく真剣な顔つきでカエルの方を見ている。  
答えない限りここから離れることは許さない、と言わんばかりの勢いだ。  
カエルは改めてリーネに対する自分の感情について考えてみた。  
好きかどうか。  
恋愛感情など複雑なもの抜きにしてそう聞かれれば、迷いなく「好きだ」と答える。  
しかし目の前の少女が求める答えはそういう類のものではないだろう。  
十年以上前から、ガルディア王家の騎士としてずっと傍に仕えてきた。  
サイラスが死んでからは、彼の遺志を継ぐべくずっと陰で守ってきた。  
リーネの方も、自分に絶大な信頼を寄せている。  
おそらく今はもう自分の正体に気づいていることだろう。  
醜いカエルの姿でありながらも差別することなく自分に接してくれる。  
自分にとって、最も近しい女性のうちの一人であることは間違いない。  
しかし、これが恋愛感情かどうかというのは、今まで考えたこともなかった。  
それはやはり自分の主君であるガルディア王の奥方であるためであろう。  
では、リーネが独り身であったら?  
もしかしたら自分は好きになっているのかもしれない。  
漠然とカエルはそう思った。  
「…そうだな。好きなのかもしれないな」  
「…ふーん」  
ルッカは少しの焦燥感を覚えた。  
だが、これまでの王妃様本位のカエルの行動を見ていた限りでは分かりきったことだ、ともルッカは思っていた。  
(何だか、悔しい)  
カエルの中のリーネの存在の大きさを知らされる。  
きっと、生半可なことではリーネに勝つことはできないだろう。  
ふと、ルッカの中に悪戯心が芽生えた。  
獲物を見つけた猫のようにじっとカエルを見つめ、じりじりと近づく。  
おもむろに彼の股間を一撫でした。  
「…っ!?」  
驚きでびくりと身体が跳ね上がる。  
同時にびりっとカエルの身体を強い快感が走り抜けた。  
ルッカはそのまま優しく手を上下に動かし続ける。  
突然の展開に完全に無防備な状態だったカエルは、  
自らの身体の変化を自制することはできず、  
彼の中心は熱を持ちたちまち形を作って立ち上がる。  
その感覚にはっと我に返り、力を振り絞ってルッカの手首を掴んだ。  
これ以上触られたら、自分がどうなるか、彼女になにをするかわからない。  
ルッカの手首を押さえ込むのと同時に、自分の欲望を必死で抑えつける。  
すると、ルッカはむっとした表情になり、  
さらに身体を寄せてぬめった肌に唇を寄せてくる。  
あまりの密着度にカエルはバランスを崩し、  
少女に覆いかぶさられる形で二人は草むらに倒れ臥した。  
ルッカの腕を押しとどめいていた自分の手が離れる。  
ルッカはそれを確認して、なおもカエルの熱を撫で続けた。  
 
(…何が起こっているんだ?)  
かろうじて残っている理性で現在の状況を何とか把握しようとするが、  
十年ぶりの刺激に頭が快感で支配されるのにそう時間はかからなかった。  
カエルが抵抗する気を完全に失くしたと判断し、ルッカはほくそ笑む。  
「あなたにはちゃんとついてるのね。  
 普通カエルって、交尾しないからペニスがないんじゃなかったかしら?  
 身体の全てがカエルになったってわけじゃないのね」  
まるで生物学の講義をしているように、普段どおりの理性的な口調でそう言われる。  
しかしその口調とは裏腹に、その手を止める気配は無い。  
それどころか、先程よりもより熱のこもった手つきでぐにぐにと弄くられる。  
喉の奥でくるる、といつもより心なしか高音の鳴き声が上がる。  
もう我慢できない。  
完全に理性が欲望に塗り替えられる。  
衝動を抑えることができず、自分でも驚くほどの力でルッカの身体を返し、草むらの上に縫いとめた。  
もどかしく彼女の首元を隠すスカーフを取り去り、腰布を解いた。  
ぐいっと左右の袷を開き、長い舌でべろべろと首筋を舐める。  
くすぐったそうにルッカが身を捩った。  
彼の舌は非常に長く、一舐めするだけで大部分を湿らせる。  
また、人間のものよりも粘着性があり吸い付かれるような感触がする。  
ルッカの首筋から肩口にかけてが自分の唾液でてらてらといやらしく濡れ、  
カエルの欲望をさらに刺激した。  
シャツを捲くり上げると、意外と豊満な胸が露わになった。  
ブラジャーのホックをはずし、上にずらす。  
赤く色づいた二つの実が、期待にふるふると震えて硬く上を向いている。  
これからこの長い舌で、どういう風に嬲られるのだろう。  
そう考えただけで、ルッカはどうしようもなく興奮し、身体が熱くなった。  
ふいに片方の乳首を一舐めされる。  
「んぅ…っ!」  
びりり、とルッカの身体中を電流が走り抜けた。頭の中が痺れるような感覚がする。  
しかし乳首への愛撫は一瞬で終わり、  
次いで長い舌がたわわなルッカの双丘の間を上へ下へと往復する。  
その間、ぬめったカエルの指に両胸を掴まれ、ぐにぐにと揉まれた。  
人間の指よりも柔らかく心もとない指がルッカの柔らかな白い胸に沈む。  
「…ん…っは、ぁ」  
ぬめぬめしたカエルの指が肌を滑る。  
人間の男とはまた違った感覚。それがルッカの興奮をさらに掻き立てる。  
だんだん自分の息が荒くなっていくのがルッカには分かった。  
そろそろ確かな刺激が欲しい。  
ルッカはカエルが胸の中心に愛撫を与えてくれないことに、  
少々もどかしさを感じていた。  
 
「カ…エル……」  
はぁはぁと弾む呼吸が邪魔してうまく言葉にならない。  
「…も…っと、…っ」  
しかしカエルはそんなルッカの懇願を無視して、  
今度は丸いルッカの胸の形を外側から円を描くようにして  
ゆっくりと舌でなぞっていく。  
柔らかく轟く舌の感触が気持ちいい。  
また、その手の動きはルッカの柔らかな胸を揉みしだいたままだ。  
徐々にその円の幅が狭くなり、長い時間をかけて赤い粒に迫っていく。  
カエルの舌がルッカの小さな乳輪に沿ってぐるりと舐めまわす。  
ルッカの身体がぴくり、と反応した。  
あと少しで一番感じる部分に到達する。期待で震えがとまらない。  
と、突然二股に分かれたカエルの舌が突起に巻きつき、  
獲物を捕らえたときのように素早くカエルの口内に吸い込まれた。  
「ふ、んああぁっ!」  
予想外の愛撫に、たまらず高い声が出る。  
びくびくと背中がのけぞった。  
そのまま激しく舌を動かし、突起をちろちろと揺さぶる。  
もう片方の乳首にも、カエルの独特の感触の指が触れ、ぴん、ぴんと何度も弾かれる。  
「はぁ、ぁう、ああぁあ、んんっ!」  
突然の激しい刺激の連続に、ルッカは快感以外に感じることができなくなっていた。  
余すところなく襲ってくる快楽を必死で振り払うように、ぶんぶんとかぶりを振る。  
その振動で眼鏡がずり下がった。  
カエルはその様子を見てふっと笑い、愛撫を止めてそっと眼鏡をはずしてやった。  
その拍子にカエルの指がこめかみのあたりに触れる。  
その感触だけで、ぴくりと身体が反応する。  
それほどまでに自分の身体が昂ぶっていることをルッカは思い知った。  
「ずいぶん感じやすいんだな、お前。胸だけで達けるんじゃねえか」  
「……」  
はぁはぁと収まらない呼吸をなんとか押さえ込もうとする。  
自分をからかうカエルの言葉にさすがに羞恥を覚え、きっと睨み付けた。  
だが、おそらく自分の顔は紅潮して目が潤んで、  
まったく説得力の無いいやらしい表情をしているのだろう。  
自分でそれが分かっているから、なおさら羞恥心が積みあがっていく。  
そんなルッカの様子を見て、カエルは愛しいと思った。  
ルッカの唇にキスをしたい衝動に駆られる。  
だが、カエルの姿である自分の大きな口では、  
彼女の整った形をした小さな唇を味わうことはできない。  
それが非常に残念だとカエルは思った。  
 
ゆっくりと彼女の細い腰を撫でる。  
びくりと敏感なルッカの身体が震えた。  
そのまま上下に往復させる。  
ルッカにとっては、カエルの柔らかくぬめった指が肌を這う感触が  
どうにも堪らなかった。  
五本の指がある。それは人間の手と同じだ。  
しかし、濡れたように吸い付くその感触は、  
さらさらと乾いた皮膚の人間の手では到底味わえないものである。  
その得体の知れない感触の物体が、意志を持って自分の肌を滑る。  
ルッカがピクリと反応を見せた部分は、決して見逃すことなく徹底的に責め立てる。  
「……ぅ、くぅ、ん…」  
頭がおかしくなりそうだ。  
足の付け根の辺りが痺れて力が入らない。  
息を荒げくったりしている少女を一瞥して、  
カエルはルッカの腿にぴっちりとフィットしているスパッツに手を掛けた。  
下着ごとゆっくりと脱がしていく。  
ゆで卵の殻をむくように、伸縮性のある生地がつるりと剥がされる。  
さすがにルッカも羞恥を覚えて、足を閉ざそうとする。  
しかしカエルはそんなルッカの心の内を無視して、  
ふくらはぎを強引に掴んでぐいと左右に引っ張った。  
「…あ…」  
恥ずかしさと心もとなさで、思わず顔を背ける。  
カエルの目前にルッカの花弁が露わになった。  
そこはすでに彼女自身の蜜でたっぷりと濡れて赤くいやらしく光っている。  
顔を近づけると、女の熱い熱気が強く放たれていて、思っていた以上に誘われた。  
カエルはその部分に躊躇なく舌を這わせた。  
「はっ…あ、あっ!ああぁ…!」  
熱く長いぬめったものがうねうねと蠢く。  
「あ、あ、あぁ」  
人外の生物の舌が自分の最も恥ずかしい部分を舐め回している。  
その事実によって生まれる背徳感が、かえって快感をいっそう促進する。  
(どうしてこんなに、気持ちいいの…)  
涙が溢れ出す。  
思わずルッカは真っ赤な顔を両手で覆った。  
しかし、強い力でその腕を剥がされる。  
「だめだ、ちゃんと見てろ」  
咎めるような口調で言われる。  
 
「あ…ぁ…」  
快楽に支配された彼女は、カエルの言うことに素直に従うほか為す術がなかった。  
恐る恐る足の間に目を向ける。  
欲望でぎらついたカエルの視線とルッカの視線が交わった。  
ルッカが自分の方を見たのを確認して、カエルは舌をルッカの秘部に伸ばした。  
それと同時に、強い快感が体中を突き抜ける。  
「っ!や、っ…!」  
ルッカは思わず目を瞑ってそのいやらしい光景を無理やり遮断した。  
しかし、カエルの充血した長い舌が自分の秘所を弄くる場面が  
即座にまぶたの奥に蘇り、ルッカの羞恥心を刺激する。  
自分が今彼に何をされているか、目を閉じていてもありありとわかってしまう。  
「やっ、んぁああぁぁっ!」  
カエルの舌が突然にゅるっとルッカの膣内に侵入した。  
人間のものよりもずっと長くて粘着性のある舌が、  
これでもかというほどにルッカの奥に入り込み轟いた。  
その未知の感覚は、今までに無い刺激を以ってルッカを夢中にさせる。  
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅと、激しい水音を立てて抜き差しされる。  
「ぁん、あ、あ、ああ、あ、ああぁ、」  
カエルの舌の動きに合わせて高い声が上がる。  
自分の嬌声が、どこか遠いところで響いているような錯覚を覚える。  
もうだめ、達く。  
ルッカの目蓋の裏を真っ赤な光が覆う。  
ダメ押しされるように、指で花弁の奥の赤く色づいた突起を弾かれた。  
「ぁう、んあっ!あ、ぃや、やぁああああああっ!!」  
完全に光が弾けた。  
 
きゅぽっ、と濡れた音を立てて舌が抜かれる。  
無言のまま、カエルは唾液とルッカの愛液にまみれた口元をぐいっと拭い、  
ルッカの身体から身体を離した。  
はぁはぁと、全力疾走をした後のように激しく弾む息を整えて、  
潤んだ瞳でルッカはカエルを見た。  
ルッカの熱っぽい視線に気づいて、カエルは慌てて目をそらす。  
彼の目に浮かんだ迷いの色を、ルッカは見逃さなかった。  
ルッカは、カエルが自分の姿に強いコンプレックスを抱いていることを知っていた。  
今は人外の姿の自分がルッカを抱いてしまったら、  
取り返しのつかないことになるかもしれない。  
おそらくルッカの身体を衝動に任せていいようにしてしまったことを、  
カエルは激しく後悔しているだろう。  
ルッカには彼の考えが手に取るように分かっていた。  
(馬鹿ね。ここまでやっておいて、何をいまさら)  
冷静を装っていても、はち切れんばかりに男の部分を熱で膨張させていることに  
気づかないほど自分は鈍くない。  
どうなっても構わない。  
確かなものが欲しい。  
今更逃げることなど絶対に許さない。  
ルッカはカエルの首にしがみつき、そのぬめった口元にかぶりついた。  
(了)  
 
 

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